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正体は

 「ただいまー」


 誰も居ない家の中に向かって律儀に挨拶をする唯。

 そう言っても返事が貰える訳じゃない。

 だから。


 「おかえりー」


 そう俺が答えといた。

 平屋建ての民家。

 それが俺と唯の今の拠点だ。

 この家の周囲は塀で囲われており、更には入り口部分も簡単に入れないように小さな門のような物があった。

 しかも庭も広いし、鍵も開いていた。

 このご時世からしたら最上級の物件だ。

 

 家の中は和が主体。

 玄関も広々と、してその玄関の目の前には兜が飾られている。

 ちょっとしたお金持ちが住むような豪勢な家で俺と唯は生活を共にしていた。


 「あー、今日も疲れたー」


 どかりと座布団へと座る彼女は少しおっさん臭かった。


 「あ、今失礼な事考えたでしょ?」


 更には読心術まで覚えたのか人の考えまで読んで来た。

 

 「うー、宗田さん水くださいー」


 そう言われてコップに水を注ぐ。 

 そして、大き目の氷をそこに入れてそれを出した。


 「んぐ、んぐ! ぷっはーーっ! 仕事の後はこれよねーっ!」


 サラリーマンの仕事明けの一杯のようにそれを飲み干す。

 ただの水だけどな……。

 ここ最近はだいぶ落ち着いた生活をしているのは本当だが。

 しかもこんな優良な物件も手に入ったし、ここに腰を据えてしまいたいなとも思える。


 「ほらほら、そんなお腹出してたらお腹壊すよっ」


 だらしなくそう寝転ぶ彼女にそう指摘した。

 それに加えて、服が捲りあがりその柔和な白い肌とお臍が見えている。

 こうして生活を共にしてだいぶ打ち解けたのはいいが、流石にこの姿はどうかと思うぞ。


 あー、また床汚れてるじゃんか。

 ゾンビの血が付着したままゴロゴロと転がる彼女のせいで座布団と床が汚れてしまった。


 「宗田さんはお母さんみたいだよね」


 だらしない娘を持って苦労していますよ。


 「でも、ここは汚れてもいい部屋なんだからいいでしょ?」


 そう、この客間は外から帰って来てすぐに休めるようにと汚れても構わない部屋にしている。

 目を凝らして確認すると壁や机もかすかに汚れていた。

 すぐにリビングに行くと徐々にそこも汚れて清潔面が不安だ。

 掃除も殆どままならないのだから、少しでも衛生面を保つためこの部屋を犠牲にしている。


 「じゃぁ、お風呂入れてくるから待ってってね」


 軽くタオルで体を拭いて部屋の外に出ると、浴室に向かった。

 

 「何回見ても広い……」


 アパートのそれとは段違いだ。

 木で出来た浴槽。

 それが正方形の形をして鎮座してる。

 そうしてその向こう側には大きな窓。

 ただし反対側からは見えないような作りになっている。

 和のつくりをしたその風呂はまるで小さな温泉のようだった。

 人が二人くらい一緒に入っても問題ない程の広さのその浴槽にお湯を注ぎこむ。


 そうして、お湯を張ると湯気が立ち込めた。

 一気に浴室の湿度が上昇すると、木の朗らかな匂いが部屋の中に充満する。

 このまま飛び込んでしまいたい衝動にかられたがそれをグッと堪えて、ダメ娘を呼びに行った。


 「唯、お風呂できたよ」


 扉の向こう側から彼女を呼んだ。


 「はーい」

 

 そう返事が返って来る。

 すると中でガサゴソと音が聞こえたかと思うとしばらくして、部屋から出てきた。

 ガラガラと引き戸を開けた彼女は一目散にお風呂場へと向かった。


 「覗かないでねー!」


 そう言いながら小走りで走っていく彼女。

 これはフリなのだろうか? そうも思ったが俺はおとなしく唯が出てきた部屋で待つことにした。


 —————————。


 「いただきまーすっ! あー、美味しい」


 そうして、唯はお米を一口含むと満足そうにそう言った。

 広い庭で手に入れた米でを炊いてそれを食べるのが日課だ。

 おかずは缶詰しかないが、それでも十分である。

 そして勿論火を起こすのも俺の魔法だ。

 まるで家事の必需品となったような気分だが、それでも満足そうに口いっぱいに頬張る彼女を見るとどうでもよく思える。


 「今日も美味しいですねっ!」


 「あぁ、旨いな」


 最初に比べると食事もだいぶ改善された。

 だが、この辺の物資が無くなったら次はどうしようかと思う。

 まだまだ取り尽くすと言う事もないだろうが、これからを考えると早急に対応するべきだろう。

 

 にしても米は旨い。

 箸でつまんで純白の粒。白い湯気がもわんと立ち込めるとそれを一口押しやった。

 口の中から香米の匂いが鼻をから突き抜けて更に食欲を引き立てる。

 そうしてあっという間にそれを平らげるとお代りをした。


 はぁー。極楽。

 こうして俺と唯は殺伐とした世界での唯一の休息を楽しんだ。

 そうして食事を終えてぼーっとしていると。


 ———ガサッ、ガサガサッ!


 隣に置いていた魔石の入った袋が激しく主張してくる。

 

 「おっ、お前もお腹空いたのか? 食べていいぞ」


 どうやらあの謎の声もお腹が空いたらしい。

 袋を揺らしてそれを頂戴と主張してくる。

 中にはぎっしりと魔石が入っていた。

 エメラルド色に青色の宝石。

 それが燦燦と輝いている。


 「うんうん。いっぱい食べてね」


 唯もそう言った。

 ここ最近の俺達のルーチンの一つだ。

 前に夜に出歩いた事を話したら、もちろん唯に烈火のごとく怒られた。

 まるで鬼の化身のようになった彼女。

 あれは怒らせてはならないとその時再認識する事になった。


 ただ、こうして魔石をあげられないのは可哀そうだと今は二人で魔石の収集にレベル上げを行っている。

 唯の本当の力? も存分に振るってくれるため俺としても心置きなく戦えると言う分けだ


 そうして袋の中の魔石が一つ、また一つと輝いては色を失う。

 そんないつもの光景がそこにあった。


 俺と唯はそれを見ながらお茶をすする。

 少しずつ外の気温が下がり、暑いお茶が美味しい時期になった。

 このお茶はこの家にあったもので遠慮なくそれを拝借してこうして飲んでいるわけだが。

 このお茶の葉と少し渋い感じが癒しである。


 そうして最後に袋の中にあった唯一の青い魔石が輝きだした。

 最後のデザートとばかりにより一層光り出す。

 

 「うわっ! 眩しいって!」


 眩しくないように手で押さえるが、その隙間から光が漏れだす。

 目を開けてられないような眩しさ。

 

 「———なんだよっ!」


 いつもとは違うそれに違和感を感じる。

 なんだ?

 こんなに盛大に光るなんて最初の時くらいか? まるで興奮しているようなそんな感じがする。


 そうして手で押さえても押さえきれない眩しさが部屋の中を覆い尽くす。

 たまらず目を瞑りそれを耐えると、瞼の外側の光が消えていった。


 そうして目をゆっくりと開けるとそこには。


 「やぁ、こんにちは。お兄さんに、お姉さん。初めまして」


 そこには謎の人物の姿があった。

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