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疲れたな

 「やっと帰ってこれたね」


 「ああ、ただいま」


 「おかりなさい」


 あの後は、急いでその場から逃げ出したがゾンビがゾロゾロと集まり出していて冷や汗をかいた。どうにか戦闘も最小限に抑え、拠点としてる家に帰って来ることができたのだ。

 だけど、行きに対して一人少ない。佐川 葵は俺達を裏切り姿を消してしまった。


 「さ、ここでこうしているのもあれなんで、リビングに行こうよ」


 呆然と玄関に立ち尽くしてると、唯が手を握って家の中へ引っ張って言った。裏切られ事もショックだったが、こうして一人居ないだけでも寂しく感じる。リビングに到着すると、いつもより広く感じ、余計に寂しさが増幅した。


 「ああー! 疲れちゃった」


 リビングに到着するやいなや、唯はソファーに座り背筋を伸ばしている。俺に気を使っているのか、彼女はいつも通りと言った感じに振る舞ってくれている。


 「ありがとう」


 自然と感謝の言葉が口から出た。それに対して唯は言葉を発する事なく笑顔で返してくれる。

 

 「宗田さんもこっちにおいでよ」


 自分の横をポフポフと叩いて俺の事を呼ぶ。唯の言葉に甘え、俺も彼女の横へと座る。左隣りに座る彼女の事をちらりと見ると、歌を口ずさみながら足をぱたつかせていた。

 何の曲だったっけ? 名前が思い出せないな。バラード調の優しい歌声が心に染み渡り、瞼が重くなってくる。次第に目を開けている感覚が短くなり、俺の世界は暗闇に支配された。


 ——————


 ――――


 ――


 「え? あれ……? 寝てたのか?」


 ぼやけた意識が少しずつ覚醒する。

 

 「あ、宗田さん、よく寝れたかな?」


 「え? 唯? なんで? え? えぇ!?」


 くっきり二重で睫毛が長く、整った顔立ちをした彼女の顔がすぐ近くにある。上から覗き込むような形で俺を見ていた唯と視線が合うと、自分は膝枕をされている事に気づいた。


 「——ご、ごめんっ!」


 慌ててそこから起き上がる。でも、どうしてだ? 俺は彼女の横で寝ていただけなのに。


 「えへへへっ、宗田さんが気持ち良さそうに寝ていたのでつい」


 下をチロリと出してはにかんだ唯は少し顔を赤らめている。照れる彼女の姿に心臓がバクバクと鼓動を早め、彼女の顔を直視できない。


 「お、俺はどれくらい寝てたんだ?」


 どうにか話題を変えないと爆発しそうである。

 

 「え……っと。五分くらいかな?」


 もう少し寝ててもいいんですよ、と膝をポフポフし誘惑してきたが俺は首を横に振って断った。

 

 「残念だなー」


 彼女はしゅんとしてしてしまう。


 「あー、なら今度お願いするよ」


 「えっ!? あっ、はい!」


 うなだれた彼女は俺の言葉を聞くやいなや、背筋をピンと伸ばし嬉しそうにしていた。もし、唯に尻尾が生えていたら、犬のように振って喜んでいたんじゃないだろうか? それくらい、パッと顔が明るくなったのだ。


 「それにしても、暑いなーっ」


 手を団扇代わりにパタパタと顔を扇ぐ唯は、少しだけおでこに汗が滲んでいる。


 「ちょっと待っててね」


 外はゾンビがうろついている。カーテンも開けられなければ、窓も開けられない。かと言って二階で休息を取ると、ゾンビが侵入した時に気づけない可能性がある。俺達の敵はゾンビだけじゃなく、この熱気もその一つと言えるだろう。


 「はい。どうぞ」


 「あっ、いつもありがとうございます」


 冷たく冷やした水を受け取ると、ちまちまと飲み始めた。俺もぐいっと口含むと、胃の中へと押しやる。


 「そう言えば、ちょっとコップを貸してくれないか?」


 「コップ? どうぞ」


 彼女から水が半分だけ入ったコップを受け取ると。


 ――イメージは冬。

 ――世界は白に包まれた。

 ――氷の塊


 魔法を行使すると、ちゃぽんと二回コップから音がした。


 「はい、どうぞ」


 「氷!? 宗田さん、これも魔法で?」


 「そうだよ。水を冷やせるんだから、出来るんじゃないかなと思ったら出来たんだよね」


 「やっぱり……チートだ」


 失礼な。俺はチーターじゃないぞ。それに、氷が出せるだけで生き残れるような世界じゃないだろ? 今のところは火と水と雷、後は物を造り出す能力、んー、創造とでも言おうか。四つの属性を使用する事は可能だが、集団で襲われれば個の存在の俺は容易く倒されるだろう。

 

 「俺なんかよりも、唯の能力の方が凄いじゃないか」


 「あれはー……、私も驚いたよっ。レベルアップして覚えたのかな?」


 グールを吹き飛ばしたあの力は凄まじい。金槌は壊れてしまったが、彼女の力はこれからおおいに役に立ってくれるに違いなかった。


 「そうかもな。俺もレベルアップすると、身体能力も魔法も強力になるし」


 レベルアップの恩恵は、俺達が生き残るために必要不可欠だ。ただ、急速にレベルが上がると体の至る所が分断されそうな激痛を伴うが。それを、差し引いても欠かせないだろう。


 「でも、レベルが上がって強くなるのは俺達だけじゃない」 


 「そう……だね」

 

 佐川 葵もそうだ。彼女も生きていれば同じようにレベルが上がって力を付けるだろう。いや、確実にそうなる。あのグールを操った力を利用すれば、そうそう負ける事はないはずだ。

 あそこで逃がしてしまった事が本当に悔やまれる。彼女を野放しにしておけばやりたい放題行うはずだ。それこそ、残虐な行為も平然と行うと思う。もしかしたら、かなりのみ犠牲者を生む可能性だってあるのだから、次に出会ったら彼女の事を――


 「――次、出会ったら宗田さんはどうする?」


 「多分――殺すと思う。いや、殺し合いになるかな」


 佐川 葵の精神は俺達とかけ離れている。価値観が違うと言っていいだろう。説得しようが改心した振りをして、すぐに裏切る。かと言って捕まえとくと言っても方法も場所もない。

 となれば、必然的に彼女を殺すしかないと思う。だけど、生身の人間を殺せるかどうかは話は別だ。ゾンビを倒すのとは訳が違う。

 

 「そっか……。その時は私も一緒に。一緒に、それを背負います」


 彼女は何処までも優しく俺を甘やかしてくれる。まるで聖女のように慈愛に満ちており、だけど、何処までも堕落するように誘惑する。まるで、天使と悪魔の両方を合わせ持つ彼女に、


 「ありがとう」


 と一言だけ返した。

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[気になる点] 主人公が何に遠慮して唯の強さについて聞かないのか… 不思議でたまらない
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