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人の心は簡単に

 「———がぁっ!」


 「あがががっ……」


 少し進む度にゾンビと遭遇する。

 それを次々に倒しながら進む俺達。

 この辺一帯のゾンビの数が尋常じゃなかった。


 「大丈夫です~?」


 「んっ、余裕だよ」


 後ろをついて来る佐川さんに振り返りながらそう返事を返す。

 

 「———ひっ!」


 すると引き気味に怯えられた。

 え? 何? 俺、何かした?

 少しそう困惑しているとすかさず唯が助け船を出してくれる。


 「宗田さん、顔! これで拭いてください」


 そうして、いつの間にか持ってきた白いタオルを渡される。

 言われた通りそれで顔を拭いてみると……あぁ、これは慣れてない人は引くな……。

 そう思えるくらいに血がべったりとそれを赤く染めていた。


 「あー、ごめんね」


 顔を拭きながら謝罪する。


 「い、いえ~」


 そう言う佐川さんだったが、笑顔が若干引きつっている。

 んー、こればっかしは我慢してもらおう。

 そうして、作業のようにゾンビを一体、また一体と葬っては佐川さんの家へと歩みを進めた。

 

 「あ、あの少しいいですか~?」


 するとまた佐川さんが話かけてきた。

 

 「どうしたの?」


 唯からもらったタオルで顔を拭きながら振り返る。

 すると、とても申し訳なさそうで俺を見る彼女の姿があった。

 伏目がちな彼女。

 どうしたのだろう?


 「あの、その……えっと」


 何かを言いずらそうにもじもじとしている。

 人差し指どうしをちょんちょんとくっ付けては離しを繰り返し、ちらちらと俺の顔を見てくる。

 なんだろうか?


 「その~、どうしてもって分けじゃないんですけど~……

 宗田さんが迷惑じゃなければ……私もゾンビを倒したいです~」


 え? 佐川さんも? 大丈夫か?


 「その~、なんといいますか~。レベルアップすれば私も少しは役に立つかと思いまして~……」


 その申し出は嬉しいんだけど、どうしようか。

 困った俺は唯の方を見た。

 彼女は任せると頷いて返事を返してくる。

 

 ただな……。

 一度ゾンビに止めを刺してもらってから考えるか。


 「……分かった。止めをお願いしようかな」


 そう言うと申し訳ない表情から力が抜け、ぱぁっと明るい表情へとなった。


 「ありがとうございます~っ!」


 安心した顔でそう言って深々とお辞儀をしてきた。

 確かに、佐川さんもそれなりに戦えた方が助かる。

 今は二人を守りながらだから、正直気が休まらない。

 特にあの風の魔法。それがもっと上手く扱えるようになれば非常に強力な物となるはずだ。

 生きるためには少しでも戦力が欲しい。


 それに、経験値となりうるゾンビには事欠かさない。

 こうして話している間にも、横の道からそれが姿を見せた。


 「———ハァッ!」


 姿が見えた瞬間にその方向へと走り出す。

 胴体に蹴りを食らわせるとボールのようにゴロゴロと転がった。

 そしてうつ伏せに倒れたゾンビ、それが立ち上がろうとした所で背中を踏みつけてそれを阻止する。

 手に持った斧で、兜割を発動。

 両手を切断して二人を手招きした。

 

 あまりの手際のよさに二人の表情は引きつっていたが、毎回気にしてもしょうがないと割り切る。

 そうしてひょこひょこと傍に来た佐川さんに手に持っている斧を渡した。


 「はい。抑えてるけど気をつけてね」


 「は、はい」


 こう言うのは勢いだ。

 俺は彼女が止めを刺すのをじっと見る。

 一度目を瞑って大きく息を吸う。

 肩が高く上がり、若干緊張しているようだ。

 そうして———。


 「———えいっ!」


 スイカ割の棒を振るうように、両手で持ったそれを振り下ろした。

 すると聞きなれた不快な音が聞こえると同時に、足元で暴れていたゾンビが動きを止めた。

 死んだか。

 俺は佐川さんにその事を告げる。


 「佐川さ———」


 「———っ!」


 するともう一度斧を振り上げてそれをまた振り下ろす。


 「———こいつがっ! こいつがっ! こいつ等がっ!」


 鬼の形相をした彼女。

 何度も何度も、そこに斧を振り下ろす。

 最早原型を留めていないゾンビの頭。

 振り下ろす度に何かが飛び散って頬を染めるが、それでも動きを止めない。

 あまりの出来事に俺は呆然と見ているしか出来なかった。


 「死ねっ! 死ねっ! お前らのせいで!」


 悪辣の限りの言葉を発する彼女。

 普段の彼女からは想像できない姿。

 顔にかかる肉片。

 壊れた人形のように、斧を振り下ろすと言う事を繰り返していた。

 初めてゾンビを見た時や、グールやゾンビそれに出会った時とはまた違った恐怖を感じる。


 まざまざと見せつけられる人間の狂気。

 背筋がぞわりとおぞけると、我に返った。

 辞めさせないと———!


 「———やめろっ!」


 我に返った俺は、振り下ろそうとしたそれを手で押さえる。

 唯も動けず固まっていたようで、俺の行動を見て急いで押さえるのを手伝ってくれた。


 「葵さん落ち着いてっ!」


 唯もそう言って佐川さんの行動を止めようとする。

 すると、その事に気付いた彼女は。


 「……あれ? 二人してそんな顔してどうしたんですか~? 

 あ、私ゾンビ倒せたんですね! やった~!」


 そう言った。

 ゾンビを倒せた事に一人テンション高く喜ぶ彼女。

 さっきの事は何も覚えていないのだろうか?

 何もなかったかのように嬉しそうにしている。

 俺と唯は何も言えずにいた。


 「さあ、さあ。次も行きましょうっ!」


 いつの間にか彼女の心は壊れていた。

 そうとしか思えない。

 普通ならこんなに喜ぶ事は無いだろう。

 ゾンビと言えど元は人間。

 俺も唯も吐いた。

 確かに自分の両親に止めをさしたのは彼女だが、ここまでなるものだろうか?


 本当にこのまま連れて行って大丈夫なのか? 一旦家の戻るかどうするか考えるが……

 ここで辺に刺激をしたら何をしでかすか分からない。

 唯に目で合図を送る。

 様子をしっかり見ていてくれと。伝わったか分からないが頷いて返事を返してくれた。


 そうしてずんずんと一人で進んで行く彼女。

 最初の怯えた姿は全くなかった。


 どうしてこんな風になったのか。

 それもこれもあの魔王のせいだ。

 今も目的も姿も分からない。ただゾンビと人間に殺し合いをさせてただそれを見ているだけなのだろう。

 

 「クソッ!」


 小さくそう叫ぶと俺は強く口を嚙みしめる。

 全てを壊した魔王が許せない。

 そして、彼女を守れなかった自分も許せない。

 俺は行き場のない気持ちをグッと堪えている。


 「宗田さん……」


 強く握りしめた拳。

 それを優しく包んでくれた柔らかい手。

 ジッと俺を見上げる彼女の姿に、その怒りが四散する。


 「ゆ……い……」


 消え入りそうな声で彼女の名前を呼んだ。


 「あまり一人で抱え込まないで……」


 俺の姿を見て心配そうにしている唯。

 また、心配をかけてしまった。

 かけられた言葉に何も言えないでいると……。


 「私はずっと宗田さんの傍にいます」


 そう告げられた。

 思わず抱きしめたい衝動に駆られるがそれを堪える。


 「さ、早く葵さんの所に行きましょう」


 そうして、俺と唯は葵さんの所に急いで向かった。

ここまで呼んでくださった方ありがとうございます。

もし、よろしければブックマーク、評価よろしくお願い致します。


尚、現在改稿中です。

以前より内容が濃い物となっておりますがストーリーには読み直さなくても影響しません。


まだ、毎日更新は続きますのでよろしくお願い致します。

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