表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

60/184

まるで猫のよう

 「あー! 流石にキツイなっ!」


 あれから一時間、ひっきりなしに来るゾンビを片っ端から倒していた。

 前方からも後方からも迫るゾンビ。


 周囲は死屍累々。

 道路に巻き散った臓物で足が取られそうになる。


 「レベルが上がったのは嬉しいんだけどな……」


 魔力も体力も回復した。

 だけど、その全快した体力もどんどんと集まってくるゾンビ達に奪われる。


 「手の感触が無くなってきたぞ」


 斧を握るその手も限界に近かった。

 軽いゾンビのバリケードが出来上がっている道路。

 そこを乗り越えようとしてくるゾンビの頭をかち割る———。


 「———こっちよっ! 早くっ!」


 するとあの時助けた女性の声が聞こえた。

 やっと援軍到来か。


 「なにモタモタしてるの! 早くっ!」


 かなり気が立っているご様子の彼女。

 これでどうにか一息付けるな。


 そうして、姿を現したスタイルのいい女性。

 日本人離れした整った顔が、驚きで固まった。


 「———何よこれ」


 あまりの有様に後ろにたじろぐ彼女。

 まずい! もしかして死体で俺達の事に気付いていない?


 「こっちだ!」


 そう叫んでここに居る事をアピールする。

 早く来てくれ!

 すると、はっとした表情でこっちを見る。

 だが、またその表情も驚愕に満ちていた。


 「———くっ!」


 こっちにナイフを向けて臨戦態勢を取る彼女。

 えっ!? なんで?

 俺は人間だぞ! 命の恩人なんだけど……。

 そう敵視された事に軽くショックを受ける。


 「……あっ」


 ふと俺は自分の身なりを確認する。

 首を動かして見える範囲を見てみると。


 「うわ……」


 血やら何やらがべったりとこびりついている。

 あー、顔も同じようになっているんだろうな……。

 なんかややこしくなりそうだ。

 そう思った俺は。


 「あー、剛と言ったか!? その男は無事だ!」


 そう告げると、身を翻して女が現れた方向とは逆の方へと走っていく。

 ついでに迫るゾンビを倒して出来る限り危険が迫らないようにしておく。

 何か後ろで叫んでいたが無視してその場を立ち去った。


 仲間も助けに来たし大丈夫だろう。

 今回は無事に助けられて良かった。

 そうしてようやく帰路に着くことが出来た。

 

 「あー、このままじゃ流石に戻れないな」


 ここ一番汚れた体。

 血と臓物の塊と化した俺はどうしたものかと考える。

 そうして考えた結果、隣の家に侵入する事にした。


 「お邪魔します」


 ガラスを割って侵入する。

 すぐさま浴室に行って、魔法でそれを洗い流した。

 ただ、着る服がないため全裸で変わりの服がないか家の中を物色する。


 「おっ、これはちょうどいいな」


 白い半袖のTシャツに、黒地のハーフパンツ。

 それを持ち主には申し訳ないが拝借する。


 「少し大きいな」


 若干自分の体系と合わないが致し方あるまい。

 流石に洗ってあるとはいえ、下着までは抵抗があるためノーパンで我慢する。

 なんかスースーするな。

 

 「おっと、忘れるとこだった」


 男を助ける前に集めた魔石。

 それをテーブルの上に置きっぱなしで忘れる所だった。

 夜の月明かりに照らされる宝石のようなその石。

 エメラルド色のそれの輝きに見とれてしまう。


 「こんな綺麗なのがゾンビの体内にあるんだよな」


 この石がゾンビの体の中から出てきたとは思えなかった。

 適当な袋はあるかな?


 キッチンを漁ると、全国チェーンのセブンブンのビニールの袋を見つけた。

 ガサガサと音を立てながらそこに魔石を入れた。

 ずっしりとした重さを感じる。


 「んー、昨日よりは少ないけどしょうがないか……」


 そうしてそれを持って拠点としている家へと戻る。


 「ただいまー……」


 こそこそと部屋の中へと入る。

 そうして、今日集めた魔石を靴箱へとしまおうとした時だった。

 

 「んっ、欲しいのか?」


 手を離した袋がガサガサと音が鳴る。

 

 「ただ、今日はもう上げたばっかりだから一個だけだぞ」


 そう言って、魔石を一つ取り出すと右の手の平の上に乗せた。

 なんか、犬とか猫に話しかけている気分がした。


 「熱っ!」


 持っていた魔石が急に熱を持った。

 そうして、輝きが増すと急速にその綺麗な色が失われていく。


 「あー、びっくりした。後は明日まで我慢してくれ」


 そう言うとガサっと袋が一鳴きする。

 俺はそれが分かったと言っているように聞こえた。


 そうして、ようやく二人が寝ているリビングへ行く。

 音が立たないようにゆっくりと扉を開けた。


 「寝て…………るな。よしっ」


 スースーと寝息を立てる二人の顔を覗き込む。


 「こうして見ると、なんか本当に姉妹みたいだな」


 系統の違う二人。

 だが、寝ている姿はどことなく似ていた。

 

 おっとり女子と元気女子ってか。

 唯はどことなく人懐っこくてはっきりとしている。

 佐川さんはマイペースで天然。おっとりした話し方だ。


 くりくりとした目の唯。

 垂れ目の佐川さん。

 その二人の事を思い出す。


 「どっちも魅力的だよな……」


 俺はぼそりとそうぼやいた。


 「ただ…………いや、何でもない」


 二人には気になることがあった。

 一緒に生活をするうえで何か隠し事をしているような、そんな感じの違和感だ。

 …………まぁ、二人から話してこなかったら無理に聞く必要はないか。

 それのせいで不和が生じても困る。

 んー、ずっと二人と一緒かと言えば分からないから無理に聞く必要もないもんな。

 俺は今日出会った生存者達を思い出す。


 「どれくらいの規模の集団なのか」


 一番はそれが気になる。

 仮に人間的に問題がなければそこに合流しようとも思っている。

 そうなるとこうして二人で行動することも無くなるだろう。

 こんなことを言うとあれだが、そっちの方が助かる。


 「何かと気を使うし、二人もそうだろう」


 俺は出来る限り早く、その生存者のコミュニティと接触をはかろうと思う。

 

 「さて、寝るか」


 そうして目を閉じて、魔力循環を行う。

 眠りにつくまでそれを行うのが日課だ。

 きっとこの行為にも何か意味があるのだろう。

 俺はそう信じている。

 

 体中を駆け巡る熱を持ったエネルギー。

 少し気を抜くとそれが何処かに消えてしまう。

 だから、それを維持しつつ出来る限り早く頭の天辺から足先へと、そして足先から頭の天辺へと行き来させる。

 そうしていると、段々と睡魔が俺を妨害してきた。

 集中力が保てずそのエネルギーの塊が四散するとそのまま眠りへとついた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ