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リベンジと成長

 「あー、久しぶり」


 俺は何んとなしにそう話しかけてみた。

 別に返事を期待している分けじゃない。

 ただ、何となくである。


 「よりにもよってお前かよ」


 前に半殺しにされた時の記憶が蘇る。

 って、あの口ぶりからただのゾンビではないと思っていたがまさか白い化物だとは思わなかった。

 確か、あの女の人はグールって言っていたっけ?

 ある意味リベンジマッチか。


 「やるしかないよな……」


 ここまで来て逃げる訳には行かないだろう。

 勝てるのか? いや、勝つしかない。

 自分にそう言い聞かせ、怯えそうになった心を奮い立たせた。


 「出し惜しみは無しだ」


 俺は火の玉を出現させると、斧を片手に構えを取る。

 兜割が通用した。

 ならば、上手く立ち回ればいけるはず。

 それにこの男もかなりの怪我だ。ほっといたら長く持たないだろう。

 最悪は対戦車ライフルで一撃で決める。


 「来いよ」


 俺は静かにグールと呼ばれたそのモンスターに呟いた。

 すると———


 「アァァァァアアアアアアッッッ!!」


 天に向かってそう雄たけびを上げるグール。

 どうやら大変ご立腹らしい。

 不細工な顔でフーフーと息を激しく漏らす。


 「———ぐぅっ!」


 一気に詰め寄って来たグールは力の限りその手を振るってきた。

 それを斧で受け流す。

 散った火花で頬を肌を焦がすが、それに気を使っている余裕はない。

 

 「させるか!」


 グールが今度は反対の手で俺を引き裂こうとするが俺は氷の魔法を使ってそれを阻止する。

 

 「凍れ!」


 水の魔法を発動して、それを浴びせる。

 そしてそれに対して凍れと念じると一瞬のうちにそれが固まった。

 

 「くらえっ!」


 そうして渾身の兜割を放つ。


 「くっ」


 だがそれを右腕で受け止められた。

 ただ、グールもノーダメージとはいかずにその斧が腕の中程まで食い込む。


 「アガァァァッ!」


 痛みで吠えるそいつを無視する。

 まだだ、そうして炎弾を放ってけん制する。

 威力も上がってるな。

 

 以前は全く効果がなかったそれだが、じりじりとその鋼のような皮膚を砕いていく。

 そうして、耐えれなくなったグールはそこから飛びのいた。


 「ググググゥッ」


 唸り威嚇するグール。

 怯えた獣の威嚇のように腰が引けている。

 これならいける。

 そう思って止めを刺そうとした時だった———


 「———なっ! 待てっ!」


 突然身を翻すとその場から駆け出した。

 まさかの逃走である。

 

 ただ、俺もここで逃がすつもりはない。

 首長のゾンビの件もある。

 もしかしたらまた襲ってくるかもしれないと思うと、このままじゃ枕を高くして寝れない。

 

 ここで決着を付ける。

 

 ———イメージはレンズ。

 ———イメージは深海。

 ———イメージは対戦車ライフル。


 三つの魔法を同時に行使する。

 ちなみに深海とかっこよく言ったがただの防音だ。

 ここまで魔法が思った通りならこれも成功するだろう。

 俺の耳と、倒れた男の耳を覆う。

 

 そうしてレンズ越しにそのグールの背中を捉える。

 せめてジグザクに走れよな。

 距離はかなりあるが、十分だ。

 俺は息を吐き出しその背後に狙いを定めた。


 「ロックオン完了。それじゃあな」


 ———ファイア。

 

 そう呟くと出現させておいた火の玉から超濃密な魔法が放たれた。

 一瞬にして火の玉の魔力が全て無くなる。

 試し打ちをした時であの威力だ。

 今回は全力である。

 屋上と首長の時に感覚は掴んだ。


 そうして濃密な魔力の塊が一直線にグールを捉えると。


 「———ギッ!」


 そう最後の声を上げて、グールの全てを粉々に爆散させる。

 水風船が割れるように、粉々になった肉片は辺りに降り注ぐ。


 「おっ、耳が無事だな」


 こうしてグールとの再戦は完勝に終わった。


 「よし!」


 手ごたえを感じた今回の戦闘。

 グッと拳を握った。

 少しはまともに戦えるようになったか……。

 前回の二の舞にならなくて良かった。

 ここ数日だが、戦闘を重ねて少しは成長したらしい。


 「さてと……」


 地面にうつ伏せに倒れた男を見る。

 血だまりに倒れたボディービルダーのようなガタイのいい男。

 まるで今も流れ続ける血液のように赤い髪。

 生きているか?

 そっと近づいて首筋に手を当てる。


 「……辛うじてって所か?」


 指から伝わってくるその脈動は弱弱しかった。

 そして、恐ろしい程冷たい。

 虫の息のこの男。

 俺は急いで治療に取り掛かった。


 「残りのポーションを飲むか」


 残り半分となった、魔力回復のポーションを飲む。

 後一割でそこを付くであろう魔力は四割程回復した。


 「これでいいか。そしたら……」


 その男に手をかざす。

 どうするも何もポーションをぶっかけるしかない。

 そうして、濃度を高める事をイメージしてポーションをその男へとかける。

 ホースの先から水が出てくるように、ドバドバと体中にかける。

 そして、一旦仰向けに倒すとそこにも同じようにかけた。

 

 「中々きついな……」


 濃度を濃くした事で、急速に魔力が奪われる。

 回復した三割のうち一割は背中にかけるだけでなくなった。

 

 「てか、良く生きてる……」


 下腹を裂かれたのか、その隙間から内臓がはみ出していた。

 これは痛そう。

 とりあえず押し込んでおけばいいのか?

 そうして傷つかないようにグイグイと中に入れる。


 「あー、ゾンビと違ってあったかいな」


 少し生々しい物を感じるが、これまで散々ゾンビで似たような事をしていたため気にならない。

 背中同様にポーションをかけると少しずつ傷が塞がってきた。


 「良かった……」


 これで少しは安心だ。

 呼吸が目に見えて大きくなった。

 後は目を覚ますのを待つだけか。


 あー、もっとポーション持ってきておけば良かった。

 残りの魔力は二割とちょっと。

 とりあえずこの男の仲間が来るまではここを離れられない。


 さっきの物音で他のゾンビも集まって来るだろう。

 それからこの男を守らないといけない。


 「———ってそう思ってる傍から来やがったか」

 

 腰に仕舞っていた斧を取り出すと、ゾンビ目掛けて駆け出した。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 水中での音は、気中の三倍速ですよ。 伝わり切ればですので、水面でほぼ反射する気中からの音は小さくなる。 で良いのかな? 反射した側は、うるさそうですね。 その内、防音室の壁でも見つけ…
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