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危機は突然やって来る

 「えっ? な、何のこと?」


 ばれてる?

 いやいや、待てよ。焦るな俺。

 まだ、ばれているとは限らないだろう。


 「いえ……だから、何をしていたのかなと」


 ジト目で俺を見る唯。

 目は笑っているが口元が一切笑っていない。

 佐川さんに助けを求めようとそっちを見るが……。


 「はぁー、お腹いっぱい~。幸せです~」


 と何処かにトリップして応援を求める事は出来なかった。

 佐川さん……。帰って来て。

 そう思っても彼女が帰って来る気配はなかった。

 ———くっ、覚悟を決めるか。


 「な、なにもしていないよ。ただ、寝れなくて魔力操作の練習はしていたけどさ……」


 そう答えはしたものの、まともに唯の顔が見れない。

 男は嘘を付くときは視線を合わせられないと言うが、まさにそれだ。

 視線だけがうようよとあっちを見て、こっちを見てを繰り返す。

 焦る心に。 


 「へー。そうなんですかー」


 と抑揚のない声でそう言ってきた。

 怖い。

 どうする? 白状するか?

 感情のない声色でそう言われて、俺の心臓がバクバクと音が大きくなる。


 「な、何もしてないぞ。唯こそ突然どうしたんだ?」


 今の唯は疑念に思っているだけで、ばれていないはず。

 もしバレているなら確信たるそれを言ってくるはず。

 だから、俺はあくまでシラを切る事にした。

 

 「いえ、あの声がずっと言っているんですよねー。

 宗田さんが持っている魔石が食べたいって」


 そう来たか。

 まさか謎の声にバレているとは思わなかった。

 余計な事を……。


 「あ、あれじゃないか? 昨日俺が魔石を持ってきたからそう勘違いしてるんじゃないかなー?」


 咄嗟にそう言う。

 これで誤魔化せないなら諦めるか……。

 頼む。 


 「ふーん……じゃぁ本当に持っていないんですね?」


 「も、もちろん!」


 なんとか誤魔化せたか?


 「…………わかりました。宗田さんを信じます」


 ふぅ………焦った。

 上手く誤魔化せたようで何よりだな。

 なんとか、唯の追及を回避する事に成功する。

 ただ、この声をどうするか……厄介だな。

 

 今日は誤魔化せたけど、次は分からない。

 俺の言葉が通じるならいいのだが……試しに今夜交渉してみよう。


 —————————。


 「おーい、声聞こえるか?」


 二人が寝静まった頃、何もない空間にそう声をかける。

 知らない人が見たら頭がおかしいとも思われるだろうその光景。

 だが、俺は必死に声をかけ続ける。


 「聞こえているならさ、ちょっと相談があるんだけど」


 そう言って、袋から大量の魔石を取り出した。

 

 「これが見えるか?」


 自分の声だけが一人虚しく聞こえる。

 

 「お腹空いたって言ってたもんなー。食べたいもんなー」


 わざとらしくそう問い掛ける。

 袋を開いてエメラルドグリーンの魔石を見えるようにその場に置いた。


 「こんなに集めるのは、俺一人だから出来るんだけどなー。

 でも、今朝みたいにばれそうになるなら辞めないとか……」


 残念そうにシュンとしてその事をアピールする。

 

 「まぁ、魔石はついでだからさ。本当はこれを全部あげてもいいんだけど、でも今日は取りに行けないもんな………」


 とてもとても残念そうなその言い方でそう言う。

 本当にこれが聞こえているかは別だが、上手い事いけばいいのだが……。

 そうして、謎の声との交渉を続ける。


 「黙っていてくれたらなー……………おっ?」


 密封された部屋の中で、魔石の入った袋ががさがさと揺れた。

 これはもしかして……。


 「欲しいの?」


 するとまた、ガサガサと袋が揺れる。

 

 「じゃぁ、黙っててくれる?」


 激しく揺れる袋。

 分かったから早く頂戴とそれを催促しているようだ。


 「黙っててくれるならいいよ。それに、これからは取った魔石は全部あげるからさ」


 うんうんと言わんばかりにそれが揺れた。

 しめしめ、上手く言ったな。

 

 「あ、食べる時あんまり光らせないでね」


 最初の時のように光ったら二人が起きてしまうかもしれない。

 そうなったら、この交渉も無意味だ。 


 「じゃあ、交渉成立と言う事で———食べていいよ」


 すると、袋の中の魔石が小さく光り出す。

 一つまた一つと光ってはその輝きを失うと黒い石へと姿を変える。

 そうして一つ残らずその綺麗な輝きが失われると食事が終了したらしい。

 満足げに、袋が揺れるとそれがご馳走様でしたと聞こえた気がした。


 「じゃあ、行ってくるから二人を頼んだよ」


 そう、その謎の声に言うと今日も夜の世界へと俺は繰り出した。


 「今日は蒸すな」


 昨日の涼しかった夜とは変わって熱帯夜。

 家の中も暑かったが外に出ると尚の事暑い。


 「昨日の生存者、出来ればまだ見つかりたくないな」


 どんな集団か分かるまでは接触は控えたい。

 こんな世界だ。

 人間の理性は欲に食われるだろう。そう言う時こそその本性が露わになる。

 だからこそ他の生存者との接触は慎重にしていきたい。

 

 まぁ、佐川さんは例外だな。

 あの状態で出会って放置するのは流石に……。

 それに多くの人を見捨てた後ろめたさがあったし。

 

 ただ、今回の生存者達はそれに柔軟に対応し生きている。

 ホームセンターや佐川さんのそれとは違う。

 見かけても様子見に徹するつもりだ。


 「今日も居るな……」


 どこから集まって来るのか、昨日程ではないが家の周りにはゾンビが集まっていた。

 そこにゆらゆらと佇む者。うろうろと歩き回る者。

 そんなゾンビの姿がそこにはあった。

 

 「さて、今日こそは魔法の検証をしよう」


 っと、その前にその辺に居るゾンビを片付けるか。

 腰から斧を取り出すと、昨日と同じように駆け出すとゾンビを片っ端から蹴散らす。


 「んー、魔石を取るのが一番しんどいな」


 心臓からエメラルド色の石を取り出す。

 ただ、その作業はどうにもまだ慣れない。

 これが人型でなければ話は別なのかもしれないが、元が人間だと思うとどうにも割り切れない自分がいる。


 「まっ、約束だしな」


 謎の声にもそう言ったし。

 愚痴っても始まらない。

 出来る限りそれを考えないように魔石を取り出す。

 そうして、家の周りのゾンビをあらかた片づけ終える。


 「さて、これくらいでいいか」


 近くにゾンビが居ないことを確認するとそこから移動した。

 一応昨日と同じ方向に行こうとは思う。

 出来ればどれくらいの規模の集団なのか、そして何処に身を潜めているのか。

 それも確認しておきたい。

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