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手加減は大事

 夢中になりすぎた。

 ついつい、夢中でゾンビを倒して魔石を取り出す。

 その作業を繰り返しずっと行っていたら、相当遠くまで来てしまったようである。


 「流石に戻るか……」


 帰りにゾンビの死体を始末しないとな。

 ちなみにここまでにレベルが五回程上がっている。

 

 「体が痛む様子は無し」


 あれくらいのスパンなら問題ないと言う事か。

 あの激痛は二度と味わいたくないもんな。

 連続でレベルが上がる事に若干の恐怖心を覚えている。

 さて、帰ろう。


 そうして来た道を引き返そうとした時だった。


 「おい! こっちもゾンビが死んでるぞ!」


 「こっちもよ!」


 「どうなってるんだ?」


 知らない男女の声。それが聞こえてきた。

 

 「———やばっ!」


 俺は咄嗟に物陰に隠れた。

 姿は確認する事が出来なかったが、声だけは聞こえる。


 「間引きする必要もないくらいゾンビが死んでやがる……」


 「えぇ、しかも全て胸が切り裂かれて魔石も取られているわ」


 こいつらは魔石の存在も知っているのか?

 って、姿を隠す必要があるのか?

 そう思って自分の身なりをちらりと確認するが……。

 あ、だめだこりゃ。

 大量の返り血でかなりえぐい事になってるな……こんな姿で出れるわけがない。


 「一応リーダーに報告ね……」


 「あぁ、俺達以外の生存者だろうが出来れば敵でない事を祈りたいぜ……」


 リーダーと言う事は生存者の集団なのだろうか?


 「本当ね……。流石にこの数のゾンビを葬るのは私でもちょっと……」


 ごめんなさい。

 もっと葬ってます。

 

 「そうだな……すぐに魔力が切れちまうぜ」


 「えぇ、生粋の魔術師でもきついわね」


 魔術師か……。

 魔力に魔術と来たら、この世界にかなり柔軟に対応した集団だと思える。

 って、これくらい普通じゃないのか?

 魔力使わなくても倒せたんだが……。

 他の人を見た事がないため、比べようがないからな。

 

 「まぁ、お陰で私達も危険に合う事もなく皆の安全も守れたからよしとしましょう」


 そう女が言うと、足音が遠ざかって行った。


 俺達以外の生存者か。

 無論、居るとは思っていたが……。

 さて、どうするか。とりあえずこれは保留だな。


 そうして、俺は帰路へと着いた。


 「ふぅ……ただいまー」


 こそこそと家の中へと戻る。

 ってか、この恰好やばいよな。

 俺は忍び足で急いで浴室へと向かった。


 「うわっ!」


 鏡をみて自分の姿に驚愕する。

 何処かの民族のように顔に何かを塗りたくったように血がこびりつき。

 髪の毛もそれが固まってパキパキになっている。

 

 「酷いな……」


 こんな姿で出ていかなくて良かった。

 服もズボンもこれは駄目だな。

 黒いTシャツにグレーの半ズボン。

 寝巻のそれもいろいろな物がこびりついている。


 そそくさとそれを脱いでビニール袋にまとめる。

 勿論魔石を取り出す事も忘れない。


 そうして、体を洗い始めたが浴室がとんでもない事になったのは言うまでもない。

 流れた血がその辺に付着して、それを落とすのに多大な魔力を消費した。


 「……疲れた」


 それを落とすのにだいぶ四苦八苦してしまったのである。

 

 「ふぁー、寝るかな……」


 魔石を靴箱に隠す。

 そうして、二人が寝ている部屋へと戻った。


 「———寝てるな」


 ばれていないことに安堵する。

 今日は魔法の実験できなかったが、何やら必殺技を覚えたからよしとしよう。

 明日こそは魔法の検証だな。

 そんな事を思いながら眠りについた。


 「—————————」


 「朝—————————ですよっ!」


 「もう少し……」


 俺の眠りを妨げる声に抗う。

 ゆさゆさと体を揺らすがそれに屈しない。

 硬く瞼を閉じて光を遮る。

 強い意志を持って全力でそいつに立ち向かった。


 「しぶとい……」


 だが、その声の主も中々諦めない。

 あの手この手で妨害をしてくる。


 「むにゃ、むにゃ……」


 んー、起きたくない。

 それに尽きる。

 

 「宗田さんが起きてくれないと、ご飯食べれないんですー」


 「お腹空きました~」


 二人の女性からの抗議の声。

 悲しそうなその声に同情を感じざる得ない。

 

 仕方ない。

 起きてやろう。


 「おはよう……」


 「おはようじゃないよ! どれだけ寝てたと思うの!?」


 黒い髪をポニーテールにした、小動物のような顔の唯がそう抗議してくる。

 

 「お腹空きました~」


 さっきと同じ言葉を繰り返す佐川さん。

 両手でお腹を押さえてそれをアピールしてくる。


 「すまんすまん……昨日ちょっと寝付けなくてさ」


 そう平謝りする。


 「それは仕方ありませんね~。大丈夫ですか~?」


 佐川さんはそれを信じて心配そうにしている。

 うっ、罪悪感が。

 俺はそれを直視できずに視線を外した。


 「だ、大丈夫だよ。か、顔洗ってくる」


 そう言ってそそくさと浴室に向かい顔を洗った。

 危ない危ない。

 罪悪感に押しつぶされる所だった。

 もしばれたら、また唯に……。

 烈火のごとく怒る唯を思い出してブルリと体が震える。


 身だしなみを軽く整えると、何事もなかったかのようにリビングに戻る。


 「宗田さん! 早く! お湯!」


 戻るや否や、唯にそう急かされる。

 俺はポットやケトルじゃないんだぞ?

 そう抗議の視線を送るが、ずいずいとカップラーメンの容器を俺に渡してきた。

 俺は黙ってそれにお湯を注ぐ。


 「まだかなー」


 ルンルンと出来上がるのをジッと待つ唯と佐川さん。

 相当お腹減っていたんだろう。

 俺も適当なカップラーメンにお湯を入れた。


 「いただきまーす」


 先に二人のカップラーメンが出来上がり、それをずるずると頬張り始める。

 旨いんだけどなー……そろそろ肉とか食べたいな。

 このご時世に贅沢なんだろうけど、手に入らない物程欲しくなるのは人間の性だよな。


 そうして、昼食? を食べ終えた俺達。


 「なぁ、今って何時なんだ?」


 ふとそんな事を聞いてみた。


 「それは私も聞きたいよ」


 「私もわかりません~」


 そうだよな。

 ただ、時間が分からないのは何となく不便だ。

 時計のそれも動かない。

 そうなると感覚でしかないのだが、ずっと時間の概念に縛られて生活していた身としてはどうしても気になる。

 

 今は眠くなったら寝る。

 お腹が空いたらご飯を食べる。

 そんな生活を送っているが、それが規則正しく刻まれているかは不明である。

 そのうちちゃんとそれが分かればいいんだけどな。


 「そうそう……宗田さんちょっと聞きたいんだけど……」


 なんだ? 嫌な予感がするんだが……。

 

 「昨日の夜は何をしていたんですか?」

読んでいただきありがとうございます。

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