深夜徘徊
「それではおやすみなさい」
「あぁ、おやすみ」
「おやすみなさい~、むにゃむにゃ……」
三人揃って就寝。
いざと言う時のため、三人でまとまって寝るようにしている。
リビングで寝る俺達。
ただ、気まずいから間に物を置いて仕切りをしているのだが。
結論を言うと俺は二人が寝るのを待っている。
天井をぼーっと見つめながら時間だけが過ぎ去る。
次第に横からすーすーと規則正しい寝息が聞こえてきた。
「そろそろいいかな?」
物音を最小限にゆっくりと起き上がる。
唯と佐川さんの顔をそっと覗くとスヤスヤと眠っていた。
前に唯に怒られたが懲りずにこうして夜の街へと繰り出そうとしている。
検証とレベル上げ。それが、目的だ。
「サバイバルナイフと斧、後は魔力回復のポーションがあればいいか?」
必要最小限の物だけを持つ。
「問題は変異体のようなゾンビ……あいつらが現れたらまずいんだよなー」
うーん。
対策はない事は無いけど、魔力がもたない。
「出来る限り、隠密に行こうか」
そうして準備を終えた俺は、二人が寝ている事をもう一度確認すると外へと出た。
「涼しいな……」
夜風が気持ちいい。
ついさっき通り雨が降っていた。
お陰で湯だった地表は冷め、冷たい風が火照った体を冷やしてくれる。
「おぉー!」
遠くで雷が鳴っている。
稲光が龍のように雲の中を動いている。
「夏の風物詩だな」
玄関を出てすぐの所で、少しぼーっとそれを見ていた。
「———狩の時間だな」
中二病が発症した。
あー、こうなんか言いたくなったんだよな……。
聞かれてたら恥ずかしい。
さて、問題のゾンビは何処に居るのかな?
そう思い道路に出た。
「———うわっ!」
道路に出ると思わずそう声が出てしまった。
玄関出ると左右に道が分かれている。
そのどちらを見てもぼーっとたたずむゾンビの姿が目に入った。
「多いな……」
何体かのゾンビが俺に気付いた。
「あぁぁぁああああっ!」
地に響く唸る声。
俺は一番近い一体のゾンビを蹴り飛ばす。
そのまま、仰向けに倒れるゾンビ。
そうして、もう一体が倒れたゾンビのすぐそこに迫っていた。
右足に力を込めて、倒れたゾンビの頭を全力で踏みつける。
何かが破裂したような感触が足に伝わってくる。
まずは一体。
そうして間髪入れず、目前に迫ったゾンビの脳天へと斧を振り下ろした。
頭が割れて目玉が飛び出す。
二体目。
更に後方に控えるゾンビ達。
異常なまでの数のそいつらが俺に迫っていた。
たった少し外に出たらこれか。
この辺がゾンビが多いのか? それとも分布が変わった?
前に住んでいた所からそれなりに離れて居るがそこまで遠くはない。
歩いても三十分くらいしか時間がかからないだろう。
少し離れただけでこれか……。
あの場所の立地条件は良かったんだな。
「少し間引かないと厄介な事になりそうだ」
今日は検証そっちのけで、目に映るゾンビを始末することに決めた。
遠くを見ても近くを見てもゾンビ、ゾンビ。
夜を徘徊するそいつら。
俺に気付いている奴らもちらほらと、不格好な動き方のブリキの人形。
ギクシャクと俺の肉を食らおうと襲ってくる。
「これは魔法はなしだな」
この数を相手に魔法を使っていたらすぐに魔力切れを起こすだろう。
それに音が出てしまうから、余計にゾンビを集めてしまう。
「ふぅー……」
息を吐き出し集中する。
そうして、足に力を籠めるとそれを一気に解放した。
レベルアップで上がった能力、それを遺憾なく発揮する。
車のそれを越えるような速度でゾンビの目前へと迫った。
不意の事で反応が出来ないゾンビ。
懐に飛び込んだ俺はゾンビの顎を斧で切り上げた。
「———ギッ!」
一鳴きするゾンビ。
突進の力の乗った斧は顎を割るだけじゃなく、顔のそれを半分に切り裂いた。
「———なっ」
自分で放った攻撃だがその威力に驚く。
むしろ、刃のそれが当たっていない部分まで斬られているのだ。
魔法のそれに近い何かが発動したのだろう。
だが、それは嬉しい誤算だ。
ゲームで言う、必殺の剣技や必殺技。
それの類が使えるようになった。
安直だが命名「兜割り」と言った所だろう。
俺はその感触を体に刻むように、何度もゾンビにそれを振るった。
「ふぅ」
熱気を帯びた息を吐き出した。
「だいぶ倒したけどまだまだいるな……」
近くに居たゾンビの殆どを始末した。
だが、それでも遠くを見るとまだまだゾンビが居る。
「しかし、兜割りは便利だな」
横に振るおうが、縦に振るおうが、それを両断する。
どれくらいの威力がでるのか試したら、ゾンビの体を縦に真っ二つにしてしまった。
しかも、特に魔力の消費が無い。
しいて言えば体力の消費が激しいが、今の所はさしたる問題ではない。
「あー、魔力じゃなくてSPとかスタミナを消費する技なんだな」
そう結論付けた。
そうして、後方に目をやると次の獲物へと狙いを定める。
「あー、待てよ。今のうちに魔石を取り出してみよう」
周囲にゾンビが居ないか確認すると、腰に斧を閉まってサバイバルナイフを取り出した。
「さてと……」
どの辺に魔石があるかだな。
あの小石くらいの大きさの魔石に取って人体は大きい。
それを探すのは苦労しそうだ。
「それに……」
人間を解体するって……流石に抵抗がある。
でも、これも慣れれば大丈夫なはずだ。
うつ伏せに倒れたゾンビを仰向けに寝かせる。
最初に頭を踏みつけて倒したゾンビ。
所々食われているが、まだ綺麗な方である。
「うっ……」
胸元にナイフを突き立てる。
それをゆっくりと………………。
「——————はぁっ……」
結果として盛大に吐いた。
どこにあるか入念に探すのにこれでもかってくらいバラバラに裂いたのだ。
そうして、魔石があった場所は。
「やっぱり心臓か」
もしかしたらと思ったが最初からそれに従っておけば良かった。
手がぬるぬるして気持ち悪い。
内臓に触れた感触が忘れられない。
急いで水魔法で手を洗って魔石をポケットへとしまった。
「……頑張るか」
俺は次々にゾンビから魔石を取り出した。
「これで、二十一個」
だいぶ集まってポケットがこんもりとしている。
このまま持っているのもどうかと思い一旦家の玄関の靴箱へとそれを隠す。
「よし、もう一度行くぞ」
俺は気合を入れ直すと、もう一度ゾンビを狩りに外へと出た。
ついでに死体をホイホイとその辺の民家に放り投げて、証拠を隠滅する。
「って、増えてないか?」
少し家に戻っている間に数が増えているような……。
「レベリングにはちょうどいいかな……」
血で濡れた顔を軽く拭くと、そいつら目掛けて駆け出した。