きれいな宝石の正体
「ただいまー」
そう言いながらが二人の所に戻る。
「宗田さん、大丈夫ですか!」
すぐに唯が駆け寄ってきた。
大袈裟だな。たかだかゾンビ一体だぞ?
「怪我はない!?」
そう、凄い剣幕で迫って来る。
って今考えると、唯の反応が正しいのかもしれないな。
あまりに慣れ過ぎて、ゾンビ一体と思ったが今考えると命のやり取りをしてきたんだもんな。
高々ゾンビ一体。
されどゾンビ。
俺達を殺そうとしているんだもんな。
「大丈夫、怪我も無いから落ち着いて」
「……はぁー、良かった」
安堵の息を漏らす唯。
「無事で良かったです~」
佐川さんもそう言って出迎えてくれた。
五分程しか時間が経っていないが二人とも心配してくれたらしい。
「ありがとう」
佐川さんにそう返事を返す。
「唯もとりあえず座ろう」
「あ、はい」
リビングの入口で立っている俺。
そのすぐ傍に唯も居る。
ここで立っているのもどうかと思い、彼女にそう促すとさっきまで座っていた場所に戻った。
「これからはもっと静かにしないとですね~。すいませんでした」
「私も騒ぎすぎました……。ごめんなさい」
二人がそう謝ってきたが、原因は俺なんだが。
「いやいや、元々は俺のせいだし。二人ともごめんね」
三者三様。
それぞれ謝罪する。
「確かに、宗田さんが~……」
唯がそう言ってくるからデコピンしといた。
確かにそうだけどなんか釈然としない。
「あいた! 酷い!」
ふんっ! と鼻を鳴らしてその抗議を軽くあしらう。
「あ、そう言えばこんなのゾンビから出てきたんだけど……」
さっき拾った宝石のような物を見せた。
「宝石?」
唯がそれを見てそう言った。
俺も宝石のように見えるが、加工されていない原石に思える。
「うわー、綺麗ですね~。これが、ゾンビから出てきたんですか~?」
そう言ってその宝石のような石を手に取った。
って、よくそれ持てるな。
一応死体から出てきたんだぞ?
「でも、何でしょう~?」
「なんだろうね? あのゾンビの持ち物だったのかもしれないけど一応拾ったんだよね」
色んな角度からそれを見る佐川さん。
女性は光物が好きだもんな。
そうして、唯を見ると何か難しい顔をしていた。
「唯———」
「———魔石……」
「え? どうした———」
「それ、魔石だって」
そう唯が言った。
どうしてそんな事が分かるんだ?
「あの声がそう言ってる。ちょうだい、ちょうだいって……」
「声ですか~?」
そう言えば佐川さんは知らないんだったな。
後でちゃんと説明しないと。
「あ、佐川さん。その魔石? 貸してもらっていい?」
「はい~」
俺はそれを受け取る。
こんな石ころが魔石なのか?
じゃあ、これを動力源にゾンビが動いているって事?
俺が知っている魔石は魔物の心臓のような物。
用途は様々。
魔法の触媒、武器、防具、いろいろな物に利用できるはずだが……。
「はい、唯」
そう言って手渡した。
「え? いいんですか?」
「ああ、だって欲しいってその声が言っているんだろ?
それに、持っていても使い道がないからそれならいろいろと助けて貰ったその声にあげてもいいでしょ」
「ありがとうございます。でも、どうやってあげれば……えっと……どうぞ?」
手の平の上に置くと恐る恐るそう言った。
すると———
「———うっ」
その宝石から眩い光が放たれた。
思わず目を瞑る。
そうして、一瞬だけ明るく輝くとそれが次第にそれが治まった。
「……なんだったんだ?」
光が消えた事を確認すると目を開けた。
「———なっ!」
俺はその魔石を見て驚愕する。
さっきまで綺麗なエメラルドの色をした魔石。
それが、今は黒ずんで炭のようになっている。
「どういうことだ?」
不思議そうにそれを見ていると。
「えっと…………ご馳走様……だって」
食べ……たのか?
急に光り出したと思ったら、次の瞬間には黒ずんだ石になっていた。
「あー、もっと食べたいだって……なんなんだろう?」
この声の正体が何なのかは分からないが。
どうやら魔石が欲しいらしい。
本当に上げて大丈夫か?
「他には何か言ってる?」
「いえ、他は特に……」
うーん。敵ではないんだけど得体のしれない何か……。
敵じゃなければいいんだけど。
「唯は今までその声に助けられたんだったよね?」
「そう……だね。助けられたよ」
ならば別にいいか。
これで彼女の生存率が上がる可能性があるなら試してみる価値はありそうだ。
「あの~、それでその声って何ですか~?」
一人蚊帳の外だった佐川さんが恐る恐る会話に入って来た。
そこで、俺と唯はこの声の説明をする。
「ほえ~、そんな事が……。それじゃあ、今のもその声が~?」
「多分そうですよ。なんかお腹空いているような感じだと思います」
唯が佐川さんにそう説明している。
「あげるのはいいんだけど、ただなー…………」
「宗田さん?」
「二人はゾンビの胸を引き裂いてそこから取り出す勇気はある?」
そう問いかけると、二人は引きつった顔をした。
「そう言う事だ。今回はたまたまゾンビの腹が……あー、いい感じだったからそれが手に入ったんだけどさ……」
「あはは……私は無理かも」
「私もです~」
「ですよね……」
俺も出来ればそんな事はしたくない。
ただ、その声が何なのかは気になる。
んー、ゾンビを倒してから取り出すか決めよう。
「とりあえず、今は保留。あー念のため窓の所にバリケードでも作ろうか」
決められないことは後回し。
今は心配事項を少しでも潰そう。
まず、問題は壁一面にある窓。それをどうにかしないとな。
門が無いこの家。
普通にゾンビが入り放題である。
窓の所にいろいろと置いて侵入するのを防ぐのが得策かな?
後は庭に入れないように何か置いて置こう。
そう言うと各々作業に取り掛かった。
俺は洗濯機や冷蔵庫、それにベットを外に出す。
ただ、ゾンビが居ないか確認しないとだから時間がかかってしまう。
「ふぅ、こんなもんかな」
そんなこんなで庭にゾンビが入らないようにバリケードが完成した。
隣の家とはコンクリートの塀で囲まれているため侵入される心配はない。
庭への侵入口にはとりあえずある物をたくさん置いた。
レベルアップ様様だな。
一人じゃ運べないであろう冷蔵庫も洗濯機も軽々と持ち上げる事が出来る。
そうして、二人の元に戻るとそこは綺麗に塞がっていた。
タンスだったり、本棚だったりを置いて塞いでいた。
「これでいいかな?」
「十分だと思う」
過剰なまでにそれを塞ぐと一息ついた。
「二人ともお疲れ様」
そう言って冷たく冷えた水を渡した。
「あー、美味しい」
「仕事の後はやっぱりこれですよね~」
ただの水だけどな。
俺は心の中でそう突っ込む。
当面はここを拠点にする方向でいいとして、問題は食料やら何やらをどうするかだな。