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これはなんだ

 目を覚ました唯と佐川さん。

 俺達三人で魔法の訓練をしている。


 部屋の中では出来る事は限られているが、それでもやらないよりはましである。


 「わぁー! 唯ちゃん! 出来ました~!」


 そう言って喜びを露わにする佐川さん。

 ぴょんぴょんと跳ねて唯に抱き着いた。


 「わ、分かったんで、落ち着いてください!」


 あやす唯。

 こうしてみると二人が姉妹に見える。

 もちろん唯が姉である。


 唯も十分小さいと思ったが、それよりも更に小さい彼女。

 よしよしと頭を撫でる。


 「宗田さん~! できました!」


 嬉しそうに俺の所にも近寄って来た佐川さん。


 「おっ、良かったね。ちなみにどんな魔法が使えたの?」


 そう聞くと。


 「これです———えいっ!」


 そのかけ声と共に髪の毛が風に揺れた。

 涼しい。


 「えっへん! どうですか~?」


 「お……おお、凄いな」


 その風を浴びて涼しんでいると、人懐っこい犬のような目で褒めてと訴えられた。


 「と言う事は、佐川さんは風属性って事かな」


 「風ですか~?」


 「そうだよ。ちなみに何をイメージしたん?」


 そう、佐川さんに聞いた。

 

 「えーと、暑いんで扇風機をイメージしました~」


 なるほど。

 だから心地いい風なんだな。


 「これで三人全員が魔法を使えるようになったな」


 「そうですね~。良かったです~」


 嬉しそうに目を細める佐川さん。

 少しは気が紛れただろうか?

 そうして俺達のやり取りを見ていた唯。


 「なんか、二人とも仲良くなってない?」


 女性は堪が鋭いと言うが、唯はまさにそれだった。

 

 「えっ? そ、そうかな……」


 なんだろう。いけないことをしているような気分だ。


 「宗田さんとは仲良しですよ~」


 そう佐川さんが言うが、ちょっと黙っていてください。

 心でそう思う。


 「んー、まぁいいんだけど……ちょっと仲間な感じがして……」


 素直に唯がそう言う。

 あー、なるほど。かまって欲しいのか。


 「唯……」


 「え? な、なに?」


 そう言われて俺は唯の方へと近づいた。

 何事かと身構える彼女。

 俺はそれに向かって………。


 「———お手」


 「は?」


 「いや、だからお手」


 次第に赤くなる顔。

 

 「宗田さん、どう言うつもりかしらね……?」


 「え? かまって欲しいんだろ?」


 「………」


 「………」


 無言で見つめあう俺と唯。

 大きな瞳が俺を見て話さない。

 すると………。


 「———むきー!」


 突然そう叫んで驚いた。

 ぽかぽかと俺を叩いてくる。


 「いつもそうやって、そうやって人を馬鹿にするんだから!」


 「はっはー、嬉しいだろ?」


 「嬉しいわけないでしょ!」


 キーキーと怒る唯。

 俺はそれに向かって。


 「まあまあ、落ち着け———ほら、お手」


 「まだ、言うかーーー!!」


 そうして俺と唯のやり取りを見ていた佐川さんは肩を上下させながら笑っていた。


 「ちょっと! 葵さんも笑っていないでなんか言ってくださいよ」


 「え~? 何かですか~? それじゃあ……」


 佐川さんもこっちに近寄って来る。


 「———お手です~」


 「…………葵さんまで……シクシク……」


 二人にからかわれてわざとらしい泣き真似をする唯。


 「だって~、唯ちゃん可愛いんですもの~———きゃっ!」


 「そうか! この胸が悪いのか!」


 わけの分からないことを言いながら、その胸を揉みしだく唯。

 うらやましい……。

 じゃなくて、流石に止めなくちゃ。


 「はいはい、二人とも落ち着いてね」


 そう宥める。

 

 「誰のせいでこうなったんですか!」


 「ひゃん! 唯ちゃん……そこはだめ……」


 睨む唯になまめかしい声を出す佐川さん。

 こんな時が続けばいいんだけどなと思っていると……。


 ———バンッ!


 リビングの窓が叩かれた。

 ゾンビか?

 流石に騒ぎ過ぎたな。


 俺は即座に斧を持って身構える。

 

 リビングの窓、庭が見えるようにと大きな窓が備え付けられている。

 その窓を叩かれた。

 

 息を飲む俺達。

 こんな窓簡単に破られてしまうだろう。

 なら、外に行って倒してしまうか?


 「ちょっと、行ってくる」


 今も何回も窓を叩いている。

 このままじゃ割られるのも時間の問題だろう。


 「宗田さん………」


 心配そうに俺を見てくる唯。

 

 「大丈夫だよ」


 そう返事をすると、俺はそっと玄関へと向かった。

 

 「見える範囲にはゾンビが居ないな?」


 覗き穴からそれを確認すると、俺はゆっくりと扉を開ける。

 そうして恐る恐る庭の方へと向かった。


 「———いた」


 そこには案の定ゾンビが居た。

 窓に手を当てその向こうに行こうとしている。


 「あ……ぐぎぃ………あぁぁぁぁ」


 俺の存在に気付いたそいつはゆっくりと体の向きを変えた。


 中年男性のゾンビ。

 顔は生前のまま綺麗だったが、問題は腹である。

 魚の切り身のように裂かれたそこには何も詰まっていない。

 内臓のそう言った類は無く、背骨が見えている。


 「よく、その姿で動けるよな」


 柳の木のようにゆらゆらと揺れる胴体。

 いつ、それが折れるか分からないがそのゾンビはそんな事を気にしない。

 

 ゆっくりとだが着実に俺との距離を縮めるそいつに、先手必勝とばかりに蹴りをかました。


 「———おらよっと!」


 胸の辺りに直撃したその一撃。

 

 ———バキッ!


 そう嫌な音がすると、支えになっていたそれが折れて後ろに折れ曲がった。

 百八十度曲がったそのゾンビ。

 それでもその歩みを止めない。

 不気味な恰好のまま、俺に寄って来るそいつ。

 自分でやった事だが気持ち悪い。

 

 背骨は折れたが辛うじて皮で繋がっている胴体。

 正しい位置からかけ離れたところに頭がある。

 股の間でぶらぶらと揺れるその頭、逆に狙いにくい。


 「流石にこれはちょっとな……」


 死んでいるが、死者を冒涜している感じがする。

 俺は早くこいつに止めを刺す事にした。

 

 足払いをしてそのゾンビを倒す。

 後ろに倒れたゾンビば更に不格好に手をバタバタとしている。


 「すまんな……」


 そう中年男のゾンビの頭に斧を振り下ろした。

 ぐしゃりと何かを潰すとその動きを止めた。


 「ふぅ、終わったな」


 慣れたもんである。

 この匂いも、見た目も、感触も。

 この世界になってから幾度となく味わった。

 今では作業になりつつあるそれ、今は吐き気のそれすら感じない。


 「さて、この死体をどうするか……」


 流石に抵抗はあったが、その死体を掴んで持ち上げる。

 内臓がごっそりとないため軽い。

 それを隣の民家へと放り投げようとした時。


 「ん? これはなんだ?」


 そのゾンビの胸元から何かが落ちた。

 一旦地面にその死体を置くとそれを拾う。


 「宝石?」


 エメラルド色に光る小石程の大きさの石のような物。

 日の光にかざすと透き通って見える。

 

 「きれいだな……。

 よく分からないけど一応貰っておくか」


 そうして、そのゾンビの死体を隣の民家へと投げると俺は家の中へと戻った。

 ここまで読んでくださりありがとうございます。

 感想、ブックマーク、評価してくださった方、それを見る度に自分のモチベーションへと繋がっています。

 まだまだ拙い文にストーリーですが本当にありがとうございます。

 今しばらく、毎日投稿は続きますのでよろしくお願いいたします。


 余談ですが、最初の方の書き直しをしております。

 特に言い回しの修正に足りない部分の追加等を行っております。

 ストーリーに影響はまったくありませんので御了承お願いいたします。

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