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心の傷

 「そう言えば佐川さんは一人で大丈夫なのか?」


 こうして唯がここに居ると言う事は、彼女が一人になっていると言う事である。

 精神的にかなりのダメージを負った彼女を放っておいて大丈夫なのだろうか?


 「葵さんだったら今も寝てるから大丈夫だよ」


 唯がそう言うならいいか。


 「それに、ずっとここにいたわけじゃないので。本当に数分前に様子を見に来たんです」


 なるほど。

 心配で見に来たらうなされて居たと言う分けか。


 「ずっと、真奈、真奈って叫んでてビックリしたんだよ」


 えっ! そんな寝言言っていたのか?

 なんか恥ずかしいんだが。


 「真奈って………前の彼女さん?」


 「まぁ………そうだな」


 なんか気まずいぞ………。

 ただ、今も鮮明に覚えている夢の内容。

 どうして今になって彼女の夢を見たのかは分からない。ただ、まるで俺の心のドロドロとした部分が映し出されたようで嫌だ。


 後悔に、後悔に、後悔。

 俺の中にあるのはこれなのだろう。

 「どうして来てくれなかったの?」

 夢でそう言った彼女。言い訳を言えばそんな余裕がなかった。

 唯も俺も一日を過ごすのがやっとで助けに行けなかったんだ。


 そして、ホームセンターに隠れていたであろう生存者もあの数のゾンビを相手にする余裕なんてなかった。

 目の前で食われた男だってそうだ。

 だが、レベルの概念が生まれた世界で、もし———だったら助けてられたのに。

 たらればを思えばキリがないが、罪悪感が夢として現れたのだろう。


 「ふーん。前の彼女さんの夢を見てたんだ………」


 なんか怒っていないか?

 確かにその夢を見ていたが、本当に悪夢だったんだぞ。

 唇をにょきり。頬を膨らませる唯。

 頬には少し泥のような物がついている。


 かくいう俺も昨日の戦闘の後すぐに寝てしまった。

 服は所々穴が開き、血でパリパリに固まっている。

 着替えるにしてもせめて体を洗ってからにしたい。


 「あっ、あんまり近づかないでね!」


 突然、唯が俺から距離を取った。

 

 「あー、臭うもんな」


 俺は冗談でそう言うと。

 顔を真っ赤にして、その辺に落ちていたクッションを投げてきた。


 「———ごふっ!」


 不意を突かれた一撃を避ける事も出来ずに顔面へと食らってしまう。


 「宗田さんなんて嫌いですっ!」


 そう言って部屋を出て行ってしまった。

 フリフリとポニーテールにした黒い髪。それが怒りを表現しているかのように揺れている。


 でも、良かった。

 ゾンビにならなかった事で生を実感するとそう思う。

 ただ、まだこれからどうなるか分からない。

 もしかしたら、次寝た時はもう目覚めないかもしれない。

 そう思うと怖かったが特に今の所は体に異変が無い。


 あの駐車場ので喰われた男は、姿は見えなかったがすぐにゾンビになっていた。

 だが俺はこうして平気である。

 ならば、ゾンビになる条件でもあるのだろうか?

 ———どうして俺は無事だったんだ?

 聖水? たまたま? それとも噛まれても大丈夫?

 そのどれもが当てはまりそうで答えが余計に分からなくなった。


 ただ、噛まれてもゾンビにならない可能性は出てきたが油断するべきでないだろう。


 「んー、そろそろ起きるか」


 さてと、そろそろ起きるか。

 大きく背伸びをすると俺は唯の後を追うように部屋の外に出た。

 まだ体が少しだるいが大丈夫だろう。

 自分の体の調子を確かめながら階段をゆっくり降りた。


 「てか、二人とも何処にいるんだ? リビングかな?」


 他人の家と言う事もあり、かってが分からない。

 部屋を一つ一つ開けて中を確認する。

 そうしてやっと探し人を見つけた。


 閉め切ったカーテン。薄暗い部屋の中。

 こもる熱気。

 そこにはテーブルが一つとソファーが一つ。

 テレビが見えるような位置へと備え付けてある。

 ソファーの背もたれからはみ出るタオルケット。

 背もたれのせいで姿は見えないが、そこに佐川さんが寝ているのだろう。


 そうしてそのすぐ近くには椅子に座っている唯。

 明らかに不機嫌オーラを出している。

 くりくりとした目でちらりと俺を見たが、すぐにふいっと顔を反らしてしまった。

 それに対して苦笑いを浮かべる俺。


 「あー、改めておはよう」


 佐川さんを起こさないように小声でそう言った。


 「おはよう………」


 さっきまでとは売って変わって、そう短く返してきた。


 「ごめんってば。そう怒らないでくれ」


 こう、長引かせるのもどうかと思う。

 喧嘩した時は男が折れるのが一番だ。まぁ、今回は俺が悪いんだが。

 ほら、そのお陰で………。


 「はぁーーーー………。もう!分かりました。ただ、そう言うのは言わないでね」


 そう言われてごめんねともう一度言う。


 「それで佐川さんはどう?」


 「全然、起きないんだよね。静かにずっと寝てるよ」


 呼吸に合わせて上下に動く胸。

 精神的にもかなり疲れてしまっているのだろう。

 

 「あんまりジロジロ見ないの!」


 俺がずっと佐川さんを見ていると、唯にそう注意されてしまう。


 「はいはい、分かりましたよ」


 と言うか唯も徐々に砕けた喋り方になってきたな。

 今も中々敬語が抜けないみたいだし。それはそれでいいんだけど。

 こんな世界で年上も下も、もう関係ない。

 もっと砕けてもいいと思うが、それはもう少し時間が必要かなと思う。


 「もう、男の人って胸の大きい人好きなんだから!」


 なんか盛大に勘違いしているんだが………。

 誰もそう言う意味で見ていたんじゃないんだが。

 思わずそう言われて吹き出しそうになる。


 「そうですよねー。私は胸ないですもんねー」


 そう揉むでない。

 思わずその行為に目が行ってしまった。


 「あ、やっぱり見てた! イヤらしいんだー」


 そう意地悪な表情で咎めてくる。


 「おほん。それでだね唯さんよ………あの魔法は何かね」

 

 無理矢理話題を変え、それについて問いただす。

 今一番気になるのはその事である。

 あの、ゾンビを止めた魔法。

 しかも、体にかなりの負担がかかっていた。

 白目は真っ赤。そして鼻血を出す唯。

 あれが普通の魔法には見えなかった。

 

 「あ、ずるい。逃げた!」


 「あー、見てましたよ。そのもみもみってしていた手をさ!」

 

 話が進まないため、やけくそ気味にそう言う。


 「あっ、そ、その………」


 何故照れるし。

 そう言えばこうなる前にご飯を食べていた時もそうだったな。

 自分でやって、勝手に照れていたよな。

 

 「それで……あの魔法について教えて欲しい」


 胸を隠すように両手で肩を抱く唯に向かって話が進まないためそうせかす。


 「———うっ。あ、あの魔法は声に教えて貰ったの……。

 宗田さんが居なかったあの一か月、そこで一度命に危険が迫った時に教えてくれたんです」


 一瞬恨めしそうに見てから、魔法の事について話してくれた。

 って、そんな事があったのかよ……。

 今更ながら本当に無事で良かった。


 「と言う事は、その声は完全に唯の味方でいいのか?」


 「……分からない。ただ、言っている事の全てがその通りになっているので」


 「あー。それって、この家が良いって言ったのもその声から?」


 俺は話を続けた。

 その謎の声がなんなのか気になるが、今のところは俺達? いや、唯の味方なのだろう。

 それならいいが、あの魔法は本当に命の危険はないのか?


 「うん……。この家は鍵も開いてるしゾンビも居ない。そう教えられて……。

 あの! 黙っていてすいませんでした」


 特に謝る必要は無いと思うのだが。

 

 「謝らなくていいよ。こうして、すぐに安全も確保できたんだからそれでいいでしょ」


 「はい……」


 少ししゅんとしてしまった。

 黙っていた事にうしろめたさでもあったのか?


 「いえ、本当にすいません。こんな状況なんだから本当はもっと共有しておくべきでした。

 ただ、そんな事を言うと頭がおかしいと思われそうで」


 そう言う事か。


 「前にも声が聞こえるって言った時、そう言う事言った? 今の状況で何が起きるか分からない。

 だから、そう言うのは遠慮なく言っていいんだよ? 少なくとも俺はそんな事を思ったりしない」


 きっぱりとそう言った。

 これから先も何か憂いが残るのは嫌だ。だったらここで俺ははっきりと言う事にした。


 「……んっ」


 そう唯と話をしていると、佐川さんが起きたようだ。

 少し騒がしくしてしまったかな?

 少し申し訳ない気持ちになる。


 「あれ? ここは? 昨日……おえ」


 起きた佐川さんは昨日の事を思い出すと、口に手を当て嘔吐した。

 それの背中をさする唯。

 

 「葵さん、大丈夫ですか?」


 そう問いかけるが中々落ち着かない。

 

 「あ、宗太さん何か体を拭くもの持ってきてもらっていい?」


 「分かった」


 俺は浴室にタオルないか探しに行くことにした。

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