首長2
現在加筆修正実施しております。
ストーリーには影響はありませんが、言い回しなどがだいぶ変わっています。
なんか、ゾンビの死体が多いな。
二人は大丈夫なのだろうか?
あのゾンビの奇功を目にした俺は急いで二人の後を追った。
そうしている間も後ろからはドスンと重い音が聞こえてくる。
徐々に近づいてくるその音。
早くしないと追いつかれる。
一応、待ち合わせに近くの公園を目指してと言ってあるが……到着しているだろうか?
ちなみにその公園は、俺が初めてゾンビを葬った公園である。
だが、道すがらにゾンビの死体が増えているのを見ると彼女達が不安だ。
急ぎ公園に到着する。
「———二人とも大丈夫か!?」
すぐに二人の姿を見つける事が出来た。
だが、唯は血だらけだ。
「あ、宗田さん」
「大丈夫なのかっ!?」
その姿に血の気が引くのを感じた。
慌ててそう声をかける。
大声を出して他のゾンビに見つかる事なんて気にしない。
それよりも彼女が心配だ。
「は、はい! これはゾンビの返り血なんで」
凄い剣幕でそう言ったせいか、若干引き気味だったが何もないなら良かった。
ほっと胸を撫で下ろす。
もしかしてあのゾンビの死体は全部……唯が?
まさかな。
「あのゾンビの死体の山は唯が倒したのか?」
一応聞いてみる。
「いえ、数体は倒しましたが私達が通った時にはああなってましたよ」
誰か倒したんですねと。そう言われて近くに他の生存者も居るんだなと思った。
って今はそんな事をしている場合じゃなかった。
「って、二人とも早く逃げ———」
「———ミーツケた…………」
時すでに遅かったようだ。
どさりと言う音と共にそいつは現れた。
そうしてその姿を見た佐川さんの瞳には絶望の色が再び浮かんでいた。
「お父さん、お母さん……なんで……翔太は…………どうしたの?」
翔太とはあの子供の事なのだろうか?
その悲痛な声が俺の心を刺す。
「唯、佐川さんを頼む」
「……わかりました。宗田さん……気をつけてください」
二体のゾンビを迎え撃つため、手にハンドアックスを持ち二体のゾンビと対峙する。
「お前たちの相手は俺だっ!」
そうして、その二体のゾンビへと駆け出した。
一般人では考えられないくらいの速度で迫る。
地面は抉れ、土煙が待った。
その勢いを乗せた一撃を、女のゾンビへと放つ。
「———なっ!」
捉えたと思った渾身の一撃。
だが、それは虚しく空を切る。
素早く首を横に大きく振って避けた。しかも、それだけじゃない。
その避けた勢いのまま俺を薙ぎ払う。
「———うぐっ!」
それを直撃した俺は地面をゴロゴロと転がった。
わき腹を強く強打した事で、肋骨が何本か折れたらしい。鈍い痛みが襲う。
「———宗太さん、上です!」
咄嗟に後ろに飛びのく。
すると目の前に男のゾンビが降って来た。
首を地面に大きく叩きつける。もし、そこに俺が居れば間違いなくあの世行きだ。
助かった………。
綺麗な連携を見せるその二体のゾンビ。
ニタニタと笑いながら俺を見ている。
口や目から湧き出る蛆達。
それが一層不気味さを際立てていた。
「映画でも普通はこんなゾンビ居ないだろう……」
そう文句を言っても始まらない。
痛みを我慢して俺は斧を構える。
あいつらの弱点はなんだ?
そう思案する。
死体なんだから炎だろうが、炎弾では燃えなかった。
あー、もしかして俗に言う魔法耐性って奴か?
炎がだめならば。
———イメージは雨。
———その雨は大地を犯し、地を枯らせる。
———そこは不毛の大地へと変わる残酷な涙。
———酸の雨。
酸性雨と言うやつだ。
だが純度九十九%のその雨は工場から汚染された雨とは違う。
俺の目の前に居るそいつの頭上からポツリポツリと水滴が降りかかる。
それが触れるたびにじゅわりと白い煙を上げた。
「———イギッ!」
異変に気付いたそいつは慌ててそこから移動しようとするがそうはさせない。
蛇の束縛。
雷の魔法を想像して、そいつに浴びせた。
溶け落ちた皮膚には良く効くだろう。その、雷の一撃が動きを止める。
「だいぶ魔力を持っていかれたな———だが、これならば」
雨が止むと同時に俺はそいつへと飛び込んだ。
「———辞めてっっっ!」
そう、佐川さんが叫んだ。
俺は反射的に動きを一瞬止めてしまう。
「———ぐぅっ!」
痺れが消えたのだろう。
父親のゾンビが首を振り払い俺を弾き飛ばす。
無防備な所にその一撃が入った。
その首の長いゾンビから距離を離される。
雷の魔法の効力か威力は最初よりはなかった。
そのおかげで、再起不能になるような事はなかったが、体に鈍い痛みを覚える。
「———宗田さんっ!」
そう叫び俺に駆け寄ってこようとする唯を手で制止する。
「だ、大丈夫だっ! 唯は佐川さんをしっかり見ていてくれ!」
そう言う。
ちらっと横に居た佐川さんを見ると下を見て俯いていた。
両親がこうなるなんて辛いだろうに。きっとそれのせいで咄嗟に叫んでしまったのか………。
だが、すまない。俺も死ぬわけにはいかないからさ。
———次は躊躇しない。
さっきはその声に驚いて動きを止めてしまったが今度は絶対に仕留める。
千載一遇のチャンスを無駄にしてしまった。
よろよろと起き上がるそのゾンビ。
酸の雨を食らったそいつの体は所々骨がむき出しとなっていた。
どろりと溶けた何かが首元から落ちる。
その剥がれ落ちた部分から大量の蛆が溢れ出る。
おぞましい光景。
ゾンビになった人間の末路。
頭蓋が見えるようになったその顔。
普通の人間であれば死んでいるであろうそのダメージだが、そいつはニタニタと歯茎が丸出しとなったその顔で俺をもう一度見た。
「第二ラウンドと行く———」
そう、俺はこいつに集中するあまり忘れていた。
もう一体のゾンビ———佐川さんの母親の存在を。
まったく気づかなかった。
「イ、イタダきまースッ!」
「———っ!」
反射的に右腕で防御する。
すると前腕の部分へと激痛が走った。
だらりと力が入らず腕が下に垂れる。
止まる事のない痛みと血液。
血で真っ赤に染まったそれを見て一瞬パニックに陥った。
噛まれた……。
そんな、ここまで生き延びたのに。
俺もこいつらと同じになるのか?
それだけは嫌だ。ゾンビに……死にたくない……。
ゲームオーバーとなった俺はそこで戦意を喪失する。
そう懇願するが最早時既に遅い。
噛まれた物はゾンビになる。それは、世界がこうなる前からの定番。
特効薬なんて存在しない。
なら、一層の事ここで殺された方が楽なんじゃないだろうか?
ぐちゃぐちゃと俺の肉を咀嚼するそいつを見る。
「オイ、しぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ!」
歓喜の声を上げている。
俺はよろよろと後ずさる。
さっきので斧も落としてしまった。
死のうとすればそれは楽に果たせるだろう。
ここで生き残っても結局はこのまま死ぬだけなんだからさ。
全てを諦める俺。
地面に両膝を付き崩れ落ちる。
唯、佐川さんすまない。
せめて俺が食われている内に逃げてくれ。
そうして、目を閉じる。
すぐ傍に二体のゾンビの気配が迫る。
ツンとするような死臭。それが濃厚になる。
やっぱり物語の主人公にはなれなかったようだ。