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逃走

 「ここまで来れば大丈夫か?」


 かなりの距離を全力で走った。

 こんだけ走っても息切れをほとんど起こさないんだから、レベルアップの恩恵に感謝したくなる。

 しかし、流石にいろいろとありすぎた。

 火事場泥棒は気が引けるが適当な家に侵入して食料を調達する事にしよう。


 今まで嫌悪していた行為だが、最早背に腹は変えられない。

 手ごろな民家を見つけると食料を漁る。


 「意外とあるもんだな」


 備蓄してあった食料なのだろうか?

 民家を数件回ったが、缶詰の類を結構見つける事が出来た。

 こんな風になるとは思わなかったのか? あまり食料の類を持っていかなかったようだ。

 

 ただ、家によっては入った瞬間に腐った臭いや血の匂いが充満していたり。

 窓ガラスは破れゾンビの呻き声が聞こえたりとそう言う家も多かった。

 そう言う家は中を漁るのを諦めて、違う民家へとすぐに移るようにしている。


 そうして、リュックがいっぱいになるくらいの食料を集めた俺は家に戻る事にした。


 「あ、これも中々使えそう」


 そうして、他人の家に置いてあったそれを手に取る。

 罪悪感があったのは最初だけ。

 今はこの行為に慣れつつある。


 そうして、その民家でやっと武器らしい武器を手に入れる事ができた。

 この住民はキャンプが好きだったのか、サバイバルナイフに手斧を見つけた。

 刃渡り30センチ程のそのナイフ。そして、持ち手が木で出来た斧。

 十分に使えそうだ。

 

 俺はそれを手に持つと、ナイフを腰にさして斧を手に持った。

 軽く振ってみるが悪くない。

 ゾンビ相手にはこの斧でいこうと思う。


 「ただいまー」


 そうしてやっと家に到着した。


 「でも~、それはちょっと~」


 「えっ! そうなんですかっ! なるほど!」


 玄関を開けると二人の女性の声が聞こえた。

 こっちが死にそうになっていると言うのに平和な物である。

 だが、なんだかんだ打ち解けてくれたのかな?


 「あっ、宗太さんおかえり」


 「おかえりなさい~」


 「あぁ、ただいま」


 二人にそう返事を返した。

 

 「宗田さん、怪我とかはない?」


 「大丈夫だよ。それよりもめちゃくちゃ疲れた。

 あ、これが食料ね」


 「うわっ! 重い!」


 これで二、三日は持つのではないだろうか? リュックにぎっしりと詰まったそれを唯に渡す。


 「わぁ、缶詰がいっぱいです~」


 佐川さんもそれを見て目をキラキラと輝かせていた。

 缶詰でこうも喜ばれる世の中なのか。


 「って、宗田さんだいぶあれですね……」


 あれって、臭うのか?

 マジ?


 「頑張った香りです~」


 佐川さんにそう言われて、俺は彼女たちから距離を取る。

 なんか、そう言われるとちょっと遠慮してしまう。

 ゾンビ汁に汗。

 死臭に包まれた俺は相当臭うのだろう。二人は若干顔をそらして気まずそうにしていた。


 「あー、ちょっと風呂に行ってくるよ」


 閉め切った部屋にこれはきついだろう。

 俺は急いで風呂で体を洗う事にした。

 

 「あー、気持ちいいな」


 てか元気の出る? ポーションはかなり有能なんじゃないか?

 唯にしろ佐川さんにしろ、軽く衰弱していたのにそれを微塵も感じさせない。

 ある意味、究極の栄養剤だわ。

 でも、体は大丈夫でも心がどうかわからない。

 注意はする必要があるが……。


 「こんなもんか?」


 クンクンと自分の体臭を確認する。

 きっと今の俺は石鹸のいい香りがするはずだ。

 俺は浴室から出ると、替えの服へと着替えた。


 こうしてみるとだいぶ汚れているな。

 白い服は茶色く変色している。

 そして、ゾンビにの体液? がかかった所は腐ったように緑色になっていた。


 そして何より……。


 「臭い」


 それに尽きる。

 洗ってももう一度着るかと言えばためらってしまう。

 そのため、ビニール袋に入れてそれを捨てる事にした。


 「これ凄い!」


 浴室から出た俺は、彼女たちがいる部屋へと向かった。

 すると、ナイフと斧を眺める唯の姿が。


 「あ、上がったんですね。って、これどうしたんですか?」


 うっとりとした表情で唯がそう言ってきた。


 「あー、それね。食料調達している途中に見つけたんだ」


 「へー、いいですね。なんかお洒落」


 黒い刃のナイフを見てお洒落と言う女性はどうかと思うぞ。

 んー、でも護身用に渡しておくか。


 「それ、唯にあげるよ」


 「えっ! いいんですか?」


 「あぁ、護身用にな」


 「ありがとうございます! 家宝にします!」


 ナイフを片手に燦燦と喜ぶ唯。

 ちょっと危ない奴の匂いが出ているのだが。


 「佐川さんにも見つけたら渡すからね」


 「あ、お構いなく~。私はそれより魔法を教えて欲しいですよ~」


 「分かった。じゃあ、後で少し教えるよ」


 「本当ですか~? よろしくお願いします」


 ぺこりと頭を下げるのに合わせて豊満な胸も上下する。

 そう鼻のしたを伸ばしていると鋭い目をした唯が俺を見ていた。

 

 「さ、さてお風呂を沸かしてくるから二人も入ってきなよ」


 「えっ! お風呂に入れるんですか~? 本当ですか~?」


 ずいずいと寄って来る佐川さん。

 汗に混ざって少し甘い匂いがする。

 純真な目で俺を見てくるその姿にドキッとすると、更に唯が怖い顔で俺を見ている。


 「あぁ、魔法でお湯を出せるからね」


 どうにかお風呂に誘導する事には成功した。

 戻って来たばっかりだが、もう一度浴室に戻るとお湯を溜める。

 エコだわ。

 そんなどうでもいい事をお湯を貯めながら考える。

 数分で湯舟いっぱいにお湯が溜まった。

 二人を呼びに行くか。


 「出来たよ。ただ、一人入った後に冷めちゃうだろうからどうする?」


 もう一度魔法で出してもいいが、何かあった時の為に温存しておきたい。

 せめて、魔力回復のポーションをたくさん作ってからにしよう。


 「んー、どうしよう。葵さんはどうします?」


 「それなら~、一緒に入っちゃいましょう~」


 と言う事に決まったようだ。 

 狭いから大丈夫かな?


 「じゃあ、行ってきます。

 あ、宗田さん覗かないでね」


 そうからかい気味に唯が言ってきた。

 俺ははいはいと手をひらひらとすると二人を見送った。


 「うわっ! 大きい」


 「ちょっとー。唯ちゃんダメですよ~」


 女性二人の会話をしり目に俺は集中して魔力の操作の練習をする。 

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