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数の暴力には勝てない

 「———数が多いな」


 最初は十体程だったゾンビ。それが今は倍以上の数になっていた。

 無理に階段の踊り場に詰め寄るため転倒するゾンビが多数。

 だが、それも気にせず倒れた仲間を踏みつけて我先にと押し寄せて来る。

 そんな地獄絵図にも似た光景を階段の上から眺める俺は対策について考えるが………。


 「数の暴力とはこの事か……」


 全てを倒すのは早々に諦めた。

 如何に魔法が使えようと、如何に強力な魔法が使えようと、それは数の暴力には劣る。

 せめてこいつらに感情と言うものが存在すれば怯ませる事は可能だろうが……見るに仲間意識もなければ恐怖と言った感情も持ち合わせているようには見えない。

 ここで少し足止めして上に上に逃げるよう。

 その間に逃げる算段を思いつけばいいのだが……。


 「ここなら一気には上がって来れないとは思うけど……時間の問題だよな」


 元は非常階段のような感じで使われていたのだろうか、大人二人が並んで通れるくらいの広さしかない。

 更に下で無数のそいつらがひしめき合って上手く身動きも取れない状態になっている。

 そこを抜け出すのも至極困難。

 ならば、一旦はここで相手にするのが得策——

 そうしてその混乱を抜けて来たゾンビが一体。


 「がぁっ、あぁぁぁぁっ———」


 すかさず脳天をロープ止めの先端で一突きにする。

 ガクガクと膝から崩れ落ちるそいつ目掛けて蹴りを放ち、ゾンビがひしめき合うそこに突き落とした。

 混乱の渦がいい感じにかき混ぜられて更に混沌としている。


 「———まずは一体!」


 下に落ちたその中年男性のゾンビを見ながらそう叫んだ。

 蹴りの体勢から戻り地面に足を着くと、何かぬるりとした感触が伝わってくる。

 何かいけない物を踏んだ時のような不快な感覚に、靴の裏を見ると皮膚のような物が付着していた。

 

 「気持ち悪い! 蹴るんじゃなかった……」


 そのこびりついた皮膚の端っこを指で摘まむように剥がすと、嫌いな虫を触った時のように慌ててそれを投げ捨てた。

 見事にまだ若い青年のゾンビの顔にそれが当たる。

 雑巾のような皮膚は視界を塞いだが、口がもごもごと動いたと思ったらそれを咀嚼し始めた。

 吸い込まれるようにそれを食べ終えたそいつは何事もなかったかのようにまた混沌とした一員と化す。

 なんでもありだな……。


 「あがぁ、あぁっ!」


 「ぎぎぎぎぎぎぃーーーー!」


 開け放たれたマンションの階段への扉、奇声のような声を上げて次から次に入って来る。

 まだギリギリ均衡は保たれているが、その渦の動きも次第に弱まり正常な波にへと切り替わろうとしている。

 むしろ、密集しすぎて動けなくなり変に暴れると言った事が出来なくなっているのが正しい。

 ただ、ゾンビの声に連動するように連鎖的に数を増やすゾンビに冷や汗が流れた。 


 「このまま倒してても……キリないよな」


 魔法で焼き払う? でもマンションが燃えたら本末転倒だろう?

 最悪連続レベルアップの嵐であの地獄の苦しみをまた味わう……あれは勘弁してもらいたいし。

  

 「上に逃げるか———っ!」


 危ないな。二体目のゾンビを葬る。

 そうして他のゾンビも徐々にだが、そのバーゲンセール会場から外に飛び出そうとしていた。

 そろそろかやばいな。

 何処かに隠れていてもいいのだが、あのホームセンターの二の前にになるのは勘弁。


 「どこか開いている部屋があればそこに隠れるか、下に飛び降りるか……

 ただ、下の状況が本当に安全か確認したい」


 万が一、このマンションが包囲されていたらアウトだ。

 そうなったら死ぬ気で倒すしか方法がない……そうなる前に何とかしないとだ。

 思い立ったら即行動!

 急いで階段を駆け上がる。

 

 「ここも開いてないか……」


 出来れば扉は破壊したくない。

 奴らの侵入を少しでも拒みたいのと、壊している暇がない。

 こうしている間もうめき声がマンション中に響いて不気味に音色を奏でている

 

 二階は全滅……更に上を目指すか——

 

 「はぁー……開いている部屋を見つけたはいいが…………ここは五階だぞ」


 やっと開いている部屋を見つける事は出来たが……流石にマンションの五階は飛び降りるには些か高すぎる。

 何か使えそうな物は無いかと部屋の中を物色してみるがこれと言ってなかった。


 「お、酒があるな……いや、このご時世に飲むわけにはいかないだろう」


 一瞬持って帰るか迷ったがそっとそれを戻した。 

 てか、立派な部屋だな……俺の部屋が馬小屋に見えるわ。

 リビングには黒いソファーにテレビ、そしてガラスのテーブル。

 

 「リビングだけで俺の部屋より広い……」


 しかも他にも部屋が三つもある。

 家賃いくらなんだろうな? 

 一度は住んでみたかったとぐるりと部屋中を見渡してそう思った。

 

 ———バンッ!


 「——居場所がばれた!?」

 

 ここに入る時も姿を見られないように確認してから入った。

 だが今も玄関のドアをひっきりなしに叩いている音がしている。

 奴らはどうやって俺の居場所を見つけたのか? 臭いか?

 いや、後回しだ。

 軋む玄関を見て急いでそこを塞がないと雪崩のように入って来たゾンビで部屋が埋め尽くされる。

 何かいい物はないか……これいいな。


 視界の隅に入ったドラム式の洗濯機。

 かなり大き目で乾燥機能も付いている贅沢な一品。

 ただ、今はその機能を失いただの鉄クズのそれを俺は両手で抱える。

 

 「いけるか? ——ふんっ!」


 おお! 持てた! しかもそんなに重さも感じない。


 「——よいしょっ!」


 レベルアップ様々だなと本来であれば人一人でもち上げるのは不可能な重さの洗濯機を玄関の前に置く。

 他にも冷蔵庫や棚をどんどんと置いていき、玄関の通路ごと塞いでやった。

 これなら中々侵入される事はないだろう。 


 次はどうやって脱出するかだな……ベランダに行ってみるか。

 

 「あー、下にも結構居るな……」


 あのホームセンターよりはマシだが、これまで俺が経験した中で一番多いファンが押し寄せていた。

 こんなに俺一人の為に……。

 って、冗談言っている場合じゃないか……このままだと取り返しのつかなくなるのは時間の問題だろう。


 「まいったな………こんなはずではなかったんだが」


 屋上ならば多少の音は大丈夫だろうと高を括っていた。

 だが、現実はどうだ? こんなにも窮地に立たされている。

 だって、あんなに音が出るとは思わなかったんだもん……と言い訳を言ってみたが現状が変わる訳じゃない。

 そんな事をしている暇があるなら何かしら作戦を考えなくては……。


 ——魔力回復のポーションを飲めばいいんじゃないか?

 無限魔法とか使えたりして……。

 どれどれ。


 「んぐ———ぷはぁ! これも少し酸っぱいな」


 それはなんか水とは違う微炭酸のような感じの飲みごたえだった。

 

 「でも微妙だな。ポーションを作った時の分の魔力しか回復していない感じか………」


 これじゃあ何も意味がない。 

 そんなチート紛いな行為は許してはくれなかったようだ。


 「このベランダを伝って下に降りるか……」


 せめて二階くらいまで降りれればどうにかなりそうなのだが。

 水道管のパイプもちょうど近くにあるし……やってみるか。

 これが今の最善手かな。

 下に降りたら後は全力で駆け抜ける作戦だわ。


 「はぁ………次からは出口も確保しておかないとな」

  

 慎重に水道管に手を伸ばすと壊れないか手で少し揺らしてみた。

 中々頑丈だが……成人男性を支えられるかは不明か。

 落ちたら即死ぬ。

 即死しなくてもゾンビに食われるだろうし……二重の苦しみを味わうのは嫌だな。


 「ああぁぁぁっっっ」


 「あがぁっ! あぐ……」


 ——俺は……やり遂げたぞ。

 怖かった………。

 そうして二階のベランダへと到着した。

 餌が上にあるぞと言わんばかりのゾンビが一気に群がって来ると、捕まえようと手を伸ばしてくる。

 ここはライブ会場じゃないんだぞ? 

 ゾンビと人間のコンサート会場と化した会場、警備もザルだし侵入し放題。

 問題がありすぎるそんなコンサートはごめんこうむりたいと苦笑しながら、次の一手を考える。

 


 「飛ぶしかないか……レベルアップでどれくらい身体能力が伸びているか賭けだな」


 ベランダの向こう側、10メートル程先には塀が立っている。

 そこを越えて向こう側に逃げるつもりだ。

 ただ、その辺にも何体かゾンビうろうろしているがあれくらいなら問題ない。

 出来る限り遠くに飛んで全力疾走からの塀をよじ登って脱出。

 完璧だわ……多分。

 あー、上手く行きますよう—— 


 「——よしっ!」


 気合を入れると足に力を籠めると手すり部分がぐんにゃりと曲がる感触がした。

 そして爆発的な力が俺を空中へと押しやった。


 「———なっ! いっってぇっ!!」


 あれだけ離れていた距離を軽く飛び越えたのだ。

 そして、その勢いは止まらず塀の向こうにあった民家の壁へと激突した。

 ビックリ人間もいい所である……てか、鼻痛い…………。

 でも、お陰で一気に脱出出来たな。


 「あー、まだジンジンする」


 強打した鼻を抑えて悶える。

 てか、こんなに脚力あるならゾンビを蹴り飛ばした時もっと悲惨な事になるんじゃないか?


 「ステータスでどこの能力が伸びているのかが違うのか?」


 ゲーム的思考をするが逃げるのが先決と、その考えを遮った。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] ベランダには階下(階上)への脱出機構の設置が義務化されていますよ。 学校にも付いていますね。
[一言] ビックリ日本新記録かな(笑)。
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