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実験

 静けさが支配した終わった街。

 道すがらの車に身を隠したり、民家の家の庭を横切ったりと目的地へと向かっている。


 「ゾンビの奴ら多いな」


 今も民家の入口から顔だけを出して左右に伸びている道のその先を見ているのだが、そのどちらにもゾンビが右往左往しながら動いている姿が見えた。

 そのせいかこの辺の空気は淀んでいるかのように悪臭を浮かべていた。


 「どうしてこの辺はこんなに多いんだ?」


 ホームセンターには異常な数のゾンビがひしめき合っていた。

 つまりは、人間が多いとそれだけ集まって来る?

 有り得ない話ではない……か。

 

 「見つからないようにしないとだな」


 となるともし俺がここで見つかって大きな音を立ててしまえば連鎖式に奴らが集まって来ることとなる。

 レベル上げには持って来いかな? 

 でも大群が押し寄せてきたら流石に無理——逃げの一択になるだろう。

 それだけは勘弁だ。


 と、見つかる前に先に進むか。

 顔を引っ込めて他人の家の庭を堂々と突き進む。

 今はあの因縁のマンションに行くのが先だ。

 そしてホームセンターがどうなったかと新しく考えた魔法を試してみたいのだ。


 あの強靭な皮膚を持ったグール……グール?

 どうしてそんな名前が出て来た?


 ——対象『グール』


 そんな言葉が聞こえた気がした。

 なんだ……?


 前にもあったような気がするのだが……。

 思い出せない。


 「——ぐっ!」


 無理に思い出そうとした時、こめかみに鋭い痛みが走った。

 

 ……前もこんな事があったよな。

 時々記憶が曖昧な時がある、それを思い出そうとするが頭に痛みが走りそれを止められる。

 まるで思い出しては駄目だと警告のように感じるそれは、我慢できない程の激痛――――

 

 「――――はぁはぁっ……なんなんだよ……これ?」


 放置されたその庭は草が伸び放題でバッタが飛び跳ねている。

 それがちょんと顔にぶつかった事で我に返った俺は、自分が初めて蹲っていた事に気付いた。

 痛みは……大丈夫そうだ。

 涎に濡れた口元をグイっと右の腕で拭うと恐る恐る立ち上がった。


 「行こう……」


  目の奥をグリグリとされるような……本能がその痛みを拒否しているのかそれを思い出すと体が竦んでしまいそうになった。

 今は思い出そうとするのを辞めよう……。


 そしてその事を忘れるように、がむしゃらに庭を突き進んであのマンションへと到着した。


 「………ゾンビの姿はないな」


 ひょいっと塀を飛び越えてそそくさとマンションの中へと侵入する。

 やっとの事で目的地に到着した俺は、一目散に階段を駆け上がり屋上へと到着した。


 「久しぶり」


 そう声をかけたのは地面に倒れている白い怪物である。

 と言っても時間にして昨日ぶりなんだが……長い事時間が経っている気がするのは濃い一日を送っていたからだろうか。


 「あー……ちゃんと死体はあるんだな」


 俺とお前は一日しか経っていないのに、うちの唯にとっては一か月も経ってるんだぜ。

 不思議な時間を共有した唯一の存在は無口にそこで横になっている。


 「まだ、皮膚は硬いな」


 そうして体をぺたぺたと触る。

 まだ、あの鋼のような硬さの皮膚は健在だった。

 ただこれは俺が付けた傷なんだろうか?

 千切れかけの左腕を見るが全く身に覚えがないのである。

 気付いた時にはこいつも満身創痍と言った感じだった、そうして深く考えそうになった時あの頭痛の事を思い出してそれは辞めた。

 もう一度あれを味わうのはごめんである。

 さてと、疑問は置いといてこいつの攻略法を探すとしよう


 「どれどれ……ふむ。あー……なんだろう?

 もう一度殴ってみる?」


 結局の所、通常の方法ではそれが見出せず物理に頼って見る事にする。

 ——痛い……。

 殴り付けた右手を擦りながらそんな事を思った。

 当たり前だよな……なら魔法はどうだ? 


 「イメージは銃とな——炎弾!」


 そう言って指先から魔法を放ったがそれも甲高い音を奏でるだけで効果が見られなかった。

 多少傷は付いているが……ダメだな。

 

 「だよな。あの時も軽々と弾き返していたし、当たり前か

 これで倒せてたらあんなに苦労はしてないしさ」


 強靭な肉体にあの身体能力は反則だろうと奴の生前の姿を思い浮かべてそう思う。

 ただ——だからこそこいつの対策を考えないとだ。

 こいつが一体だけとは限らない。

 俺達人間と同様に量産された存在なのは間違いないのだ。

 ゾンビに比べれば数は少ないだろうが、たった一体であの戦闘力は驚異的。


 だからこそ———強力な一撃。

 それが今の俺には必要だと思っている。


 もちろんその魔法はもう考えている。

 早速試してみるとしますか———

 

 ———イメージはライフル。

 

 ———鋼鉄の戦車を貫く黒き玉。

 

 ———如何なる物も貫き破壊する。

 

 ———対戦車用ライフル。


 イメージを浮かべるとピンと伸ばした右手の指先に急速に魔力が収束しだした。

 それこそ炎弾の比ではない。

 これはいけるぞとそれを解放しようとした時ふと思った。

 

 ——これやばいんじゃね?

 

 だって炎弾であの威力にあの反動。 

 なら、戦車を貫くライフルの反動てどれくらい……?


 「ストップ! タンマ! 一旦中止だ!」


 余裕で肩を持って行かれる事は想像に難なくない。

 収束した魔力が急速に失われるのを感じると、どうしたものかとその場にどかりと座り込んで考える事にした。

 せっかく上手く行きそうだったのにここでまさかの問題発生か。

 順調な時ほどって奴か……仕事でもそうだったな。

 ふと、以前していた仕事の事に着いて回顧する。

 あいつも生きてるかな? 

 同じゲーム好きの彼の事を思い出していた……いかん、思考がずれた。


 道からそれたその思考を元に戻すと再び対策について思案する。 

 閃いた! ——なにも手から魔法を放つ必要はないよな?

 よくアニメでは背後に魔法陣が現れて魔法を放ったりするんだから、それと同じ事をすればいいんじゃないか?

 どれどれ。

 今思った事を早速実験してみるか。


 そうして空中に炎の玉が浮くところを想像する。 

 ぐぬぬぬ。難しい。

 上手くいかず地面に炎の玉が落下して床を焦がすを数回繰り返す。


 出来そうで出来ない歯がゆさがもどかしい。

 浮くために必要なのは空気? それとも……無重力。

 何となく宇宙ステーションの映像を思い浮かべてみる事にした。


 「あ、少しだけ浮いた……いけるぞっ!」


 そうして練習する事一時間、俺の横にはサッカーボール台の炎の玉がふわふわと浮いていた。

 出来たには出来たがまだ難しいな……。

 ちなみにその場から動いたらどうなるんだ? どれどれ。


 ………………おおっ! ついて来る。

 どれだけ離れようが俺の後を追ってくるそれは、まさか自動追尾機能が付加されているとは思わなかった。


 「ただ結構魔力が持っていかれるな、これで更に魔法を行使した分が引かれたら燃費悪すぎだわ……」


 だけどこれがもっと上手く使えるようになれば手数を増やせる。

 

 「まずは試しに炎弾からやってみるか……」


 何事もコツコツ、地味に少しずつが大事。

 どれどれ……。

 指先から打つイメージをそのサッカーボール程の大きさの炎の玉から打ち出される所を想像する。


 「———いけっ!」


 その掛け声と同時に周囲に乾いた音が響いた。

 そしてそこから放たれた弾丸は白い怪物へと吸い込まれていく。


 「———出来た!」


 正直すぐに出来るとは思ってもいなかった。

 そうと分かればもう一度だ。


 ———イメージはライフル。

 

 ———鋼鉄の戦車を貫く黒き玉。


 ———如何なる物も貫き破壊する。


 ———対戦車用ライフル。


 そうしてさっきと同じようにさっきの魔法をイメージした。

 手ごたえは十分。

 後は———


 「今度こそっ! 貫けっ!」


 気合と共にトリガーを引いた。


 「———っ!」


 なん……だ……。

 その瞬間に音が消え、右の耳に金属の棒を刺してグリグリとこねくり回されたような痛みが走った。

 思わず手を当てると生暖かい何かが付着する。

 血……?

 何があったんだ?

 音が聞こえない……流れる血……。

 あ、耳元で放たれたそれの所為で鼓膜が破壊されたと言うこと?

 つまり音がやばいって事なのか。

 状況からそう整理し結論へと至る。

 まさか自分がダメージを負うとは思わなかった……ただ——


 ——威力は申し分ない。

 胴体を狙った一撃、それが吸い込まれるようにその体にぶつかると貫通したのではなく上半身その物を消し飛ばした。

 しかも、それだけでは威力を完全に殺せず、屋上の床へと大人が一人通れるくらいの穴を開けていた。

 本物がこれくらい威力があるか分からない。

 ただ、会社のFPS好きな新人君に教えて貰って動画で見たのを思い出して、試してみようと思ったのだ。

 その動画でも鋼鉄の板を軽々と貫いていた。

 だから、きっと上手くいくとは思ったが予想以上の成果で大満足だ……ただ、鼓膜を粉砕する音が無ければだが。


 「———いつっ!」


 右耳に感じる熱が痛みへと変わる。

 高揚した気分に冷や水を掛けられたように冷静になれと引き戻された。


 一応、ポーション水を作ってそれを飲んでみる事にした。

 ついでにポーションの効果についても実験が出来て一石二鳥だわ。


 「おっ、これは凄いな」


 少し酸味がかった味のするそれを手の平に出現させるとそれを啜るように飲み干した。

 これまた予想外に即効性があってすぐに耳の痛みが消えて音が復活した。

 嬉しい誤算である。

 てか水魔法万能だな。

 

 しかし今日はいろいろと得るものがあった。

 これなら爆弾でも再現できるんじゃないだろうか? 

 ただ、一歩間違えると俺にも被害が来そうだからもう少し魔法の扱いに慣れるまでは使わないつもりだけど。

 

 「さてと、もう一つの目的を確認するか……」


 まだ無事だろうか?

 勝手にもうだめだと思っていたが、もしかしたら——と思っている自分もいる。


 「やっぱり駄目だったか…………」


 ———陥落。


 ホームセンターはゾンビ達に支配されていた。

 バリケードを破壊されて中へと侵入されていた。

 こうなったら逃げたか食われたか……その割れた窓から見える人の姿はどれも生者ではなかった。 


 助けられなくてすまない——

 誰にともない謝罪をする。


 腹いせにここから狙撃するか? いや、辞めておこう。

 食料も調達しないといけないし、ここで魔力を無駄に消費する訳にはいかない。


 「あれ? 炎の玉がかなり小さくなっているな……」


 ふと俺の横をふよふよと漂うそれに目が行く。

 サッカーボール程の大きさのそれが、今は半分程。

 感覚的に魔力のほぼ全てを注いだ炎の玉はかなり小さくなっている。

 だけど魔法は発動出来たし……込められた魔力を消費したって事だろうか?


 「なるほどな……なら利便性はばっちりって事か」


 二重に魔力を取られなくて済むならそれでいいな。

 欲を言えばもっと遠隔で操作できれば……これは今後の練習次第でどうにかなるだろうか?

 試したい事ができて一応は満足か……。

 魔力があれば水の魔法で更に試してみたい事があったんだがしょうがない。

 少し休んで回復したら下に向かうか——


 「——うわっ! こんなにゾンビが集まってる!」


 休憩を取り魔力が3割程回復した所で、マンションの一階に降りるとそこにはゾンビが群れをなしていた。

 さっきの魔法の音でこの辺のゾンビに気付かれたのだろう——


 「———くっ! 危なっ!」


 俺の姿を見つけると襲ってくるゾンビに対して前蹴りを放ってそれを阻止する。 


 「はぁ……やるしかないか——安らかに眠ってくれ!」


 その一言を合図に目の前の女ゾンビへとロープ止めの先端を突き刺す。

 主婦だったのかな……?

 エプロンをした姿をしているが、それは料理の汚れではなく誰のか分からない血で赤く染まっていた。

 また、要らぬ同情をしそうになるのを首を振って打ち消すと次のゾンビへと視線を移した


 「多いな………しかもここは狭い…………一旦階段の方に逃げるか?」


 数にして10体程のゾンビ。 

 だが、入口から続々とそいつらは入って来て数がどんどん増える。

 流石に場所が悪すぎるか……下手に前にでて囲まれたら終わりだな。

 マンションのホールに出る為の入口の所で相手取る俺は、身を翻すと一気に二階へと駆け上がる。

いつも読んでいただきありがとうございます。


毎日投稿はまだまだ続けますので今後ともよろしくお願い致します。

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