神崎 唯3
あー、クソ。
なんでこんな風になるんでしょうね。
宗田さんがかばって私を逃がしてくれましたが、私はこんな事を望んでいません。
むしろ、さっきの声が言っていた通りになったのが腹が立つ。
でも、今の私が居ても足手まといなのでとにかく無事に戻ることにしましょうか。
おっ? この鉄のパイプは使えそうですね。持っていきますか。
道すがら、ゴミ捨て場に置いてあった鉄パイプを拾う。
「———ぐあ、ああぁぁ」
「あ? ゾンビさんですか?
そんな声を出さないで襲い掛かればいいのに……あっ、そんな知能は残っていませんね」
いつの間にか背後から迫ったゾンビに向かって鉄パイプを思いっきり振るう。
手に鈍い痛みが走った。
「これは中々、鈍器で人の頭を殴るとこんな感じなんですか」
そうして、殴られたゾンビは仰向けに倒れた。
だが、それでも命を奪うまでには至らず私は起き上がろうとするゾンビに対して何度も鉄パイプを打ち付けた。
「ふう、一人で倒すと疲れますね。さて、行きましょうか
———っ! いつの間にこんなに?」
するとぞろぞろと私を取り囲むようにゾンビが集まってきました。
あー、これは拙いです。
唯一の救いはどのゾンビも体のどこかしらを欠損しているお陰で、動きが遅いと言うことでしょうか?
でも、逃げ道は……。
『車に上って、民家の塀の中に入って』
またあの声が聞こえました。
癪に障りますが、今は素直に従っておきます。
セダンタイプの車。
私は急いで車の天井に上るとそのまま一思いに塀を飛び越えました。
塀のすぐ傍に止めてあった本当に助かった。
じゃなかったら私には越えられませんでしたね。
『そのまま、家の裏に。そっちにはゾンビが居ない』
この声は何なんでしょう?
いいでしょう。さっきはムカつきましたが今は素直に従ってやりますか。
って本当に裏口から反対の道路に出れた。
しかもゾンビも居ない。
これなら大丈夫そうですね。
私は駆け足でその場から離れました。
『だめ、そっちはゾンビが居る』
『そっちには五体』
『その道は塞がってる』
何処に行こうがゾンビだらけ。
非力な私には複数のゾンビを相手するにはかなりきついですね。
そう言えば音に反応するんでしたっけ?
試しに前方に見えるゾンビに向かって石を投げてみました。
「……あああぁ、うあっ」
おお、本当だ。
二体とも同じ方向に向かって歩き出した。
お互いの体がぶつかるがそれもお構いなしにぐいぐいと我先にと歩き出す。
「これなら———」
背中を向けたゾンビに向かって走り出す。
そして———
「食らえっ!」
背後から二体のゾンビに向かって、鉄パイプを振り下ろします。
これでもかってくらい、ぐしゃぐしゃになるくらい頭を叩きつけてしまいました。
あー、楽しい。
お、レベルが上がりましたね。
「てか、宗田さんは大丈夫でしょうか?」
顔に着いた血を拭い。
鉄パイプにこびりついた脳漿を振り払いそう呟く。
『大丈夫、生きてる』
そう、なら良かった。
じゃあ、早めに帰るとしましょうか。
……とか言いつつゾンビを狩りまくっちゃいました。
何回かレベルが上がると楽に倒せますね。
あの白い化け物みたいなのじゃなければ私でも大丈夫でしょう。
でも、流石に手が痛いです。
よく見ると皮がむけちゃっていますね。豆も潰れて。
「———癒して」
そう言って私の唯一の魔法。
治癒で自分の手の平を治しました。
「もっと、攻撃に使えるような魔法だったらいいんですが……」
でも、死んだゾンビに回復をかけたらどうなるんでしょう?
今度ためしてみますか。
さて、そろそろ家に戻るとしましょうかね。
…………。
「今日も帰って来ない……」
…………。
「今日も……」
そうして、三週間くらいが経過しました。
本当に宗田さんは無事なんでしょうか?
「ねぇ、知らない声聞いてる? 宗田さんは無事なの?」
『無事だよ。あの人はまだ寝てる』
ふーん。
そう言うけど帰ってこなと寂しいな。食料もそろそろ無くなっちゃいそうだし。
あ、私が助けに行けばいいのか。
『だめ。魔物の数が多い』
この声はゾンビの事を魔物と言うんですよね。
どっちでもいいんですが、何か引っかかるんですよ。
まぁ、今はそれを置いて置きましょうかね。
あー、今日もレベル上げに勤しみますかね。
だいぶ上がったと思うんですがどうなんでしょうか?
試しに全力で走ってみましたが、宗田さんのようにはなりませんでしたし。
いったいどれくらいレベルを上げたんでしょう?
「ねぇ、後どれくらいで宗田さんは目が覚めるの?」
『一週間くらい』
そうなんだ。
一週間かー。でも食料が持たないな。
ここからは飲まず食わずで行くしかないかしら。
だって、ここでもし私が弱っていなければ宗田さんが可哀そうと思ってくれないじゃない。
ふふ、早く弱った私の所に戻って来てくださいね。
後は死なない程度に調整しなくてはなりませんね。
あー、罪な私。
こんな私の本性を知ったら、彼はどう思うんでしょうか?
早く私を見てください。
———愛しき人。