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考察

 「しかし、長いなー」


 唯がお風呂に入ってかれこれ一時間は経過しただろうか、まだ浴室からは体を流す水の音が聞こえる。

 彼女が戻ってくるまで手持ち無沙汰な俺は、座った格好で両足を伸ばして、床に手を着きながら天井を見上げる。

 そして、腰の辺りを意識して筋を伸ばす。


 「くぁっ……」


 じんわりとする感触に変な声が出てしまうが、一人なので気にしないでストレッチを続ける。


 「あー、部屋の中暑いし……喉が渇くな」


 右手に団扇を持ち、左手には冷たい水の入ったコップを持ち、背筋を伸ばした格好から胡坐をかいてその手に持った物をグイっと飲み干して一息ついた。

 特に何をしているわけでなくとも汗をかく室内の温度にうんざりとしながら、再び麦茶の容器からコップへと水を移しテーブルの上に置いた。

 冷えた水がコップを白く染める。それくらい冷えた水を、イメージするだけで魔法として生み出す事が出来るのは便利だなと思いながら団扇で顔を仰いで何となく眺めていた。


 本当に便利だよな。

 そんな事をぼんやりと考えていると、ふと気になった。水の魔法は温度を変化出来るのは何故か? である。

 

 よくよく考えたらおかしいよな? 水の定義ってなんだろうか。お湯は水の一種であってそれはお湯である。はて?

 だって、水は水でお湯が出来るのはおかしいと俺は思うんだ。

 

 ・水とは外的要因が加わらないで液体状態の物。

 ・お湯は水に外的要因が加わった物。冷水も同様。


 この場合だと、どうやって水属性だとしたら外的要因を加えて水の温度を変化させているのか。

 なんとなしにいつも使っていたそれはかなり重要な事なんじゃないかと思ってしまった。

 じっとそのコップの水を眺めて何か答えに繋がる事は無いかと観察したが、水が喋ってくれるはずもなく冷えた水が室内の温度で少しずつ温まっただけだった。


 「どういう事なんだろうか?」


 空いている左手で頭をガシガシと乱暴に掻くと、雪のようにフケが下に落ちて少しだけ汚いと思ってしまう。

 流石にこれは汚いな……掃除機は……使えないんだった。手で払っとくか。

 無性に頭を洗いたい衝動に駆られるが、それを飲み込むと、今度は無意識頭を掻かないようにと口元に左手を添えて肘をテーブルに着きさっきの続きを考え始める。


 ――温度の変化……か。

 

 それとポーションに関しては完全に水じゃない。色味は少し薄緑色をしていて味も酸味がかっている。

 美味しくはないが飲めない程の味ではない。

 それに、飲んだ後に若干薬臭いそれが鼻を通ってくる感じだ。


 「もう、水属性から外れてるよな……?」


 ふむ。分からん


 「水属性じゃない……その線が一番大きいかな」


 となると――液体属性が正しいのか?

 それに関する物なら作り出せるのかもしれないな。

 例えば”毒”に”酸”、そして霧状にする事も可能だろう。

 そうなれば戦略は広がるが――


 「――扱いが難しい」


 呪文のように、この呪文はこの魔法が発動する――

 であれば必ずその現象が発生するが……

 イメージを主体となるとそれが抽象的になる。

 規模、威力、消費量、そのどれもが毎回違い過ぎると厄介だな。

 ゲームみたいにこの魔法は


 魔法名「ファイアーボール」

 属性   :火属性

 魔法攻撃力:100

 消費MP :10

 

 とか明示してくれれば楽なんだけどな。

 毎回の再現性が難しいとなると厄介ではあるけど、今のところはそれを感じたことないから、これから検証するか。


 と言うことで――結論。

 魔法は酷く抽象的で曖昧なもの。

 ゲームのような定義や属性がないかもしれない。

 

 「…………かな。大雑把だけどこんな感じじゃないだろうか?」


 一通り考えを終えると温くなった水に口を着けて、顔を団扇仰ぎ始める。


 「ふぅ、お待たせしました」


 首にタオルをかけて、満足気な表情をした待ち人がやっと登場した。

 漂ってくる香りが鼻孔をくすぐり、その上気した表情とショートパンツから伸びる白い足に鼻の下が伸びそうになり、慌てて視線をズラして平静を保つ。。


 恍惚とした彼女に少し見惚れそうになるが、それを誤魔化すように水をコップに注いで渡した。

 それを受け取った唯は、左手を腰に当てて空を仰いで一気にあおるように飲んだ。

 「ぷはぁっ!」っと一言発するそれは、昨日まで衰弱していた人物とは別人のように豪気に溢れている。

 ポーション凄すぎない?

 でも、お風呂に満足そうで何よりだ。


 「久しぶりのお風呂はどうだった?」


 ついでに団扇を渡してあげる。

 

 「もう――最高でした!」


 そうかそうか。


 「それなら良かった」


 よし! 次は俺の番だな。

 さっきめっちゃフケ落ちたもんな、しっかり洗わないと彼女に「不潔! 汚い!」なんて言われたら立ち直れる気がしない。

 唯ほど長く入るつもりはないけど……しっかりと汚れを落とそう。

 男も美容に拘る時代なのだよ。


 「え? 何処に行くの?」


 お風呂だけど、なんで驚いてるんだ?


 「ん、俺も入ろうかと思ってさ」


 どうしてそんな顔をする? まさかお湯を全部捨てたとか?

 ならまた魔法で出すだけだよ?

 でも、そう言った事じゃなさそうだ。

 部屋の扉の前で両手を横に広げて通らせないようしてくる。


 「———絶対だめっ! 宗田さんは後でお風呂に入ってね!」


 真剣な表情をした彼女は絶対にここを通らせないぞ、と言うような覇気を感じると、前に出した足を思わず引っ込めてしまう。


 「お、おう……」


 そう言うことか。

 自分が入った後に入られたくない気持ちは分かるが、ここまで必死なる必要はあるのか?

 抗議の声を上げようとしたが、眉を釣り上げて出口の前を死守するその姿に気圧されて何も言えない。

 泣き寝入りする形でとぼとぼともう一度座り直すと、やっと唯の表情も緩んでくれた。


 「宗田さんは、夜にお湯を張り直してからお風呂に入ってね!」


 「張り直して」の部分をかなり強調してくる。

 魔力も無限ではないんだけどな……。


 「わ、分かった」


 そうして再び泣き寝入りする形となった俺は八つ当たりするように水をがぶ飲みする。

 あー、頭洗いてー!

 思えば思うほど、頭が痒いように感じてしまう。


 「そう言えば、見て分かると思いますが食料も水も全部なくなっちゃいました……すいません」


 シュンとうなだれて、その態度と同じように眉毛も八の字に――悲しそうな顔をする。


 「いや、これはしょうがないよ。

 だから、謝らないで欲しいな。それにどのみち俺が居てもいつかはこうなっていたし」


 これは仕方ないでしょ。食べなきゃ人間は餓死するんだからさ。

 確かに1ヶ月も時間が過ぎていたのには驚いたけどさ……。だからと言ってその生きるために必要な行為を誰が止められるか?


 いずれ訪れるだろうと予想した食料問題が早まっただけ……そう、ただそれだけなのだ。

 遅かれ早かれって感じだし、レベル上げついでに食料を探すのもいいかな。

 とは言っても明日の食料も無い現状で、悠長にしている事はできない。

 出来れば今すぐにでも探しに行くべきだろう。

 

 「こうして唯が元気になってくれただけで、よかったよ。ただ……食料がこれしかないけど…………ね」


 鞄を漁り缶詰を取り出して、右手と左手に一つずつ持つ。

 唯はチラリとそれを見ると、更に負い目を感じたのか肩をすぼめて余計に丸まってしまった。


 「だから、これから少しだけ近場で食べれる物は無いか探してこようかと思うんだ」

 

 「…………一人で?」


 頷き返事を返すと「嫌!」と言って、首をブンブンと横に激しく振る。


 「――あの! 私の事は気にしないでください。

 宗田さんが飲ませてくれたポーションのお陰で普段より調子がいいんです!」


 見てくださいと言わんばかりに、右腕に力こぶを作ってアピールしてくるが、昨日まで衰弱していた彼女を連れ回すのは……。

 どうしよう……?

 今も訳の分からないポーズを取り、元気な事をアピールしてくる。

 さっきまでのしおらしさは何処にも無く、今はキリッと眉毛を釣り上げていた。


 「あれ? でも飲ませたってどうやって? 

 ん? 昨日は殆ど意識がなかったのにいつ飲ませたの?」


 急に動きを止めた彼女は、人指し指を唇に軽く当てると斜め上を目だけで見ながら昨日の事を思い出そうとしていた。


 「え、あ、あれだよあれ……」


 あれは、あれで、あれなんだよ。


 「意識は朦朧としてたんだけど、ポーション水を渡したらちゃんと唯が飲んでくれたんだ! だから、キス――」


 しまった!


 「キス? もしかして口移しとかしたの?」


 焦って墓穴を掘った。

 

 「あ…………そうです。口移しで飲ませました……」


 ゲロる俺に見つめる唯。

 チラチラと彼女の様子を伺うと目がうようよとひっきりなしに動いて顔も真っ赤になっていた。

 何か言ってくれよ! 黙ったままの方が気まずいんだけど!

 

 「なんか、ごめんね……」


 非常時とはいえ、キスをした事実は変わらないのだから、とりあえず謝っておこう。


 「いえ……………………」


 人指し指同士をくっつけては離してを繰り返して、そわそわとしている彼女。

 そこまで恥ずかしがられるとこっちも――頬が熱を持っているのを感じる。


 「…………ファーストキス」


 ぼそぼそと何かを呟き聞こえない。


 「ごめん、聞こえなかった」


 「いえ! 何でもありません!」


 ピシャリとそう言った彼女は耳まで真っ赤になっている。

 恥ずかしそうにしたを俯き、手は膝の上。

 互いに何を喋っていいか分からずしどろもどろとしていると。


 ――ぐぅーーっ


 っと正面で虫が鳴いた。

 

 「はぅっ!」


 「ぷっ!」


 このタイミングでかよ! 何とも言えない雰囲気から一転、少しおかしいな雰囲気となった。

 俺は我慢せずに声を上げて笑う。

 まさかの助け船が腹の虫って――それがどうにもツボに入り中々収まらない。


 「ちょ、ちょっと! 笑い過ぎだよ!」


 これが笑わずにいられると思う?


 「くくくくっ……ふぅー…………。

 あー、こんなに笑ったのは久しぶりだわ。なんだ、虫もうるさそうだしご飯にしようか――ぷっ」


 「もう!」と言って抗議してくる気にしないでテーブルの上缶詰めを置いた。

 サバ味噌の缶詰とミカンの缶詰か……。

 食事てしては微妙だよな。

 

 「あー、唯が食べたい方食べていいよ」


 「そう言われるとなー……じゃあ、ミカンの方を貰ってもいいですか?」


 俺はサバ味噌ね。

 缶詰めのサバ味噌って美味しいんだけど、ご飯が食べたくなるんだよね。

 パッケージに描かれているサバの顔を見つめながら、米とか持って帰ってくるかなと考えるが、それを炊く場所が無いと断念した。

 せめて大きめの広場でゾンビが来ないところがないと火を使うのは危ないもんな。

 あー、食べれないと食べたくなる……我慢するしかないか。


 「じゃあ、ご飯を食べるとしようか。

 そう言えば本当に今日の散策に着いて来るつもり?」


 そう言えば話し途中だったな。

 

 「はい…………ダメ……かな?」


 その困り顔に上目遣いは反則だと思う。

 一人にして前みたいに手にナイフを刺す行為とか、精神的に危なくなりそうなくらいなら…………連れてった方がいいかな。


 「……わかったよ」


 目の届く範囲に彼女を置くことにした。


 「本当に? やった! ありがとう!」


 緊張した表情が緩み、砕けた顔になった彼女。


 「じゃぁ、ご飯食べよう。いただきます」


 「はい! いただきます!」


 互いに手を合わせて食べ始める。


 「ごちそうさま」


 「早いっ!」


 全然足りないな――わずか30秒の食事。

 口の中が塩分だらけで水分を一気に奪われてしまった。

 水を一口含みながら、やっぱり米欲しいなと言う渇望が生まれて、どうしたらいいか考えていると、唯もご飯を食べ終える。

 5分とかからない食事に互いに深いため息を着いた。

感想いつもありがとうございます。

本当に感謝しかありません。


ブックマーク、評価してくれた方、本当に本当に感謝しかありません。


今後ともよろしくお願い致します。

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