目覚め
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「———はっ! 俺は寝ていたのか?」
急に眼が覚めた。
横にはさっきまで死闘を繰り広げた化け物の死体。
「どれくらい寝ていた?」
体を起こし周囲を見渡すが夜の闇がまだ支配していた。
そんなに時間が経っていないのだろうか? まだ夜のそれを見て安堵の息を漏らした。
「ここに居るのは拙いな……」
そろそろ移動しないと。
あんだけ騒いだんだから、ゾンビが集まって来てもおかしくない。
俺はゆっくりと立ち上がった。
「って、あれ? 治っている?」
服はボロボロだが、その下の傷は完全に塞がっていた。
それどころか、折れた左腕も普通に動かせるのだ。
「どう言う事だ? もしかしたら……」
レベルアップか? 進化の過程で細胞が新しく生まれ変わる。
そう仮定すると壊れた細胞が全て元に戻ったと言う事でいいのか?
RPGでよくある、レベルが上がるとHPが全快になるそれと一緒の事が起きたのだろう。
いや、治っているならどっちでもいい。とにかく今はこの場から離れないと。
「っとその前に、これも持っていこう」
化け物の口に刺さった剣を抜こうと手を伸ばした。
せっかく武器になるような物を求めてホームセンターに向かったのだが、唯一の武器であるバールを失い。そして、ホームセンターへも近づけない。
強いて言えば、命が助かったくらいか。
なら、これくらいは持ち帰りたいものだ。
「———えっ?」
俺がその柄の部分に手を触れようとした時だった。
パリンとガラスが割れるような音がするとその剣は塵も残さず跡形もなく砕け散った。
「な……んで? ナイフは今も残っているだろ?」
そう。あの歪なナイフは今も形を残している。
一応は唯に持たせているが、あんまり役に立つように思えない。
「俺のこの魔法は創造のそれとは違うのか?」
もし、この魔法が創造の一種なら砕けて消える事なんてないだろう。そう考えると俺のこの魔法はなんなのか?
ナイフは大丈夫で、剣は何故? いくら考えても答えが出ない。
「無くなったのは仕方ない……」
死ぬ思いをして完成させたそれが壊れた事で、残念に思うが仕方ないだろう。
未練は残るが、せめて代わりになるものを探そうと思う。
「あー、サイドポーチも完全にダメになったか……食料も水もない。
ゾンビ程度なら何とかなるだろうが、あの怪物が出てきたら次は勝てる気がしない」
どうしたものか? いや、今はいい。
一旦、唯が無事なのを確認してそれからこれからの事を考えよう。
そう考えをまとめると俺は屋上を後にした。
「良かった……ゾンビは特に居ないな」
マンションの外に出た俺は、そう言葉を漏らした。
「なんか、長い1日だったな。
てか、ホームセンターの方はどうなったのだろうか?」
そう思ったが確認する気にはなれない。
体力はレベルが上がった事で問題ないが、精神的にはかなり疲れた。
ついさっきまで死ぬ一歩手前だったのだから、しょうがないだろう。
早く家に帰って休みたいのが本音である。
しかも、あの数のゾンビはある意味あの白い化け物よりも脅威だ。
倒しても倒してもキリがない。
恐らく体力が尽きるか、集中力をかいてその隙に食われるのがオチだろう。
一瞬迷いはあったが、自分の家へと足を進める事にした。
「はぁー、唯は無事に着いたのだろうか?」
そう、道行くゾンビから身を隠しながらそう言った。
武器もない今の状況ではできれば奴らとの戦いを避けたい。また、あの白い化け物が出てこないとは限らない。
ならば、魔力のそれは温存したいものである。
「にしてもあいつはなんだったんだ?」
あの白い化け物の正体について考える。
皮膚は鋼のように固く容易にそれを貫けない。
魔法ですら効果がなかったのだ。
人間の姿に獰猛が肉食獣が合わさったような殺戮兵器のそれ。よく、生き残れたものだ。
「てか、レベルアップ凄すぎるだろう……」
裂けた皮膚も、折れた骨も元通り。
俺は勝手にレベルが上がったからだろうと思っているが、それが本当ならその恩恵ははかりしれないと思う。
「まぁ、ただそれも検証が必要か……」
世界はきっと破滅に向かっているのだろう。
魔王は世界を掌握したと言った。
だったら、ここだけじゃなく世界中で同じ事が起きているはずだ……
このままでは、人類の存続も怪しい……ただ———そこに神秘が生まれた。
それが魔法である。
これは謎が多いのだが、人類にとっては救世主になるのは間違いないだろう。
だが、謎が多い。
同じようにレベルアップについてもそうだ。
だから、今回この傷が治った事に関してもその神秘のお陰で助かったのは間違いないだろう。
ただ、それがレベルアップとは断言できないが、状況からしたらそれが一番濃厚でる。
「どちらにせよ、助かったに違いないか……
ただ、わざと怪我をして実験したいと思わないが。さて、ゾンビの足音も聞こえなくなったから行こうか」
俺は車と塀の間に隠れていた。
そして、近くを通りかかったゾンビをやり過ごしていたのだ。
「てか、この方向はホームセンターの方向だよな?」
ゾンビが通り過ぎて行った方向に目を向ける。
あそこに隠れている人達は無事なのだろうか? 見捨てた俺がこんな事を思うのはどうかと思うが……そう思うのは許してほしい。
「ついでに何か武器が欲しいよな……」
かと言って、人の家を漁る気にはなれない。
こんな状況でと思うかもしれないが、日本人特有と言うか……何か、それを行うのに躊躇いが生じてしまう。
生真面目な気質の日本人。
火事場泥棒のような行為。
ゾンビを殺す事には慣れたが、民家でそう言った行為をすることはまだ引け目を感じる。
有事の際だから、咎められる事も咎める人も居ないのだろうが心が待ったをかけてしまう。
じゃあ、ホームセンターから物を取ろうとしたのはいいのかって?
それは……ゾンビ物の映画でよくあるし……
とりあえず、気持ち的にお金を置いていくつもりだったから……
俺の中での人の物と売り物の解釈が違うのだろうと、無理矢理納得させた。
「あー、これなんて使えそうだな」
道すがらに何かないかなと探しているとちょうど良い物を見つけた。
「これはロープ止めか?」
個人で経営する店。
なんの店かは分からないが砂利で出来た駐車場にそれは刺さっていた。
無断駐車をされないようにロープを張っていたのだろう。
3本ある内の一本が倒れてその役割を果たしていないのを見つけたのだ。
長さは90センチ程、太さは直径1センチくらいか?
これでゾンビの頭を殴ればすぐに折れてしまいそうだが、先端は地面に刺さるように尖っている。
殴打には使えないが突き刺す分にはちょうどいいだろう。
俺はそれを拝借する事にした。
「倒れて、道路にはみ出していたのだからこれはセーフ……」
こじつけでこれは大丈夫と言い聞かせて、それを拾う。
「ためしに、これでゾンビを倒してみるか?
……いや、今は唯が無事に着いたのか家に急がないと」
それを右手に持つと、先を急ぐ事にした。