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二人きり

 俺はこの化け物と二人きりとなった。ニタニタと涎を垂らし、時折、舌なめずりをしながらこちらを観察するように見ていた。まるで、何処の部位が一番美味しいか、品定めしているようである。俺は肉食獣に襲われる寸前の草食獣の如く、その場から一歩も動く事が出来ずにいた。


 「くそ……」


 小さく声が漏れた。このまま真っ向から戦えば結末は……だろう。分かっていても脱するすべがない。状況は八方塞がり。暑さのせいか、緊張からか、玉となった汗が屋上の床を濡らしていく。

 打開策も見つかる事もなく時間だけが過ぎていく。だけど、この状況も長くは続かなかった。奴が半歩前に踏み出す。


 「——シねっ!」


 爆弾が爆発したかのような、轟音と共にパラパラと石のような物が体を直撃する。何が起きたのか、石像になっていた俺は視線を横にずらすと、白く大きな手と、粉々に砕けたコンクリートの床があった。


 「あレ……レェ?」


 グールの攻撃は目には見えないほど早く、何かが通り過ぎたと思った頃には、床が粉砕している。しかも、コンクリートで出来た床をスナック菓子のように軽々と粉砕するのだ。これが直撃していれば俺は……。

 不思議そうに自分の手を見つめる化物の行動。繰り出した右手を上に上げてみたり、手を振ってみたりと、不思議そうに見ていた。恐らくだが、俺を狙ったが、たまたま外したのだろうと思う。運良く命を繋いだ俺は、一か八か……この隙間に攻撃を与える事にした。

 

 「オラッッ!」


 格闘技経験など全くない。ただ素人が拳を前に突き出した程度のものだが、普通の人間であれば多少なりとも効果はあるばずだった。だけど、

 

 「くぅっ! いてぇ!」


 鳩尾を狙った一撃は、完全にクリーンヒットした。悶絶し倒れ崩れるはずだったが、そんな期待は幻想となり消え去る。むしろ、硬くざらついた表面に全力で殴りかかった事で、手の皮が剥け中身の肉を少し露わにする結果となった。


 「ア?」


 と、化物も不思議な感じで俺を見る。ポリポリと殴られた部分を掻いて特にダメージを負った様子もない。


 「反則だろっ!」


 急ぎ後退する。魔法も物理も効かない上に、攻撃力は致死と来たら、RPGで言えば自分のレベルに見合わないフィールドに迷い込んで、格上のモンスターに出会った時に等しい。

 

 「オナカ……スイタ」


 下手糞な日本語で、空腹を訴える。ふと思う。言葉が通じるのであれば、もしかしたら話しが通じるのではないだろうか?


 「なぁ。少し話そ――」


 と、声を掛けようとしたが、奴はそれを無視すると一足の元に俺の目前まで迫った。


 「あぐっ!!」

 

 左から右に凪払う攻撃に技も何もない。だけど、格下を仕留めるには必殺となる。とっさに左腕で防御しようとしたが、もちろんそんなのは薄っぺらい紙で飛んでくる弾丸を防ぐに等しい。

 俺の腕から鈍い音が聞こえると、ジェットコースターの落下する時に感じる重量加速が側面から俺の体を吹き飛ばした。

 上下左右の判別ができないくらい、めちゃくちゃに揉み合いながら転がり、どうにか動きが止まる。体中がいてぇ……。脳が揺れ視界が霞む。気力で倒れそうになる体を支え、どうにか立ち上がる――


 「――アハハハッ」


 するとすぐ横から奴の笑い声が聞こえた。いつの間にか距離を詰めていたらしく、すぐに次の攻撃に移ろうとしているようだった。

 

 「ぐっ……」


 突然視界が暗くなると、首全体に物凄い重さを感じた。全身の痛みに加え、息をする事もままならず、もがくが解放される事はない。


 「つかまえター」


 化物が口を開く。


 「——がはっ!」


 腹に激痛が走る。ただでさえ少なかった、空気の残量は更に減り窒息寸前。そこに鈍痛まで加わわり、意識が遠のく。

 衝撃で少しずれた隙間から、奴の姿が見えた。化物こちらを嘲笑するような笑みを浮かべ、完全に遊んでいる様子である。


 「は……なせ」


 力を振り絞り、掴む手を殴り続けるが微動だにしない。むしろ、俺が苦しむそぶりを楽しそうに見ている。


 「何だよ……?」


 弓を振り絞ったように目を細め、笑い、口元を三日月に釣り上げる。そして、左手の指を心臓に突き立ててた。そいつの指は鋭く肉食獣のそれと同じ。人間の体など容易に引き裂く事ができるだろう。


 「――辞めろっ!」


 奴が何をしようとするか想像出来た。必死に抗うが、プチっと避ける感触と共に冷たく鉄の棒のような物が体内へと侵入してきたのが分かった。

 ゆっくりとゆっくりと。まるで、痛みを味あわせる拷問のように少しずつ奥へと侵入する。


 「ヒヒヒヒヒッ!」


 下品に笑うそいつは俺の息の根を止めにかかった。


 ――――――


 ――――


 ――


 ――生存用プログラムを緊急起動。


 ――肉体のスキャン開始……


 ——検出結果……生命に深刻なダメージ。


 ——再起動を試みます。


 ——……ERROR……ERROR……


 ——試行回数が規定数を越えました。


 ——肉体の再構築を開始します。


 ——ERROR……エネミーの存在が近くにあります。排除してください。


 ——権能の一部解放。


 ——模倣『憤怒』。


 ——敵勢力の排除を実行。


 ——対象『グール』


 ——実行……開始。

ここまで読んでくれてありがとうございます。


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