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成長

 「これがレベルアップ! 凄い。力が湧いてくる」


 「レベル上がったんだね、おめでとう。でも、急激にレベルが上がると地獄だから気を付けて……」


 ゾンビを倒す事、十三体目。唯はレベルが上がったようだった。初めてのレベルアップの感覚に興奮した様子である。

 

 「宗田さんなんてすぐに追い越すから、見ててね!」


 レベルが上がると、どう言う分けか気分が良くなる。幻覚を見るわけじゃないけど、恍惚と気分を高揚させる薬のように、万能感をもたらす。類に漏れなく唯もその状態に陥った。半袖のTシャツを肩まで捲り、笑顔で力こぶを見せてくる。さっきまで、気分が滅入っていた人物とは思えないくらいの回復を見せていた。 

 重くなった心が戻ってくれた事は良かったが、今の状態は行き過ぎている。浮き足立った状態でゾンビを相手にするのは危険だ。

 

 「唯、ここからは慎重に行こう。ゾンビの数が増えている」


 「あ……ごめんなさい」


 そう言われて、自分がどういう状態なのか理解したのだろう。気まずそうに視線を外し、おとなしくなる。落ち込んだ彼女には申し訳ないが、命がかかっているとなると余裕はないのだ。それに、ホームセンターに近くなるに連れてゾンビの数が増えているのはたしか、


 「俺の思い過ごしならいいけど、少し嫌な予感がするんだ……」


 と、言うのが彼女に注意した理由でもある。不足の事態に備えて、魔力に意識をする。炎弾なら後五発くらいいけるだろうか。ゲームのように数値的には見えず体感でしか分からないのは不便だ。休憩をしてから進から迷うところ。


 「あ、宗田さん。あのマンションから、一度ケーツー確認してみません?」


 唯は近くにあったマンションを指さした。

 

 「確かに、ここからなら見えそうだね。よし、休憩がてら中に入ろう」


 入口の自動扉のガラスは割れ、そこから簡単に侵入出来そうである。


 「ガラスで体切らないように気をつけてね」


 一歩踏み締める度にジャリジャリと地面が鳴る。下手に触ろう物なら、すぐに怪我をするだろ。周囲にゾンビがいないか確認すると、慎重にマンションの内部へと侵入した。


 「自動扉のガラスが割れてたってことは中にゾンビがいるかもしれないですね」


 唯の言う通り、外から内に割れたガラス。それは間違いなく何かが侵入したと言うことを示してる。それが、生きた人間だったのか、ゾンビなのか分からないが、ナイフのように鋭く尖ったガラスの先端に血のような物がこびりついていた。

 

 「見つかる前に上に行こう」と唯に声をかけ、屋上へ行くための階段を探す。マンションの中は綺麗なものだった。しいいて言えば、入口の扉の窓が割れているくらいなのと、床に血のような物が付着しているくらい。他には目立った破壊痕のようなものは何もない。


 「やっぱりだめだよな……」


 階段を探すついでにエレベータの呼び出しボタンを押したがうんともすんとも言わなかった。電気も来ていないし、今もスマホも何も使えないんだから当たり前なのだが……なんとなく押してみたのだ。


 「そりゃー、動きませんよ。素直に階段を探そうね」


 唯に諭される。

 

 「あー、これで上まであがるのか?」


 「文句言わないの」


 階段を見つけたのはいいが、高層マンションの一階から屋上まではどれくらいの距離があることやら。正直しんどいが、一歩ずつ階段を上る。 

 さて、少しだけ頭の中を整理しよう。彼女の状態だが、体中返り血で汚れているがレベルアップ以降、疲弊していた心は回復したから問題ないだろう。俺のほうも、疲労は少しあるものの大したことはない。それに、初めてゾンビを殺した時のあの不快感もなく、罪悪感のような憂鬱な気分になることも殆どない。

 だけど、ここに来る道中ゾンビの数が増えたのは気になる。何かを目指す姿にどうしても不安感が芽生えるのだ。奴らの行動原理は”食欲”だと思う。そうなれば、移動した先に餌があるのではないか……つまり、人間がたくさん居るのではないかと思うが、本当に無事なのだろうか?

 

 「はぁはぁ……やっと着いた」


 息も絶え絶えな唯は顎へと垂れてきた汗を、右手の甲を使って拭った。


 「宗田さんは、なんで平気そうなの?」


 「あー、たぶんレベル差?」


 「ずるいっ!」


 そう抗議されてもな。疲れ切った様子の唯に比べて、汗一つかいていない。レベルアップの影響でスタミナが増えたのだろうか、この程度では全く疲れを感じないようである。


 「開いてる……」


 少しだけ開いたその隙間から見える範囲で異常がないか確認するが、


 「……特に何もないな。あ、ちょっとバール貸して」


 バールを受け取ると扉の持ち手部分へとそれを通す。念のため、外から開かないようにつっかえ棒のような変わりにしたのだ。両開きの扉だったのが運がよかった。ゾンビが来ようがこれですぐには入ってこれないだろう。

 少し薄暗くなって来た屋上には特に何もなかった。街並みを一望できそうな程高く、金持ちが住むようなマンションの屋上はそこにもう一軒くらい余裕で家を建てられる程に広い。一度はこんな所に住んでみたかったなとなんとなしに思った。


 「さてさて、ホームセンターはどうなっているんだろうか?」


 目的地の建物を探す。薄暗いが、見えない程ではない。


 ――イメージはレンズ。

 

 「なんだあれ……」


 「宗田さん?」


 レンズ越しに見えた目的地に絶句する。


 「はは、多すぎるだろ?」


 なんの冗談だろうか?


 「ホームセンターは諦めよう……」


 「えっと、私は暗くてそこまではっきり見えないんだけど……ホームセンターに何があるんです?」


 「あぁ……ゾンビの群れだよ。それも見た事ないくらいの数。百や二百できかないくらいの数のゾンビ達が――集まっている」


 ホームセンターを囲うようにバリケードが作られていた。車を横倒しに、入り口を塞ぎ木の板のような物で窓も完全に塞いでいる。しかも、横倒しになっている車もかなりの数だ。それを行うには一人や二人じゃ無理だろう。

 

 「きっと、中には大勢の人が居る……」


 「え、じゃあ、助けに——」


 「——無理だ」


 唯の言葉を遮った。この数はどうやっても無理だ。魔法? レベルアップ? そんなのあの数の前ではないに等しいだろう。今も続々とゾンビが集まっている。そこに行けばただの餌になるだけだ。

 

 「じゃあ……このまま見捨てるの?」


 「そうだ」


 短くそう告げた。


 「でも、なんとか——」


 「——何とかならないっ!」


 声を荒げてしまうと、唯の肩が跳ね上がった。


 「っ、ごめん」


 「いえ……私の方こそすいませんでした」


 突然大きな声を出してしまった事について謝罪する。せっかく魔法も使えるようになって、レベルも上がったのに何もできない自分に苛立ってしまったのだ。蟻の大群が死体に群がるようにゾンビでひしめき合っている。そこに、火の魔法でも打ち込めば一気にそれを滅する事は出来るかもしれない。だけど、へたをすれば建物も燃えてしまい、結局は中に居る人も助ける事が出来ないのだろう。


 「戻ろう……」


 ここにずっと居るのは危険だ。今はすぐにここから離れようと、唯へと声をかけた時だった——


 ——バンッ!


 屋上の入口の扉から大きな音が聞こえた。

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― 新着の感想 ―
[一言] 力を持たず半端な正義感で進むとゾンビが二体増えるだけ。
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