表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

2/184

今日は炎天下

 「それにしても生々しい夢だったな……」


 斬られた脇腹を撫でた。実際に斬られた訳ではないが、違和感があったのだ。あの時の痛みも疲れも本物のように感じられ、普通の夢には思えなかった。ゴブリンを斬った感触、血の臭い、肉を焼いた臭い、五感の全てを刺激し、現実世界までそれを運んで来た。

 結局、夢の中の自分が眠ると同時に目が覚めたため、”彼”の生死は分からない。悶々とする気分を抱えたまま、駅に向かって歩いている。

 

 しかし、なんなんだ。

 ——この天気は!


 今日はまさに夏。天気予報では40度を越えると言っていたが、その通りである。太陽から放たれた日差しがジリジリと肌を焦がす。日陰もたいしてない。ただ、こうして歩いているだけなのに汗が止まらないのだ。

 太陽め! 恨みをこめた目を空へと向けると、眩い光に目潰しを食らう。こんな事なら車でくれば良かった……でも、体重がな。


 御年27歳。体が少しずつだが衰えを感じ始める年齢である。しかも、平日は仕事をして家に帰って寝るだけ。休日は引きこもってゲーム。そんな事を繰り返す日本人な俺。これを――量産型日本人なんて揶揄してるが。


 そんな三十路手前の俺は、会社の健康診断で衝撃を受けたのだ。一年で5キロも太ってしまったのである。昔はいくら食べても太らなかったのに、と、その時の衝撃は今も生々しく心に残っている。

 まぁ、なんだ。

 それが気になって少しでも運動しようと努力した結果、太陽に馬鹿にされたと言うわけだ。


 「あちー」


 手でバタバタと顔を仰ぐがなんの効果もない。

 

 「こんにちわ」


 「あ、こんにちわ」


 近所のおばちゃん、山田さんが声をかけてきた。よくゴミを捨てる時に一緒になって挨拶をしてくれる、気のいい人である。エプロン姿の彼女の両手にはゴミ袋が二つ。こんなに暑いのに大変だなと思う。


 「これからお出かけですか?」


 ゴミ捨て場に捨てると山田さんは、空いた手で首に巻いたタオルを使って汗を拭う。


 「はい。ただ、想像より暑くてもう参っていますが………」


 もう勘弁してくれよと言った感じの雰囲気で言うと、「あらあら」と言って笑っていた。柔和で温厚そうな顔をした彼女は、笑うことでより引き立つ。

 朝露の垂れるトマトのよう顔を火照らせて、鼻の上まで汗が滲む山田さんは、何度も汗を拭き取っている。


 「あらあら、熱中症には気を付けてくださいね」


 と気を使われたが、俺よりも汗を滝のように流した山田さんの方が心配だと思った。前に話しをした時、旦那は単身赴任で息子も巣立って家に一人だと言ったことを思い出す。これで家で倒れたら一大事だ。

 

 「山田さんも、気をつけてくださいね」


 山田さんを心配した俺は、身を案じるように言うと、


 「バッチリ、水分を補給しているから大丈夫よっ!」


 エプロンのそこの深いポケットからスポーツ飲料を取り出して、見せてきた。


 「それなら良かったです。では、自分は行きますね」


 「はい。それでは」


 山田さんと別れて再び歩き出した。


 一人か……。自分の家族の事を思い出した。

 妹がまだ実家に居るが、確か来年から大学に行くと言っていたな。同じように寂しくなってしまうのだろうか?


 「たまには家に帰るかな………」


 全然返ってないもんな。燦燦と照らす太陽の下目的地に向かっていると、ようやく到着した――


 「――いらっしゃいませー」


 コンビニって、現代のオアシスだよね? 

 あー、エアコンが涼しいな。

 冷えた空気を堪能するように、飲み物コーナーへと足を進める。山田さんに見せられた時、喉が乾いて仕方なかったのだ。だから、ちょっと寄り道。

 「セブンブン」は日本で一番、店舗数も多くて人気も高い。当然のように家から歩いて五分の所にあるこの場所にはよくお世話になっていて、常連だ。


 「あの、すいません~」


 と、のんびりと何を飲もうか考えていると他のお客さんに声をかけられたら。俺がそこに立っているから邪魔なようである。


 「ありがとうございます~」


 少し独特な話し方をする声をかけてきた女性。見た目は高校生くらいに見える。だが、スーツを着ているから成人しているのだろうか? 飲み物を一つ取るとその場を立ち去った。

 さて、俺は何を飲もうかな……。すると――


 ———ピロン!


 スマホの着信音が鳴った。


 差出人:神崎 唯


 おっ、神崎さんだ。

 どれどれ……。


 「暑いー、暑いー、暑いー」


 ただ、暑いと言ったそんなメッセージが送られて来た。だからどうしろと言うねん。


 「あー、暑いですね」


 そう返事を返す……すると。


 「溶けそうなんで早く来てください( ;∀;)」


 顔文字付きでそう返事が返って来る。


 「後、一時間後に行きます('◇')ゞ」


 そう送ったら。


 「ひえーー( ゜Д゜)」


 なんて返事がすぐに来た。

 はいはい。早く行きますよ。


 「ありがとうございました」


 待たせてるようだし、お茶だけを購入して足早にコンビニから出た。


 暑いよー、溶ける……はっ、今引き返せばエアコンが…………。ってそんな事しないけど、早く待ち人の所に行くかな。


 っと、その前に。


 「ぷっはぁー! 冷たくてうまい」


 俺は五百ミリのお茶「おいおいお茶」一気に飲み干した。

 

 「任務完了……。さて帰る……じゃなくて行くか」


 ふぅ、危うく間違える所だったぜ。

 しかし、便利な世の中になったよな。

 そんな年寄り臭い事を考える。


 エアコンだったりスマートフォンだったりと最先端の技術が跋扈する日本。ひと昔前でも何不自由ない生活を送れていたが、今はそれ以上だ。

 メール機能も今はチャットのように気軽に連絡を取れる。

 ネットも当たり前。

 移動手段も殆どが車。

 そんな贅沢な生活を送っている。


 これがふとした時になくなったらどうなるのだろうか? そんな事を思ったが想像もつかない。


 技術のブレイクスルー。そう言われる現代。今も尚、技術の発展が止まらない。人工知能なんてのも今の流行りだ。

 よく世間ではそれが暴走して、人類を破滅させるのじゃないかと騒がれているが眉唾物だ。

 それこそ映画の世界のそれだろうと思うが、中にはそう言うことを言って商売している人もいるのだ。

 まあ、そんな事でもなければ今の人間は発展し続け、そのうち空飛ぶ車も出来るんじゃないか?


 「あー、そう言えば最新のゲーム機出るんだったな」


 買うかどうか。でも、またゲームばっかりしていると……、って、今は大丈夫か。一人身だもんな。好きに出来るし、遅く起きても問題ない。


 そう言って自分を慰めるが本音は寂しい。

 付き合っている時は、好きなゲームも制限されて嫌だな、なんて思ったさ。

 ただ、いざそれが無くなればこうして寂しくなってしまう。


 「わがままか……」


 そう呟く。

 今はその事を忘れよう。

 せっかく食事に誘ってくれたのに、俺がこんな状態じゃ失礼だ。

 心をどうにか落ち着かせるとまた歩き出した。

 

 ちょっと変な人に見えるかな? 今日は世間は休日。道を歩く人がいつもより多い。

 カップルだったり家族連れだったり、そこかしこで話声や笑い声が聞こえる。そこを一人で歩いていると、なんだか取り残された気分になった。


 もう少しで駅か……。

 俺は少しだけ速足で駅へと向かった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 世界観と設定はめっちゃ好きです。 [気になる点] 文章を切りすぎて短文みたくなっているのでそれを治せばさらにいい作品になると思います。 [一言] これからも応援しております!
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ