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新しい世界に

 あれ? 暗いな。どうなったんだ? まさか死んだ?


 ――いえ、マスターは生きてます。


 シーリスか……俺はどうなったんだ?


 ――マスターの魔法は完成しました。


 本当にっ! 


 ――しかし、マスターの体が……


 ん? 俺の体? そう言えばまったく動かないな。どうなってるんだ……。


 ――全ての機能を停止しました。


 それってつまり、死んだってことか?


 ――いえ、今はまだ超回復の能力で延命していますが、生命を維持するので精一杯。これ以上の回復は出来ない状況です。


 ……そうか。

 シーリスから受けた宣告は残酷なものだった。魔法の完成……つまり、壁で囲う事に成功したのだろう。しかし、その反動で俺の体は使い物にならなくなったと言う事だ。

 それを聞いて動揺したが、どこか諦めに近いものがあった。そもそも、シーリスに止められていたのにそれを使用した事で何かしらの影響があると覚悟していた。それこそ、命を落とす事も。

 ただ、こうして俺はまだ生きている。精神力が続く限り、俺はこの暗い空間で――生きて行こうと思う。


 「オイオイ、お前――もう、諦めたのか?」


 この声は……憤怒。


 ――どうしてあなたがここに!? 


 「ハハッ。あのババアに封印されたけどよ、失敗したみたいで簡単に出てこれたわ」


 燃え盛る炎が闇を打ち消し、周囲を照らした。


 「ただよ、ババアのおかげで肉体を乗っ取る事は出来ないんだよ、これが。余計な事しやがって」

 

 ――炎人


 そいつが燃え盛る炎の中から姿を現した。目も鼻も口も存在しない、格好だけが人型を形取り、俺達に語りかけてきた。


 「情けない、情けない、情けない。どうしてお前はそんなに貧弱なんだ? これで何度目(・・・)だ?」


 「そう言われても……な。なっちゃったのはしょうがないだろ?」


 「なら――諦めるのか?」


 諦めるつもりもないし、諦めたくもない。だけど、この状況でどうしろと?


 「諦めたくないさ。だけど、どうしようもないだろ?」


 「お前が死ぬと言う事は――世界が崩壊するんだぞ。■■■」


 最後に呼んだのは名前だろうか? 上手く理解でき(聞こえ)ない。ただ、俺が死ぬと世界の崩壊にどんな因果があるのだろうか? ただの量産型日本人(一般人)なんだぞ。

 

 「まあ、そう言う俺も何度か楽しませてもらったが……今回の■■■は、初めての事ばかり。あのババアが召喚された事含めてな」


 憤怒は何度も繰り返されいるような口ぶりだった。もちろん、俺にはそんな記憶が存在せず何の事か理解できない。


 「――だからだ。この先がどうなるか見て見たいんだよ」


 憤怒が力強くそう言い放ち、更に話を続けた。


 「なぁ、俺と契約しないか?」


 「契約?」


 ――マスター、耳を貸してはいけません。


 「シーリスよ。いつも堅いことを言うではない」


 憤怒はシーリスの事を知っているらしかった。二人? はあーだこーだと何か言い合いをしているのを尻目に、憤怒から提案された契約について考える事にした。

 契約――つまりは俺にメリットはあるかもしれないが、対価を支払わないといけないと言う事だろうか? あいつが望む対価ってなんだ……。想像もつかないな。


 「なあ……、契約する事で何が得られるんだ?」


 ――マスターッ!


 「ヒヒヒッ。いいねー。シーリス、今回の主人は聞き分けがいいな」


 商人が悪知恵を働かせた時のような奇妙な笑い方をする憤怒は、シーリスの言葉を無視して契約の内容について話してくれた。


 「ああ、今の状態からの回復でどうだ?」


 「なるほど。それは……助かるが。変わりに何を求める?」


 「何、たいしたことじゃないさ。お前が死んだら肉体を渡してもらう。それだけだ」


 肉体を渡すと言う事は、また暴れ回ると言うことなのだろうか? 世界を滅ぼす力を持つ存在が、野に放たれれば次こそはどうなるか分からない。

 そんな無責任な事をしていいのだろうか……


 「それなら契約をしない……かな」


 「なんでだ?」


 「この状態でいれば、すぐに死ぬ事はないだろう。だけど、起きてしまえば戦いいつ死ぬか分からない……だったら、このまま寝ていた方が世界は滅びないんじゃないかと思ったんだ」


 「はーん。そう言う事か……。とは言えお前が死んだらどの道世界は滅びるんだが――っと、一つ言い忘れた。お前を回復させる……つまり、肉体を変化させるんだぜ? どう言う事か分かるか?」


 憤怒の問い掛けに首を横に振った。


 「要するに、肉体が神に近い物となる――根源魔法が普通に使えるようになるって事だ。後は、俺の能力も使えるようになるぜ」


 根源魔法が使えるようになるか。それに、憤怒の能力か……。恐らく黒い炎なのだろうとおもう。


 「これで、更に強化されるが。あー、一応言っておくと、そう簡単に死にたくても死ねなくなるぜ」


 「望みはなんだ?」


 こんな上手い話には裏がある。


 「言ったろ。死んだら肉体を寄越せってさ。ババアの封印を完全に解くには、契約――絶対的力……効力が必要なんだわ」 

 

 ベリルの封印はかなり強力なものらしく。今の憤怒ではそれを完全に破る事は出来ないらしい。契約をする事で何が変わるか分からないが、それ程重要なのだろう。

 

 ――マスター、だめですよ。悪魔の誘惑に乗ってはいけません。


 シーリスにはこうして止められる。


 「おいおい。シーリスさんよ、後何日コイツを延命させられるんだ?」


 それに対してシーリスは何も答えなかった。


 「シーリス、教えてくれ」


 その事実は俺も知りたい。


 ――マスター……。分かりました。お答え致します。


 渋々と言った感じでシーリスが答えてくれた。


 ――良くて――七日。こうして意識を具現化した状態ですと、三日がせいぜいと言う所です。


 そんなに早いのか? 俺はてっきりこのまま保てるのかと思ったんだが、事実はそんな事ないらしい。つまり、生き残る為には憤怒と契約を結ばないと難しいと言うことか……。


 「シーリス、俺が死ぬとどうなる?」


 ――世界が滅びます。


 となればする事は決まっている。


 「憤怒――俺と契約しろ」


 ――マスター!


 「シーリス、お前は俺を生かす為に存在するんだろ? であれば、俺をいつまでも生かせ。俺を死なせるな」


 要するに、俺が死ななければいいんだろ? そうすれば憤怒は出てこないし、世界は滅びない。

 

 「いいねー。なら決まりだ――」


 「――ちょっと待て、一つ俺からも約束して欲しい事がある」


 「なんだ?」


 「俺をわざと死なせるような邪魔をしない事」


 もしかしたら、わざと死ぬように何かしらの妨害も考えられる。だから、こうやって保険をかけておこうと思うのだ。


 「そんなせこい真似するんけねーだろ。まあ、いいぞ」


 憤怒は俺の要望に呆れた様子だったが、素直に応じてくれた。


 「――契約しよう」

 

 「いいぜ! 俺の力を――くれてやる」


 俺は悪魔と契約した。そして――


 「――宗田さん! 良かった!」


 目を開いた。


 「唯……か。俺はどれくらい寝てたんだ?」


 「五分くらいかな。そのまま倒れちゃったから心配しちゃったよ」


 それしか時間は経ってなかったのか。魔王の言った時間には全然余裕だったな。良かった。


 「宗田、無事で良かった」


 晃もこちらに寄ってくる。


 「しかし――凄いな」


 感嘆の言葉を述べ、ぐるりと見渡す。俺も立ち上がると、釣られて見渡した。

 完成した――壁が。

 正門部分には巨大な扉、外から開けれないように巨大な鍵がついている。人の背丈を遥かに越える、黒く重い物体がそびたっていた。それが、周囲をぐるりと囲み、外からの攻撃を防いでくれるだろう。


 「にしても……これ、やばくね?」


 晃は不意に地面を指さした。


 「確かに……な」


 激しく同意。

 それは、俺の体の一部だったものが大量に散乱していたのである。言葉に表現したくない程の惨状、普通の人が見れば卒倒するんじゃないだろうか。

 その中に平然と唯は入ってきていた。晃ですら一歩離れた所に居ると言うのに。


 「唯……大丈夫なのか?」


 「何が?」


 きょとんとした様子でこちらを見る。


 「いや……なんでも無いんだが、後で風呂に入りたいな」


 「え? もしかして一緒に! 是非っ!」


 違うんだけど……気にしてないならいいか。


 「少し離れててくれないか」


 「あっ、はい」


 とりあえず後始末しないと。


 「イメージは――炎」


 黒い炎は使わない。だけど、普通の炎ではない。魔界から持ち出した特注品である。


 「燃やせ」


 憤怒は黒い炎を操るのに精一杯だった。今の俺の魔力ではすぐに消費してしまうようである。それに――見られる訳にいかない。

 憤怒と契約してから、ずっと視線を感じるのだ。それに、手の内を明かすつもりもなければ、誰が犯人かなんとなく想像がつく。

 竹内 紫苑――敵か味方か。


 「ふう」


 普通の赤い炎を使用したが、魔力の半分以上を持って行った。ただし、威力は絶大。燃え移った所から、瞬く間に焼け――消失した。

 対象を絞る事で他に燃え広がる事もなく、俺の一部だったものだけを全て消し去っていた。


 「――すごっ!」


 晃は感嘆の言葉を述べた。

 俺は初めて憤怒の力を使ったのだが、どう使えばいいのが手に取るように分かる。これは、奴との契約によって肉体が変化した事が影響しているのだろうか?

 ――悪魔の力。

 それも魔王も名高い存在の力だ。これほど強力なものは他にないが、俺は完全に人間を辞めてしまったようだ。

 ん? 待てよ? 俺ってここから出たら二度と入れないんじゃないのか?

 神に近い存在。デミゴッドなんて言ってたが、憤怒って悪魔なんだから、デミデビルだろ? 後でシーリスに聞いておこう。


 「宗田くん」


 と、後始末をしていると紫苑さんが姿を現す。


 「早速、壁を完成させてくれたのか……感謝しよう。しかし――」

 

 その後に続く言葉は、待たないで行った事による小言だったので聞き流す事にした。


 「これで俺の役目を果たしたでいいんだよな?」


 「ああ……これで、ここに避難した人達はかなり安全に過ごせる。問題は魔王が何をしようとしているかだ」


 紫苑は難しい顔をする。

 彼の言うことには同感だ。生き残った人類が後どれくらい存在するのか分からないが、今の状態はかなり疲弊しているだろう。

 それなのに状態がこれ以上に悪化するのは……。


 「ふむ。いや、今更ジタバタしてもしょうがないか……。とりあえず、夜まで休んでくれたまへ」


 皆にこの壁について説明してくると、校舎に戻って行った。


 「それでよー。宗田はここに残るのか?」


 紫苑が居なくなったのを見計らって、晃が俺の側に寄ってくる。


 「今は……まだ、分からない。とりあえず――魔王、奴の出方次第で決めようと思うんだ」


 「そうか。てか、絶対に絶対に俺に声を掛けろよ!」


 念を押すようにそう言う。


 「ああ……分かってるよ」


 唯はともかく、晃を連れて行くかは迷うのが正直な所でもある。彼の能力がどれくらいかも分からない。更に言えば妹……雫も連れてくるとなると、非戦闘員をここから出すのは危険に思えるのだ。

 雫の所に行ってくると、晃も校舎に戻って行ってしまった。俺はその背後をじっと見つめ、彼をどうするか考える。


 「晃さん、かなり宗田さんを慕っているんですね」


 唯に声をかけられた。どこか誇らしげな彼女である。


 「なんだろうな。出会いは凄かったけど、気が合うんだよね」


 そう返すと、


 「仲良くなれそうなら何よりです」


 嬉しそうに俺に微笑みかけてくる。唯とはずっと一緒に行動を共にしている。それこと、死線も一緒に越えてきたのだ。

 多くは救えないかもしれない。だけど、せめて彼女だけは守り抜きたい。

 改めて俺はそう決意した。


 「俺達も戻ろうか」


 「はい」


 魔王が何をしてくるか分からない。ただ、どんな手段を使ってでも――


                 ~第一章完

          ――to be continued――

ご愛読、ありがとうございました。

一旦は第一章として完結させていただきます。


もちろん、続きも書いております!

別の小説として投稿いたしますのでよろしくお願い致します。

近日中を予定していますが、投稿時期が決まりましたら活動報告にてご連絡させていただきます。

また、こちらにも投稿が始まりましたらその胸を連絡させていただきます。


本当にありがとうございました!


2023年4月

第二章を投稿出来ずに申し訳ありません。

リアルの生活環境が変わって、途中までしか書けてない状態が続いています。

今しばらくお待ちください。


2023年11月

~アップデート人類~メシアの更新と彼方の魔王

続編公開しました。

また、少しずつ更新していきます。

近日中と言って一年ほどお待たせし、申し訳ありませんでした。

引き続きよろしくお願い致します。

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