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始まり

 ――人類諸君ご機嫌よう。

 

 この世界を地獄へと変えた張本人。魔王が再び俺達に語りかけてきたのだ。


 ――ここまで生き残った勇敢な人間達、ご苦労であった。


 ご苦労だっただと? お前のせいで何人の人間が死んだと言うんだ。


 ――”喰らう者”が相手では少し物足りなくなって来たであろう? その成長には驚いた。 


 魔王はゲームでもしているつもりなのか? ここまで疲弊した人類なんて簡単に殺せるだろうに、それを何故しない? いや、もしかしたら出来ないのか? 

 今回は冷静に魔王の言葉を分析する。


 ――さて、人類よ。これからが本番だ。


 嫌な予感しかしない。


 ――アップデート。器は満たされた(・・・・・・・)


 ――アップデート。その言葉からは何が起きるか想像がつかないが、よからぬ事が起きる事は確実だろう。


 ――アップデートだ人類。今宵、日付が変わる時――全てが完了する。ここからが本番だ。人類よ足掻け、絶望し、我を殺してみせよ。


 ――唐突に始まりを宣言された。


 「ふむ。魔王め――始めてしまったか」


 シーンと静まり返った部屋の中で紫苑が口を開く。その言葉の一つ一つには怒りが込められているように思えた。

 両手を組み、手の甲に顎を乗せ一点を鋭い眼光が射抜く。


 「――宗田くん」


 突然名前を呼ばれた。


 「なんだ?」


 魔王によって強引に話を終わらせられたが、さっきの事がしこりとなり、言葉に刺が出てしまう。


 「唯くんの事を不問とする変わりに、早急に壁を完成させて欲しい」


 それは、取引に近かった。


 「あんな事を言われといて、不問だから助けてくださいで納得できると思うか?」


 「なら、他の皆を見殺しにすると言うのか? それが出来る力があるのに”しない”と?」


 見殺しと言う単語に俺は反応する――俺が見捨てたホームセンターの人々。佐川 葵の手が及んでいたから、そこまで能力が無かったから――だけど今は違う。

 紫苑の言う通り、無理をすれば壁を完成させる事は可能だと思う。ここでみんなのために何かをしないとなれば、それこそ本気で見捨てた事になる。


 「宗田さん。私は大丈夫だから」


 膝の上に置かれた手を強く握り締め、俯きいろいな感情が湧き起こりそうになるのを押さえている。すると、手を暖かいものが包み込んできたのだ。

 そちらに目を向けると、唯がこっちを向き手を添えていた。少し、元気がないようだったが瞳の奥からは強い意志のようなものを感じる。大丈夫と言う言葉は嘘ではないのだろうが、紫苑に言われた言葉は唯の心を大きく傷つけたに違いない。だけど、自分の感情を後回しにし俺の事を察してくれたのだ。

 そう思うと、やり場の無い感情はすーっと心の奥に追いやられ、高ぶった心が落ち着きを取り戻す。

 

 「唯……」


 彼女の名前が自然と口から出る。


 「私は平気。宗田さんは後悔しないように、皆を助けてあげて」 


 彼女は微笑みながらそう話す。


 「ああ……分かった」


 頷き分かったと返事を返す。


 「紫苑さん……壁を完成させる。ただ、その後の事は考えさせてくれ」


 紫苑にそう言うと、頷きを返してきた。


 「宗田、もし出てくなら声をかけてくれよ?」


 晃が俺を真っ直ぐに見て、自分の意志を伝えてくる。


 「分かった」


 晃は義理深いのだろうか、危険を犯してまで着いてくる必要性はないのだが、彼の瞳に強い意志を感じ、了承の返事を返す。

 ただ、正直なところ魔王次第である。あのアップデートがどう言ったものか分からない。もしかしたら、強力なモンスターが跋扈(ばっこ)する世界へと変わる可能性だってあるのだ。

 自分本意な考え方だが自殺行為のそれをするつもりはないのだ。出て行く事は確定事項、唯にとっても居心地が悪いし、俺としても疑念が膨らんだ。後は……タイミング。それだけだ。


 「急ですまないが、早速取りかかってくれ」


 それを合図に俺と唯と晃の三人は部屋から退出する。

 紫苑さんと真奈は後から来るとの事。


 「なぁ……宗田。これは独り言なんだけどよ、俺は死んだはずだったんだ」


 部屋を出てしばらくすると、晃が話しかけて来た。その内容は彼が殺された時の事、独り言と言っているから反応を示さなくてもいいのだと思う。


 「そう、はずだった。もう妹にも皆にも会えないと思ったんだ。それは、気が狂いそうになるくらい絶望的で悲しかった。それが俺の最後の記憶――なんだけどよ」


 死ぬ間際の記憶は想像を絶する物だったのだろう。晃の表情は険しく、小刻みに体を震わせていた。

 そこから、何も記憶がないと紫苑には説明していたが、


 「夢なのか、俺は誰に助けられたか見たような気がするんだ」


 覚えているのか?


 「それを伝えたかった。あー、だけどよ……男にお姫様抱っこされるのは勘弁して欲しいけどな」


 晃は断片的なのか覚えていると言う事のようだ。だけど、俺から何かしらの返答を望んではおらず、そのまスタスタと前を歩いて行ってしまった。


 「どう言う意味なんだろう?」


 唯は首を傾げそう呟き、俺は後で話すよと唯に伝え校庭へと歩みを進めた。


 「眩しい」


 唯は目を細める。

 学校の中は薄暗いのだ。所々に光源となるランプは設置されているが、昼間は節約のために消していた。そのせいで、校舎内と外の明るさのギャップに目がやられたようだ。


 「天気いいな」


 「そうだね。暖かいー」


 季節は秋。外は快晴。空っとした空気は哀愁を漂わせているが、今日は普段より空気が暖かかった。


 「おいおい。なんか、二人とも緊張感ないな。これから一世一代の大仕事だろうに」


 マイペースな俺達に呆れた様子の晃。


 「だってさ、こうなったらやるしかないだろ? 出来る出来ないの問題じゃないんだ」


 魔王の一件は予想外だった。出来ればもう少し素材となる鉄くずを集めたかったが、致し方ない。魔力吸収で不足する魔力を補いつつ、足りない分は強引に創りだすしかない。

 他に問題があるとすれば、頭の回路が吹き飛ばないかだろう。創造の魔法を使うと激痛が走る割合いが高いのだ。創造の規模によるだろうが、瓶を創りだしたそれとは比べ物にならないだろ。間違いなく――。


 「さて、やるかな。唯と晃は下がっててくれ」


 紫苑はまだ来ていないが、待つつもりはない。太陽が昇っていると言う事は、朝か昼。正確な時間の分からないのだ。だから、失敗した時を含めて少しでも早く行動に移して起きたいのだ。

 期限は0時。前回の始まりもそうだったのだから、間違いないだろう。それと、紫苑は恐らくさっきの出来事について、他の人達が不安を払拭するために何かしているに違いない。彼は前から何かしら予見していたし、それなりに準備を進めていたはずだ。

 なら、俺は自分のやれる事をさっさと始めよう。


 「宗田さん……無理しないで」


 「大丈夫だ。任せろ」


 俺は目を瞑り、意識を集中する。


 イメージは――創造


 創造物は――鋼鉄の壁


 第一条件――高さ三メートル

 第二条件――厚さ三十センチ

 第三条件――魔法にも物理にも耐久性有り

 最終条件――自己修復機能付き


 魔法の行使にはイメージが必要だ。欲張り過ぎた気もするが、これくらい強固にすればそう易々破壊される事もない。

 ただ、問題はそれに俺が耐えれるかだ。


 ――イメージは魔力吸収

 ――イメージは超回復


 魔法を連続で使用する事で、成功率を上げる。


 創造範囲――学校の敷地


 これは曖昧な言い方だが、どこからとこまでなのかを想像する事で補う。

 

 ――創造開始


 「――あぎっ!」


 魔法を発動と共に目の前が真っ白になった。

 

 「――宗田さんっ!」


 唯の悲鳴が聞こえた。

 あれ、俺は何をしようと――っ! 倒れてたまるか。前のめりに体が傾き、そのまま地面に吸い込まれそうになっていた。一瞬で意識を持っていかれる所だったのだ。


 「あぁああっ!」


 腹の底から雄叫びを上げる。

 目がプチっと潰れたミニトマトとなり、鼻からは液体が滴るのが分かる。脳が沸騰し赤茶色の液体が鼻を通って流れ出ているからのよう。

 ――地獄。

 本当に地獄に飛び込んでしまったようだ。

 灼熱の業火に焼かれたように、体全体が熱い。超回復で即座に傷は塞がるが、それを上回る勢いでズタボロにされる。

 溶けた皮膚がボトリ地面に落ち、再生し、また落ちる。それが積み重なり不安定な建造物となると、あっという間に崩壊し地面に広がった。

 目を背けたくなる光景――だけど、どうにか魔力吸収、超回復で拮抗していた。

 しかし、それが遂に崩れる事となる。

 ギリギリの所で拮抗していたパワーバランスだったが、遂にそれが崩れる事となる。


 ――さんっ!


 唯がこちらに近づこうとしているのを、晃が止めている姿が見えた。


 鉄のスクラップを使い果たした瞬間、ごっそりと魔力を削られた。それは、先程までの比にならない。回復に回すリソースが完全に無くなったのだ。結果として、創造を止めず回復する速度を遅くする事で対応する。


 シーリス。


 ――イエス、マスター。


 生命を保てる限界まで回復を押さえてくれ。


 ――マスター……推奨出来かねます。今すぐ、魔力の行使を中止してください。


 いや、ここで諦めたら二度と出来ない。だから、やってくれ。


 シーリスに補助を頼む。


 ――承知……致しました。


 死ぬ事はない、だから渋々命令に従ってくれた。


 ――制御開始。回復力……生命維持のみ。


 シーリスがそう言った瞬間――あれ? 俺の全ての感覚が消えた。俺はどうなった? 魔法は止まってないのか?


 ――私の方で魔法は継続しております。ただ、このままではすぐに魔力が枯渇し――死ぬでしょう。


 シーリスは優秀だな。


 ――そうなる前に、強制的に魔法の一部を停止する措置を取らせていただきます。


 生存用プログラムゆえんか……。致し方ないが、俺の魔法が完成するまでどれくらいだ?


 ――残り四割と言った所でしょうか。このまま魔力を使い切ったとしても、進捗は一割も進かどうか。


 そうか。ありがとう。シーリスはこのまま補助を頼む。


 ――承知しました。


 さて、奥の手を使うか。


 イメージは――模倣


 模倣対象――神崎 唯


 唯……力を貸してくれ。


 対象能力――”時間回帰”


 模倣発動可能時間、残り二分。

 

 イメージは――時間回帰


 シーリスが俺の魔法を操作してくれているため、四つ目の魔法の使用が可能となる。

 

 対象者――斎藤 宗田


 逆行時間――十分


 これだけ戻せばいいだろう。シーリスに止められていたが、俺は自分の時間を戻す。


 ――発動

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