お出迎え
「ふぅ。やっとついたよー」
唯とベリルは敵とエンカウントすることなく、学校へと到着した。
「唯さん……ベリルちゃんも無事だったようね。紫苑から話は聞いたわ」
塚本 真奈は唯の無事を確認すると、少し残念そうな顔をする。この二人は犬猿の仲のようなものだ。だから、唯は真奈が顔をしかめた事はあまり気にしていない。
「ええ」
感情を込めない声で返事を返す。
「それは何よりで――」
「――唯ちゃん!」
すると真奈の背後からアリスが駆け寄って来た。
「良かった~」
「アリスちゃん、心配かけてごめんね。私も宗田さんも、それと――」
アリスがその場にへたり込むように座ると、唯は優しそうに声をかけた。全員の無事を告げようとした時である。
「――晃さん! 無事だったのか!? 俺、雫を呼んでくる」
剛も現れ、唯が担いでいる晃の姿を目にすると、目を見開き驚いた様子だった。慌てた様子で校舎の方へ走って行ってしまう。
「みんな勢揃い……もしかして、これから私達を探しに行く所だった?」
塚本 真奈、佐藤 アリス、海上 剛、そして他の間引きに出ていたメンバーが勢揃いしている。全員、いつでも戦闘が出来るように装備を整えていた。
「そうよ。紫苑から話を聞いて説得したの」
真奈が答える。
「そっか……ありがとう」
ぼそりと唯が呟くようにお礼を言うと、真奈は「どういたしまして」と返事を返した。
「紫苑さんから話を聞いてビックリしたんだよ。宗田さんが何かに襲われたって……しかも、唯ちゃんもそれを追って出て行ったって聞いて。でも、無事で良かった!」
「本当にごめんなさい……えっと、とりあえず何があったかちゃんと話すから。それと、二人も寝かせたいし、ベルちゃんも眠そうだからさ」
「そうだね。てか、どうしてベリルちゃんも一緒居るの?」
ベリルを見てアリスが不思議そうにしていた。
「ええと……ちょっとね。それも後で話すから」
ベリルの事をどう誤魔化したらいいのか、思いつかなかった唯は、強引に話しを切り校舎に向かおうとする。
「真奈さん、一つお願いがあるんだけど」
「あ、あなたからお願いなんて珍しいわね。何かしら?」
一度、唯に恐怖心を植え付けられ真奈はその相手からのお願いに警戒心を抱く。それでも、皆の前で取り乱す訳にいかないと、どうにか平常心を保つ。
「警備隊の皆は全員学校に戻ってる?」
「ええ、今日も全員無事に戻ったわ」
「そう……それなら良かった」
唯は安堵する。
「それでお願いなんだけど、真奈さんの指示で全員を学校から出さないようにして」
「それは……どう言う事かしら?」
「詳しい説明は後でするけど、外に出たら命は無いとだけ言っておくね」
佐川 葵の分身体は今も恐らく宗田達を探しているだろう。その状態で他のメンバーが外に出れば、どうなるか目に見える。だから、その隊長である真奈に外に出さないようにお願いしたのだ。
「……分かったわ。私は皆に伝えるから、唯さんは二人を連れてって」
「はい。お願いします」
――――――
――――
――
「――っ!」
長い夢を見ていたようだった。
「ここは……? 俺は? あれ、さっきまで戦ってたんじゃ――」
思い出した。
「あいつは――何処だっ!?」
俺は佐川 葵と戦っていた。いや、俺の体を乗っ取った憤怒が――彼女を殺した。
覚えている。いや、見ていたと言っていいだろう。まるで、テレビを見るかのようにあの一連の戦いを俺は見ていた。
俺が必死になって、倒した佐川 葵も分身体。憤怒が倒した奴もそう。それに、唯の魔法の秘密にベリルに……助けられた。
「――宗田さん!」
騒ぎを聞きつけたのか、唯が慌てて部屋に入って来た。
「唯……俺はどれくらい寝ていたんだ?」
上半身を起こし、唯に問いかける。
「だいたい二日くらいだよ。良かった~。このまま起きないんじゃないかって心配したんだよっ!」
涙目になった彼女の目元にはクッキリとしたくまが出来ていた。寝ていない証拠だ。
本当に心配かけたみたいだな。
「もう大丈夫だよ。ごめんね――」
そう言うと唯が俺に抱きついてきた。
落ち着く――唯の匂いだ。
唯から漂う甘い匂いが鼻孔をくすぐる。あまり時間が経っていないのに、懐かしく感じた。ずっとこうしていたいなと、抱きしめ返すが、
「寒くない?」
手先が冷たく、触れる肌もひんやりと冷えていた。寝不足による疲れと、大気の冷たさに唯の体が冷えてしまったようである。
「大丈夫だよ。えっ? きゃっ!」
「はーい。ちゃんと温まってね」
俺と入れ替わるように、唯を布団の中へと押し込める。
「唯は少し寝てくれ。つもる話しはその後にしよう」
「うー。宗田さんも一緒に寝ましょうよ」
そうしたいのは山々だが、如何せん狭すぎるのと二日も寝ていた事で眠くなのだ。
「まずは唯がちゃんと休む事」
むーとうねり声を上げるが、無視をする。
納得いっていないようだったが、寝息が聞こえてきた。相当疲れていたみたいだ。まだ、俺が起きたのに気づいてるのは唯しかいない。ギリギリまで寝かせてあげたい。
「さてと」
シーリス。
――イエス、マスター。ご用件はなんでしょうか?
良かった。無事だったのか。
憤怒が俺の体を乗っ取った時、シーリスにも何か影響が出ていたと思ったが、呼びかけるとすぐに返事が返ってきた事に安心する。
――はい。憤怒が再び封印された事でなんとか修復が出来ました。
修復と言う事は何かしら影響があったのか。
悪かったな。
――いえ……と言っても次はあの言葉に耳を貸さないでください。今回助かったのも奇跡……いえ、奇跡と言う言葉する生ぬるいです。
少し怒ってらっしゃる?
――そんな事はありません。世界が崩壊する可能性があったにせよ、私がこの世界で抹消される寸前でも、マスターは何も悪くありませんから。
やっぱり怒ってるじゃないか。でも、自業自得か。だめと言われながらも、自分の命惜しさに憤怒の言葉に従ってしまったんだから。
あの、謎の人物にも警告されたがそれすらも無視しているもんな。
所で……あの俺の中に現れた憤怒とは違う人をシーリスは知ってるか?
――error。お答えする事は出来ません。
つまり、知っているけど教えられないと言うことか。
なら、憤怒について教えて欲しい。
――可能な限りとなりますが、よろしいですか?
ああ、それで頼む。
――憤怒。それは、天使と悪魔が代理戦争をするための代表の一体。悪魔の王。魔界の七柱の一人です。
要するに魔王と言える存在ってこと?
――いえ、奴は正真正銘の魔王です。この地球に現れた自称魔王とは違い、神も天使も認めた最強の悪魔の一角。人に怒りと言う感情を植え付けた張本人です。
なるほど。それで、そんな奴がどうして俺の中に?
――申し訳ありませんが、お答えする事は出来ません。ただ、厳密にはあなたの中に存在するのは……error。やはり、だめでした。
シーリスはどうにか歪曲して、俺に何かを伝えようとしたのだろう。ただ、それもだめだったようだ。
いや、大丈夫だ。助かった。ちなみに今は、憤怒は大丈夫なのか?
――今の所は……ですが。彼は常習犯ですので、眠りから覚めれば懲りずに同じように事を繰り返すと思います。
そうか。何か対策はあるのか?
――対策……マスターが憤怒より強くなる事。それと……思い出す事ですかね。
思い出す事? 何を思い出せばいいんだ?
――申し訳ありませんが、それについては何も話せないようになっています。あくまで、私はマスターを生存させるプログラム。その主から外れる事は出来ません。
つまりは、何かを思い出すと自分に危険が迫ると言う事か? 気になるが、今追求しても時間の無駄か。
もう一ついいかな?
シーリスにもう一つだけ、質問をする事にした。
――イエス、マスター。なんなりと。
魔法――時間を操る魔法は存在しするのか?