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一触即発

 憤怒は動揺が隠せない。斎藤 宗田を演じる事で、ばれないだろうと踏んでいたが、


 「唯? 誰って宗田だけど……」


 「黙れ! 殺すぞっ! 宗田さんの声で、宗田さんの口で、宗田さんの匂いで、話すなっ! 私の目の前に立つなっっ!」


 完全にばれていた。宗田の記憶を遡る憤怒だったが、ここまで怒りを露わにする彼女の姿はない。

 唯は距離を取ると、敵意むき出しで憤怒を睨みつける。

 

 「くそっ!」


 なんでバレた? あいつはまだ完全に復活してないだろうに。最悪だ。

 唯の戦闘力は学校を含め最強。もしかしたら、今生き残っている人類の中でもトップクラスかもしれない。なにせ、あの佐川 葵を瞬殺。能力をフルで使えば、勝てる奴は人間、魔物含めてそこまでいないと思われる。それが、味方ではなく今は敵に回った。憤怒にとってこれほど不幸な事はないだろう。

 

 「ま、待て! 話せば分か――」


 「うるさい――死」


 ――やほーっ


 これから起ころうとしている事に、水を差すような能天気な声が聞こえた。


 「お兄さんにお姉さん、こんばんわ」


 ベリルが突然現れた。


 「ふぁー。眠い眠い」


 憤怒と唯の間に割って入る。


 「ベルちゃん、危ないからどいて」


 「お姉さん、ダメだよ? お兄さんの肉体を壊したら、中身が本当に死んじゃうから」


 「えっ? どう言うこと? 目の前の宗田さんは偽者じゃ……」


 「んー、厳密に言えば中身は偽者だよ。だけど、肉体はお兄さんのだから。魂が戻る所がなかったら本当に死んじゃうからね」


 ベリルの言葉を聞いた唯は構えを解いた。


 「かーーっ! 最悪過ぎるだろうが! なんで、ババアまでここに現れんだよ! 学校に居るはずだろ? ふざけんなっ」


 「ムキーッ! ババアとか酷すぎるっ! 憤怒ちゃんでも怒るよっ!」


 「あ、ああっ! ババアをババアって言って何が悪い? この世界に召喚された事でも前代未聞だっつーのに、ここに現れるとか意味わかんねー」


 ベリルが現れた事は憤怒にとって予想外の出来事だった。最初こそ感情を露わにしたが、両手を肩の高さまで上げると降参と言った感じで、諦めた様子である。


 「もう、好きにしろ」


 「宗田さんを返して!」


 憤怒のその一言に、唯が感情を隠しもせず迫る。


 「まあまあ、お姉さん落ち着いて。ドードーだよ。それに、ほら。そこで人が寝てるんだから静かにね」


 右手の人差し指を立て、それを唇に当てると静かにするように促す。


 「この人は……誰?」


 「雫お姉さんのお兄さんだよ」


 「おい。ババア、一つ聞かせろ」


 「ん? 憤怒ちゃん、何かな?」

 

 「ちっ……、憤怒ちゃんは辞めろ。てか、何処まで見てやがった?」


 「もちろん――全部だよ」


 「クソ野郎」


 憤怒はばつが悪そうに顔を背ける。


 「それで、お姉さん。お兄さんを戻す方法なんだけど、僕に命令してくれれば今回は――それで助かるよ」


 「ベルちゃんに命令? 助けてって?」


 「そうそう! なんたって、僕はお姉さんに召喚された精霊(・・)なんだから。何でも命令していいんだからね?」


 えっへんと胸を叩いて誇らしげなベリル。


 「ただね……代償として魔王に連れてく為に貯めた魔力の半分はなくなっちゃうんだ」


 「半分……も?」


 「おい! お前ら勝手に話を進めるな! また、あそこに戻るなんてごめんだぞっ!」


 「憤怒ちゃん……ダメだよ? その肉体はお兄さんのものだからね? 大人しく中に戻ってもらわないと」


 憤怒を見たベリルは少しだけ悲しそうな表情を見せる。それを見た憤怒は、納得がいかない様子だったが、好きにしろと言うとドカりとその場に座り込んで胡座をかく。膝を肘おきに、頬を手の平に、そっぽを向いて、まるで思春期の子供が両親に反抗するような姿であった。


 「半分で宗田さんは助かるの?」


 「もちろん! 今回、僕がこの世界に召喚されたのは奇跡なんだよ? もし、僕が居なかったらお姉さんがお兄さんを殺すか――世界が滅ぶだけだったよ。うんうん。本当に運が良かったね!」


 満面の笑みを見せるベリル。


 「それなら、ベルちゃんお願い。宗田さんを戻して」


 「らじゃっ!」


 唯に向かって敬礼をする。


 「ちっ! 好きにしろ」


 憤怒は何も抵抗するつもりは無いようだった。目をつぶり口を閉ざすと何も話さなくなる。

 

 「それじゃっ! 始めるね――」


 ベリルはぶつぶつと日本語では無い、聞いたこともない言葉で呟く。

 そして、憤怒に向けて手を伸ばし、手の平を向けた。

 

 「憤怒ちゃん、また会おうね」


 「それはごめんだ――■■■■。あばよ」


 最後に一言、言葉を交わすと憤怒……もとい宗田がその場に倒れてしまった。


 「――宗田さん!」


 唯が側に駆け寄り抱きかかえる。


 「大丈夫だよー。少し寝てるだけ。ふぁー……僕も眠いや。にゃむにゃむ」


 ベリルは眠そうに目を擦る。


 「ベルちゃん、お家に帰ろうか」


 「うん。もう遅いし早く帰ろうー」


 「ただ……どうしよう。宗田さんと、晃さんだったっけ? このままにする訳にいかないし……」


 唯の怪力を使えば二人を運ぶ事はできるが、この状態で襲撃に会うのは避けたい所。


 「よいしょっと……ふぅ。それにしても後、何人居るんだろう」

 

 結局、妙案が浮かぶ事はなく、唯が二人を運ぶと決めたらしい。ただ、その後に続く言葉から、ここに至るまでに何回か葵と遭遇したと言うことなのだろうか。


 「たいして強くないけど……めんどくさいんだよね」


 宗田と憤怒が苦労して倒した佐川 葵も、唯にとっては少し強いゾンビ程度の存在なのだろう。鬱陶しくは感じるが、強敵とは思っていないみたいである。


 「ベルちゃん、あんまり離れないようにね」


 中性的な顔立ち。十歳くらいの背丈に、男か女かも分からない。自称”精霊”と言っているものの、その正体は謎のままである。

 

 「お姉さ~ん。眠いよーっ」

 

 「うんうん。もう少し頑張ってね。お家についたらちゃんと寝ましょう」


 はーい。と返事をしてとぼとぼと唯の後ろをついて行く。こうして見ると年の離れた姉妹のようにも見えるが、銀色に染まった髪は日本人のそれとはかけ離れている。


 「あっ、お姉さん。そっちにゾンビいるよ~」


 「はーい」


 「そっちには、白いゾンビー」


 「はいはーい」


 ベリルが周囲を索敵し、その指示にしたがって唯が進む。まだ、ベリルと出会う前、声だけで唯に存在を知らせていた時、度々キケンな存在を教えてくれていた。

 それは、具現化した今も健在のようである。おかげで、今の所は敵とエンカウントしないで済んでいたが――


 「そっちには、虫のお姉ちゃん」


 「それは――始末しないと」


 「ええ! ダメダメ! 今は帰るのが先決でしょ!?」


 虫のお姉ちゃんとは、恐らく佐川 葵。

 それを察した唯は好戦的になる。そのまま葵の方へ向かおうとするのをベリルが慌てて止めた。


 「だって……あいつ嫌いなんだもん。しかも、虫みたいに気持ち悪い姿になるし……できれば、害虫は潰して起きたいよね」


 宗田に対して見せたことのないような邪悪な笑みを浮かべが、


 「もう! お兄さん達が居るんだから、我慢してね。それに、その取り巻きみたいな小さい奴らもたくさん居るし、守りながら戦うのはこっちが不利だよ」


 どうにか唯を宥めると、渋々と行った感じで葵が居るであろう方向とは別の方向へと歩きだした。

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