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勝てない事実

 宗田が使用した魔法――時間回帰

 その名の通り、時間を逆転させる効果があるのだろう。時を刻む針の動きが速くなると、晃にも異変が訪れる。顔から生えた足がポロポロと砕け、光の粒子となり消え去る。

 首が生え、胴体が、手足が、遂には人の形へと姿を変えた。


 「……何をしたの?」


 「はっ! 見れば分かるだろ? 元に戻したに決まってるだろ」


 宗田は葵の問いかけに鼻で笑いながら答える。


 「どうやって……戻したの?」


 「どうも何も、あの女……今は神崎 唯と言ったか? そいつの魔法を使っただけだ」


 いつの間にか晃を包むベールの中の時計は、左回りから右回りに、未来に向けて時を刻み出していた。

 宗田は晃を見やると、満足気な顔をして地面へと降ろす。


 「ちゃんと――生きてるな」


 晃の意識はなく、目は閉ざされているが胸が上下していた。


 「さて……、あいつの魔法で治された気分はどうだ?」


 嘲笑するように、そう言い放つ。葵は苦虫を噛み締めたような表情で宗田を睨みつけた。

 だけど、意に介する事なく宗田は挑発を続ける。


 「なに、貴様ではあの女に勝てないと言うことだ。魔法でも勝てなければ……女としての器でもだ」


 宗田の言葉を耳にして、顔を赤らめ睨みつける。

 

 「所詮、その程度。何、貴様はあいつ以下だって事だ」


 宗田は晃に魔法をかけると、鼻で笑い挑発的に葵にそう言葉を放った。

 あからさまな挑発とわかっていながらも葵は耳まで真っ赤にさせ、怒りを隠しきれない。もちろん、宗田に扮した”憤怒”もそれに気づいている。嬉しそうにニヤリと口元を吊り上げ、満足そうに葵の事を見やる。


 「そんなこと――」


 ない、と叫ぼうとした葵はその言葉を途中で飲み込んだ。もし、このまま叫んでしまえばそれに合わせて飛びかかってしまいそうだったのだ。

 怒りに我を忘れそうなるのをぐっと堪え、宗田の体を乗っ取った憤怒を睨みつけるだけでどうにか衝動を抑える。


 「ほう……こちらに向かって来ないか」


 葵が襲いかかってくるだろうと、宗田は思っていが、結果は思っていた事とは違う。だけど、悔しがるどころか何処か関心した様子である。


 「さしずめ、色欲が認めただけある。俺の力が落ちていると言えど……耐える(・・・)とはな」


 その言葉を聞いた葵は、何かに気づいたかのように我に返る。


 「ふむ。少しばかりこの体は貧弱すぎないか? ここまで力が落ちるとは」


 やれやれと言った様子で盛大にため息を吐く。


 「もしかして、宗田さんが何かしたんですか~?」


 葵は自分の身に起きている異常……この怒りの根本的な原因は宗田にあると見ている。

 憤怒と呼ばれる彼、人の感情の一つを司る悪魔。恐らくだが、人間にとって側に居るだけでその存在は毒となり得る。つまり、少しの事でイラついてしまうのは宗田が原因ではないかと考えた。


 「さて……それはどうかな?」


 宗田はそれに答えない。むしろ、手のうちを明かすような真似をする方かが馬鹿である。ただ、心理的な混乱と迷いを生じさせるには効果的と言えよう。

 その影響で葵も行動に移したくとも移せないでいる。 


 「……ずるいです~」


 できる限り平静を装うが、葵の中でそこまでの余裕はない。逃げる算段を考え、こうして話してるうちに脱出を試みようとするが、何かに体を押さえられているかのように動かないのだ。

 ずるいと呟いた葵だったが、今の宗田はまさにチートと呼べる存在だ。頭を潰しても死なず、能力の行使に関しても本体を上回る。更に言えば、側に居るだけで、精神に異常を来すような状態異常すらあるのだ。普通の人間なら手の平の上で転がされているだろう。

 色欲の使徒。別の悪魔に認められた存在だからこうして対峙する事は出来る。ただ……あくまで出来るだけでそれに抗って打ち勝つとは話が別だ。


 「まあ、これから死ぬ奴に話す必要もないだろう。では――」


 そうこうしていると、宗田の方から動き出した。


 「リロード――時間停止(・・・・)


 残り時間僅かの模倣の能力を入れ替える。時間回帰に加え、またも聞いた事のない能力だ。

 

 「本当に……便利なものだ。人間には過ぎた能力……か」


 能力を使用した宗田は何か思う所があったのか、一瞬何か考え込む素振りを見せる。


 「まあ……いい。今はこいつをどう――料理するか。一息に殺してもいいが、出来れば本体の居場所を吐かせたい。とりあえずこれは邪魔だ」


 彫刻のように動かなくなった葵。時間停止の名前の通り、世界が静寂に包まれた。

 宗田はおもむろに背中から生えた腕を見る。そして、右手に黒い炎を纏わせた。


 「加減が……難しいな」


 まだ成長途中の能力にもどかしさを感じる。一気に焼き払いたいものだが……そうすると、また魔力が枯渇する。

 常時、魔力吸収を発動しているが、入力に対し出力が上回っているためすぐに底をついてしまう。威力を押さえながら、炎を薄く伸ばす。インドで使われたカタールと呼ばれる武器のように、拳を纏うように小さく黒い刃が完成する。

 短く先端が尖っており、切る事より突く事に長けているように見える。だけど、そんなのお構いなしなしに横に振るうと、葵の背中から生えた腕がポロリと切り落とされた。まるで、木の枝が落ちるかのように残りの腕が全て無くなった所で――


 「――ギ……ギャァあアッッ!」


 模倣の力が終了すると同時に世界に時間が戻った。

 天を衝くかのような叫び声。大きく仰け反り、その場で、のた打ち回ると屋根から転がり落ちた。

 

 「ハハハハハッ! どうした? 追い詰めていた奴に逆にやられる気分はどうだ?」

 

 下に落ちた葵を見ながら、高笑いする。

 痛みで起き上がる事が出来ないようだ。海老のようにピクピクと痙攣を起こし、穴と言う穴から液体を漏らしている。これで、気を失っていない事の方が奇跡と言えよう。

 本当であれば簡単に命を絶つ事も出来たであろうが宗田はそうしなかった。彼女の本体の居場所を吐かせるために、わざと生かした。そして、彼は次の行動へと移るため、屋根の下に降りると彼女を強引に持ち上げた。


 「よっと……。どれ、次は――目をもらうか」


 彼女を持ち上げた手と反対の手を右目に突っ込む。そして――


 ――ぶちぶち


 手を引っ込めると同時に嫌な音がする。 


 「――かっ……あぃぃあ……」 


 「こんなに目が飛び出してると、簡単に取れるな」


 宗田の拷問紛いの行動に、葵は言葉を上手く発する事すら出来ない。情けなく口を開け、舌を垂らし唾液が泡立つ。痛々しい光景に、万人なら目を逸らすだろう。

 だけど、宗田はさもつまらなさそうに葵を見やる。


 「どれ、これで本体の場所を話す気になったか?」


 意識を失いかけている葵にそう問いかけた。

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