表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

169/184

残酷な真実

 「それでは~。話を続けますね~。と言っても、そこからは実験を繰り返して、この能力について知る事を深めたくらいですかね~」


 ――マスター。冷静に。


 ああ……。大丈夫だ。シーリスの問い掛けに返答する。


 「そして、最後の実験があそこ。ホームセンター『ケーツー』です~。逃げたと言うか、逃げたふりをしてたんですが。中に入ったら、予想以上に人間がたくさん居て、興奮が止まりませんでしたっ! もう、最高ですよっ!」


 狂ってる。こいつは生かしてはいけない。早く殺せ。


 「しかも、運が良いことに勝手にゾンビがたくさん集まって来たんですよ~。そこから、建物の中は混乱。人々の悲鳴、叫び、泣き声、阿鼻叫喚の様相。だ、か、ら、私はこう言いました」


 ――『首を吊って死ね』


 やっぱり、あの状況を作り出したのはこいつだった。サソリ型の魔物も知らないと言っていた。いつか、犯人と出会うかもと思ったら――最悪だ。


 「そうして、私の実験は終了。十分なデータが取れたのでそこからおさらば。そして、二人に出会ったんですよね~。いや~、能力の範囲を知りたかったんですが、あそこに居た”男”全員に効果を及ぼすとは思いませんでしたよ。だけど、おかげで、女、子供の悲痛な顔が今でも忘れられなくて、私のいい思い出です~」


 「おい……。その後、どうした?」


 「その後ですか~? 特に何もしてませんよ? 私の能力は魔物には男でも女でも関係ないんですよね~。だから、白いゾンビを捕まえてその場から逃げました~」


 俺は居ても立っても居られず、彼女に飛びかかろうとした。


 「あっ! そうでした~。私が逃げる時に――壊しちゃったんです~。バリケードを」


 人間が本気でキレた時って、記憶が無くなるって言うけどそんな事はないのだなと思った。気づいたら、俺は彼女に飛びかかり唐紅の剣を振るっていたのだ。それを、空から眺めている自分がいるようなおかしな感覚。RPGゲームの主人公を操作しているようだった。

 怒りと言った感情もなく、淡々と、自分と言うキャラクターを操作している。ボタンを押して繰り出される攻撃を、彼女は余裕の表情で彼女は捌き、俺に反撃を加える。レベルの差は歴然、彼女はまったく本気を出していなかった。

 ブーストも何もない、通常の状態では彼女には敵わない。怒りに身を任せても、能力が大幅に伸びる事もないのだ。ついさっき、彼女との戦いで魔力の殆どが残っていない。本当であれば、撤退するのが最善の策だが、さっきの話に踊らされ、それに乗っかってしまった俺の負けである。


 「宗田さんは~。良く頑張りました~」


 幼稚園の先生が園児に語るかのように、慈愛に満ちて優しく言葉をかけてくる。だけど、それとは裏腹に俺の体は暴力に襲われた。


 「ぐうっあっ!」


 右の側頭部に鈍器で殴られたような衝撃。そして、すぐさま頭を掴まれ地面のそのまま叩きつけられた。


 「あ~、やり過ぎちゃいました~。ちゃんと生きてますか~」


 確かめるように、持ち上げ俺の顔を覗くように見た。多眼がギョロギョロと蠢き、俺の生存を確認している。


 「良かったです~。ちゃんと生きてて偉いですね~」


 どうにか、反撃を試みるが彼女にはそのどれもが通用しない。


 「宗田さんの攻撃は、どれも同期して見ているんで通用しません~」


 やっぱり、この佐川 葵は俺が倒した個体とは別の個体なのだろう。最初の彼女……仮にAとすると、彼女は完全に死んだ。それは間違いない。それでは目の前に居る個体Bが記憶を同期したとしてどこから?

 Aが死んでいるんだから、個体Cが存在するのか、それともデータベースのような、記憶を保存する媒体が存在するのか……。

 どちらにせよ、彼女……佐川 葵は複数存在すると言うことは確定的だった。


 「お前は……何人いるん……だ?」


 「おや~。気づいたんですか~? それは……内緒ですよ~。流石に宗田さんのお願いでも、ダメなのはダメなんです~」


 つまり彼女の言い方から最低でも、もう一体の彼女が存在する事になるのか。


 「それに~。本当は私も早くここから離れないといけないんですよね~。二人もやられちゃったんで、これ以上の損失は避けたいんですよね~」


 二人? もう一人は誰が?


 「でもでも~。せっかく宗田さんを好きに出来るチャンスなんですよっ! 私、我慢出来ません~。あー、宗田さんの苦しむ顔を、早く見せてください~!」


 「おいっ! 辞めろっ! ぐうっ!」


 彼女はその辺に落ちていた鉄のパイプで俺の両手を串刺し、民家の屋根に縫い付けた。


 「後は~、足もですね~。よいしょっと!」


 「――ギぃっ!」


 痛みで体が跳ね上がる。


 「手術の準備完了です~」


 どうにか、外そうと暴れるがビクともしない。


 「流石ですね~。普通の人であれば、この段階で悲鳴をあげて助けを乞うんですが~。彼もそうだったんですよ~?」


 彼……って晃の事か。こうやって、彼女の良いようにされてあんな姿にされてしまったのか? しまいには、無惨な事に……。

 

 ――いつまでそうやって寝そべってるんだ?


 「だ、れだ?」


 「えっ? 宗田さん何か言いました?」


 俺は今の声の人物を探すため視線をキョロキョロと動かした。


 ――あー、くだらねえ。さっさとそいつを殺せよな。


 誰だ? 何処にいる?


 ――マスター、ダメです。その声に耳を――


 ――うるせぇっ! お前は黙ってろっ!


 シーリス? いったい何が起きてるんだ? 俺は軽いパニックになる。


 「ん~? どうしたんですか~? 壊れちゃいました? あっ、そう言う風に見せかけて、体を捌いた瞬間に血で襲ってくるつもりですかね。させませんよ~」 


 彼女が何かを言っているが、上手く頭に入ってこない。


 ――なぁ、許せないんだろ? お前の仲間が殺されて、しまいには大勢の人を殺されたんだろ? なぁ、許せないんだろ?


 ……そうだよ。許せない。


 ――こいつが憎いか?


 憎い。腹が立つ。俺を裏切って、仲間を殺した。


 ――ならさー。さっさと俺を解放しろよ。一瞬で消し炭にしてやるからよ。ヒヒヒッ!


 解放? どうやって? 


 ――なに、あの黒液体に浸かってくれればいいんだ。なぁ、出来るだろ?


 あの変な空間にあった液体にか?


 ――ああ、そうだ。あいつらのせいでだいぶ少なくなっちまったが、お前の体を飲み込むにはまだ十分なくらいにある。


 いや……それは出来ない。


 ――はっ、ならむざむざ死ぬのか? 今のお前が仮にコイツを倒しても、また別の奴が現れるかもしれないんだぞ? そしたら、どうする? お前のお仲間さんと同じ末路を辿るのか?


 この、謎の声が言う事も一理ある。だけど、黒いマントを羽織った人物曰わく、世界が終わるかもしれないと言っていた。そうなれば、佐川 葵がもたらした被害なんてレベルの話じゃない。

 

 ――あーあ、せっかくお前を助けてくれた奴が虫みたいに潰されて死んだってのに冷たい奴だな。それに、大勢の人間を見捨てたんだろ? それを殺した張本人が目の前に居るじゃないか。仇は討ちたくねーのかよ?


 そんな訳あるか、今すぐにでもコイツを――殺したい。


 ――なら、何を躊躇している。早く俺の名前を叫べ!


 「次は唯ちゃんを殺さないとなんで~。手短に済ませないとなのが残念です~。本当は目の前で、解体される姿を見せてあげたかったんですが~」


 「お前……唯に何かしたら――」


 「――あっ、もう遅いですよ~。だって、さっき」


 「唯に何をした! お前、唯に何かしたらぶっ殺してやるっ!」


 「へへへぇ~。今ごろ大きな怪我をして苦しんでるんじゃないですか~」


 いや、唯に限ってまさか? だけど、佐川 葵の強さならもしかして……。さーっと血の気が低く。一気に氷点下まで気温が下がったかのように、体が強張り震えた。


 「答えろ! 唯に何をした!」


 「それは~。秘密です~。どのみち宗田さんは死ぬんですから、もう関係ないですよ~」

  

 にたりと笑った彼女に底知れぬ憎悪が生まれた。さっきまで感情の高ぶりを抑えつけられていたが、鎖が引きちぎられたかのように解き放され、俺の心を怒りが支配する。

 心臓の鼓動が異様に速い。体、全体にこの怒りを送り出すポンプの役割をしているようだった。晃を殺させ、大勢の人を殺し、あろう事か唯にまで手を出した。俺の中の何かが完全に――キレた。


 ――ヒヒヒッ! 来た来た。さぁ、俺を呼べ!


 イメージは――――”憤怒”

いつもご愛読ありがとうございます。

よければ、

ブックマーク、評価、感想、よろしくお願い致します。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ