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狂気と狂気

 あれから数十分ほど、宗田さんを探しましたが見つかりません。


 「ご……はん、ごはんだー!」


 「はいはい。私は食べ物じゃありませんよーっ」


 時折現れるゾンビとグール。今も目の前に現れて、私の事を食べようとしてくる。

 私を食べていいのは宗田さんだけっ。きゃっ、恥ずかしいですねっ。


 ――バンッ!


 破裂音の後に水気を帯びた音がする。


 「あれ? 死んじゃった?」


 今、現れたグールの首から上はどこへとやら。粉々に粉砕され地面に雨のように降り注いでいる。

 これ、私がやったのかな? ハンマーを見ると、血でべっとりと赤く染まり、皮膚の一部らしきものもこびりついていた。


 「宗田さんが居ないと、自分を制御出来ませんねー」


 いつもそう。宗田さんが居ると、力をセーブできるんですが、居ないと歯止めが効かないんですよね。だから、なるべく彼が居ない前では力を使わないようにしているんですがね。これも、恋のパワーでしょうか? 好きな人の前ではか弱くなるようです。


 「宗田さーん! 何処ですかー?」


 時折、声を張り上げて呼びかけるが返事が返って来ることはなかった。


 「あ、この公園懐かしいですね」


 かつてネックリーと初めて戦った公園。数ヶ月の月日が経ち懐かしく感じる。殆ど肉を残していない、ネックリーだった残骸が二つ。まるで、首長竜の標本のような変わり果てた姿となっていた。


 「確か、あいつの両親だったよね?」


 あの当時は宗田さんと雌犬こと、佐川 葵がいた。それの両親が自殺した結果、ネックリーとなり宗田さんの家に襲撃し追い詰めた。両親といい、あの女といい、私からしたらいい迷惑なんですよ。せっかく宗田さんと二人きりだったのを邪魔してくれるわ、宗田さんの心を傷付けてくれるわ。あれ以来、ずっと逃がした事に負い目を感じてるんだからね。次に出会ったら私の手で葬り去ってやりますよ。


 「んー、ここにも居ませんね。宗田さんは何処にいるんでしょうか。こんな事なら――」

 

 ――あの時、一緒に行けば良かった。

 

 少しだけ……後悔です。


 「イライラするなー。ん?」


 足元に転がっている、彼女の両親のどちらかの頭蓋骨に足先が触れた。


 「邪魔」


 宗田さんが見つからず苛立ちが募る。足元にあった頭蓋骨が視界に入ると、裏切った彼女の顔を鮮明に思い出して瞬間的に怒りが増幅された。それを、力の限り踏みつけると粉々に砕け、骨の欠片へと形を変えてしまう。

 汚れないなくて良かった。怒りに任せ八つ当たりをしてしまったが、頭の中身が飛び散る事で足が汚れると思ったのだ。ただ、中身は腐り空っぽだったのか、脳漿が飛び散ることもなく足が汚れず私が心配した事は杞憂に終わった。


 「さ、また探しに行きましょう。あんな女の事を思い出しても時間の無駄だからね」


 ポツリ呟くと。


 「――あんな女とは私の事でしょうか~?」


 不意に背後から声を掛けられた。


 「――ッ!」


 おっとりとして、語尾が間延びする独特な喋り方に懐かしくもあり、腹の底から怒りが込み上げてくる。すぐに、その人物が誰かと分かると、振り返りながら距離を取るために跳躍する。


 「わっ、唯ちゃんも凄いですね~」


 公園の中程から、一気に端の方へとたどり着く。人間離れした動きにパチパチと乾いた拍手を送られるが、こちらを小馬鹿にしているようで余計に(はらわた)が煮えた。


 「人影が見えたから、宗田さんかと思いましたが唯ちゃんだったんですね~。お久しぶりです~」


 佐川 葵の登場には驚いたが、それ以上に彼女の口から出た言葉が気になった。


 「なんで、宗田さんの名前が出てくるのよ?」


 「だって~。今、彼を探してるですよ~。さっきまで一緒にお家に帰るって行ってたのに居なくなっちゃって~」


 つまりは宗田さんが戦ってた相手は、佐川 葵。あー、離れたのは本当に失敗した。私の、馬鹿! 馬鹿! 大馬鹿! でも彼女の言うことが本当なら――生きてる。そう思うと自然に口元がニヤけてしまう。


 「何を笑ってるんですか~?」


 彼が生きている事が分かればそれだけで十分。後は言葉も交わす必要はないわね。


 ――死ね。


 全力の跳躍は公園の地面をえぐり取った。


 「えっ?」


 ジェットエンジンで加速するがの如く、佐川 葵に迫る。突然の事に呆けている彼女は、まったく反応出来ていない。この一撃は手加減を一切するつもりはなく、放てばハンマーは壊れてしまうだろう。だけど、かまいはしない。

 何せ宗田さんも生きてるし、ここでこいつを殺せば凄い褒めてくれると思うの。ああ~、楽しみ。だから、このまま死んで――ね。


 「なっ!」


 「ひや~。びっくりしました~。突然なんて酷いじゃないですか~。私も不意打ちしないようにしたんですよ~」


 不意をついた私の攻撃は、彼女にヒットした。だけど意図した場所でなく、背中から生えた八本のうち、六本をクロスさせ防がれてしまう。残りの二本は体が吹き飛ばないようにと、自身の体を支えるため地に手をつけている。渾身の一撃の威力は凄まじく、衝撃波で周囲の木々を揺らし、更には佐川 葵が立っていた地面が陥没している。

 それでも、彼女の腕三本を粉砕するのがやっと。一瞬の拮抗の後、ハンマーが耐えきれず粉々に砕けちってしまったのだ。


 「痛いですよ~。お返しです~」


 「がっはぁっ!」


 細く長い紫色の手が私の左手首を握ると、他の余った手で手刀の形を作り大きく振り上げる。頭目掛け一直線先降りてくる彼女の攻撃は、食らえば確実に命を削がれるのは想像に難なくない。しかも、手を握られ避けるのも不可能な絶対絶命の状況だった。だから、その手刀に合わせて下から拳を突き出した。

 もちろん、素手の攻撃で無事であるはずがない。触れた瞬間、拳は砕け腕の中程から骨が肉を突き破り、右腕はだらりと皮だけで繋がっている状態になってしまった。死ぬよりはいいけど、痛すぎる。

 

 「おぉ~、凄いですね~。でも、早く死んでくれませんか?」


 もう一度、彼女が手を振り上げようとしていた。あー、これだけは痛いからやりたくないよ。でも……。

 自分の右腕に目を這わせると悲惨な状態に背けたくなる。だけど、その先端は鋭利に尖っており人の皮膚程度なら簡単に突き破れそうだ。

 粉砕された右腕からは、ズキズキと痛みが増してくる。今は神経が麻痺をしているから、この程度で済んでいるのかもしれない。ただ、これから訪れる激痛を想像すると背筋がゾワリと波立った。早くこの手から脱出しないと。歯を食いしばり覚悟を決めると、


 「えっ? ちょっと? 何をしてる……んです?」


 あいつの事なんて無視、無視。あー、痛い。ムカつくくらい痛い。だけど、これも宗田さんと結ばれる為の試練。そう考えれば嬉しくて涎がこぼれちゃいます。えへっ、ヒヒヒ、早く千切れてね。


 「ははははっ!」


 嬉しくて声が漏れちゃいました。そろそろ良いですかね? では、行きます。


 ――ブチ……ブチブチッ


 「あー、やっと取れた。危なかったわ」


 「唯ちゃん――狂ってますね」


 「え? あなたの見た目よりは遥かにましよ?」


 私の行動に戦慄を覚えたのだろうか。彼女の瞳に怯えの色が見えた。そこまで怯えなくていいんじゃないかしら? ただ、自分の腕を引きちぎりすいようにしただけよ? 刺すのは痛かったけど宗田さんのためなら、この痛みも嬉しくなっちゃいますよね。

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