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和解?

 「少しでも時間を短縮する事が出来れば大いに助かる。それに、生活の質が向上すればみんなの不満も解消されるだろう。だから、この魔石には水を供給するだけではなく、大きなメリットがある」


 力説する紫苑。

 そこまで熱く語られるとなんだか、恥ずかしくなってしまう。唯も同じ気持ちだったのか、ちらりとこちらを見ると、小さく肩を上げ困ったような恥ずかしいような表情を浮かべていた。

 

 「そ、そうですね。そこまで喜んで貰えると俺達も頑張って良かったです」


 「……本当にそう思うかい?」


 俺が素直な気持ちを伝えると、予想外の返答が返ってくる。

 

 「と言うと……?」


 「二人は命がけでこの魔石を持ち帰って来た。特にボス級の魔物となると命がけだっただろう。なのに、それをなんの見返りもなく渡すのだから……いや、なに、何かを疑ってるとかではないんだ。ただ……」


 紫苑は話を続ける。


 「見返りもなしに、このコミュニティーのために尽力を尽くしてくれて感謝している。ただ、それで不満が溜まってしまっては困ると思ってな」


 あー、なるほど。要するに不満が溜まって、それが爆発して離反、または出て行かれては困ると言うことなのだろう。


 「そう言う事ですか……。特に不満もないですよ。それに、俺達だけで使うよりは皆で使って貰った方がいいと思いますし……唯もそう思うだろ」


 「うん。私もそう思います。それに……仮にですよ。私達二人だけが生き残っても、いつまでも危険と隣合わせで生活をしなければいけない。それなら、皆で平和な生活を取り戻した方がいいじゃないですか」


 唯の膝の上に座るベリルも「そうだ、そうだ」と紫苑に向かって訴えかけていた。


 「ですので、気にしなくいいと私は思っています」


 見返りの有無に関しては今の所考えた事がなかったのが本音だ。

 紙幣制に支配された昨今。だが、今の世界では人間にとって価値のあった物は無意味な物へと変わり果てた。

 と、なれば今の状態で見返りを考えても欲しいものはなく、当然何かを強要するつもりもない。

 敢えて言うならば安全な空間の確保だろうか。それもついさっきまでは、この避難所がそうだとも考えていたのだが……紫苑に威圧された時の事がいまだに脳裏から離れてくれない。

 彼はもしかしたら味方では――


 「そうか……そう言って貰えるなら助かる」

 

 椅子に座り、机の上で手を組んでいた紫苑は安堵の言葉を漏らすと、肩を撫で降ろした。

 その姿を見るに、本気でこの件について憂慮していたのが伺いしてる。俺には演技には見えず、それが彼の本心であるかのように見えた。


 「二人がここから居なくなられては正直困る。このコミュニティーにおいて無くてはならない存在だ。仮に……何かあれば出来る限りの便宜を計ると約束しよう。どうか、これからも力を貸して欲しい」


 そう言って立ち上がると、彼はくの字に腰を曲げて上体を倒した。営業マンのように綺麗にお辞儀をした彼からは悪意のような物を感じない。

 隣に座る神崎 唯をちらりと見ると困ったように眉尻を下げてこちらを見つめ返してくる。


 「あう……えっと……」


 彼女はどう言葉を返したらいいか分からないようだ。

 ベリルはふーんっと鼻を鳴らしている。

 さて、俺はどうしたものか?


 力を貸して欲しいと言うことに関して、答えは「是」である。ただし、それは何も憂いがないことが前提となる。

 どうしても引っ掛かる部分があるとすれば、あの時に見せた彼の姿だ。その問題が解消されない限り、心起きなく力を貸す事ができない。

 ならば、今この場で白黒はっきり付けるべきだろう。


 「紫苑さん、頭を上げてください」


 俺はそう声をかけると、ゆっくりと状態を戻した。


 「力を貸すと言うのはもちろんです。ここで仲良くなった方もいますし、それに以前からの知り合いもいます。なので……全員が生き残れるように自分の力が必要であれば使ってください」


 「そうか。そう言って貰えると――」


 「――ただし、そうするためにも先程の件についてちゃんと理由を話してもらいたい」


 彼が言葉を言い切る前に、自分が今一番聞きたかった事を伝える。

 しんと静まり返える校長室。俺は視線を外さず紫苑さんを見ていると、彼もこちらを見つめ返してきた。


 ――ぞくりっ


 背筋をミミズが何匹も這うような感覚に襲われる。本能が逃げろと警告を鳴らしているようだった。だけど、俺はぐっとこらえ耐え忍ぶ。


 「ふむ」


 異様な雰囲気を醸し出した竹内 紫苑。

 その雰囲気を感じ取ったのか、隣に座った唯はベリルを床に降ろすと立ち上がった。

 緊迫した空気が俺達を支配する。すると、紫苑が口を開いた。


 「それは……すまない事をした」


 開かれた口から出た言葉は謝罪の言葉であった。


 「少し、試したい気持ちになったのだよ。警戒させてすまない」


 「……試したいってどう言う事だ?」


 「なに……真奈が自分よりも二人は強いと認めていてな。それが真実か見てみたくなった。だから、少し威圧したらどう言う反応をするか気になったのさ」


 素直にその言葉を信用する事はできない。


 「脅すような真似をしてすまなかった。今ではこうして、コミュニティーを取り仕切っているが、ここに来るまで何度か死線を乗り越えている。もちろん……真奈の実力を何度も目の当たりしているんだ」


 紫苑は話を続ける。


 「あれほどまでに強くて、綺麗な彼女。君達二人のような強力な味方が現れてくれて頼もしく思う反面…………認めたくない自分がいたのさ」


 彼も魔法使いと言っていた。確か風を操るんだったか? それなりに戦う事は出来るのだろう。

 彼の感情は”嫉妬”のそれに近いのかもしれない。


 「だからって軋轢を生むような真似をしなくても良かったのでは?」


 「確かにそうだな……うむ。これに関しては私の落ち度だ。どうしても自分の目で”威圧”に耐えれるか試したかった」


 「……威圧?」


 「ああ、とりあえず便宜上そう言ってる。何、これを使用すると相手の竦み上がらせる事ができるのさ」


 と言うことはあの時感じた寒気はそれの影響なのか?


 「たいした能力ではないが、相手の力量を計るのには便利。ゾンビですら動きを鈍らせる事が可能だ。特に自分より格下になるとその場から動く事も声を出す事も不可能になる」


 ゾンビが│跋扈ばっこする世界においてはチートのような能力じゃないだろうか?

 だけど、それと真奈と俺達の力関係にどう関係するのか。


 「今までに私の威圧に耐えれた人間は真奈と……宗田君の二人。それに加えて、真奈が言っていた事を加味すると……どうにも君達は彼女以上の力があると認めざるえないだろう」


 そう言い切った紫苑は目を伏せ、口を噤んだ。事実を事実として認めようとしているのが見て取れる。

 

 紫苑さんの気持ちは分からなくもない。幼少期によくある事だが、自分の好きなアニメのキャラクターが他のキャラクターに負けたりすると、どうにか相手の揚げ足を取って認めようとしない。それに近いものではないだろうか?


 「本当にすまなかった……。特に君達に害を及ぼすつもりはない。これだけは信じてもらいたい。それと、ベリル君も巻き込んでしまってすまない。まさか、この時間に人が来るとは思わなかった」


 だから、ベリルを見て驚いていたのか。

 一応の謝罪をもらい、和解したと言うことでいいのか? 臨戦態勢となっていた唯も、肩の力を抜いて椅子に座り直した。


 「分かりました……紫苑さんを信じます」


 緊張感から解放された俺は寝て起きたばかりだが、どっと疲れを感じた。こう言うことなら勘弁してもらいたいな。

 一応信じても問題ないかな? だけど――

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