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弱点は

 「あぐっ! 熱い――なっ!」


 魔力吸収を発動して、サソリ型のアンデットの6つある足の真ん中の足を左手で鷲掴みにする。灼熱の炎で熱された影響か、熱々に熱した鉄のように高温となり触れた手の平を焼いた。香ばしい自分の肉が焼ける匂いが鼻の奥に届く。

 肉が焼かれる事と、超回復による再生。魔力吸収による魔力の回復。全てが重なり拷問のような行為が繰り返される。たまらず、握る力が弱くなるが、


 「離してたまるか!」


 気合いを入れ直して再び力を込める。問題はあの尻尾だが、”アサルトライフル”の魔法で撃ち抜かれ、焼かれる顔を再生させるために首を切り落とすのに必死で俺に構っている余裕はないようだ。

 不死身とも思えるサソリ型アンデットの再生能力。妹の反応から恐らくはこの体に能力の秘密があるのだろうと思う。ならば、アンデットの動力となる魔力を吸い取る事でそれを阻害できないかと試しているのだ。


 「や、やめ……やめろ、ま、は、はなぜっ!」

 

 焼かれた姉の顔が半死半生となり襲いかかってきた。妹達とさほど変わらないくらい、焼けて爛れ酷い有り様だ。その瞳には、憎悪のような殺意の籠もった感情が浮かんでいる。

 掴んだ手を離すと、べりっと何かが剥がれるような音がと同時に鋭い痛みが走った。体が強張り硬直しそうになったが、顔ごと突っ込んできた姉の頭を踏み台にして飛び上がる。


 「いい加減に――くたばれっ!」


 落下する体の力を利用して、頭蓋の天辺から脳を串刺しにする。そのまま後頭部の方へ力を込め、唐紅の剣で海老の腹をかき切るように頭蓋を裂いた。


 「もっと、魔力を寄越せ! っ! あぁああっ!」


 雄叫びのような声を上げて再びサソリ型のアンデットの足を掴む。


 「シーリスッ! 魔力を一気に吸い出す事はできないのか!」


 ――イエス。マスター。触れる面積を増やせばそれだけ魔力を吸収できます。


 流石だっ! ――ならば、触れる部分を手だけじゃなく体全体で。


 「唐紅の剣――解放。赤の壁『赤壁』! 俺を包め!」


 唐紅の剣から通常のサバイバルナイフへと戻る。赤壁を発動するが、血液が圧倒的に足りない。ならば――もっと増やすだけだ。


 「――ぁぁあああっ!」 


 首の横にナイフを当てる。それを力の限り引くと、噴水のように赤い液体が吹き出た。超回復があると言えど、自分で自分の喉を切ると言う常軌を逸脱した行為はかなり勇気が欲しかった。だけど、どうにかなったようだ。これまでにない大量の血液が俺の体を覆う。のそのそとアンデットの背中に登と、俺を振り落とそうと辺り構わず暴れ出した。

 ドンっと強い衝撃が伝わってくるが、恐らくは背中の尻尾で突き刺しているのだろう。だけど、大量の血液で作り出した血液の壁を破るまでにはいたらなかった。

 今も灼熱の炎に焼かれるサソリ型のアンデットは暴れのた打ちまわる。だけど、必死に背中へとへばりついて振り落とされないよう踏ん張って耐えた。うつ伏せに寝そべり体全体で魔力を吸収すると、シーリスの言う通り手の平で吸収する以上に大量の魔力が体に流れ込んできた。


 「は、離してたまるかっ!」


 まるで遊園地のアトラクションに乗っているかのように重力を感じると、体がサソリの胴体から引き剥がされそうになる。それを、関節のような部分に手を入れてどうにか耐えるが、


 「このままだと……まずいな」


 残り少なかった魔力はほとんど回復した。超回復に血液操作で莫大な量を消費しているが、体全体を使った吸収のおかげで消費する量に対し供給する方が上回ったのだ。このままでずっと耐え続けたいが、暴れ回った反動で下の階や外に落ちても厄介だ。


 ――イメージは真冬


 ――空気も音も生き物も


 ――全てが凍り活動を止める


 ――氷結空間


 ありったけの魔力を込めて魔法を解き放つ。


 「うっ!」


 急激に温度が下がる。吐き出す息は白く、一足先に冬が訪れた。

 このサソリ型のアンデットの胴体は、温度を通しやすいのか、凍てつく氷のように冷たく、触れた部分に刺すような痛みが走った。指先は凍傷を起こしたように青黒く、血液操作で作りだした赤い壁も、凍り崩れてしまった。


 「予想外過ぎるな……」


 サソリ型のアンデットの動きが完全に停止する。赤壁を壊れ周囲の様子がようやく確認できると、冷凍庫のようになった三階フロアの様子に言葉が漏れた。


 「てか、まだこいつ生きてるよな?」


 こんこんと軽く背中を叩く。一度凍らせたが死ぬことはなかった。今回は体の芯まで凍らせたが……恐らくは生きている。アドゥルバを倒した時のように、”神の声”がまだ聞こえないのだ。


 「一旦、降りるか……あー、毎回こんな苦痛を味わうのは勘弁して欲しいわ」


 首を切る事から始まり、熱く熱された鉄板の上に寝ていたと思ったら、今度は凍てつく鉄板に様変わり。火傷と凍傷を繰り返し治癒していたが、痛みがなくなるわけでもない。


 「しかも……かなり重度の貧血だわ」


 致死量を遥かに越える血液を失った。それも超回復でむりやり補ったが、背中から折りた瞬間膝に力が入らず仰向けに倒れた。


 「意識……あるだけでもましか」


 早くとどめを指そうにも指先一つ動かす事ができない。すると、


 「な、なにが……宗田さん、何処にいるの!?」


 扉を破壊するような音がすると、唯声が聞こえた。


 「こ……ここ、だ」


 力を振り絞り声を出すが、弱々しく大きな声を出すことができなかった。さっきまで普通に話せていたのだが……状態が悪化しているのか? 実際なら死んでいる量の血液を失ったのだから、その反動なのだろう。ただ、どうにか彼女に居場所を伝えて、この魔物にとどめを刺してもらわないと……。


 「宗田さ……ん? 何処?」


 動き出す前になんとかしたいのだが、妙味が思い浮かばず、しばらくはその状態が続いた。その間も彼女は俺の事を捜していたが、ちょうどサソリ型のアンデットの胴体の影にいるためなかなか見つからないようである。何か方法は……って、魔法なら使えるかもしれない。すぐにイメージを固める。初めて、使う魔法だけど上手くいくだろうか? ものは試しだ、


 ――イメージはカメラ


 ――闇を照らす光


 ――フラッシュ


 すると、俺の手から光が何度も迸る。成功した……。内心でガッツポーズを浮かべるが、こんなにホイホイと魔法が使えていいのだろうか? いまだかつて、思い通りに出来ないことはなかった。しいて言えば魔力が足りなくて気絶したとかはあったが、ここまで来ると魔法とは特殊なのか、それとも俺に何か(・・)あるのかもしれない……いや、今はいい。これについてはベリルかシーリスに後で聞いてみよう。


 「な、なに!? もしかして――宗田さん」


 俺に気づいた唯が走り寄ってくる。


 「うっ……す」


 「うっす、じゃないよ! 大丈夫なの!? 何があったの!?」


 立て続けに質問する彼女にその回答をしてあげたいが、口を動かすだけでもやっと。


 「もしかして……声が出せないの?」


 小さく頷きを返すと、彼女は俺を担ぐ。


 「えっと……なんか、ごめんね」


 小柄な彼女に持ち上げられるこの構図は切ないものがある。唯は俺を軽々と持ち上げて、自身が出てきた扉へと向かった。

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