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渋とい奴

 「そんなに熱烈に迫られたら――」


 全てを言い切る前に姉の首をはねる。俺の背丈と変わらないくらい大きな顔は、かなりの重量があるのだろう。低く鈍い音がした。


 「――凍れ」


 瞬時に切断面を凍らせる。これで、少しは再生を遅らせられるはず。


 「姉さん! お前っ!」


 姉がやられた姿を見て、妹が叫ぶが同じように首を目掛けて唐紅の剣を振るった。


 「舐めんなよ!」


 白刃取りをするかのように、歯で挟むように俺の一撃を止められた。


 「解放――赤の刃『空斬(そらぎり)』」


 解放する事で液体状に戻ると、口の中に小さい刃を作り出す。


 「――死ね」


 その言葉を合図に、口内から後頭部に向けて切り刻んだ。穴と言う穴から大量の血を流し、崩れるように倒れると首をはねて、姉と同じように凍らせる。


 「次――」


 「二人をよくもっ!」


 姉様と呼ぶもう一体の顔も怒りの形相で迫ってきた。背後から回り込むように襲ってきたそいつの攻撃を寸前で回避する事はできたが、左腕を食いちぎられた。極限まで熱した鉄の板を押し付けられたらような鋭い痛みに体がよろけるが、歯を食いしばって絶える。


 「俺を食ったな――」


 腕を食いちぎった妹が口をもごもごと動かして、腕を咀嚼する。ぐちゃばりと音を立て、俺の肉を骨を味わっている。やっと食べれたと恍惚とした表情を浮かべ、眼球の入っていない目を細めて俺を見やった。だけど、


 「――赤の玉『針千本』」


 食らう事が主体のアンデットに取っては、俺の血肉は猛毒となる。大量の血液を含んだ左腕の血液を操作して、ネックリーの群れを殺した時と同じ技を繰り出した。


 「カヒュ……」


 細く伸びた目を大きく開くと、驚いた表情をすると共に顔の内側から赤黒い槍のように尖っ物が飛び出てきた。あの時ほど血の量はないが、こいつ一体を殺すには十分である。


 「くっ、流石にきついな」


 三体の妹の首を氷付けにすると、体がぐらつき片膝をついてしまった。


 「イメージは――超回復」


 急いで左腕の修復に取りかかる。瞬時に腕は回復するが、貧血のような症状が少し残った。重くなった体をむりやり立たせる。すると、


 「――はあっ!」


 唯が叫び、何かが音を立てて崩れる音がした。ネックリーが侵入してこないように、エスカレーターを破壊したのか? サソリ型のアンデットが動かない事を確認して、問題ないと分かると唯の方へと振り向いた。


 「宗田さん、無事ですか?」


 「ああ、何とかな……。一応、再生を遅らせる事は出来たんだけどさ――凍れ」


 もぞもぞと動き出した首をもう一度氷付けにする。胴体の方は微動だにせず大穴の側でじっと佇んでいた。


 「こいつ、どうやったら倒せるんだよ。あー、唯は上に登れそうな所を全部破壊してくれ。俺は何とかこいつを倒せないかやってみるからさ」


 「……分かりました。すぐに戻ってくるんで、気をつけてね」


 何か言いたげだったが、唯はそれを飲み込むように唇を噛むと非常階段へと向かって走り出した。


 「さて、お前はどうやったら死ぬんだ?」


 魔力残量は半分。唐紅の剣を発動しているせいでじりじりとだが魔力も減っている。


 「なっ――」


 すると、今まで動かなかった胴体がゆっくりと動き出した。尻尾をブンブンと振り回すと、自分の首を切断する。あっという間に、


 「なかなか――やるわね」


 三姉妹の顔達が復活すると、俺を見てほくそ笑む。まるで、何もなかったかのように、平然と俺を見やると躊躇なく襲いかかってくる。


 「もう! 凄い痛かったよ! 口の中から串刺しなんて酷いなっ!」


 腐り溶けかけた頬を膨らませる妹の顔。姉様と呼ぶ左側の顔が見た目とは裏腹に、子どもっぽく可愛らしい声で抗議の声を上げる。


 「あれ? 一人足りなくない?」


 気の強い右側の顔がそう言うと、


 「あら、本当ね。どこに行ったのかしら?」


 首を傾げる中央の姉の顔が首を傾げる。唯が居ないことに気づいた三つの顔が、サラサラの黒く長い髪を垂らしながらうろうろと唯の姿を探し始める。


 「横一閃――兜割り」


 戦技、兜割りを発動。広範囲に及ぶ不可視の斬撃を胴体目掛けて放った。首を落としてもだめとなれば、弱点が他にあるだろうと試しに胴体を狙ったのだ。唯の強力な一撃でも破壊する事ができなかった鋼のように硬い皮膚を貫けるとは思わないが……。


 「やばっ!」


 あからさまな反応を示す右側の顔が自分の顔面で受け止めると、目と鼻の中間からきれいに分断される。威力は多少は減衰したが、それくらいで不可視の斬撃は止まらない。胴体にぶち当たると、水滴が地面に落ちるように弾けて消えてしまった。

 やっぱりあの胴体にダメージを与える事はできなかったか……。だけど、あの妹の反応はあからさまだった。恐らく胴体が弱点か何かなのだろう。問題はあの胴体をどうやって貫くかなのだが。


 「なんなの! あいつムカつく!」

 

 切り落とされた首が瞬時に回復すると、暴言を吐く。


 「死ねっ!」


 鞭のように首をしならせて、自分の顔面ごと叩きつけてきた。


 「――っ!」


 咄嗟に横に飛んでよけたが、反動を利用した一撃は凄まじかった。砕けた床が弾丸のように飛んできて腹へとめり込んだ。肋骨が何本か折れたのか、鈍痛のような痛みが走る。


 「ちっ! 逃げんじゃねーよ!」


 てか、待てよ。アンデットって自分の命をどうやってつなぎ止めてるんだったっけ?


 「くっ! 離せ!」


 「イメージは――」


 「っと、少しお痛がすぎるんじゃなくて?」


 妹の髪を鷲掴みにして、地面へと押さえつける俺に姉の顔が迫った。


 「姉さん! 気をつけて! こいつ、今何かしようとした!」


 発動する一歩手前だったが、何かを感じ取ったらしく警戒の色を強めた。


 「あら? 何かしらね?」


 姉に向かって下から上に唐紅の剣を振るうが、手の届かない所へすっと逃げてしまった。しゅるしゅると二つの顔が胴体の方へ巻き取られるように戻る。

 失敗したな……。今ので迂闊に近づく事ができなくなったか? いっそのこと模倣で”加速”を使って近づくのも手だが、


 「イメージは――アサルトライフル」


 あまり魔力を無駄にできないけど、逃げるなら遠距離で攻めさせて貰おうか。


 「ぐっ! 痛いっ!」


 三つの顔めがけてトリガーを引く。螺旋状に回転しながら三姉妹の顔や首を撃ち抜くと、その部分から燃え始める。

 燃えた部分を胴体の尻尾が切り落とすと、また顔が復活する、を何度も繰り返す。消耗戦となれば不利だが近づくことさえできれば、こっちの物だ。


 「どこに行ったのかし――あ、ひぃ?」


 炎の球体を三つ配置。自動的に復活した顔に照準を合わせる。セントリーガンのように、設置型のアサルトライフルは復活する度に顔を蜂の巣へと変えた――残り魔力は二割。視界も最悪。炎が三階フロアを包み、赤く染めている。灼熱の炎が呼吸をする度に喉を焼き、肌を焼く。


 「イメージは超回復――常時発動」


 焼けてただれた皮膚を再生させる。


 「やっと――捕まえた。イメージは魔力吸収」

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