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唐紅

 唯の怪我の手当てを終えると、「ありがとう」と言ったがその表情は浮かない顔をしていた。恐らくネックリー相手にてこずった事を考えているんだと思う。まして、こうして怪我をしてしまったのだ。彼女も思う所があったには違いない。


 「イヒヒッ! ドこなのー?」


 慰めの言葉をかける暇もなく次のネックリーが現れた。唯のあげた声と、あの戦闘の音を聞きつけた奴が現れたのだろう。となるとここに留まるのは危険である。すぐに、民家の塀から隣接する道路へと出る。


 「――危ないっ!」


 ネックリーから奇襲を受ける。出てすぐの所に待ち構えていやがった。出てきた俺に対して噛みついてこようとする攻撃を、斧で弾く。


 「まずいな……」


 目の前に立つネックリーの更に向こう側では、頭を地面に叩きつけ飛び上がりながら移動してくる姿も見えた。背後の道路からも同様に鈍くて重たい音が聞こえてくる。

 逃げるか……? そう思ったが前に起きた事を思い出した。どうやって居場所を突き止めたか分からないが、ネックリーは俺が以前住んでいたアパートへと姿を現したのだ。仮に学校に逃げても、こいつらが追ってきた場合は、他の警備隊の人達が危険に合うかもしれない。


 「唯、戦える?」


 「もちろん!」


 迎え撃つ覚悟を決めると唯に声をかける。落ち込んでいた彼女には申し訳ないが、慰めるのは後回し。


 「まずは――お前からだ。赤の刃――」


 斧を腰のベルトに差して、サバイバルナイフを取り出すと最初と同じようにして右の手のひらを切りつけた。切った痛みと自分の血液で熱を帯びる。


 「――唐紅(からくれない)(つるぎ)


 痛む手を我慢して、切った手でサバイバルナイフを持つ。赤の刃の後に続く言葉を呟く。すると、血液がナイフの剣先に集まり、持ち手部分以外を全て覆った。ナイフの刃部分を延長し、真っ赤な剣が完成した。刃渡り八十センチ程。

 切った手の平をを即座に修復すると、完成した剣の出来栄えを確認するために数度振るう。血で出来た剣のため、重さはほとんどナイフと変わらない。軽く振ってみるが崩れる事なく、空気を斬るような少しだけ高い音がする。完成した、唐紅(からくれない)(つるぎ)は見た目だけじゃなく、もちろん――


 「はあっ!」


 ――踏み込み一閃。


 素早さが取り柄の俺の動きに着いていけないネックリーは、剣による一撃をまともに受ける。胴体目掛けて放たれた一撃は、肉や骨を斬る感触をほとんど感じず斜めに体を両断した。

 ずれ落ちた体から大量の蛆が出てきたが、それに構っている余裕はなく次の動きに移った。


 「イメージは”アサルトライフル”」


 即座に火球を宙に浮かせる。数にして三個。今同時に操れる最大の数だ。


 「――ファイア」


 呟きと同時にけたたましい発砲音が鳴る。通常の炎弾と比べて一発当たりの弾の大きさも大きく、連射も出来る。その分魔力の消費も大きいが威力に関しては申し分ない。

 

 「イギッ!」


 着地の瞬間を狙って一斉射撃をお見舞いする。火属性で作られた魔法の銃弾は、ネックリーの体を次々に穴だらけにした。しかも、着弾した部分から発火し、頭部を破壊できなくても胴体がボロボロになった奴らを行動不能にするのは十分だった。


 「っと、危ない」


 袈裟斬りにされたネックリーはまだ生きている。後でとどめを刺そうとしたのだが、残った左腕で体を方向転換させると足に噛みついてこようとした。(すんで)の所で頭を踏みつけて防ぐと、何も持たない左手で頭を鷲掴みにする。


 「おとなしくしてろ」


 激しく抵抗するネックリーだったが、顔を地面に押し付けて動けないようにする。


 「イメージは――魔力吸収」


 魔力が少しでも欲しい今の状態では、少しも無駄にできない。吸収を発動すると、「ギギギッ」と変な声で鳴いて大人しくなる。


 「少しだけ回復したな」


 体に入ってきた温かい感触を確かめるように、吸収した左手を開いたり閉じたりと繰り返す。やっぱりこいつらは魔力で動いていると言うことでいいのだろうか? 魔力を吸収されて動かなくなったそいつを見やる。

 ゾンビを殺す方法は、脳を破壊する、魔石を破壊するのどちらかだけと思っていた。後者に関しては紫苑が過去に実験したから間違いない。それにプラス、魔力を吸い尽くす事でも殺す事が可能と最近分かったのだが、こうなるとゾンビは魔力で動かされていると言う事に繋がるのではないだろうかと俺は思っている。


 「考えるのは後回しだな……」


 浮かべた火球が小さくなり、そろそろ消えようとしていた。多少道路沿いにあった民家に炎が燃え移ってしまった事に焦ったが、誰も居ない事を願いたい。


 「ヒヒッ!」


 弾幕を抜け一体が俺の前へと降り立った。薄気味悪い笑みを浮かべたネックリーが首を激しく後ろに倒すと、反動をつけて釣り糸を飛ばすように顔を俺に向けて発射した。


 「くっ!」


 なかなかの速度で迫るネックリーの顔。口を大きく広げて噛みつこうとしてくる。それを、横に転がるように避けると、


 「少し大人しくしてろっ!」


 伸びきった首に唐紅の剣を振るい切断する。すかさず地面に落ちた頭部に魔力吸収を発動して残りの魔力を奪った。 


 「ポーション飲む暇はなさそうだな……」


 少しでも魔力を回復しておきたかったのが本音。数十体のネックリーがすぐそこ、空から地面に落ちてくる姿が視界に映り、ぼやく。残り魔力が六割を切っている。唐紅の剣は血液操作で剣の形を維持しているため、こうして構えているだけでも少しずつ魔力を消費している。

 魔力回復の予備のポーションは五百ミリで2本。どちらも魔力回復用として持ってきている。三割回復ポーションを凝縮して一つのペットボトルにまとめたのだ。前までは、三割回復させるのにも五百ミリを全て飲む必要があったが、濃縮ポーションの応用で飲む量を減らして回復量を維持することに成功している。ちなみに、魔力用の濃縮ポーションを作らない理由は間引き後の魔力じゃ足りないからで、三割回復ポーションを継ぎ足ししてカバーしている。腰のポーチにポーションが入っているのだが、予想よりもネックリーの進行が早く、それを取り出せないでいた。


 「最悪は、”模倣”を使うか……」


 切り札の”模倣”の使用も視野に入れる。唯の能力をコピーして、”加速”を使えばすぐに片が付くだろが、できればホームセンターに辿り着くまでは使用したくないのだ。強力だが、一度使えば次に使用できるのは12時間後。模倣はぎりぎりまで使わない。持っている手札でどうにかできないか思案するが、何かを思いつく前にネックリー達が俺の元へと到着してしまった。


 「きタよー」


 「誰も待ってないよ……」


 カタコトの日本語にそう返すと、間髪入れずにネックリーの元へと駆け出した。

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