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中身は

 「ふぅ。これで全部かな?」


 アパートの中に残ったゾンビを倒した手応えを感じると息を吐き出した。念のため後で確認はするが、物音が何もしないから大丈夫だろう。

 

 「んっ? どうしたの?」


 じっとこちらを見つめている唯は何か言いたげな表情をしていた。


 「なんかパワーアップしてません?」


 グール相手にもそうだが、今となってはネックリーでも特に大きな障害とはならない。血液操作の能力が俺と相性がいいのだろう。この、目の前に転がっている三体の死体はそれで倒した。たまたま不意をつけたと言うのも要因の一つだが、この能力が大きく影響しているだろう。超回復と併用して使うことでその真価を発揮するのだ。

 アドゥルバのように爆発させることは出来ないが、刃物のようにする事も、盾のようにする事も可能。欲を言えばアドゥルバのように爆発させたかったが、あれは奴の血液自体に何かあったのだろう。恐らくガソリンのような臭いが関係していると思う。とは言ってもそれを差し引いても十分ではあるが、唯に褒められて少しだけ鼻が高かった。


 「そう言う唯も制限はあるけど、十分チートだからな」


 その言葉通り、例えば俺が”強者”と言うくくりなら、唯の能力は”圧倒的強者”である。制限はあるものの、それでも十分なくらいだ。圧倒的強者の前では、強者は弱者と変わらない。いくら立派な能力を持っていても、彼女が本気を出せば”静止”で動きを止められるか、超速の”加速”で能力に関係無しにやられてしまうだろう。唯一対抗できる手段は不意を打つ攻撃か”模倣”の二分間だけ。彼女が敵じゃなくて良かったと思う。

 

 「むーっ! でも、今はベルちゃんに魔法を禁止されてるもん!」


 唯が溶けて瀕死の状態に陥った時、詳しく彼女の体を調べたベリルに、しばらく魔法の使用を禁止させられた。今は(・・)彼女の治癒で治せるのは体だけらしく、使用した分の蓄積までは消せないらしい。使えば使うほど、生命を維持する部分へのダメージが溜まってしまうらしく、今も器から溢れかけてるとの事。だから、怪力しか使用できない状態なのだ。ただ、唯がもっと成長すればそれも治せるらしく、結局はチートが更にチートらしくなるだけである。


 「また、濃縮したポーションを飲むことになるよ」


 「濃縮ポーション」と言う単語を聞いたとき、ぎょっとした表情となった。死ぬかもしれない事より、ポーションの方が嫌なようである。確かにあのえぐみにいろいろな物を混ぜたような味はお世辞にも美味しくはない。ただ、薬だと思って飲めばなんともないと思うんだけどな。自分ではそう思うが、彼女にとっては死ぬかもしれないことよりトラウマとなったようである。


 「それは出来れば遠慮したいかなー。ははっ……」


 視線を斜め上に向けてごまかそうとする。こうでも言っておかないと黙って魔法を使用しそうだから、遠回しに濃縮ポーションで警告しておく。

 

 こうして、戦闘を終えた俺達はひとしきり会話を終えると、ネックリーから魔法石の回収作業へと移った。腹を愛用のサバイバルナイフで腹に切れ込みを入れ、そこから開いた。

 すると「ひっ!な」と、唯が小さく悲鳴を上げ口元を押さえる。


 「これは酷い……」


 思わず俺も言葉を漏らした。いつもゾンビを倒すと、まずは腹を割く。そして、心臓の位置にある魔石を取り出すため、肋骨部分をかいくぐるように手を入れて取り出すのだが、内臓が詰まった体の内部をまじまじと見るのは抵抗がある。最初はお互い躊躇しながら魔石を取り出していたが、今では慣れた作業の一つ。魔石を取り出す事に特に何も感じる事はないが……ネックリーの腹の中を見た時、肺が呼吸を辞め、心臓が凍り、背筋に寒気が走り、背筋に鉄の棒を入れたかのようにぴんとして固まった。

 いつもの調子で腹を割いて中を見ると、内臓が詰まっていると思いきや、白い大量の粒がびっしりと詰まっている。その一つ一つが小さく蠢き生きていた――(うじ)。それが、内臓の変わりを果たすかのようにびっしりと中身を埋めていた。腹を割いたとき、裂けた肉の隙間から湧き水のように湧いてきた来た姿は中々のホラーである。彼女が悲鳴を上げたくなる気持ちは分かった。


 「ここから……魔石を取らないとなのか?」

 

 「宗田……さん、これは流石に私も無理」


 「だよね……」


 ネックリーの死体を見つめながら、唯と話をして魔石については諦める事にした。ネックリーは見た目もさることながら、死んでもなお人の心にトラウマを植え付けてきた。


 「先に進もうか……」


 「……そうだね」


 魔石については仕方ない……今回は諦めよう。


 「――イイイッたぁーー!」


 俺達がもたもたとしていると、ネックリーの声が聞こえた。背後から重いものが地面に落ちる音がして、俺と唯は慌てて後ろを振り返る。


 「また、こいつか……しばらく見てなかったのにどうしてこんなに現れやがる」


 「うへーっ! さっきの思い出して触りたくないよ!」


 抗議の声を上げる唯だったが、奇々怪々な姿をしたネックリーは、不気味な笑みを浮かべながらダチョウのように首を揺らして俺達を見ていた。


 「ヒヒヒヒッ!」


 仕方ない。ここは遠距離ができる俺が相手をするか。


 「宗田さん?」


 彼女より一歩前に足を踏み出す。


 「ここは俺に任せといて」


 サバイバルナイフの刃部分を手の平に当てる。


 「っ! これ痛いんだよな!」


 横にナイフを走らせて、手の平を切った。ポタポタと地面に血が滴り落ちる。


 「早く倒して手を治そう……」


 そう呟き、血に濡れた手の平をネックリーへと向けた。体の中を細長い虫が這うような感覚が走り、向けた手の平に熱が収束してくる。

 少し血を集め過ぎたか。体が貧血のように血を欲した。


 だけど十分、


 ――赤の(やいば)


 赤い手袋に包まれたように、血液操作にて集められたら血が手を覆う。呟きその手を横に振るう。


 「ギッ!」


 薄く伸ばされた血液が空を飛び、ネックリーの首元へと飛んでいく。長い首に血液操作で作られた刃がぶつかると、熱したナイフでバターを切るように首を切断する。それでも血の刃は威力が衰えず、能力の範囲外まで飛んでいくと、風船が割れるように弾けて消えた。

 あまりに鋭利な血の刃に、ネックリーが首を切られた事に気づいていない。こっちに近づこうとしたところで、悲鳴のような声を漏らし首と体がずれ落ちた。


 「――完了」


 ビチビチと動いている首だけになったネックリーの頭を鷲掴みにすると、魔力吸収を発動する。どんなものからも吸収できるのは便利で、頭と首だけになったこいつも例外ではない。

 ベリルから吸収した時よりも遠慮なく吸い出すと、少しだけ体に暖かいものが入ってきた。

 少しだけ回復したかな? 何も吸収できなくなると、首だけのネックリーはピクリとも動かず事切れた。


 「イメージは――超回復」


 ネックリーが完全に動かない事を確認すると、今も血を流す右手と失った血液を回復させた。

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