私こと神崎 唯
私の名前は神崎 唯 23歳。
独身です。
最近仲良くなった、斎藤 宗田さんの事がちょっぴり気になっていたりします。
元々同じ職場で、挨拶をするくらいの関係。
知り合い程度の付き合いでしたが、それがここ最近急接近する事が出来ました。
どうにも彼女にフラれたらしく、凄く落ち込んでいるところにばったりと遭遇してしまった分けです。
泣きそうな表情の彼。
最初は気まずかったですが、勇気を持って話しかけてみました。
「どうしたんですか?」
「いや、特になにかあったわけじゃないよ……」
中々、心を開いてくれませんでした。
余計に気まずい。
どうみても何もないわけじゃないのは明らかだ。
ここで、戻ってもいいのだけれどそれをしたら二度と話す事がないような気がした。
今、思うとこの時から何か気になっていたのかもしれない。
「目のクマさんが酷いですよ」
「そうか……」
私の渾身のボケも完全にスルー。
しかもこっちを一切見ようともしない。
「隣座りますね」
職場の屋上。
そこにあったベンチに彼は腰かけている。
私はここまで来たら意地でも話を聞いてやると思い、隣に強引に座った。
その様子に、彼は少し驚いた表情をしていたがなんだかんだと端によって避けてくれた。
「今日は天気がいいですね」
何てことない、世間話。
彼は「ああ」と一言で返す。
どうしてこんなにも気になるのだろうか?
短くも長くもなく、かと言ってちゃんと整っている髪。
前髪が若干目に被っているが、かと言って不潔な感じはしない。
服装も夏場でもだらしない感じもなく、作業着を着こなしていた。
私の職場は工場だ。
ただ、私は事務がメインのため基本はスーツ、そう言う彼は現場で着る作業着を着ている。
所々汚れているがそれは彼が頑張っている証拠だろう。
ただし、その表情が全てを台無しにしていた。
まるでこの世の終わりのような、そんなげっそりとした表情だった。
「あの……本当に大丈夫ですか?
こう、突然差し出がましいかと思いますが良かったらお話を聞きますよ」
中々折れない私。
その時、初めて私の顔を見た。
「…………いや。ただ大切な人と別れただけだよ。
まだ、踏ん切りがつかなくてこうしてぼーっとしていたんだ」
そう、彼が初めて会話らしい会話をしてくれた内容がそれだった。
もう少しだけ踏み込んで聞いてみると、ゲームが原因で別れてしまったのだとか。
彼女をほったらかしにして、それに没頭していたのが悪いと自傷気味になっていた。
と言う私もかなりのゲーマーだと自負している。
今まで告白された事は数え切れず。
そして、その全てをお断りした。
その理由は
———ゲーム
どんなにイケメンでも、優しくても、いい人でも、この半身とも言えるゲームの存在を越える事はできない。
ああ、愛しのゲーム。
幼少期に出会った、「ドラゴンとクエスト」それから私の価値観はいろいろと変わってしまった。
今すぐにでも帰ってゲームがしたい。
そんな事を思いながら毎日を過ごしている。
だからこそ、このゲームが原因で別れた理由が私にはよく分からなかった。
だから、その事を聞いたときは思わず憤慨して力説してしまった。
「ははっ! 君もゲームが好きなんだね」
表情を柔らかくして笑った彼。
はっと我に返り自分のした行いに顔から火が出てしまいそうなくらい熱い。
ベンチからいつの間にか立ち上がった私。
驚いたような表情をしたから。
どうにか、もう一度座りなおしたが今度は自分の方が黙ってしまった。
「うん、ありがとう。なんか少し元気でたよ」
気を使っているのかそう励ましてくれる。
「そう言えば名前言ってなかったね。
俺は斎藤 宗田。君は?」
「……神崎 唯」
「神崎さんか……これも何かの縁かな。
気を使わせちゃってごめんね」
「えっ! いえ、こちらこそちょっと熱くなってしまって……ごにょごにょ」
最後は殆ど聞き取れないくらい小さい声だったと思う。
「うんうん。神崎さんが凄いゲーム好きなのが伝わってきたよ。
俺もドラゴンとクエスト好きなんだよね」
「本当ですかっっ!」
中々こう言った話ができる人物が傍に居なかったため、彼の言ったその一言に勢い良く飛びついてしまう。
そこからまたマシンガントークが止まらなくなってしまう。
ただ、この時嫌な顔一つせず黙ってうんうんと私の話を聞いてくれた。
この時の事を宗田さんはどんな風に思っていたのか気になるところであるが。
今考えたら絶対に馬鹿にされるだろなと思い聞いていない。
これが私と宗田さんの最初の出会いである。
それからと言うものお昼休みになっては二人で食事をしながら会話をしていた。
それを見かけた同僚からは二人が付き合っているんじゃないかと噂が流れるくらいだ。
その事を宗田さんに話したが
「噂話しみんな好きだよなー」
なんてマイペースな返答が返ってきた。
それからも変わらずお昼休みに一緒に休憩を取り、たまに帰りに食事をするような関係になっていった。
そして私は今日、初めて休日に食事に誘う決意をしたのだ。
ただ、この時はまさかこんな事が起こるとは思わなかったのだけれど……
傍に居てくれたのが宗田さんで良かったと思う。