分かりやすい反応
「か、かかかか、■ー!?」
明らかに狼狽するベリルにしてやったと言う顔をする。ベリル曰く隠すつもりはなかったらしいが、唐突に予想外の事を言われて慌てていた。それに、世界のシステムかルールか知らないが、こっちから話す分には、あの不思議な現象が起きないようである。
現に、ベリルが放った言葉は文字化けしたように理解できなかった。恐らく、ベリルも「神」と言う言葉を発したと思われる。
そして、ここで最強のヘルプ機能のシーリスの出番だ。
——マスター、お呼びでしょうか?
流石、シーリス。即座に現れてくれた。
一つ質問いいか?
——はい。なんでしょうか?
どうして、ベリルの放った言葉は理解できないんだ?
——世界システム上そうなっています。
そこを詳しく頼む。
——かしこまりました。少々お待ちください。
今も慌てているベリルを見やる。両手をバタバタと変な動きをしていた。明らかに動揺している事を隠せていない。ヒューと下手くそな、息を吐き出すだけの口笛を吹いて明後日の方向を向いて誤魔化そうとする。
——マスター、お待たせしました。
おう。
——先程の質問の詳細ですが、その言葉に近しい存在、または世界の根源に関わる事に関しては、一定以上の位階レベルがないと理解できないようになっています。
すなわち、ベリルは神に類似する存在である可能性があるって言う事でいいのか?
——はい。ですのでベリルが先程述べた言葉を理解できないと言う事になります。
と言う事は、前回シーリスを作ったと言う人物は世界の根源に関わるから理解できないと言う解釈であってる?
——イエス、マスター。その通りです。……今日は頭がいいようで何よりです。
おい! 最後に余計な事を言わなかったか?
——気のせいです。
となれば質問攻めにすれば、おのずとこの存在が何なのか分かるんじゃないだろうか? 神、悪魔? そのどちらかが——ベリル。
「いやー、今日も暑いね!」
手で顔を仰ぎ、額から滝のように汗を流すベリルをジト目で見る。どうにか誤魔化そうと、唯にぺちゃくちゃと話しかけているが、俺は逃がすつもりはなかった。
「なぁ、ベリル」
すると肩を跳ね上げ、怯えたように首を回してそっぽを向いた。
「神か悪魔なんだろ?」
と直球で投げかけたが、無視を決め込んだ。
さて、どう追い詰めるかな。
「くくくくっ」
なんだ? ベリルの肩が小刻みに上下しだした。笑ってる?
「あははははっ! あー、やっぱりお兄さんは凄いね! 世界システムの抜け道をついてくるんだから。でも、なんでそう思ったの?」
さっきまでのは演技だったのか、愉快そうに笑い俺の目を真紅の瞳が射抜いた。反射的に肩がびくりと跳ねる。どうにも、ベリルの瞳に何かを感じるのだ。だけど、臆しそうな心をどうにか奮い立たせて視線をそらさない。
「何となく。精霊なわけないだろって思っただけ。後は堪と最近――」
「――シーリスとそんな話したから?」
と俺が言い切る前に、ベリルがシーリスの名前を呼んだ。驚愕に目を見開きベリルを見やる。
「なんで――」
「――それを知っているのか?」
またも、俺の言葉にかぶせて来る。心を読まれた?
「心を読んだのか?」
「違うよ! もう、お兄さんもお姉さんも心は読めないだ。あれは、位階レベルが20以下じゃないとダメなんだよ」
そう言えば、シーリスに位階レベルが20に達したと言われた記憶がある。と言う事は、唯も20を越えていると言う事なのだろうか?
――マスター、正確には現在24です。
アドゥルバとの戦いの影響か4もレベルが上がっていた。
「なら、どうしてシーリスを知っている?」
「そう怖い顔しないでよ。少なくとも敵じゃないんだよ」
万歳と敵意はない事を訴えてくるが、それ以前に得体のしれない存在に警戒しない分けにはいかない。悪魔であれば、俺達にとって敵と言っても過言ではないのだから。
「宗田さん、シーリスって誰なの?」
話に置いてきぼりを食らっていた唯が口を開いた。シーリスの存在をまだ話していないため、理解できない様子である。かと言って詳しく説明するのには時間がかかるため、唯には悪いが後で話す事にしよう。
「ごめん、後で――」
「――生存用プログラム、シーリス。斎藤 宗田を死なせないために創られた、プログラム。お助け機能って所かな。位階レベルが20に達したからちゃんとアクセス許可がでたんだね」
良かったと何度も首を縦に振って頷く。
「生存用プログラム?」
「あぁ、シーリスのお陰でアドゥルバを倒せたし、あの爆発に巻き込まれても生きていたんだ。シーリスが居なければ間違いなく俺は死んでいた」
唯は黙って話に耳を傾けている。
「要するに、俺が死なないようにアドバイスと能力をくれたんだよ。だから、こうして今も生きているんだ」
唯にそう伝えると、ベリルが再び口を開いた。
「第一の解放――『模倣』、『超回復』、『魔力吸収』だったよね?」
こいつ……どこまで知ってやがる。
「……そうだ。その模倣と超回復のお陰でどうにかなったんだよ」
焼け気味に言葉を発する。聞きなれない言葉ばかりに唯は困惑の色を強めた。
「模倣は制限付きのコピー。超回復は即死以外は魔力がある限り回復するんだもんね?」
「ああ、今回はその模倣で唯の魔法と怪力をコピーしたんだよ」
何を隠しても意味がないと、全てを正直に話す。
「私をコピー?」
「そうだよ。怪力と動きを止める魔法。その両方をコピーしたんだ。一度で出来るコピーは一種類ただし、2分と言う制限時間内であれば同一対象の能力を好きに入れ替えられるって事」
「え? 宗田さん……それ、チートじゃない?」
その言葉が心を串刺しにした。
「ぐっ! かもしれないけど、一度使用すると次までに12時間の時間が必要なんだ。それに、制限時間は2分って時間制限もある」
チートと言われて訂正する。だが、制限はあるものの十分過ぎるチートだ。これに超回復と魔力吸収もある。模倣が最終兵器であれば超回復と魔力吸収は凡庸性の富んでいる。それだけでも十分なチートである事には変わりない。
「私と宗田さんが一つに……ぐふ、へへへへ」
と何やら一人で自分の世界に入り込んでしまった。さすがのベリルも、唯の様子に「……大丈夫?」と引き気味で言ってきた。
「あー、落ち着くまでそっとしといて」
「そ、そう。分かった。実態が無い時に何度か見たけど、実際に見ると……狂気を感じるね……」
言うな。
「と、話が逸れたね。んー、シーリスにはいろいろとお世話になっているから、良くしてあげてね」
微妙な空気が漂う中、ベリルにそう言われ「ああ」と返事を返すと、互いにお茶を一口飲む。横目で唯の姿を見ると今も、ケタケタと笑い元の世界には戻って来ていない様子だった。