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学校へ

 「――良かった」


 真奈が行く時と変わりない姿の校舎を見て安堵の息を漏らす。

 グールの襲撃を受けたようには見えない。夜の静けさの中に何事もなかったかのように佇んでいる。視線を巡らせて異常がないか見たが、一部の教室に灯りが灯っている以外は静かなものだった。なんで明かりが? とその一点を見ていると「警備隊の休憩所よ」と教えてくれた。

 剛とアリスはあそこにいるのかな? 行きましょうと言った真奈の言葉に、俺と唯は素直にしたがった。


 校舎の入り口から入って右に行く。その一番突き当たりにある教室が灯りのついていた部屋である。その扉の前に行くと、中から何人かの話し声が聞こえた。


 「だから! 紫苑さんはああ言ったけど、少しだけ力を貸してくれよ!」


 苛立った男の声――剛だ。


 「ああん! 紫苑さんもああ言ってるし、真奈さんがへまするわけないだろうが! ガキはさっさと寝ろやっ!」


 それに対してチンピラみたいな話方をする声も聞こえた。入りずらいんだけど……と、そう思っていると。


 「ただいま」


 そんなの知らずと、澄まし顔をした真奈は遠慮なし扉を開いた。ガラガラと扉の車輪が夜の校舎の廊下に響く。すると、中にいた人達が一斉にこっちを向いた。

 10人程の人が、長机を囲うように座っている。その中で見知った顔が二つ。剛とアリスだ。剛は両手で机を叩くように身を乗り出している。その表情は何処か怒りが込められているように見えた。


 「みんなどうしたの? 見回りは?」


 何事もなかったかのように、真奈がそう声をかける。


 「んだよ! 真奈さん、無事じゃないか。剛は心配しすぎだ」


 少しガラの悪い男が呆れ半分にそう言った。恐らく、さっきのチンピラみたいな話し方の人物だろうか? 年の頃は俺よりは上なのは間違いなかった。


 「ぐっ……でも!」


 罰の悪そうな剛は、その後の言葉を飲み込み我慢する。さっき聞こえた話しからすると、俺達を助けに行こうと剛が相談したが、それを突っぱねられて怒っているのだろう。そして、言い合いをしているうちにまさかの本人が登場したわけだ。

 アリスに至っては目をひんむき驚いたように椅子から立ち上がっていたし。剛も表情は怒っているようだったが、驚き安心して雰囲気になっている。


 「はいはい、剛とアリス以外はちゃんと見回りに行ってね」


 手をパンパンと鳴らし、そう促すと。


 「あいよーっ! 真奈さん、剛の奴によく言っといてくださいね」


 二人を残してぞろぞろと出て行ってしまった。その時に、見たことない顔だと物珍しそうに見られて少し気まずい。下から上になぞるように見られると、いくらか死線を乗り越えた身ではあるかが反射的に身が強張ってしまう。

 そう言えば、他の人達とはまったく会ってないし、俺達が気になるんだろうな。それでも好奇の目で見られるのはあまり気持ちいいものではない。視線を下に向けて、皆が出て行くのを待った。


 「――無事だったんですか!?」


 全員が出て行ったのを見計らって、剛が破竹の勢いで寄ってきた。


 「無事よ。だから、落ち着いて」


 真奈がそう宥めると、剛は全身が萎むんではないかと言うくらい息を吐き出して肩を下ろした。


 「心配したんすよー!」


 不安に思ってたのは剛だけではない。アリスも同様に小走りで駆け寄ってくると……


 「――むぎゅっ!」


 唯を抱きしめた。力の限り胸の奥に押し込めると、手足をばたつかせて困ったようにしている。アリスに取ってはマイナスイオンでも発生しているのだろか? その証拠に氷のように固かった表情は、液体に戻るように柔らかくなる。


 「離してー!」


 と助けを求める唯だったが、アリスは一向に離そうとしなかった。しまいには頬ずりを始めうっとりとした様子である。

 あっ、諦めた。動きを止めて人形のようにぐったりしてしまった。なすがままになる唯を尻目に話が進んでいる。


 「剛、ちゃんと紫苑には伝えたの?」


 「もちろんっす! そしたら、人は出さないって言ったんですよ!」


 「そう……」


 真奈は短くそう答えて目を伏せた。少しだけ傷ついたのかもしれない。紫苑のリーダーとしての判断は間違いないと俺も思う。グールのいる所に人員を割く。今のこの避難所の中でどれくらいまともにグールの相手をできる人がいるか分からないが、少なくとも二体もいるとなると犠牲が出るのはほぼ確実。ならば、最高戦力の真奈に任せるのがいいと思ったのだろう。これでもし、帰って来なければ……人を出すか出さないかは半々と言ったところか。

 真奈もそれをなんとなく察してはいるのだろう。だけど、人としての感情が入ってしまい割り切れないのだと思う。


 「アリスもそろそろ離してあげて。皆で紫苑の所に行くわよ。宗君も唯……さんもいい?」


 分かったと返事は返したが、唯の名前を呼んだとき少しだけ間があった気がした。俺が気にしすぎなのだろうか? 真奈の行動や話し方に少しだけ緊張しているような、遠慮しているような、気がしてならないのだ。


 「……いいですよ」


 当初より仲があまりよろしくない二人だったが、今はむしろ真奈の方が気圧されてる感じだ。おずおずとした感じで唯の名前を呼んだ彼女の姿を見ればそう思ってしまう。視線が落ち着かず、あちこちに飛んでいる。

 互いに言い合うような感じが今は唯の方がマウントを取っていると言ったらいいのだろうか? 二人の様子を黙って観察する。あっ、シーリスなら何か知らないかな?


 シーリス。聞こえるか?


 ――イエス、マスター。


 とすぐに返事が返ってくる。


 なあ、二人に何があったのか知ってるか?


 ――否定。知識以外はマスターと共有しています。なので、マスターが見ていない感じていないことは分かりません。


 だそうだ。うーん……どうしたものか。


 ここでこれから生活を共にする事になる。不和が生じるのはできれば避けたい。仲を取り持ついい方法はあるのだろうか? 


 「兄貴、紫苑さんの所に行くぜ」


 「ああ、悪い考え事をしていた」


 気づいたら剛を残して誰も部屋にはいなかった。ぼーっとする俺に気を使ってくれたのだろう。彼が部屋を出ると俺もすぐにその後を追った。


 ――マスター、塚本 真奈に関してなのですが。


 んっ、真奈がどうした?


 ――気をつけてください。


 それって――


 「宗田さん、みんな行っちゃったよ?」


 いつまでも来ない事を心配した唯が戻ってきてくれたようだ。覗き込むように俺の顔を見てくる彼女は少し不安気である。

 

 「あー、ごめん。少し疲れたのかもしれないな。早く紫苑さんに話をして休もう」


 シーリスは何が言いたいんだろうか? 後で聞いてみるとしよう。真奈に気をつけろ……か。それって、嫉妬の使徒(・・・・・)と言うのが関係してるのだろうか? 一つ解決しても延々と疑問が生まれる事に少し頭が痛くなった。

 後で唯にはシーリスの事を含めてちゃんと話そうかな。ぴったりと横を歩く彼女を横目で見た。


 「んっ? どうしたの?」


 「いや、なんでもなくはないな……後でちょっと話があるんだ。いいかな?」


 隠さず話そうと思う。


 「うん。分かった! 内緒話だね……ぐへへっ」


 たまに変な笑い方をする彼女に笑みがこぼれた。俺は「そうだよ」と返事を返すと、二階へと到着する。

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