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模倣

 模倣の能力は不思議な感じがした。自分の中に別の何かが入り込んで来たような、自分が自分じゃないような錯覚を覚える。例えるなら感覚のあるVRのようなもの。唯と俺が融合し溶け合い混ざりあったような不思議な感覚は、体の奥底から泉のように力となって湧き上がる。

 そして、目と鼻の先で止まったアドゥルバのその手を見やった。


 「ギリギリセーフだな」


 もう少し遅ければお陀仏だっただろうが、間一髪免れる事ができた。一息つきたい所だが、2分と言う制約があるため即座につぎの行動に移る。


 「おわっ!」


 その場から脱して立ち上がろうとした時、体がふらついた。左腕が無いことを忘れていたのだ。たった腕一本無いだけで立つのがやっと。人間の体とは不便だ……これもシーリスが言っていた”超回復”で治せるだろうか?

 そう思うなら試してみよう。さっそくショートカットに設定した言葉を紡ぐ。


 ――イメージは”超回復”。


 ――対象は”全身”。


 ――発動。


 すると体から何かが抜ける感覚と共に左腕がもぞもぞとし始めた。メキバキと嫌な音を立て、そこから新しい腕が生えた。更に、全身に走る鈍痛の全てが消えている。

 完全に再生しきったその腕を動かしてみたが特に異常は見受けられなかった。

 凄いな……しかも、魔力が一割も減ってない。

 

 「っと、感動している場合じゃないんだった」


 ――イメージは”模倣”


 ――対象は神崎 唯


 ――リロード”怪力”


 すると魔法から解放されたアドゥルバの一撃が、アスファルトを砕く。少し遅ければ俺がああなっていたと思うと背筋がゾワリと寒気が走った。


 ――残り1分30秒


 シーリスの声が時間を告げる。あまり猶予はないな。やっぱり怪力を模倣した所で武器が無いのは痛いな。何かいい方法はないか?

 そう考えると、シーリスの声が再び聞こえる。


 ――マスター、魔法を使ってください。


 えっ、魔法? 対戦車用ライフルの事か?


 ――いえ、そちらではなくマスターが創造(・・)と言っていた方です。


 創造の魔法か……。あまりいい思い出がない。最初は意識を失うし、グールとの初遭遇でも割れるような頭の痛みと戦った。

 それを使えと言う事なのだろうか?


 ――無から有を創り出すのはかなり負担がかかりますが、有る物を変質させれば軽減されるはずです。


 なるほど。それなら何かちょうど良い物はあるだろうか? 


 ――あの程度の相手でしたら、適当な物で十分です。足元のアスファルトで武器を見繕えば問題ありません。


 あれだけ苦労した相手を、あの程度と表するシーリス。上には上がいるのだろうが、シーリスは何と比較してあの程度と言っているのか気になるな。とりあえず言われた通りにしてみるか。

 地面に手を着いた。ざらつく感触と、夜の気温に冷やされたそれをかんじる。


 ――イメージは大斧。


 ――敵を粉砕する両刃の刃。


 ――バトルアックス。


 手を着いた状態で、イメージを固めて魔法を行使する。すると、アスファルトの地面が波打つようにうねり始める。個体が液体になったように俺の手へと集まりだした。

 ゆっくりと地面から手を離すと、それにつられ固いコンクリートが形を変化して付いて来る。

 スライムのようにグニャグニャと形を変えながら、しだいに想像した武器へと変化を終える。ずっしりとした感覚と共にコンクリートで出来た両刃の斧が完全した。


 「でかっ!」


 ただ、二メートルを越えるその大きさに少し驚いた。重さにしたら余裕で100キロを越えている。だけどそこまで重さを感じない。せいぜい1キロくらいの物を持っている感じだ。


 「本当に簡単に出来た……な」


 シーリス、恐るべし。だけど、俺にとっては救世主以外の何者でもない。新しい能力に加えて、今まで眠らせていた魔法の使い方まで教えてくれた。

 物質を変化させるだけなら、以前の時のように頭痛がする事も、多分に魔力を消費する事もない。ここまで、超回復を含めて二割程しか消費しないで済んだ。それに加えて唯の怪力も備わっている。準備は万全である。


 「……ニンゲン、何をした?」


 地面を粉砕したアドゥルバは俺の方へと振り返るなりそう言った。だけど、素直にそれに答えるつもりはない。アドゥルバを無視すると、斧を両手で持ち正面に構える。 


 「我を無視すか……良かろう。どんな手を使ったかしらんが……八つ裂きにしてやる」


 焼き回しのように、大砲の玉となったアドゥルバは地面を砕き猪突猛進に向かってきた。同じように体当たりをかますつもりなのだろうが、同じ手は食わない。

 斧を振り上げると、アドゥルバの突進に合わせる。


 「――らっ!」


 唯の持つ怪力とあいまってその超重量の斧を力の限り振り下ろした。


 「ふんっ!」


 急速に勢いを殺しアドゥルバは両手で、白刃取りをするように防いだ。


 「ぐぅ!」


 唯の怪力を持ってしても互角。互いにどうにか耐えるが、アドゥルバの足場が砕けてバランスを崩した。ここぞとばかりに力を込めると、アドゥルバを押し込める。

 行けるぞ! そう思った矢先に――


 「――嘘だろ」


 自身の左腕を爆発させるとその斧の刃を砕く。

 

 爆風で少しだけ俺の力が緩むと、アドゥルバは左腕が無くなった事をものともせずそれを押し返してきた。


 ――アドゥルバは残った右腕を振るう。


 「まただ!」


 だけど、俺も簡単に負けるつもりはない。


 ――リロード、”停止能力”


 即座に模倣した能力を切り替える。


 「止まれ!」


 そう叫ぶと、アドゥルバは動きを止めた。


 ――リロード、”怪力”。


 ――イメージは、バトルアックス。


 「食らえっ!」


 即座に魔法を発動し、再び斧を作り出す。そしてなぎ払うように振るうとアドゥルバの左脇腹を捉えた。


 「――ギッ!」


 声にならない悲鳴を上げると、アドゥルバの体は横に両断される。

 だけど下手に近づくのはまずい。体外へと出た血液だけを爆発させる能力かと思えば違った。今、下手に近づくと自爆覚悟で爆発するかもしれない。

 だから、遠距離から仕留める。


 ——イメージはライフル。

 

 ——鋼鉄の戦車を貫く黒き玉。

 

 ——如何なる物も貫き破壊する。


 ——対戦車用ライフル。  

 

 即座に魔法を展開する。そして、俺の最強の魔法を放った。


 「もう、一度」


 ――リピート、対戦車用ライフル


 二連続でアドゥルバ目掛けて放つと、それを避ける事もなく赤い閃光が貫き、地面にぶつかるとコンクリートを砕き、煙を巻き上げる。

 アドゥルバの姿がそれに覆われ姿が見えなくなったが、夜風がその煙を運んでいく。


 「やったか……?」


 アドゥルバの姿が徐々に鮮明になると、そこには原形を留めていない奴の姿があった。

 辛うじて頭だとわかる物体があったが、頭蓋の半分は吹き飛ばされてしまっている。これなら、流石の奴とて生きていないだろう。ゆっくりと、近づいた。


 ――2分を経過しました。模倣を解除します。次回使用可能は12時間後です。


 シーリスが、模倣が解除されたと告げてきた。ギリギリだったな。だけど、どうにかなったようだ。


 ――マスター、一つ質問をよろしいでしょうか?


 するとシーリスがそう言ってくる。


 「なに?」


 ――なぜ最初に動きを止めた時、あの対戦車用ライフルと言う魔法を放たなかったのですか?


 「あー、それはなんか――」


 ――卑怯かなって思ったんだ。


 動けない相手を一方的になぶるのは気持ち良いもんじゃないし。もし、怪力を使っても無理ならそうしていただろうけど。まずは正々堂々とアドゥルバに勝ちたかっただけだよ。


 ――なるほど。理解しました。ですが、次からはそう言った気持ちを捨ててください。今回はなんとかなりましたが、次もそうなるとは限りませんので。


 注意されてしまった。確かに、シーリスの言う通り命のやり取りにこだわりや、感情を込めるべきではないのだろう。その事はしっかりと受け止める。


 「……ニ……ンゲン」


 すると消え入りそうな声がした。


 「――まさか」


 「やる……な」


 体のほとんどを消失して、頭の半分を失ってもアドゥルバは生きていた。

 

 「まだ、生きてるだと……しぶといなお前」


 「なに……もうじき死ぬさ。見てみろ、これはどうやっても無理だ」


 自分でやった事と言えどその悲惨な光景に目を背けたくなる。


 「死ぬ前に一つ……名前を……」


 アドゥルバが何かを言ってるが聞き取れない。  


 「なんだ?」


 アドゥルバの頭へと近づいた。


 「名前だ、名前を教えろ」


 「名前……俺は斎藤 宗田だ」


 まさか最後に名前を聞かれるとは思わなかった。俺は素直に名を告げる。

 片目だけしか残っていないアドゥルバは目を閉じて俺の名前を聞いて何かを考えている様子である。


 「斎藤……宗田か……いい名前だな」


 「そうか。ありがとうよ」


 俺は短く返す。


 「でもよ……油断しすぎじゃないか」


 「えっ?」


 手負いの獣ほど危険なものは無い。アドゥルバ表情が歪むと、薄ら笑いを浮かべてこっちを見た。


 「じゃぁな! 死ねっ! イヒッ! ――爆せろっ!」


 気づいて逃げ出そうとしたが遅い。一瞬で爆発に巻き込まれると俺の全身を衝撃と高熱が包み込んだ。数千度に及ぶ熱は俺の体を溶かし、車に跳ねられたらような衝撃は体を破壊する。

 ズタボロの状態で空に打ち上げられた俺は、地面に着地するまで数秒の時間がかかった。 

 朦朧とする意識の中でさっき言われたシーリスの言葉を思い出している。俺が油断しなければこんな事にならなかったのにな。

 最後の最後まで俺を殺そうとしてきたアドゥルバは流石と言えるだろう。それに対して俺はまだまだと言える。


 ――マスター、急ぎ超回復を使用してください。


 シーリスがそう言った。


 その言葉通り超回復を使用するために、トリガーとなる言葉を唱える。即座に発動された超回復は瞬く間に傷を癒やし、意識が鮮明となった。


 「――宗田さん!」


 俺を呼ぶ声が聞こえた。

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