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適応属性

 コップを持ってきて俺はそこに指から水を出して注いだ。ぶつぶつ言っている神崎さんは置いといて検証を始める。

 生き残る確率をあげたい。だから、少しでも魔法について理解を深めておきたいのだ。


 一つは自分の魔力がどれくらいあるかだ。

 ゾンビが襲ってくる中で、昨日の夜みたいな倦怠感に襲われてしまっては本末転倒。自分の事を把握する必要があるだろう。


 そして二つめだ。

 どちらかと言えば、俺としてこっちが本命に近い。

 

 それが……、

 ——この水が物体として存在するのか。それとも、魔力と言われる存在なのか。

 である。

 

 前者であってくれる事を願たい。仮にこれが後者であれば、飲み水には使えない。きっと飲んだところでそれは水ではなく魔力その物だからだ喉の渇きを潤せないだろうと思うのだ。

 そして、前者であれば水の問題は解決する。物体としてあればそれは”水”、飲んでも水分として体に吸収されるだろう。そうすれば、水の問題についてはある程度解決できる。

 

 「あー……体が重い」


 コップに半分ほど水を注いだ所で体が鉛のように重かった。燃費悪すぎるだろう。それか魔力の量が少ないのか? そう心でごちりながら壁に寄りかかって休憩を取る。その体勢でコップの水をずっと眺める。

 視界の隅に入ってきた神崎さんは、今も魔法を使おう必死に何かを唱えている。


 体感で30分くらいか? 次第に体の倦怠感が抜けていった。魔力が回復したのだろうか? そして、いくら待てどコップの水はなくなる事はなかった。


 更に別のコップを持ってきて、水を注ぐを繰り返す。だけど、水が無くなることはない。魔法で創られた水は水。物体として生み出された存在と言うことが分かった。


 これは嬉しい。手で拳を作り、小さくガッツポーズを取り喜ぶ。魔力があれば無限に水が作り出せる。しかも、飲む事もできれば、喉の渇きを心配する必要もなくなるのだ。

 早速口に含む。


 「あっ、水だわ」


 当たり前だが、水だった。でも、そんな当たり前の事が嬉しくも感じた。ぬるく、人肌に近い温度。もしも冷たい事をイメージすれば、その通りになるだろうか?


 「――イメージは……冷たい水」


 注がれたコップの表面は白く曇り、見ただけで冷えている事が分かった。成功した……。こんなに簡単でいいのだろうか? 出来た事は仕方ない。後は燃費の改善かな。


 蛇口を少し開けるイメージでをする。すると、3つ以上に連続して注ぐことができたのだ。

 これに関しては魔力が上がったのか、無駄に放出していた魔力が消えたのか。更に検証が必要であるが基本的にはイメージ通りになると言うことが分かった。

 

 「うわっ! 何ですかこれ!?」


 気づいた神崎さんが驚きの声をあげる。視線の先は大量のコップ。家にあるほとんどのコップを使用しただろう。隙間のほとんどない、テーブルを見て少し引き気味であった。


 「あー、魔法の練習してたらいつの間にかこうなってたんだよね……」


 「なるほど。最初は気でも触れたのかと思って心配しましたよ」


 いやいや、それを言うなら神崎さんでしょ。自分の世界に入ったと思ったら、そのままぶつぶつと呟いたり頭を抱えた空を仰いだり。あたから見たら俺よりもよっぽどだと思うんだが?


 「それで何か分かりました?」


 「あぁ、少し分かったよ」


 検証して分かった事を伝えるとふむふむと頷いて聞いてくれた。


 「イメージですか……もし、火炎放射を思い浮かべたらそれが出ると言うこと何ですかね?」


 「やった事はないけど恐らくね。

 ただ、そんな事したら一瞬でぶっ倒れる自信はあるけどさ」


 「でも、水を気にしなくなるのは嬉しいです。

 ちょっと早く極めてもらっていいですか? お風呂問題も解決しますし」


 「そこなの!?」


 「乙女にとっては死活問題なんですっ!?」


 ビシッと人差し指を向けながらそう力説する。人を指差すではない。確かにそうかもしれないけど、俺を給湯器とでも思っているんじゃないだろうな?


 「そう言う神崎さんは何か収穫あったの?」


 「あっ、それを聞いちゃいます?」


 何か自信たっぷりである。まさか……


 「ふっふーん。収穫は……0ですね」


 おう……思わせぶりな態度は何だったのか。ある意味では予想通りではあるのだが、釈然としない。まぁ、本当に使えてたら飛び跳ねるように喜んでるだろうな。それがないと言うことは……ご察っしの通りで。


 「それで、宗田さんは

 火、水、雷が使えると言うことでいいんですね?」


 「ああ、そうだよ」


 「他には試してみました?」


 「んっ? 他の属性ってこと?

 人通り試してその3つが使えたんだよ」


 「あっ、そうじゃなくて特殊属性ですよ。

 そうですね。例えば呪いとか……」


 呪いなんて誰に使うんだよ。仮に適性があっても検証する方法がないわ。


 「後は重力や斥力とか、反射とかもですかね?

 それと、創造なんてのもありますよね」


 重力に斥力はいいな。それに、創造なんて使えたら格好いいわ。どれどれ、試しにナイフでも創造してみますか。


 「それは試してなかったな。じゃぁ、目に見えて分かりやすい創造を試してみるわ」


 全力で集中する。ナイフってどんな形してたっけ? んまっ、使える分けがないんだから適当でいいか。


 「じゃあ、行くよ。

 ナイフよ右手にっ——」


 使えるとは思っていなかったその魔法。だが、発動しようとした右手に魔力のような熱が集まる。とめどなく体の中心から何かが奪わる。


 「——ぎっ!」


 全身を突き抜けるような痛み。例えるなら銀歯でアルミホイルを噛んで体に電気が流れる、そんな痛みが全身を襲った。歯を食いしばってそれを耐えるが、半開きの口からはとめどなく涎が溢れる。


 だが、それを拭う余裕もない。ピンと体が伸びきって硬直したように固まる。どうにか止めようとするが止まらない。


 「あ———ががぎぎぎぃっ!」


 顔を真っ青にした神崎さんの姿が視界に入った。

 意識が暗転した。





 ——————————————————。

 




 ————————————。












 「宗……さん! 宗田さんっ! しっかりしてください!」


 ——はっ! 何があったんだ?

 倒れてる? 目の前には泣きそうな表情をした神崎さんが顔を覗き込んでいた。必死に名前を呼んで肩を揺らしている。


 「——っ! 何が……おきたんだ?」


 さっきまでの事を思い出そうとするが記憶が曖昧だ。何をした?

 すると——


 「——良かった!」


 突然抱きしめられた。甘い女性特有の匂いが鼻孔をくすぐる。神崎さんのぬくもりは暖かかった。茹だるような暑さの籠もった部屋なのにも関わらず、不快感は全くない。それ所か落ち着いてくる。ただ、夏の薄着のせいでその膨らみが体に押し付けられ、邪な考えが頭をよぎる。


 そっと神崎さんを離した。


 「神崎さん、落ち着いて。いったい何が起きたんだ?」


 そう聞くと、さっきまでの事を話し出す。


 「……宗田さんがナイフを創るって言って、魔法を使ったんですけど……

 一瞬光ると同時に突然倒れたんです……」


 そうだったのか。もしかして、創造属性も使えたってことか?


 「んっ? これは?」


 右手にコツンと当たりそれを手に取った。


 「……ナイフ?」


 と言ってもかなり歪な形をしている。俺が創ったのだろうか?それを手に取りじっくりと見る。

 ナイフとは似ても似つかない。柄の部分や刃の部分が入り混じり、それでいて波打つように全体が歪んでいる。これではせっかくの、その性能を生かす事はできないであろう。

 歪な鉄の塊がそこにあった。


 「これ……俺が?」


 「恐らくは……」


 でも、こんな変なのと引き換えに倒れるとか。

 歪になってしまった原因は何となく分かるとして、倒れた原因は多分魔力が枯渇したのだと思う。


 嬉しい反面、使い所があまり見いだせないと言うのが正直な所だな。それなら他の属性をしっかり使えるようになることが優先だろう。


 「そう言えば俺はどれくらい気を失ってたんだ?」


 「だいたい5分くらいかなと思います……

 本当にもう大丈夫なんですか?」


 「体はめちゃくちゃ怠いけどなんとかね。

 それに心配かけちゃってごめんね」


 俺は素直にそう謝る。


 「いえ、私が余計な事を言わなければこんなことに……」


 「それは違うよ。

 今、この現状で手札が多い事に越したことはないからね。だから、多少のリスクはしょうがない」


 もう少し休んだらまた、魔法の訓練をするか。


 「——いたっ!」


 「大丈夫ですかっ!?」


 どうやら倒れた時に左の手首を捻ったらしい。よく見ると赤く腫れていた。参ったな……軽い捻挫のようなものか?


 「——ちょっと見せてください」


 そう言って俺の手を取る。


 「——痛そう。

 私も魔法が使えれば、治せたかもしれないのに……」


 難しそうな悲しそうな顔をする。そっと右手を持って胸の前に持っていく神崎さん。

を瞑り、神に祈りを捧げるように俺の手をおでこへと持っていった。

 

 暖かい彼女のぬくもりを感じる。少し汗ばんだ手。彼女の優しさを感じる。神崎さんはしばらくその状態で祈りを捧げ続けた。


 すると――


 「——えっ!」


 怪我をした左手首が光りだしたのだ。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 更新お疲れ様です。 [一言] とりあえずはやって試そう、使って試そう。
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