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日常

まだまだ拙い文ですがよろしくお願いします。

ブックマークや感想をして頂けると幸いです。


いろいろと修正してます。ストーリーには影響ありません。また、短文的なのは後半に行くにつれて少しずつ解消されます。

20220705、加筆修正中。言い回しや表現、いらない部分を削ぎ落としています。


 俺は冬の夜が好きだ。廃虚さながらの家々が建ち並ぶ場所で空を眺めた。雪を降らせた雲が、群れを散らす動物達のように散り散りに移動を始めている。徐々に薄くなった雲からは薄月が俺達(・・)を見ていた。

 吐き出す空気は白く染まり、足を踏み出せばぎゅっと雪の積もった地面が鳴いく。落ち着く静けさと、寂しさを醸し出す今日は、俺好みと言って良い。


 ――だけど

 生憎、冬景色を堪能している暇はなかった。空を見上げた視線を下に戻すと、ちょうど月影が俺達を照らした。


 「油断した……よりにもよって……ゴブリンかよ」


 負傷した右の脇腹を抑えながら醜悪なそいつを睨み付ける。すると、切れ長な目を更に細くし、大きく裂けた口がニタリと歪め、こちらを嘲笑するように笑い返してきた。


 「腹立つ奴だな。ハイエナみたいに、狡猾で醜悪。あぁ、本当に腹が立つ」


 俺はゴブリンを睨みつける。

 月の明かりが、醜悪に満ち溢れた奴の存在を照らす。ケタケタと笑う姿は俺の腹をほじくり返すには十分である。

 低級な魔物の癖に知恵は回る、獲物を何処までも追う執念深さ、狡猾で獰猛……。悪辣の限りをつらつらと上げればきりがない。皆から嫌われる存在。もちろん俺も――大嫌いである


 「――キャッキャキャキャッ……キキキ!」


 ゴブリンが声を上げて笑い始めた。まるで、こちらを嘲笑するように挑発してくる。

 血管がはちきれんばがりに膨張した感覚がした。それと同時に負傷した脇腹が痛む。ズキリ痛み、手を当てると、ぬるりと暖かな感触がした。


 「怪我してるからって、完全に舐めてるな」


 奥歯を強く噛み締めるとギィッと頭蓋の奥から音が鳴る。ゴブリンは俺を襲ってくわけでもなく、その場で足踏みをするように何度も上下させ、手を万歳と不思議な踊りを踊る。向こうからしたら手負いの獲物。しかも、ほっといても死ぬくらいの出血量。こんな状態で睨まれても怖くもなければ、あざ笑うその心に火をつけ、逆に喜ばせてしまったようである。

 それにしても、運がなさすぎる。

 ――魔物の大量発生(スタンピート)がなければ……。


 いつものように狩りをしているとそれは起こった。本当に稀にしか起こらない現象、魔物の大量発生である。魔物達が向かう先は俺が住む街。城のように分厚い壁に覆われているわけでもない。簡易的な防護柵が設置されているのみ。そこに、魔物の群に襲撃されれば、結果は見えている。

 仲のいい友人、よくしてくれたおばちゃん、これから未来のある子ども達、そして、大切な彼女、見捨てられなかった……。無謀だと分かっていたが、一人立ち向かったのだ。魔法に戦技、そして、ポーションと言った道具を使って殲滅する事には成功した。その証拠に幾百の魔物を葬り、死屍累々と魔物の死体がそこかしこに倒れている。


 だけど、死力を振り絞った激闘の末、ゴブリンんの奇襲にあったわけだ。どうにか勝利を勝ち得たと思ったのだが、ゴブリンの奴が隠れていやがった。

 精魂尽き果て、街へと戻ろうと歩みを進めた。そして、サイクロプスと言われる単眼の魔物の死体を通りすぎようとした時、その死体と地面の隙間に隠れていたゴブリンが姿を現した。

 咄嗟に追撃しようとしたが遅かった。刹那の如く地を駆けるゴブリンは、錆びた剣を躊躇なく振るう。剣で弾こうとしたが間に合わないと判断し、むりやり体を捻って避けようとするが、左脇腹、肋骨の下辺りに熱された鉄を押し付けられたような激痛が走る。

 どうにか倒れないように踏ん張り、今に至ると言うわけだ。


 「こいつどう見ても……森の妖精じゃないだろ」


 ――ゴブリンは森の妖精。


 そう故障されている。彼らが居ると言うことは野生動物や木の実などが豊富とされ、豊作祈願にゴブリン祭りなんてのが存在するくらいだ。

 だけど、今の俺の気持ちからすればムカつく小鬼。その程度だ。

 見た目だって、緑色の肌をした小人。背丈は5歳児くらいで頭数が少し大きい。そんな子どもみたいな姿をしているが、右手には物騒な物を握って執念深い。


 悔しいな。

 これまでに何百とゴブリンを葬ってきたが、こうも追い詰められた事は初めてだ。

 冒険者の格言に『ゴブリンに始まって、ゴブリンに終わる』なんてあるくらいだが、今はゴブリンに終わると言う部分に当たる。


 「せめて、魔法が使えれば……」

 

 ぼやくが、先の戦いで魔力は使い切ってしまった。それに、体力も限界が迫っている。後、一振り剣を振るうのが限界だ。

 今も剣を杖に、左手で右の脇腹を抑えてやっとの思いで立っている。ふるふると震える足は産まれたての鹿のように、ゴブリンからは弱々しく見えている事だろう。


「――グギャッ!」


 人の声を何倍にも潰したような汚い鳴き声で鳴いた。


 「来る……か」


 視界が霞むな。だけど――負けるか。


 大きく息を吸い込みそれを吐き出す。

 ゴブリンが俺目掛けて迫ってくるのが分かった。

 それに合わせるように、腰を沈め体を少し左に捻り、剣を脇で構える。ズキズキと警報を鳴らす脇腹を黙らせ、奴が射程に入るのを待った。

 

 ――ここだっっ!


 渾身の一撃を放つ。


 「――ギッ!」 


 肉を裂き、骨を切断する感触。手応えは十分。ぶしゅっと吹き出す音と共に、ドブのような血の臭いと生暖かい液体が頭からかかる。

 

 「倒した……」


 どさりと物が落ちるような音がして、それを見やる。さっきまで嘲笑する態度をしていたゴブリンは、白目を向き、口を半開きに舌を出し、地に伏せ事切れた。

 

 ――生きている。どうにか……。


 周囲は死屍累々の様相。築かれた死体のオブジェから酷い臭いが立ち込め鼻腔を激しく刺激するが、それが逆に生を実感させてくれた。

 体力の限界だと、むりやり立っていた足は重みに耐えきれず膝が折れた。剣をささえに完全に倒れはしなかったが、荒い呼吸が収まらない。

 もうろうとする意識の中で、いつまで魔物との戦いは続くのか、そう思った。

 戦争が始まってかなりの月日が過ぎ去ってしまった。だが、この戦いはまだ終わりを見せない。平和だった日々が遥か昔に、今ではその時の記憶がかすれて薄くなってしまっている。


 「行くか……うっ……」

 

 鉛のような体をむりやり持ち上げると、よろけ倒れそうになった。


 「早く帰りたいな」


 今ここに居るのは俺だけ、後は死体しかない。不意に孤独感に襲われると、無性に皆の事が恋しくなる。


 「——くっ!」


 一歩足を前に踏み出すと、鋭い痛みに顔をしかめた。想像以上に傷が深く、わき腹の出血がかなり酷い。間一髪致命傷は避ける事ができたが、完全に油断した。刃がこぼれた剣で斬られたその傷は、ギザギザの刃先の所為で斬られたと言うよりは切り裂かれたが正しい。

 熱くなったわき腹を押さえ呼吸整える。


 「少し魔力が戻ったか……。まだ、死んでたまるか」


 生憎と回復魔法も使えなければ、ポーションを作り出す魔力もない。それならば傷を焼くだけだ。

 目を閉じて数回深呼吸をする。


 「いけるか?」


 ——イメージは炎。

 何度も紡いだそのフレーズ。


 ——全ての始まりにして全ての終わり。

 全てをこの魔法に託して。

 

 ——原初の炎。

 

 燃えろ。

 

 ゆっくりと目を開けると、刃先が真紅に燃える剣があった。その赤い光は周囲の闇を払いのけ、魔法が成功したことを告げる。


 「成功……した」


 ぼおっとそれを眺めると、まるで母親に抱かれたような安心感に包まれた気分となり、いつの間にか死へと臆する心はなくなっていた。

 

 「――やるか」


 自分の服を破き負傷した部分が剥き出しとなった。これから行う行為に臆病になりそうだが、そう躊躇している時間はない。血と泥に汚れた不潔な布を口に押し込めて大きく鼻から息を吐き出した。鉄の味が口に広がり吐き出しそうになるが、我慢する。


 そうして燃える剣を逆手に持つと、右のわき腹へとその剣の側面を押し当てた。


 「——ッッッ!」


 肉が焼け、血液が蒸発する。拷問に等しい行為だが辞める訳にはいかない。後で傷が残るだろうが死ぬよりはマシ。


 ――絶対に帰るんだ。


 「——ガハッ!」


 たまらずそれを口から吐き出すと唾液でべったりと、重くなっている。


 「くそっ……」


 流石に限界か……、

 立つこともままならずそのまま倒れると、雪のベットが優しく受け止めてくれた。

 

 傷は塞がったか?

 どうにか動く右手でわき腹を確認すると、だいぶいい感じに焼けていた。それに少しだけ安堵すると、瞼を開けてられないくらいの強烈な睡魔が襲ってくる。


 「限界だな……悪いな」


 このまま寝てしまえば魔物の餌となるだろう。

 だけど、もう起き上がる気力も瞼を開ける気力もない。重く閉じられた瞼の外で月明かりが照らしているのが辛うじて分かる――。


 ――ガ……ガガガ……


 ――対象の生命が危険値を上回りました。


 ――…………修復不可。


 ――ギッ……ギガ…………


 ――■■■による侵食を確認。


 ――防衛プロセスに移行。


 ――…………ガギ……ガガガガガガ


 ――防衛…………失敗。


 ――対象の侵食を確認。


 ――危険水域をオーバー。


 ――肉体の保護を優先。


 ――権限を譲渡し……ます。


 ――…………………………あはっ。


 ――ハハハハハッ!


 ――強制的に破壊プロセスへ移行。


 ――制御不可。目標――人類の排除。


 ――――――――――。


 ――――――――。


 ――――――。


 ――――。


 ――。


 「———はあっ!」


 けたたましく鳴る騒音に俺は勢いよく飛び起きた。


 「ゆ、夢?」


 さっきのは夢? かなり生々しい夢だった。

 本当に今もわき腹が斬られたような違和感がある。だけど、それが夢と分かると安堵のため息を漏らした。

 

 「あー、汗でベタベタして気持ち悪い。パンツもビショビショじゃんか」


 季節は夏。エアコンがタイマーを設定していたせいで止まっている。お陰で部屋の中はサウナのように蒸している。しかも夢見は最悪だった。

 全身汗だく、着ている服が体にピッタリと張り付いてい気持ち悪い。特に襟の部分が汗で異常に冷たく、それがより不快感を増す原因となっていた。


 「あー、喉乾いた……」

 

 喉が焼けるように熱く一刻も早く水分をくれと訴えかけてくる。エアコンを付け直してキッチンへと移動した俺は、冷蔵庫を開けて麦茶を取り出した。


 「冷たくて気持ちいいな」

 

 麦茶の入った瓶の側面を持ちながらその冷たさを十分に堪能すると、コップへと注ぐ。

 コポコポと注がれた麦茶はコップを白く染めた。早く飲ませろと喉がなり、

 

 「うぐっ……ぐっ……ぷっはぁー。あー! 生き返る!」 


 腰に手を当て、一気に飲み干すした。 


 「ふぅ。てか、変な夢だったな。ゴブリンに殺されかけるとか、ありえないだろ。間違いなく、あの夢はあれのせいだわ」 


 キッチンから自分の部屋へと戻ると、悪夢の元凶となったそれを手に取る。


 ”ドラゴンとクエスト”


 パッケージにはそう書いてあった。

 このゲームは何十年も前からある世界的に有名なゲームだ。もちろん俺もそのファンの一人である。昨日も夜中までこのゲームに熱中してやっていたのだ。恐らくこれが原因であんな夢を見たんだろう。

 はぁー、魔王に勝てないんだよな。


 元からゲームがかなり好きなのだ。仕事明けのゲームは欠かさない。ちなみに今日は休み。昨日は徹夜でゲーム。

 意気込んで、仕事明けにいろいろと買い込んで熱中したはいいものの、結果は惨敗。魔王にボコられて、そのままふて寝してやった。

 通常モードではクリアしてるんだけど、最高難易度ルナティックのラスボスに挑戦して一度も勝てていない。


 てか、反則だろ? 

 魔王の全体攻撃を食らうと強制的にHPが1になる。しかも、MPが0になり全体回復も使えない。

 アイテムも道具封じで使用できなくなるうえに、その後に超高威力の全体魔法まで放ってくるのだ。

 ――無理ゲー。

 しかも、この後に残り二回も変身するんだぜ? どうやって倒せって言うんだよ。こういう時にネットで攻略を見れば良いのだろうが、それじゃあ、つまらない。


 「悔しいな。でも、今日こそは――世界を救う!」


 とりあえずシャワーを浴びるか。

 手に持ったそのゲームをそっと戻し、風呂場へと向かう。服を脱ぎながら昨日の反省をする。

 あー、スキル構成が微妙かな? なら、最初からやり直して育成し直しかな? 

 こんな感じで、毎日ゲーム三昧である。


 「てかさ、勇者が敗北した世界ってどうなるんだろう?」


 世界は魔王の手に落ちるのか? それとも第二の勇者が現れるのか? 敗北した世界も世界で気になるな。

 頭からシャワーをかけると、汗を洗い流す。少しぬるいお湯が程よく心地よい。


 「はぁー、さっぱりした」


 体を洗い終え、風呂場から出る。


 「あぁ、真奈に連絡してなかったわ」


 と、思い頭を拭きながらスマホを手に取って連絡先を開こうとした所で、指を止めた。


 「何してんだか……」


 二年程付き合っていた彼女……真奈と一か月程前に別れた。原因は他に好きな人が出来たかららしい。まぁ。よくある話だ。

 ただ習慣で起きたら必ず連絡した癖が抜けてないらしい。別れた原因はゲームをしすぎて構ってあげなかったこと。それのせいで、

 

 「他に好きな人ができたか……」

 

 友達の紹介で出会い、趣味は違えど息があった。なんだかんだと積極的だったのは真奈の方だった。そうして、やり取りを繰り返して自然と二人で遊ぶようになり俺が告白して付き合う事になった。

 

 原因がゲームと分かった時は、ゲームなんて辞めてやると思ったもんだが、辞める事ができないで今に至る。

  結局の所、こう言う結末を迎えた一番の原因は自分だ。ゲームばっかりでかまってあげなくて、愛想を尽かされた……ただそれだけ。

 切なさを誤魔化すように頭をタオルでガシガシと強めに拭いていると。


 ———ピロンッ

 

 スマホから機械音が鳴った。


 画面には通知一件。

 そう表示されている。

 ———もしかしたら。そんな少しばかり期待して通知を確認した。


 「んっ? 神崎さん?」


 一瞬だけ真奈から連絡が来たかなと期待してそれを見たが、どうやら違ったらしい。

 

 「今日暇ですか?」


 そこにはそう一言メッセージが書いてあった。


 暇か暇じゃないかと言えば暇だ……けど、少しだけ今は気分が乗らないのも事実。


 「だけど、こうしててもダメだよな……」


 暇だよとそう返すと即座にご飯に行きませんかとメッセージが返ってくる。

 断る理由も無いし、せっかくだからその誘いを受けようと思う。


 「駅で待ち合わせか……準備しないと」


 まぁ、誘いを受けて思ったのだが、結局のところ自分は寂しいんだろうなと思う。

 まして、元カノの事を思い出してセンチメンタルな気分になっていたから尚更。

 会話に飢えている? 人肌が恋しい? そんな所だ。


 ただ、神崎さんと話をしているのは楽しい。

 人懐っこく素朴な可愛さのある彼女。つい最近落ち込んでいる所を見られそこでいろいろと話をしたことがきっかけで仲良くなった。

 会社の後輩でそれまで話をした事がなかったのだが、かなりのゲーマーと言うことが分かり、ここ最近はよく話すようになったのだが、まさか向こうから連絡してくるとは思わなかった。

 

 「財布と携帯は持ったし、忘れ物はない……な」  


 一通りの準備を終えた俺は玄関へと向かう。


 そして扉を開けるとエアコンで冷えた部屋の冷気が外へと吸い込まれ、茹だるような熱気へと変わる。

 それと同時にじりじりと太陽が肌を焼きに来た。


 外は快晴。

 心は曇り時々晴れってか。

 さて、行ってきます。

 誰も居ない部屋にそう心で言うと、駅へと向かうため部屋を後にする。

読んでくれた方、ありがとうございます。

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