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53話 祝福


 リリはゴーレムに価値がないと言われ怒りのままに叫びだした者達を見て、ああそんなこともあったなと思った。


「あ、ファースト、ここの肉焼けてるから食べられるよ」

「……」


 ファーストは言動にこそ出ていなかったが、思い出し怒りの最中だったようだ。

 危ない気配がしている。


 リリは、ファーストが怒りすぎて反応がないと思った。

 仕方がないのでリリ1人で食べ始める。


 ルティナとグローが黙っていられない様子で言う。


「リリさん、こんな状況で普通に食べようとしないでください」

「どうにかしてくれ」


 リリはチラッと周りを見ると言う。


「声かけても反応がないし、時には諦めも大事だよ」


 空を走る光は気が気じゃない様子で周りを見た。

 ダグが言う。


「リリさんって全員に支配かけてるよな。怒りを沈めるように命令してみるのはどうだ?」

「支配の命令をそういうことに使うのはちょっと。感情とか考え方を無理やり変えるような使い方は良くないと思うよ」


 ナリダが呆れたように言う。


「……私達にやってるわよね」

「ああ、そのことなんだけど。みんなが支配にかかった状態なのが嫌なら、支配を解く準備しようかと思ってるんだけどどうかな」

「えっ」


 空を走る光は想定外のことを言われたのか、戸惑った様子で黙った。

 リリは焼けた物を皿に移しながら伝える。


「命令されるのとかやっぱり嫌でしょ。私だったら嫌だから、とりあえずみんながキャラリックメルのこと伝えようとしないでいてくれるなら、外してもいいんじゃないかと思うんだけど」

「いや、俺達命令がなかったら言うかもしれないぜ」

「え、言いたいってこと?」


 ダグはすぐに口を開くが、言おうとしたことが言えなかった様子で口を閉じる。そして少し悩むような素振りをした後また口を開く。


「……言いたくはないな」

「で、でも、支配がなかったらつい反応してしまいそうなことがよくあったんです。やめたら私たちの反応からバレてしまうかもしれませんよ」

「それをファーストと話しててさ。どの程度バレたらどうする、みたいなやつを決めたらいいんじゃないかって話にさっきなったんだよね」


 空を走る光は、決まってなかったと聞いて信じられないという顔をした。


「それ、もっと早く決めておくやつじゃないかしら?」


 ナリダの指摘に、リリは残念そうな顔をした。


「今思うとそうなんだけど、仕方がないんだよ。バレたらまずいなんて深刻に考えてなかったし」

「バレたくないんじゃなかったのか?」

「バレたくはなかったよ。絶対面倒なことになりそうだと思ってたからね。でもさ、ちょっと強いことがバレただけで、うちの皆が討伐対象になったりするかもっていうのはあんまり考えてなかったんだよね」


 空を走る光は、リリがキャラリックメルの誰かが倒されてしまうことを心配していると思ったようだ。


 想像したのかウィルは少し悲しそうに言う。


「それならなおさら僕たちの支配は治さない方がいいんじゃない?」

「いや、知らない人よりみんなの方が大事だし、襲ってくる人なんてどうなってもいいんだから、みんなが我慢する必要はないでしょ」


 空を走る光は前提が違うことに気がついたようだ。


「勝つ気だったのね……」

「負ける気がしないもんな……」


 リリはどんな手を使ってもいいなら勝てる気がしたので、そういうことにしておこうと思った。

 何も載っていないコンロから、空を走る光に視線を移して言う。


「まあ、そんな感じだから、この氾濫が終わってどの程度バレたらどうするっていう話がまとまったら、支配解いてもいい?」


 空を走る光は目を合わせた。

 ウィルが聞く。


「リリさん、先に聞いてもいいかな」

「どうぞー」


 リリの気の抜けるような返事に笑ってウィルは言う。


「この間リリさんの家から店舗に戻った時に、魔族の人たちが僕たちを見て襲い掛かってきたんだけどね」

「え、それは大丈夫だった?」

「アルバートさんとサラさんが返り討ちにしてたから大丈夫だったよ。それでね、その時魔族の人たちは僕たちを見て、敵襲かと思った、って言ったんだよ」


 ウィルは考えるように下を向く。


「あの時はいきなり現れたからだと思ったんだけど、皆さんにとってはいつもの移動方法なんだよね。だから、今思うとあれは、僕たちがいたから敵だと思われた、ってことなんじゃないかな」


 リリは、そうだろうなーと思い目を逸らした。

 ウィルはそんなリリを見て笑って聞く。


「ねえ、リリさん。リリさんはあの魔族の人たちに、僕たちが敵だって言ったのかな」

「それは言ってないね」


 ウィルは分かっていたように頷くと、軽い口調で言う。


「じゃあ僕たちは、あの魔族の人たちとリリさんとは関係ないところで敵対していたってことになるね」


 グロー、ダグ、ナリダ、ルティナがウィルの言葉で思いついた様子で話し始めた。


「ああ、なるほど。俺が1番さんって呼ぼうとしたら、リリさんにさんはつけないように言われたのは、あれは俺達の敵だったのを知ってたからってことか」

「ファーストさんが言ってたよな。1番達はリリさん達のことを知ってしまった1部隊を捕まえただけだって。リリさんが捕まえてから敵になったんじゃないなら、いつ敵だったんだろうな」

「そういえば支配の魔法は実力差がある人にしかかけられないのよね。魔族にあれだけの実力者がいるのなら、私達にもかけられるのではないかしら」

「スルテリスの光の構成員が言っていた言葉も、さっき見た聖族の人たちの会話も、この間の事件に魔族が関わっていたという所は疑っていないようでしたよね」


 空を走る光は、1番達があの事件に関わっていたんじゃないかという疑惑を、持っているようだ。

 リリはそれをあえて自分に分かるように言ってるとしか思えなかった。


(これはカマかけって言っていいのかな……? 相手に分かるように言ったら意味ないよね)


 リリは聞く。


「えーと、何が言いたいの?」


 ウィルは心を落ち着けるように深く息を吸ってから話し出す。


「僕たちって魔族と敵対してるのかな。前の事件も、もし僕たちが魔族の恨みを買ってて、それであの犯人が、何も知らないまま魔族の言うことを聞いて、あんなことをしたんだとしたら……」


 ウィルは思いつめた様子で言う。


「また僕は……操られて…………」


 ウィルはそれ以上言葉にできないようだった。

 リリは慌てて言う。


「いやいや、みんなに恨みがあっての犯行ってわけじゃないから大丈夫だよ。あれはグルークの町に支配をかけたいっていう魔族の企みと、たまたまみんなに恨みがあった人が犯人になるっていう最悪の事態が重なっただけだからね。魔族が今後もみんなを狙う理由はないんじゃないかな」

「いえ、そうとも言えません」


 リリは急に言葉を発したファーストを見た。


「急に復活してなんてこと言うのファースト!」


 ファーストは憤った様子で話す。


「リリ様の優しさを利用した泣き落し戦法は、例え本心であったとしても許されません! もう言ってしまったのであれば、逆にとことんまで現実を見せてから支配を解いてしまうのはいかがですか」


 空を走る光はファーストに気圧され何も言えないようだ。

 リリは思ったことをそのまま言う。


「泣き落し戦法だったの……? いや、本心での泣き落としって泣き落とし……?? いやいや、それよりもまず先に、魔族が空を走る光を狙う理由ってあるの?」


 ファーストは冷静な様子に戻った。


「空を走る光が支配を使った事件を解決したというのは多くの人が知る事実です。聖族もそれを知って空を走る光が魔族と関りがあると考えたのでしょう。ですから、急に連絡が途絶えた魔族陣営も、空を走る光が何かしたと考えるのが自然ではないですか」


 ファーストはリリの返事を待たずに続ける。


「リリ様は部下からの連絡が任務の途中で途絶え、その部下が関わっていた作戦を誰かが妨害したと知ったら、その誰かが部下に何かしたと考えませんか?」


(ついに、まだ聞いてないけど例文を用意され始めたね)


 リリはまだファーストは怒ってるのかもしれないと思いながらも、もしファーストが言った通りになったらを考える。


「まあ、何があったか調べるだろうね」

「ですので現在の空を走る光の動きは、魔族もチェックしていることと思われます。その上で、今回の件に聖族が絡んでいることを知ってしまったとしたら、空を走る光が聖族の下についたからあの事件を解決できたんだろうと、魔族も考える可能性すらあり得ます」


 リリは気がついてしまった。


「つまり、空を走る光は魔族にも聖族にも狙われるようになるの?」


 ファーストは、そうなります、と深くうなずいた。

 リリは空を走る光を見る。


「……頑張ってね」


 空を走る光は渋い顔をして目を合わせた。

 ウィルが言う。


「リリさん、僕たちだけだと襲われないように逃げ回るくらいしかできないよ」


 リリは、逃げられる自信はあるんだね……と言って悩み始めた。


「とりあえず、町の中だったらくーの店に来てもらえればなんとかなるでしょ。森の中だったら、地面からいきなり食人植物が生えてきて絡めとっちゃうとか?」


 空を走る光は理解が追いついていない顔をした。


「どうしたらそんな発想になるのよ!」

「そんなことできるのか!?」

「……リリさんならできそうな気がしちゃいますね」

「僕たちしかいないならもうそれでもいいけどね」

「誰かに見られてたら俺達が報告しないと怪しまれそうだな」


 リリは聞く。


「報告しても見つからなかったらどうなるの?」


 空を走る光はどうなるかを考え込んだ。

 ウィルとグローが言う。


「かなり長い間探すことになるだろうね」

「他の国にも働きかけて調査しそうだ」


 リリは、うーんと唸って首をかしげる。


「森の奥に戻っていったような跡とかつけられないかな」


 ファーストとウィルが答える。


「つけることは可能です」

「1回ならいいけど、何回もってなったら無理があるんじゃないかな」


 リリはさらにうーん、と唸った後、あっ、と思いついたように笑った。


「怪しまれる前にみんなが強くなったら解決だね」


 空を走る光は複雑そうな目をリリに向けた。


「そんな簡単にって言いたいところだけど」

「リリさんですからね……」

「できそうな気がするのがまた……」

「強くなれるならそれが一番だしな……」

「何をすればいいのかしら?」


 リリは答える。


「魔物を倒しまくるんだよ。……たぶん」

「たぶんって何よ」

「外の人達がどうなのかはやったことないからね。実際にやってみないと確実とは言えないかなって」


 空を走る光は目を合わせた。

 ダグとルティナが言う。


「まあ、魔物を倒すのは問題ないぜ。いつもやってることだしな」

「グレイトホーンを倒す数をもっと増やせばいいということですか?」


 リリは通じない気もしたが、そのまま言う。


「いや、グレイトホーンはみんなのレベルだと経験値が渋くなってくるからやめた方がいいよ。効率よくレベル上げしたいなら、森の王とかが群れでいる森の中層に行かないと」


 リリはレベル上げという単語に何か言ってくるかと思ったが、空を走る光はそんな些事にツッコミを入れる余裕はないようだ。


「はぁ!? あれの群れを狩れって!?」

「森の王を倒しまくれってことですか!?」

「ははっ、想像の上を行ったな……」


 空を走る光は一様に信じられないことを聞いたような顔をしている。

 ウィルがあまり認めたくなさそうに言う。


「リリさん、今の僕たちが群れを狩るのはかなり難しいと思うよ」

「じゃあ先に称号集めしよう。余裕を持って全部1000回できるといいんだけど、まあ500回ずつくらいでも行けるようになると思うよ」


 空を走る光は称号と聞いて朝練を思い出したようだ。


「実戦に出る前の体づくりってことだね」

「魔力とスタミナを1000回ずつやればいいのかしら?」


 それならなんとかなりそうと前向きに検討し始めた空を走る光に、リリは笑顔で答える。


「違うよ。みんなが必要な基礎能力向上系の称号は全部で10種類あるから、それ全部1000回ずつやれるといいよねって」


 空を走る光は降って湧いたような1万回の課題に目を泳がせている。

 リリは笑って言う。


「期間とか、時間稼ぎの方法は後で話し合って決めよう。まあ、今後のことはそんな感じで、結局みんなは支配どうしたいの?」

「急に本題に戻ったわね」

「そういえばそんな話だったな」


 ナリダとダグが小声でボソボソ言っている。

 そんな声を背景にウィルが答える。


「僕たちが今後も魔族に狙われるなら、支配をかけられる可能性はまだあるよね。だから、今後も支配にかかることがないように、支配は治さないでほしい」


 リリはまあ、そうだよねと話を聞いている。

 ウィルはそんなリリを見て笑う。


「っていつもなら答えてたと思うんだ。だけどそれだと、僕たちが嫌がってるんじゃないかって考えて、提案してくれたリリさんに不誠実だからちゃんと言うよ」


 リリはウィルが真剣な表情になったのを見て、茶々をいれずに最後まで聞こうと思った。

 ウィルはリリを真っすぐに見て話し出す。


「僕はね。あの時祝福をかけてもらったことを嫌だって思ったことは、一度もないよ」


 ウィルは思い出すように遠くを見る。


「僕、最近同じ夢を見るんだ。あの犯人に命令されて、皆に酷いことをする夢を」


 空を走る光の4人はウィルを見ていたたまれなさそうにしている。

 ウィルはでもねと言って、リリに視線を戻す。


「そんな夢を見ても、リリさんがかけてくれた祝福があるからもうあんなことは起きないんだって、目が覚めて安心するんだ」


 ウィルは情けないんだけどねと笑って続ける。


「きっと祝福がなかったら夜寝るのも怖かったよ。だから、毎日ちゃんと寝られるように、祝福はかけたままにしてもらえるかな」


 リリは神妙な面持ちのまま頷く。


「夜眠れないのは大問題だし、解かない方がいいっていうのもよく分かったよ。ファーストも解かないでいいね?」

「リリ様が決められたのであれば、私から異論はありません」


 ファーストは普段通りの様子で言った。

 リリはファーストに頷いて、空を走る光の方を向く。


「じゃあ解かないで決まりということで。あとこれもあげるね」


 リリはネックレスを取り出してウィルに渡す。


「これは?」

「悪夢の状態異常を防ぐお守りだよ。魔法で起きてるわけじゃないから、効果あるか分かんないけど」


 ウィルはネックレスを見て、そんなものまであるんだねと言って、首にかけた。

 リリは少し聞きにくいと思ったが、聞くなら今しかないとも思った。


「うん、まあ、それでね。やっぱり気になるから聞いておきたいんだけど、さっきの話って私がそういう酷い命令しないって前提が必要だと思うんだよね。私が言うのもなんだけど、初めて会ってからそんなに経ってないし、色々言ってないこともあるのにどうして信じられるの?」


 空を走る光は常識が崩れ去ったような顔をした。

 ウィルが確認する。


「リリさん本気で言ってる? 僕らがリリさんを信じてるって思ったから、森でキオットの陽ざしにあの話をしたんじゃなかったの?」


 リリはあの話と聞いて1つしか思い浮かばなかった。


「命の恩人って言ってたけど秘密をバラそうとした人の話のことだよね? あの話って、みんなが信じてる信じてないと繋がってるの?」


「信じてなかったら言わない理由なんて……」


 そこまで言って、ウィルは気がついたように黙った。

 グロー、ナリダ、ルティナ、ダグがウィルに同情するように話す。 


「まあ、信じてなくても途中で言う気は無くなってたか……」

「この氾濫をどうにかできるのはリリさんしかいなかったものね……」

「ありえないくらい強い人たちも沢山いましたね……」

「隠す気がないだろってくらいリリさん自由にしゃべってるしな……」


 空を走る光はリリに残念そうな視線を向ける。

 リリは一応言っておく。


「隠す気はそんなにないけど、言ってないことはそれなりにあるんだよ」


 空を走る光は、そういう所だよ……! と行き場のない感情に襲われたようだ。

 ファーストがリリの隣で笑っている。


 ウィルとダグがやけになったように言う。


「僕たちだって最初は疑ってたんだよ。あの犯人を捕まえて何の利益があるのかとか、僕たちを助けて何が目的なのかとか」

「聖なる木を植え替えたとか、町の建物を直したとか信じられないことばっかり言うしな」


 リリはダグを見て驚いたように言う。


「あんなに驚いてたのに信じてなかったの?」

「いや、リリさんから聞いた瞬間はなぜか間違いないって思うんだが、1人で考え始めるとだんだん常識からかけ離れてることに気がついてだな……」


 空を走る光が、気持ちは分かるというように頷いている。


「最初俺は犯人を捕まえた名声が欲しいのかと思ってたぞ。まあ、俺達に手柄を譲った時点で違うと分かったが」

「私はお金だったわね。あんなに安く売られたら疑えなくなったけど」


 ウィルが、色々考えたけどことごとく違ってねと続ける。


「だから、リリさんが僕たちに支配かけてあげようかって聞いてきた時は、これが目的だったんだって思ったんだよ」

「私たちに優しい言葉をかけていたのは、支配をかけても酷い命令をしないと安心させるためなんじゃないかとあの時は疑ってました」

「そんなに疑ってたのに何で支配を受けようと思ったの?」


 ウィルとルティナはよく分からないことを聞かれたようにリリを見た。

 ウィルが答える。


「なんでって、リリさんに命を救われたのは本当だから、命を対価にするのは当然だよね?」

「対価?? どういうこと? 命を救われて命を払ってたら無くなってない?」


 リリは混乱した様子だ。


「リリ様、落ち着いてください。無くなってはいません。支配の命令によって生死さえリリ様が決められる状態になってもいいと思うほどの恩を感じたということだと思われます」


 ファーストの言葉にリリは顔をしかめる。


「えー、冒険者ってそんな状況結構頻繁になってそうだよ? 毎回命払ってたら立ちいかなくない?」


 空を走る光は、どうしてそうなるんだという顔でリリを見る。


「リリさんの想像上の冒険者の話を聞くたびに思うんだが、やばすぎないか」

「事前に倒せるかどうか調べてから行くのが普通よ。そう何度も起きることではないわ」

「予想以上の相手が出てきたらほとんどの場合死んで終わりだしな」

「もう既にリリさんには2回救われてるんですけどね」


 リリは、うーん、と唸ってからウィルに言う。


「納得はできないけど、まあ理由は分かったよ。それで?」


 ウィルは悟ったような顔をして続きを話す。


「支配にかけることが目的なら、何か命令して来るだろうって考えてたんだ。でも何も言われないから、これも違うって分かってね。もう僕たちには他に理由が思いつかなかったんだよ」


 ウィルは、リリを見て結論を口にする。


「リリさんが僕たちを助けたのは、別に僕たちだからっていう特別な理由があったわけじゃなかったんだ。結局リリさんの善意に助けられたんだって分かったんだよ」


 リリは信じることにした理由は分かった。しかし、善意だったと断言されると反論したくなったので言う。


「いや、でも結局命令しちゃってるし、その理論だと支配をかけることが目的だったになるんじゃないの?」


 空を走る光はジト目でリリを見る。

 ウィルがまた確認する。


「リリさん、本当に、本気で、言ってるの?」

「そんなに確認するほどおかしいこと言った?」

「リリさん、よーく考えてほしいんだけど、支配をかけることが目的っていうのは結局命令したいことがあるからってことになるよね」


 リリはそうだねと頷く。

 ウィルは言い聞かせるように続きを言う。


「もしリリさんが、僕たちを助けた目的が支配をかけることだったとしたら、リリさんは僕たちを観光案内させるために助けたってことになるんだよ」


「あっ! いや、でも間違ってないし。観光案内して欲しかったことは事実だし。Sランク冒険者に護衛されながら観光するなんて、これくらいやらないとできないんじゃないかな」


 空を走る光は否定しようと口を開くが言葉にできなかったようだ。

 ナリダとダグが声を大きくして言い返す。


「なんでそんなに頑ななのよ!」

「リリさんSランク冒険者なんて名称しか知らなかったよな!」


 リリがそこはバレてるんだなーと次の一手を考えていると、ルティナが聞く。


「実際のところ、私たちのことどうやって知ったんですか?」


 リリはそれは……と空を走る光の後ろに目を逸らした。


「冒険者に登録するときに、マッチェさんがこの町に1パーティだけSランク冒険者がいるってことを教えてくれて、森の盾の人たちも噂してるし、一番強い冒険者ってどんな感じか気になるよねってことで、研修が終わった次の日にあとをつけたんだよ」


 ナリダとグローは呆れた様子だ。


「それって私達について調べる時間全くないわよね」

「というか、あとをつけて具体的に何するつもりだったんだ?」


 リリはグローに視線を向ける。


「ステータスの魔法を使おうと思ったんだよ。気を逸らす役がいた方がいいと思って、プニプニまで呼んだのにね」

「呼びましたかな?」

「うわっ!」


 空を走る光はいきなり後ろから聞こえた声に驚いて振り返っている。

 プニプニが普段の大きさになってグローの真後ろで浮いていた。


 リリは笑って言う。


「驚かして気を逸らそうって話だったけど、目の前に降って来るだけでも十分だったかもね」

「いやはやその通りですな。もしあのまま私の出番が来ていたら、やりすぎて木っ端みじんだったかもしれませんからな。はっはっは」


「本当に何するつもりだったんだ……」

「プニプニさん帰ったんじゃなかったんだね」


 プニプニはウィルの言葉に笑う。


「裏庭で静かにバーベキューを楽しんでいたら、急に叫ぶ声が聞こえてきたのでね。気になって出てきてしまったというわけだよ。まあ、この様子を見れば何があったかは一目瞭然だったがね」


 プニプニはモニターを見た。

 リリもモニターを見てからプニプニに言う。


「そういえばあの映像を見せて何の話をしようとしてたんだっけ?」

「リリ様、一目瞭然とは言いましたが、そこまでは分かりかねますぞ……」


 リリはそのままファーストに視線を移す。

 ファーストは答える。


「リリ様は森の中で再び襲撃される可能性があるかについて気になっているようでした。そのため、スルテリスの光と監視を行っていた聖族が同じ指揮系統の元動いているかどうかについて、彼らに意見を求めている最中だったように思われます」


 リリはそういえばそんな話だったと思った。


「なんかさ。今までの話の流れ的に、聖族とスルテリスの光だけじゃなくて魔族からも襲われる可能性があるんでしょ。なら一応護衛をつけておいて、見られててもバレないように、何かあったら遠視の効果範囲の外から遠距離狙撃とかで倒すのはどう?」

「食人植物はどこいったのよ」


 ナリダはこらえきれずにツッコミを入れた。

 リリとしてはどちらでもよかったが、あえてどちらにするならを考えて言う。


「どっちでもいいんだけど、みんな以外にその場で見てる人がいる時は食人植物で、誰も周りにいないなら霧が発生するとか、遠距離射撃とか、雷が降ってくるとかにするのはどう?」


 リリは近くで見られている場合は誰がやったかを分かりやすくした方が、報告した時に色々考えられたり、可能性を探られなくて良いのではないかと思った。

 空を走る光は、そんな奇蹟のようなことが、と一瞬戸惑った様子だったが、気を取り直して考え始めた。


「……食人植物はやめた方がいいんじゃないかな」

「遠距離射撃以外は人がいる時に起きても運よく助かったということにできるわよね」

「数回なら誤魔化せそうな気がします」

「そんなこと誰かがやったなんて誰も考えないぞ」

「食人植物も誰かが指示してるとは考えないだろうが、その後の対応がな……」


 ファーストも言う。


「人がやったと思われないのであれば、調査などで情報を集める人数も減るでしょうから、我々に都合のよい結論に導きやすくなるのではないですか」


 リリは、全員同じ意見ならと頷く。


「バレにくいならその方がいいよね。まあ、食虫植物の捕食シーンはちょっと見てみたかったけど今回は縁がなかったということで」


 ルエールが近づいてきて聞いた。


「リリ様、捕食シーンを見たいのでしたら、あの聖族を捕まえる際にその食虫植物という分類の者にやらせてみてはいかがですか」

「あー、それはありかもね。あ、でも、間違ってそのまま食べちゃったりしない? 大丈夫?」


 ルエールとプニプニは少し悩ましげに話す。


「今回も生け捕りの予定なんですね」

「口に入れるとつい食べてしまいそうになるというのは身に覚えがありますからな。やりすぎるかもしれませんぞ」


 カーヘルが駆け寄ってきて、勢いよく言う。


「リリ様! あの者達を捕まえる方法がまだお決まりでないようでしたら、私から提案させていただいてもいいでしょうか!」

「やりたいことがあるならどんどんどうぞー」


 カーヘルは姿勢を正して、リリを真っすぐに見て言う。


「ドリームを使ってはいかがでしょう。あの聖族の攻撃は効きません。あの聖族より速く動けます。そして指示すれば殺さないように手加減したうえで、あいつらを蹂躙してくれるでしょう」

「最後の話だけ急に過激すぎない??」


 カーヘルはそんなことありませんと首を横に振る。


「リリ様は悔しくないのですか。自らの発案で作製したゴーレムが、価値がないと言われたのですよ」

「うーん、自分の発案というか、ゲームのコントローラーの真似だからね……」


 カーヘルがどう伝えればリリのやる気を引き出せるのか悩んだ様子で下を向く。

 ルティナが聞く。


「リリさん、ドリームって何ですか」


 リリは、そういえばゴーレムバトルの話を空を走る光にしていなかったと思った。


「ドリームは……うーん、例えが難しいんだけど、くーが素手で殴っても壊れないくらい強いゴーレムだよ」

「……そんなに硬かったんですワン」

「……アイアンゴーレム程度では戦いにならないのも納得ですね」


 キャラリックメルの工場エリアの者以外が遠い目をしている。

 空を走る光は想像できない次元の強さのゴーレムであるということは分かったようだ。

 グローが言う。


「めちゃくちゃ強いゴーレムってことは分かったが、聖族には何もしないつもりなのか?」

「え、ドリーム出して暴れさせる自体はやってもいいと思うよ」


 カーヘルが顔を上げて聞いた。


「よろしいのですか?」

「うん、生け捕りにさえできればいいからね。ドリームで蹂躙したいなら持ってくる方法とか、どういう指示をだすのかとか作戦を考えてやってね」

「ありがとうございます。作戦立案はお任せください」


 カーヘルはやる気に満ち溢れた笑顔で言った。

 空を走る光は止める者のいなくなった聖族捕縛作戦を思って目を合わせた。


 リリはあと何かあったかなと思い返してみるが1つしか思いつかなかった。


(これは会議が終わってからだね)


 そう思ったリリは空を走る光に聞く。


「あとは何か映像で気になることあった?」


 ウィルが言う。


「あの映像では試練の番人がいるようなことを言ってたけど、何か強い魔物とかは見つかってるのかな」


 リリはファーストに聞く。


「どうだった?」

「残念ながら聖族が関わっていそうな魔物は、雷の突然変異種のグレイトホーン以外には見つかっていません」

「じゃあこれも明日の朝までに見つからなかったら直接聞くことにしよう」

「かしこまりました」


 リリは空を走る光にもう一度聞く。


「あとは何かある?」


 ウィルは仲間たちの顔を見てから答える。


「僕たちは思いつかないよ」


 リリは頷いて、ファーストに聞く。


「何か決めた方がいいことある?」

「現状ではありません。ですが、偵察の結果次第ではリリ様に決めていただくことが発生するかもしれません」

「分かった。同じ部屋だし、いつでも聞いてね」

「ありがとうございます」


 リリは全員の顔を見回して笑って言う。


「じゃあ、作戦会議はいったん終わりということで、今から怖い話をします」

「急すぎない??」

「どうしてこの流れでそうなるのよ」

「リリさん怖い話なんてできるのか?」

「リリ様がする怖い話、想像できないですワン」

「天空エリアの図書館にもほとんどありませんから楽しみです」


 リリは全員の言葉を気にせずに続ける。


「題名は『重力系の魔法の対策をしなかったせいで9割ダメージを負った人』です」

「そうきましたか」

「リリ様、怖いの意味が違いませんか?」

「とてもためになるお話の予感がしますなー」

「よく分からない言葉もありますが嫌な予感がします……」

「身につまされる方の怖さみたいだな……」


 リリはこのお話はフィクションですと前置きをした上で、空を駆ける稲光という冒険者パーティが重力系の魔法を対策しなかったからどうなったかをじっくり語ることにした。



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