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38話 偵察本部

 キャラリックメルにて、偵察部隊の本部がある部屋を覗き込むとそこは修羅場だった。


 リリが来たことにはまだ気がつかれていないようなので、リリはこっそりと眺めてみる。


 忙しそうにしている集団は、2つの集団に分かれているようだ。


 1つの方は偵察結果をまとめている。

 投影機のような見た目の機甲種達が、偵察部隊から送られてきた100を超える映像を壁に投影していた。

 その映像を見て、数を数える者、地図に書き込みを加える者、分布図を作成する者などに分かれているようだ。全員残像が残るほどの速さで手を動かしていた。


 もう1つの集団の方は、スルテリスの光や聖族について、今までの偵察の結果から何か分かることはないか確認しているようだ。

 細かい文字が書かれた紙がそこら中に溢れ、筆跡の違う文字が書かれたホワイトボードに囲まれた状態で作業している。

 本当に読んでいるのかと疑うような速度で書面を確認してはホワイトボードに書き込む者もいれば、それを元に話し合っている様子の者もいた。


(場違い感が凄すぎて入りにくいけど、情報組織の仕事現場って考えるとカッコいいような気もするね)


 リリはとりあえず目的である、プニプニを探した。


 広い室内を見渡して、リリはホワイトボード組にプニプニの姿を見つける

 プニプニは触手を使い書類をパラパラと読んでいた。


 リリが見つけたということは、プニプニもリリの存在に気がついているはずだと様子を伺う。

 だが、プニプニはこっそり様子を伺っているリリに気を使ってか、一切反応しなかった。


(あの手でよく器用にページ捲れるね……。って見てる場合じゃなかった)


 リリはすぐに用意して出かけないといけない状況であることを思い出して、さっさと入ることにした。


 何となく邪魔をしてはいけない気がして、音を立てないように忍足で室内に入る。


 室内に入った時点で、偵察系の才能を持っている何人かの視線が、リリを捉えた。しかし、リリが音を立てないように行動しているのを見て誰も声をかけようとはしなかった。


 リリは声をかけられなかったので、せっかくだからと反対を向いて書類を読んでいるデモクに狙いを定めることにする。


(短剣を装備したら、隠密系のパッシブスキルが発動するのかも、ついでだし試してみよう)


 そう決めたリリは剣の柄にある球体の部分に手を翳して、武器種を短剣に変更した。


(これでよし。あとは気持ちの問題だから、隠密系のスキルの名前を念じながらいこう。気配遮断、次元移動、影なき……)


 リリの存在感が消えた。

 すでにリリを認識している者達は、緊張感を隠してどうなるのか見守る体勢でいる。


 リリとデモクの距離があと数歩になった。

 その時、デモクが書類を読み終わった様子で、顔を上げる。


(まずい……)


 リリは、どうしようという目で周りを見渡す。

 デモクの周囲ではプニプニとアイがリリの様子を伺っていた。

 リリと目があったアイは1つ頷くと、デモクが振り向こうとしたタイミングで、リリとは反対側から声をかける。


「デモク様、お聞きしたいことがあります。今、よろしいですか?」

「ん? どうした」

「スルテリスの光の予言では、価値という文言を重要なものとして扱う意図がありました。これはどういった考えが元にあると思われますか?」

「そうだな……」


 リリは、この隙に、プニプニを手で招くように呼ぶ。

 プニプニは書類を置きにいくような自然な動きで、スーッとリリに近づく。

 リリはプニプニの後ろに回ると、手を下に差し込み、プニプニを頭の上まで持ち上げた。

 笑いを押し殺したような気配がリリには感じられた。


「……文章を読むに、氾濫から生き残ったら価値が高まるんだろ。なら、魔物を多く殺したやつの方が価値が高いとか――」

「その考えはどうかと思うがね」

「は? いきなり入ってきて何言って」


 デモクは勢いよく振り返る。

 プニプニがデモクの視界いっぱいに映り込んだ。


「うおっ!」


 デモクは反射のように手で振り払った。


 すごい勢いで飛んでいくプニプニ。


 飛んでいくプニプニを驚いたように見るリリが、プニプニの下から現れた。


「いきなり目の前に現れるんじゃないって、リリ様!? ど、どうしてここに……?」


 リリは、少し反省した様子で言う。


「いきなり目の前に現れて驚かせる奇襲ドッキリは、危ないからあんまりやらない方がいいみたいだね」


 デモクは動揺した様子のまま弁明する。


「リリ様、違うんです! プニプニだと分かってたからやっただけで、リリ様が目の前に現れただけだったら絶対にやってませんよ」

「本当にー? いきなり転移で目の前に出てきても攻撃しないって言える?」

「言えます。絶対にやりません!」


 必死な様子のデモクを見て、リリは笑って言う。


「そこまで言うなら今度やろうかな。奇襲するには気配の消し方も考えないとね」


 リリはさっき気配を消そうと武器を短剣に変えたことを思い出した。


「アイ、私の気配ってどうなってるかな? さっき短剣に持ち替えたから、パッシブスキルが発動したんじゃないかと思ってるんだけど」


 リリはデモクのさらに向こう側にいるアイを覗き込んで聞いた。

 アイは真面目な顔をして言う。


「リリ様の気配の消し方は完璧であります。もしリリ様が入る時点で気配を消していれば、ここにいる誰に気がつかれることもなく、背後からの奇襲が行えていたことでしょう」

「なるほど、誰でも驚かせ放題ってことだね」

「そのような考え方もあります」


 デモクがリリの後ろに視線をやって言う。


「あー、俺らはいいですけど、プニプニに奇襲は難しくないですか?」


 リリは後ろを振り返る。

 プニプニがゆっくりと少し音が立つように跳ねながら近づいてきていた。


 リリはプニプニを見ながら言う。


「見なきゃいいんだよね? スイカ割りみたいな感じでやってみるとか」


 その場にスイカ割りを知っている者はいなかったが、スイカがどうなるのかだけは分かった。

 プニプニが半目になって言う。


「……リリ様、スイカ割りがどのような物かは存じ上げませんが、割るのはやめてくだされ」


 リリはプニプニって物理無効だから割れないんじゃないと思ったが、深く突っ込まないことにした。


「まあ、それは置いといて、本題に入ろう」


 デモクが、そこは置いておくんですねと呟いている。

 プニプニが諦めたように転がった。

 リリはアイに聞く。


「どこまで聞いてる?」


 アイは切り替えたようにリリを見た。


「ファースト様より、聖族が監視を行っていないかを確かめにリリ様が森へ行くというお話は聞いてあります。ですが、それ以上の具体的なお話はお聞きしていません」

「ほとんど聞いてるんだね。まあ、そこまで聞いてたらやることは分かるでしょ」


 その場にいる全員がプニプニを見た。

 そして一様に悩みだす。

 

「そんなに悩むこと?」


 デモクとアイが悩みながら話す。


「プニプニを連れて行くのは分かりますけど、見られたら即討伐対象じゃないですか?」

「使役獣ということにするにしても、検問所で見せていないので、どこから来たのかという問題があります」


 リリは笑って言う。


「生き物だってバレなかったら平気じゃない?」


 えっ、という目がリリに集まる。

 リリはプニプニの方を向いて、用意してきた長さや装飾の異なる棒を何本も取り出す。


「ということで、プニプニ。好きなのを選んでステッキになってよ」


「私が……ステッキに……?」


 プニプニは棒を受け取った。


「プニプニって天然石にありそうな柄だから、ステッキの先端につければすごい魔法の道具感が出て良いと思うんだよね」


「リリ様、言いたいことは分かりますけど、飾りにしては大きすぎませんか」


 リリは不思議そうにデモクを見る。


「デモクって知らないの?」


 デモクは早口で言う。


「何をですか。あと俺だけじゃなくて全員の疑問だと思います」


 リリが答える前に、プニプニが声をかける。


「リリ様、これでどうですかな」


 声のした方を見ると、捻れた木の棒の先に夜空をそのまま閉じ込めましたという見た目の球体のついたステッキが完成していた。

 リリは目を輝かせる。


「最高だね! 長さはステッキというよりワンドだけど、プニプニステッキ強そうだよ。ほら、デモク、大きさもバッチリだよ」

「本当ですね。お前ってそんな小さくもなれたんだな」


 誰も触っていないのに垂直に立っているように見えるステッキから声が聞こえる。


「この大きさになるのはだいぶ久しぶりな気がいたしますな」


 今、プニプニはリリが最初に仲間にした頃と同じ大きさになっている。

 リリは5年前ってみんなから見るといつになるんだろうと思ったが、聞くのが難しい話題な気がした。


「まあ、デモクがいなかった頃かもしれないね」


 この話題も置いておくことにしたリリは、自分の身長くらいの大きさのプニプニステッキに近づいて、手で持ってみる。


「動かしたら落ちそうだったりしない?」


 プニプニが回転して、下に隠していた瞳がリリの方を向く。


「リリ様が思いっきり動かなければ問題はないと思いますな」

「……ちょっと不安だからプニプニもパーティに入れておくね」


 リリはメニュー画面からプニプニを自分のパーティに入れた。

 プニプニとリリの能力の変化が表示される。

 プニプニは機嫌が良さそうだ。


「これならわざと振り払おうとされない限り平気でしょうな」


 リリは試しに予告なしでプニプニステッキを軽く振り下ろしてみる。

 プニプニは微動だにしなかった。


「平気そうだね」


 プニプニは今の動きで、リリの心配していることと自らの運命を悟った。


「リリ様、この後すぐに戻られますか?」

「いや、いなもにも話があるから、豊穣エリアに寄ってから戻るよ」

「それでしたら、後から追いかけますので、置いていっていただいてもよろしいですかな」

「いいけど、何するの?」


 プニプニは真剣に言い切る。


「リリ様のステッキとして恥ずかしくないよう、修行してから参ります」


 リリはステッキの修行とは何をするのか分からなかったが、止める理由もなかった。


「頑張ってね。立派なステッキになれるよう応援してるよ」

「はっ、必ずやリリ様に相応しいステッキになってみせますぞ」


 リリはプニプニステッキから手を離す。

 そして、転移をしようとして、まだ言っていないことがあったことを思い出した。


「そうだ、みんなに1個言いたいことがあったんだった」


 全員の視線がリリに集まったのを見渡して、リリは続ける。


「会議で偵察結果が予定より増えてたでしょ。あの時、気づいてすぐみんなが偵察を始めてくれて助かったよ。ありがとう」


 リリはそれだけ言うと、少し照れた様子で〈転移〉して消えていった。


――――――――――――――――――――――――――――――――


 リリがいなくなって少しして、感情が爆発したように叫んだり、啜り泣いたりする声が部屋中に響いた。

 誰も作業が手につかない状況だったが、止める立場にいる者も放心した様子で立ち尽くしていた。


 プニプニがアイの方を振り向いて言う。


「困ってしまうね。全てが終わったら今の件について謝罪しようという話をしていたが、これでは謝れない」


 アイが呟く。


「あれは計画の段階で私達の慢心が招いたミスです。リリ様に謝らなければならないことが沢山あります。そう思っていたのに、なのに……」


 デモクは大きくため息をついて言う。


「ファーストさんが俺らにリリ様のことを連絡をしなかったのは、こうなることを見越してたんだな。リリ様が助かったと思ったのに、俺らが謝る準備をして迎え入れるなんてありえないし」


 アイがそうですねと頷いて、少しやけになったように言う。


「こうなったらリリ様の優しさに報いるためにも、結果をお見せする必要があります」


 プニプニとデモクが同調する。


「そうだね。全てはリリ様の思うがままにだ。リリ様が思い描く先を無理やりにでも実現させなければ」

「リリ様に喜んでもらえるような結果を出さないとだな」


 デモクは、そのためにはまずはと、いまだ作業が手につかず混乱している者達の方を向く。


「お前ら! そろそろ落ち着け! リリ様が森に行くまでに、偵察終わらせるんだろ!」

――――――――――――――――――――――――――――――――


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