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5話 空を走る光の目的

 リリはちょっとだけ落ち着いた。


「ねぇ、ファースト。逆に彼らの目的って何だろうね」

「目的ですか」

「うん、私と常識が違うっていうなら、私から見たらちょっとなと思うような発言にも理由があるわけでしょ。目的を知っておけば、納得できるかもしれないし。どこまでが本心なのかだって、変わってくると思うんだよね」


 リリは命の恩人だなんだと言いながら約束してくれた、ギルドに伝えないという言葉についてどういう扱いにしたらいいのかちょっと困っていた。

 約束を破る可能性が低いってことは分かっていただろうし、間違っていないけど命の恩人関係ないよねという気分である。


 言っていることと違うことを思っていても、両方本心だってことはざらにある。印象を良くするために、言葉を選ぶなんて誰だってする。

 リリは空を走る光に悪い印象をもっていなかったので、どういう発想をしているのかが知りたかった。


 ファーストは言う。


「彼らの目的は我々を人類の敵にしないことです」

「え、極端すぎない?」


 リリは壮大すぎて、ちょっとよく分からなかった。リリ達を空を走る光の敵にしないことから、飛躍しすぎではないだろうかと思う。

 ファーストは頷く。


「はい、ですが彼らの先ほどの会話の内容から分かる目的はこれになります」

「えーと、どういうこと?」


 ファーストは少し困った様子だ。


「リリ様、まず前提として常識は当たり前だと思っているので、必要がなければ誰も口に出しません。そして私は入力された情報を私の常識に当てはめることで、結果を出力いたします。ですので、私の発言は彼らと私の常識の違いのため、彼らの考えと異なる可能性があることを分かったうえで聞いてください」


「うん、ファーストが予想した結果を教えてくれるってことだね」


「はい、そして重ねて申し訳ないのですが、リリ様との常識の違いについても、リリ様が何か言動に反映していただけなければ分かりません」


「ははは……、さっきも言ってたもんね。たぶん私が一番常識がないから心してかかってね」


 ファーストは頷いて言う。


「リリ様の考えを直ちに反映し、演算の修正に努めさせていただこうと考えています。いつでも言ってください」

「それは間違った方向に進みそうな気がするから、やめといた方がいいような? いや、まあ、それよりも続きをお願いしてもいいかな?」

「はい、では続けさせていただきます」


 そう言ってファーストは、空を走る光の目的の予想を教えてくれる。


「まず、冒険者ギルドは横のつながりを持っていて、グルークの町の冒険者ギルドに情報を流すと、全ての冒険者ギルドに情報が流れるということは知っていますね?」


「そうだね。確か世界中にあるって言ってたね」


「はい。次に、空を走る光が考えている我々が敵になる理由は、情報を知った者を消すためです。そして、彼らはギルドに報告すると、我々が国を落とす可能性があると思っていましたね?」


「うん、そこは納得したよ」


「つまり、冒険者ギルドに情報がいくと、ギルドが報告して国に情報が行くことになります」


「……えーと、確かにそうなるね」


 リリはとても嫌な予感がした。

 ファーストは続けて言う。


「国を落とせるような戦力を持った未知の存在の情報を、ギルドは国に報告しないでしょうか?」


「するね。私だったらするよ。つまり、ほとんどの国が、私達の情報を手に入れちゃうんだね」


「はい、そして情報を知った人を全て消すということは?」


 リリはこうなるよねと思いながら言う。


「ほぼ全部の国の王様とか冒険者ギルドには、消えてもらうことになるだろうね。もしかしたら姿見られて、他の人にも被害が出るかもしれないし。そうなったら、もう私達は人類の敵で確定だよ」


「はい、そうなります。なので、冒険者ギルドに伝えないことにした空を走る光の目的は、我々を人類の敵にしないことです」


 リリは、でもやっぱり壮大すぎじゃない? と思った。


「ファーストの言いたいことは分かったよ。でもかなり手加減してたし、人類の敵にまでなったら、私達が負けることを普通想定するんじゃない?」


「空を走る光としても、ギルドに伝えた時点で我々が行動すると考えているとは思います。ですが、空を走る光は最悪を想定して行動しているのではないですか。彼らは我々の家のある場所を知りません。移動は転移で一瞬です。そして豊穣エリアを見ています。かなり多くの人数が生きていけるだけの食料が生産されていることを、彼らは知ったでしょう」


「うーん、こっちに精鋭で攻め込むとかもできないし。私達の戦力が足りてて、転移を防げなかったら1カ月かからないで終わりそうだね。一応、想定はできるのかな」


 リリはついに私も魔王みたいな扱いになってしまったかと、しみじみ思った。

 ファーストは頷いた。


「ちなみに、先ほどの録画は豊穣エリアを見る前日のものになります」

「……それって私達の戦力を、かなり少なめに見積もっててもおかしくないよね」


「その通りです。この録画の時点では彼らは我々の実力を過小評価しています」

「え、じゃあギルドに伝えて世界中に伝えちゃえば、まだ抵抗できるかもってこの時点では考えててもおかしくないよ」


「最初にウィルが言っていました。自分達の考えを知ってもらったほうが、僕たちもこの町もリリ様も安心だと。おそらくですが、グルークの町の冒険者ギルドに伝えてしまえば、グルークの町に襲撃が起きる可能性が高いですから、それを避けたかったのだと思いますよ」


 リリはあの時点ではと思って聞く。


「じゃあ、次の日に豊穣エリアを見てなかったら、他の町に行ったときにチャンスがあれば私達のこと言ってたってこと?」


 ファーストは首を縦に振った。


「はい、リリ様。ですが、彼らはそもそも言いたくなかったのだと思います。だからわざと、いろいろと話し合っていたのではないですか?」

「……どういうこと?」


 ファーストはここが伝わっていなかったのですねと、リリの疑問に納得した様子だ。


「リリ様は、国を落とせるような未知の存在を、Sランク冒険者が、人々を守ることを目的としている冒険者ギルドに、報告しないということを、して良い、と思いますか?」


「……ダメだと思う。ここだけ聞くと、絶対に報告しないといけない気がしてくるね」


 リリは空を走る光がやらなかったことが、実は結構やばいことなのではないかと気がついた。


「彼らもそう思ったと思います。ですから、もし、彼らにギルドに伝えたいという気持ちがあったのであれば、彼らは我々の実力を、一部の国を落とせる程度、という前提で行動していたと思います」


「さっきの会話は私達のこと、人類の敵レベルでやばい、って前提で話してたんだもんね」


「そうです。リリ様の嫌がっていることをやらない理由として、彼らはわざと我々の戦力を大きく見積もり、最悪を想定して行動することにしました」


 リリは彼らが約束を守ろうとしていたことに気がつけたので、よかったと思った。と、同時にこれ絶対気がつけないでしょと、無茶ぶりをされた気分だ。


「うん、裏を読む難易度が高すぎるよ。というか今彼らどんな気持ちなんだろうね」

「どういうことですか?」

「いや、だってさ。私達の戦力を豊穣エリア見る前は下に見積もってたんだよね?」


 ファーストは頷く。


「で、本当に人類の敵になってもおかしくないレベルの規模の組織だって知っちゃったら、さっき会話で話してたことが、現実で起きてもおかしくないんだって思うわけでしょ」

「安心したのではないですか? 最悪を想定して行動しておいたことに」


「そこで安心しちゃうんだね……。危機感はないの?」

「当然あると思いますよ。結局、彼らはリリ様の目的を知りません。もし戦力が足りていれば、リリ様が人類を滅ぼそうと考えていても、止める手立てはありません」


「うん、危機感持ってない方がおかしいね。常識だから言わなかったんだね……」


 前提条件は常識だから、言ってもらえないんだなとリリは思った。

 リリはがっくり肩を落としながら言う。


「こんな話を聞いちゃうとさ、私達って誰かにギルドに報告されたら、すごい面倒くさいことになりそうだね」

「そうですね。ですから空を走る光はリリ様に、警告の意味も込めて先ほどの会話をしていたのだと思いますよ」


「警告?」

「そうです。あの時点では、グルークの町以外の町に移動した時点で言う可能性があるがこのままで大丈夫か、という確認をしています」


「あの時点では言う気だったんだもんね。でも、あれ見ただけだと、言わない気だと思っちゃうよ?」


 ファーストは少し言いにくそうに言う。


「あの会話は見かたによっては、我々を油断させておいて、こっそりギルドに報告するための準備とも見れます」

「完全に術中だった……」


 リリは頭を抱えた。


「その作戦を見破らせる事で、ギルドに言わないで済むように命令して欲しかったのだと思われます」

「何も考えずに、豊穣エリア見せちゃったね」

「彼らにしても予想外だったでしょう。リリ様が警告し返した形になりますから」


「人類の敵になっても大丈夫だよって?」

「人類の敵になれるかもしれませんが、あなた達はどうしますか? です」


「えーと?」

「人数が多いことは伝わりました。ですが、やはり1レベルの者が何人いようが、100レベルの者には敵いません。空を走る光が想定できるように人類の敵になれる可能性を、チラッと見せた形になります」


 リリは落ち着かない様子で聞く。


「いや、それってどうなの? それでいいの? チラ見せで彼ら言わないの?」


「言う可能性はあります」


「ダメじゃん! え、命令して言えないようにした方が良いよね? 私、人類の敵にはなりたくないよ」


 ファーストは外に情報が漏れた場合、どうする予定なのか聞いていなかったので、命令して言えないようにした方がいいのかの判断がつかなかった。


「リリ様は我々のことを知った者を、どうする予定なのですか?」


「え、どうするって。あっ、そうか、消さないなら、人類の敵にはならないよね」

「それは分かりません」


 リリは身を乗り出して言う。


「分かんないの!? こっちから攻撃しなくても、勝手に敵認定されるってこと?」


「外の常識が分からない現状では、我々のことを知った者達がどのように考えるかは分かりません。危ないから倒そうかもしれませんし、強そうだから利用しようかもしれません」


「危ないから触らないでおこう派は少数かな……」


「いるかもしれません。ですが、そういった者達はこちらが弱った瞬間を、狙っているのではないですか?」


「どう転んでも嫌な展開になる可能性があるってことだね」


 リリは、もし誰かが強そうだから利用しようと思っていたとしても、その方が勝手に敵認定してくるよりはマシだと思った。魔物を倒すくらいなら、ついでに素材も集められるしやってもいいレベルの作業だろう。

 リリはまだ、リスポーンしない魔物をどれくらい狩っていいのか迷っていたので、頼まれたらむしろ嬉々として狩りつくしそうだなーと、なんとなく思った。


 少し将来について想像できたリリは、ファーストにさっきの映像をもう一度流してもらうように頼む。

 あらためて見てみると、油断させるようなことも言っているけど、ヒントになりそうなことも言ってると思えた。食事で懐柔されたなんて、本当に人類の敵だと思っているなら出てこない話なんじゃないとリリは思う。

 最後まで見てリリは、でもやっぱり難易度が高すぎる、と改めて思った。


「うーん、私達の情報って空を走る光が知ってる程度でも、外に知られたら面倒くさいんだよね」

「そうですね」


「でも、元の世界に帰る方法について知るためには、外と関わらないといけないんだよね」

「そうなります」


 リリはファーストを見る。


「私達のことは、人類の敵になれるレベルでやばい集団じゃなくて、唯一無二の便利な技術とか特産品を持った集団くらいでどうだろう?」

「それくらいでしたら、敵にするには惜しいくらいでいけそうですね」

「敵にしたくない、がいいんだけどね。まあ、つまり、外に知らせる情報を外の常識と照らし合わせて、いい感じに調整しないとだよ」

「と、なりますと」


 リリは厄介な事態に巻き込んでくれたお礼と、厄介な事態に巻き込まれそうであるということに気がつかせてくれたお礼の両方をしたいと思った。

 リリは面白いものを見つけたように、笑みを浮かべながら言う。


「食べ物で懐柔された空を走る光には、私達の目標に協力する栄誉を与えよう」

「リリ様、実は少し怒っておられますか?」

「何のことかなー」


 リリはファーストを見ながらニッコリ笑った。

 ファーストはリリが何か含みを持って言っていることは分かったが、空を走る光に対して怒っているかの判断はできなかった。

 リリは笑みはそのままで言う。


「まあ、それに無理やりやらせる気は無いよ。彼ら協力してくれるかな?」

「それは問題ないかと。彼らは最初からそのつもりのようでした」


「どういうこと?」

「空を走る光の目的は我々を人類の敵にしないことです。そして、彼らは我々の目的を知ってそれに協力することで、我々を味方にしようと考えていましたね?」


「油断させて作戦の方で見るんじゃなくて、最悪を想定したバージョンで見るとそうなるんだったね」

「そうです。そして彼らの言っている協力の内容は、常識の違いによって何かあった場合協力することで、人類に無駄な犠牲が出ないようにすることです」


「いまいちよく分からないんだけど?」

「では、一度あった事例をお伝えいたします」


 リリはちょっと遠い目をした。


「もうすでに何かあったんだね」


「そうなります。事件解決のため、協力を要請するために冒険者ギルドに行ったときの話です。その時アルバートがギルド長に、ウィルをよく止められたな、と言われました」

「……支配で命令されて、ウィルが仲間たちに斬りかかってたのを止めたやつだね」

「それです。あの時アルバートは、私達の方には意識が全く来ていなかったので、簡単に縛ってあげました、と言いました」


 リリはそんな事もあったと頷く。


「リリ様、アルバートは個人の実力として、Cランク冒険者くらいだとギルドには思われています。そしてウィルはSランクです。ちょっとハンデがあっても勝てるわけがないくらいの実力差です。ギルド長はアルバートの説明のみの場合、納得したでしょうか?」


「そう聞くと無理な気がするね」


「その通りです。そのあとウィルが、やりたくなかったから僕も力をこめていなかったのではないか、と補足することでギルド長を納得させることができました」


「ウィルが付け足してくれなかったら、実は強いってことがバレてたんだね」


「はい、貫通麻痺については知られない方がいいという判断と、空を走る光が我々に協力する気があるのかを確かめる場面でした」


 リリは、なんで知らない間に踏み絵やってるのと思った。

 気を取り直して言う。


「つまりファーストが言いたいのは、私達の実力とか知識が外の人達にバレないように、空を走る光は協力してくれるってこと?」


「その通りです。今回の話はわざとでしたが、常識が違うということはついうっかりで、我々の情報を漏らしてしまう可能性があります。その場合、我々のことを知った相手を消す可能性があると彼らは考えています」


「私達のことをついうっかりで知った人が、そのまま全員犠牲者ってことだね」


 リリはさっきの話だと、ギルド長とマッチェさんを消す可能性があると思われてたんだなーと思った。


「そうなります。空を走る光にとって、我々の目的に関係ないところで起きるこのような出来事は事故のような物です。つまり無駄な犠牲です。これを防ぐために協力したいと考えているようです」


「うん、もうだいたい分かったから、いろいろと気にしないことにするよ。私達の目標はこの世界を楽しむことだからね」


 リリは今の話を踏まえて、これからやることを考えることにした。


「ということで、ファースト、まず私達は外の人達に人類の敵になれることを知られないようにしないとだね。敵になったら、楽しめないからね」


「空を走る光に命令するということですね」


「そうだよ。とりあえず言い方は、私達と私の家の全ての情報を、許可なく誰にも伝えないようにでいいかな? 同じことを知ってる人には言ってもいいも付け足してね」


「文言はそれでいいと思います」


 リリはこれからの予定を思い出しながら聞く。


「それで私達はこれから氾濫でゴーレムが使えるか試すために、ザーツマールにいく予定だけど、命令するのはいつ頃がいいかな?」


「行く直前に命令してはいかがでしょうか。彼らならそれだけで、常識を補うために協力してほしいことを察すると思いますよ」


 リリは呆れたような視線を向けた。


「察しが良すぎない? 嘘禁止、情報漏洩禁止と楽しいことを探してるから協力してほしいことしか、命令で言うつもりはないよ?」


「最後の命令の内容のみ理解できないとなるかと思います」


「一番大事なのにね」


 リリは残念だなーと思った。


「それで命令することは事前に言った方がいいのかな?」


「どちらでもいいと思われます。嘘をつけなくなれば気がつくでしょう」


「え、やっぱり嘘はつく気なの?」


「いいえ、彼らに嘘をつく気はあまりないと思われます。そうではなく、リリ様が嘘を言わないように言った時点で試します」


 空を走る光がこっそり試してこちらに悟らせずに気がつく様子を、リリは想像してしまった。 どんな発想で行動しているのか、さらに想像できなくなりそうだ。


「あー、なるほどなー。なら最初から言った方がいいね。騙し討ちって私の不得意分野だよ。命令ってどんな内容でも、ちょっと悪いことしてる気分になるからね」


「そう思われるのでしたら、先に言った方がいいですね。彼らはリリ様がそわそわしていれば気がつきます。自分達に何かする気があればなおさらです」


「うーん、彼らの方が見た目は強そうなのに、小動物を相手にしている気分だね」


「小動物と違うのは、逃げたりはしないところですね」


「勇者っていうだけあって心が強いよね。私は命令するだけなのに、すごい見た目に出る気がするよ。命令する時にビビってたらさすがに彼らに笑われちゃうかな」


 ファーストはリリが笑われることになるのは、嫌だと思ったらしい。

 少しだけ実力行使の必要があると、提案する。


「見た目には出ないかもしれません。ですが、内心では命令すると聞いた時点で少し動揺すると思いますよ。リリ様が命令する時、我々の方で少し威圧してみるのはどうでしょう? そうすれば、リリ様の動揺までは読み取られずに済むかもしれません」


 ゲームでの威圧の効果はレベル差によって、能力値低下、行動不能、戦意喪失のうちのどれかが状態異常として発生するものだった。


 リリはファーストの言葉と勇者という単語から、どうすれば動揺を悟らせずに命令できるかを思いつく。そして楽しそうに言った。


「ねぇ、ファースト。勇者に命令できるのって誰だと思う?」




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