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40話 犯人逮捕

 リリがピーちゃんの前に転移したことで、全員が揃った。


 リリは持っていない人に透明になれるローブを渡す。

 検問所を抜けた時点で全員が透明になろうと言った。

 全員が頷く。

 空を走る光、黒の砂は透明にならずに検問所へ向かう。

 検問所では今日の朝伝えた支配にかかっていない衛兵達がそこで待っていた。

 その人たちはこう伝える。


「あなた方が来た時点で、全ての検問所が封鎖されることになっています。外からは入れますが、中からは出られないので安心してください」


 そう言って1人を残して残りは全ての検問所へと向かって行った。

 空を走る光とアルバートとサラが感謝を伝えて、町の中に入る。

 そこで全員が見えなくなった。

 そのまま空を走る光の案内で進んでいく。

 犯人の拠点についた。

 少し離れた場所に、ギルドの職員と、ギルド長ロッダンがいる。

 なので空を走る光とアルバートとサラが驚かれないように遠くから姿を現す。

 無事に発見されたようだ。

 ロッダンがこっそりと声をかけてくる。


「ここに何人か入っていくのを、職員が交代して見張ってた。だから今のところ9人程度が中にいると思う。気をつけろよ」

「うん、気をつけるよ。見張りありがとう」


 ウィルがそう言って、また全員が透明になれるローブを着る。

 無事に誰も驚かずに姿が消せたようだ。

 扉に手をかける。

 鍵が掛かっているので、グローがこっそり鍵を開けた。

 誰にも気がつかれずに家に入る。

 グローの案内で部屋を何部屋か抜けていくと、何人かの人影が現れた。

 全員がリリを見るので、リリは指を1本立てて静かにするように促してから、無詠唱でスキルを使った。


〈無詠唱〉〈範囲〉〈恐怖の熟睡〉


 紫色の煙が広がる。

 恐怖の熟睡は眠らせる魔法スキルの上位版だ。

 通常の睡眠耐性では完全には防げない。

 ゆっくりと寝た人達が倒れていく。

 それを見たファースト、プニプニ、デモク、アルバート、サラが音が出ないように倒していく。

 空を走る光は詠唱もなく、見たことのない色の煙が、リリの手元から出てきていたので聞いてくる。


「この人達に何をしたの?」

「大丈夫、寝ただけだよ」


 空を走る光には確かに、寝ているだけの様にみえた。

 そのあと一階にはもう何人かいると言うグローについていって、同じように全員を寝かした。

 これで問題なさそうだと思った、グローが言ってくる。


「ここにいるのはあと1人だ。間違いなくあいつだな」

「じゃあサクッと捕まえちゃおう」


 それを聞いて空を走る光はローブを脱いで、リリに渡した。

 リリがローブをしまう。

 そしてウィルがリリに言う。


「僕たちが囮になってる間に、あいつを捕まえてね。楽しみにしてるよ」

「任せて、いきなり捕まってかなり驚くだろうから、その様子をみて思いっきり笑おうね」


 リリの言葉にナリダ、グローが言う。


「なにそれ楽しみだわ」

「きっとかなり面白いだろうな」


 続けてルティナ、ダグが言う。


「そうですね面白すぎて苦しくないと、いいのですけれど」

「無理だろそれ、絶対苦しくなる」


 そう言って、空を走る光は2階に向かって行った。

 その後ろを続いていくリリ、ファースト、プニプニ、デモク、アルバート、サラ。

 ドアを勢いよく開け放った空を走る光。

 その後ろをついて行く6人。

 ウィルが犯人を見て言う。


「よくも僕達で好き勝手してくれたな! 絶対に許さない。お前はここで終わりだ」


 空を走る光をみて男性は少し驚いている。

 格好は町に溶け込めるようにと、魔法職の冒険者がをしているような格好をしている。

 だが、極悪な性格が滲み出ているような顔つきをしていた。

 そのあと笑って言った。


「は、なんだ自殺したんじゃなかったのかウィル。どうやって仲間を殺さなかったのかは知らないが、また支配にかけられたいようだな。俺に従え、〈支配〉の〈強制度増加〉しろ、ドミネイション」


 そう言って杖をウィルに向けて、杖を右にずらす。

 犯人には、ウィルが完全に支配にかけられたような見た目に見える。

 犯人はかからない可能性の方が高いことを知ってはいたが、一応かけてみたのだ。

 かからなくても、支配をよく知らなければかけられるだけで焦るだろうと。


 なので命令した。


『ウィル、俺を守りながら仲間を殺せ』


 ウィルが、わざと犯人を煽るように言う。


「お前の支配なんてもう効かないんだよ。対抗策があることも知らないの? 馬鹿なんじゃない」


 それに続いてナリダ、グロー、ダグ、ルティナが言う。


「ばーか、ばーか」

「無知なことを自分で言って恥ずかしくないのか?」

「お前ってホント雑魚いんだな」

「残念な人なんですね。対抗策も知らないのに、よく人にかけられましたね」


 犯人はかからない可能性の方が高いことを知っていたので、今回の支配の魔法の命令に従わないことは気にしていない。

 だが、命令に従わないということは、あの長い時間を使ってかけた支配から数日で解放されているということだ。

 それが無性に気に食わなかった。

 なので、次の手を打つ。


「そんなことを言っていられるのも今のうちだ。お前たちは俺に殺される。眠れ、〈睡魔〉に負けろ、スリープ」


 杖から白い煙が噴き出す。

 空を走る光はあえて避けなかった、装備の効果は一応聞いていたし、もし眠っても問題ないことを知っていたからだ。

 全員に白い煙がかかった。

 しかし、誰も眠らない。

 犯人と空を走る光の両方が驚いている。

 それを見てリリ達は、笑い声を出さないのが大変だった。

 気を取り直してウィルが言う。


「お前の魔法なんて効かないんだよ。雑魚が粋がるのやめてくれないかな」

「ふん、スリープの魔法に抵抗できた程度で調子に乗るな。それにこれを食らっても同じことが言えるかみものだなあ? 黒き闇よ燃え上れ、〈黒炎〉、ダークフレア」


 そう言った瞬間、犯人の手が勝手に上に向かって上がる。

 狙いがそれて家の天井が黒い炎で燃え上がった。

 空を走る光は避ける体勢をとっていたが、それを見て動くのをやめた。

 犯人は勝手に自分の腕が持ち上がったことに驚くと同時に、自分の周りに見えない何かがいるのではないかと気がついた。

 犯人は杖を床に突き刺して、魔法を詠唱する。


「何を企んでるかは知らないが、見えなかったらどうにかなると思うなよ! 俺の周りの広い〈範囲〉よ、〈燃焼〉しろ、コンバッション」


 犯人の周りが燃え上がる。

 かなり熱そうな見た目に、空を走る光はリリ達を心配した。

 その時犯人の周りで、笑い声が聞こえる。

 デモク、ファーストが言う。


「弱すぎるだろ」

「信じられない弱さです」


 プニプニ、サラが言う。


「なんですかこれ、本当に炎なんですかな」

「ちっとも熱くありません」


 アルバートとリリが言う。


「この程度でどうにかなると言われても、困りますね」

「全く熱くなくて、逆に驚いたよ」


 それを聞いた犯人はむきになって同じ魔法を繰り返す。

 それを見ながら拠点のメンバーは、とても楽しそうに笑う。

 犯人をデモクが持ち上げた。


 急に浮いたので犯人は驚く。

 それをアルバートとサラが楽しそうに、ロープでぐるぐる巻いてあげる。

 見事にロープで縛られた犯人が出来上がった。


 その後デモク以外が姿を現す。

 いきなり現れた5人に犯人がかなり驚いた。


「誰だお前らは、いったい、いつからそこにいた」


 質問には答えずリリが言う。


「お前に支配をかけてあげるよ。安心してね痛くはないよ」


 犯人は抵抗する。


「やめろ、俺に支配なんてかけられるはずがない。あいつらよりも強いこの俺に、支配をかけられるやつがいるわけがない」

「じゃあやってみよう私に従え、支配の強制度増加しろ、ドミネイション」


 口で支配と言ったのとほとんど同時に


 〈無詠唱〉〈絶対的支配〉〈無詠唱〉〈強制度増加〉


をかける。

 犯人に上位版の存在を知られたくなかったので、それっぽく言っている。

 リリは絶対的支配の見た目を元に戻していた。

 そして他の人には見えなかった炎を、ちゃんと誰にでも見えるように変えている。

 犯人は炎に包まれた。

 まだうっすらとした炎だ。

 それを見て犯人は支配にかけられていると、実感した。

 全力で抵抗する。


「やめてくれ、お願いだ。支配にかけなくても何でも言うことを聞く。だからこれ以上はやめてくれ」


 リリはバーを横に動かす。

 まるで支配されたものからすべての自由を奪うように、炎が犯人を縫い付けている。

 色も黒、青、緑などの色をした炎に変わった。


 かなり熱そうな見た目に、実際は熱くないのに犯人は熱さを感じてしまった。

 かなり熱そうな叫び声をあげる。

 空を走る光は少しだけスカッとした。

 リリ以外の拠点の者達は熱くないことも知らないのかと、残念なものを見る目で見ている。

 リリはちょっとだけ引いた。

 そして気を取り直してリリは言う。


「こいつは皆になんて言ったんだっけ?」

「最初は俺についてこい、お前たちにやってもらいたいことがあるです」

「なるほどね、じゃあこうだね『私についてこい、お前にやってもらいたいことがある』」


 リリは空を走る光の前に移動した。

 犯人もどう頑張ってもあらがえなかったので、リリについて行く。

 リリが命令する。


「次が寝泊りしろとかだから違うね、『私に逆らうな』かな」

「合ってるよ」


 ウィルが教えてくれた。


「そのあとグルーク資料館を壊してこいだったからそれも違うね。なんだったっけ」


 ダグが教えてくれる。


「お前たちが支配されていることは誰にも言うな。支配の命令の内容と俺について、それから俺がやったことも誰にも言うな。そしてお前たち以外から治されることに全力で抵抗しろ、だ」


 ダグが教えてくれた言葉からどう命令すればいいか考えながらリリは言った。


「じゃあこうだね。『私に支配されていることは誰にも言うな、そして誰かから治されそうになっても全力で抵抗しろ』、必要だから言っちゃうね、空を走る光と黒の砂は除いて『私達のことは誰にも言うな、私達がやったこと、と支配の命令内容も含めて誰にも言うな』これで良いのでは?」


 ファーストがリリに伝えた。


「完璧です。これなら私達のことは誰にもばれません」


 ファーストが褒めてくれたのでリリは感謝を伝えた。


「ありがとう、それで最後は何だっけ」

「抵抗するな、よ」


 ナリダが言った。

 リリはそれを聞いて言う。


「なるほどね『抵抗するな』、ついでだから言っておくね、『ここにいる全員に逆らうな、抵抗するな』」


 全員が完全にやり返す気なんだなと、笑った。

 そのあとリリはもう犯人を衛兵に突き出す事は出来るけど、このままだと何度でもやりそうだし一度は痛い目にあってもらおう、と思ってウィルに言う。


「ねぇ、ウィル。私、一度ウィルが森の王にやったっていう、剣に雷の魔法を纏わせて切るやつが見てみたかったんだけど、お願いできないかな」

「……死ぬんじゃない?」


 ウィルは捕まえる予定のはずと思ったので聞いた。

 リリが大丈夫だということを伝える。


「実はこいつ皆よりもちょっとだけ強いんだよ。魔法使いだから切らなかったら魔法には強いと思うよ」


 ナリダも問題ないと思ったようで、ウィルに伝える


「それはそうね。私も魔法には強いって自信があるもの。きっと剣で切られなかったら、ウィルの魔法の剣の攻撃にも耐えられるわ」


 ナリダとリリが言うので、ウィルは問題ないと思ったようだ。


「2人がそう言うんならそうなんだろうね。ナリダよりこいつの方が強いんでしょ。ならきっと死なないね」


 犯人はウィルに攻撃されることに、恐怖を感じたようだ。


「やめてくれ、ウィル。謝る。謝るから。本当に悪かった。ウィル、お前が町で有名になっていくのがむかついたんだ。だが、もうこんなことはしない、だからやめてくれ」


 ウィルは珍しく怒ったように言った。


「もう遅いんだよ。お前が町にやったことは許されるようなことじゃないんだ。皆にやったことだって、僕は本当に許せなかったんだ。この人達がいなかったら皆死んでいた。それに比べたら死なないだけましでしょ?」


 ウィルは本当に怒っていた。

 子供の頃からルティナと家族のように過ごしていたウィルにとって、怒りは表に出すとルティナに怯えられるという感覚が身についている。

 だからウィルは怒っている時も出来るだけ表面上は、穏やかそうにしている。

 でも決して一切怒らない性格ではないことを、ルティナはもちろん、空を走る光の全員が知っていた。

 ルティナが声をかける。


「ウィル、私達も怒っているから、私達の分までお願いね」


 それを聞いてからウィルが剣を構えた。

 そして詠唱する。


「わが剣に宿り給え、〈雷槍(らいそう)〉よ〈付与〉されろ」


 剣に雷が纏わりつく。

 そして剣を振り下ろす。


「〈轟雷迫撃(ごうらいはくげき)〉」


 とてつもない雷の轟音があたりに響き渡った。

 ぷすぷすと煙をあげながら犯人が倒れる。

 倒れた犯人のことは誰も気にしていない。

 リリはウィルに言った。


「すごい威力だね。かっこよかったよ」

「あなたに言ってもらえると、かなり強くなった気分だよ」


 ファーストがいえ、かなり面白かったのでだいぶ強いと思いますと言って。

 プニプニが、そうですな、面白さで言えばパーフェクトですぞと伝えた。

 デモクは俺も今度それやってかっこいいって言われたいなと面白そうにしている。

 アルバートが見事でしたと褒めた。

 サラもお見事ですと楽しそうだ。


 ウィルに全員の注目がいっている隙に、煙を上げていた犯人が持っていたポーションを使って回復し、起き上がってしまったようだ。

 そしてリリを捕まえていう。


「馬鹿め油断したな。ロープを切ってくれてありがとよウィル。お前ができたんだ。俺にだって攻撃するくらいは、できるんだぜ。このガキがどうなってもいいのかよ」


 そういってリリにナイフを向けた。

 その瞬間、拠点の者達はリリに、いきなり刃物を向けたらどうなるのかについて思い出した。

 何かが起きる前に、一瞬でアルバートが犯人の腕を切り落とす。


 リリは丁度つい犯人の手を握りつぶそうとしていたところだったので、アルバートの振った剣がリリの横をゆっくり真下に向かって通過していくところを見てしまった。

 それを見て何が起きるのか察してしまったリリは、グロい光景はみたくなかったので、犯人に無詠唱で〈部位欠損回復〉をかける。


 新しい腕の生えた犯人には、痛みだけが伝わったらしい。


「俺の腕がぁ」


 と言って床に倒れてのたうち回っている。

 ウィルがリリに怪我はないか慌てたように聞いてくるので、大丈夫、心配してくれてありがとうと返事をした。

 そしてウィルとリリが話している裏で、このお方になんてことしてくれるんですか! と、拠点の者達がキレる。


 犯人を全員が蹴飛ばしている。

 犯人がボールのように動いていた。

 犯人はギャーギャー、呻いている。


 アルバートが軽く浮かせてから犯人を蹴った。

 それをプニプニが頭でトスする。

 ファーストが殴って、サラに向かうようにした。

 サラはデモクに向かって犯人を蹴飛ばす。

 デモクはフィニッシュとばかりに犯人を上から下に押す。


 何度か似たようなことが繰り返されて死なないギリギリでやめてあげたようだ。

 犯人はボロボロだ。


 リリはそろそろ犯人には懲りて欲しいと思いながら、空を走る光に聞く。


「こいつに聞きたいことはない?」


 そう聞くと、空を走る光は何個か聞きたいことがあるようだった。

 なので、リリは『私たちに聞かれた事に正直に答えなさい』と命令した。

 そのあとダグが聞く。


「お前の名前は何だ」

「俺はベルデルドだ」


 ルティナが聞く。


「なんで聖なる木を壊したんですか」

「あの木がなくなれば、町の奴らは慌てて自分たちが何をしているかも、分からないうちに色々なことをしでかすだろう。その間に勢力を伸ばす予定だったんだ」


 グローが聞く。


「お前、あの木がなくなったら、ここで生活できなくなるってことを知らないのか」

「もちろん知っている。だがどこかから持ってくればいいだけの話だ。近くの町から枝を分けてもらえば、あそこでまた木が育つだろう」


 ナリダが言う。


「あなた聖なる木が育つまでに、どれくらいの時間がかかるかお分かり? 町の人達が全員死んでから、育ち切る可能性もあるのよ」

「それは俺の知ったことではない。俺は死なない。だから問題ない」


 ウィルが言った。


「馬鹿だとは思ってたけど本当に馬鹿だったんだね。死なないわけがないよ。結晶病(けっしょうびょう)はどんなに強くても、かかったら絶対に死ぬんだ。お前も例外じゃないよ」

「そんな馬鹿なことがあるわけがない。弱いやつがそう信じたいだけだ」


 リリがウィルに聞く。


「結晶病って何?」

「結晶病を知らないんだ。意外だよ。結晶病っていうのは魔素で体が侵されて、最後は砕け散って死んじゃう病気のことだよ」


 それを聞いて拠点の者達は思った。

 魔素溜まりの上を通るときに、一番気をつけてたやつだと。

 リリはその病名は知らなかったけど、同じ症状のものは知ってるよとウィルに言う。

 そしてデルベルドに言う。


「じゃあ試しに結晶病になってみようか。かかっても死なないと思うなら、そのまま砕け散るまでやってあげるね。『死にそうだったら命乞いをしな』」


 それを聞いた空を走る光が驚いている。

 ウィルが聞く。


「あなたってそんなことも出来るの」

「そうだよ、この犯人が二度とこんなことが出来ないように体に教えるのが一番でしょ。ナリダも、それで無事に対人戦ができるようになったわけだし」


 ナリダが言う。


「そうね。あれがなかったら、いつか誰かを殺してたかもしれないから、感謝してるわ」

「それはよかった。やった甲斐があったよ。それでルティナ、お願いがあるんだけどいいかな?」


 リリがルティナに頼む。


「なんでしょうか」

「こいつが結晶病ですぐには死なないように、回復魔法をかけ続けて欲しいんだよ」

「分かりました。絶対に死なせないようにしますね」


 ルティナが最初に回復をかける。


「結晶病なんかにかかるはずがない。俺は森の魔素程度全く問題がないんだからな」

「はいはい、その調子で頑張ってね」


 〈無詠唱〉〈魔素干渉〉


 リリはその場で詠唱が思いつかなかったので、無詠唱でスキルを使って、デルベルドに空気中の魔素が集中するようにする。

 魔素干渉のスキルはゲームと同じく、町の中でも問題なく使えるようだ。

 デルベルドの体の表面がどんどん黒くなっていく。

 ルティナはデルベルドに回復魔法をかけ続けている。

 デルベルドには体がどんどん黒くなって、結晶に変わっているの分かった。

 痛みはない、だがこれは確実に死ぬとデルベルドは確信する。

 パリパリと言う音が聞こえるからだ。

 すぐにでも結晶化した部分が剥がれて、バラバラになるんじゃないかという恐怖がデルベルドを襲う

 さらに体が魔素に侵されていく。

 デルベルドは何とか口を動かした。


「やめてくれ、もう分かったから、結晶病で死なないわけがないことがよく分かった。だからお願いだ。やめてくれ、これ以上されたら死んでしまう」

「はいはい、分かってないんだね」


 しばらくデルベルドは命乞いをしていたが、リリはやめなかった。

 ついにデルベルドは結晶化して、口を動かすことも出来なくなる。

 全身がガラスでできているように見えた。

 そのあたりでリリはやめてあげる。

 リリは言った。


「たぶんこれが結晶病だよ」


 ルティナが言う。


「そうですね。文献や伝え聞いた話と全く同じ症状です」


 それを聞いてウィルが聞く。


「あなたはここから治せるの?」

「当然だよ。この犯人にきちんと恐怖を味わわせないと、絶対に反省しないからね。ちゃんとやるとこまではやらないといけないから、無視してやったんだよ」

「ここまでやれば流石にこいつも懲りるわね」


 ナリダが言ったので、流石に懲りそうだなと思ったリリは言う。


「じゃあ、治すからみんなは少し離れてくれる? いきなり魔素の濃度が上がっちゃうから危ないよ」


 空を走る光は離れた。

 拠点の者達は問題ないのでそのままリリの近くにいる。


 〈無詠唱〉〈魔素干渉〉


 デルベルドから魔素を全て解き放った。

 無事にデルベルドは生きているようだ。

 俺は生きてるのか……とちょっと大人しくなったデルベルドを見ながら、あとは何かやることがあったっけとリリは考えた。

 そしてリリはデルベルドに聞きたかったことが、あったのを思い出した。


「ねえ、デメシードはどうやって手に入れてたの?」

「支配をかけたやつに、黒の森のずっと北の方にある砂漠まで採りに行かせてたんだ」

「砂漠かー、取りにいくにはちょっと遠そうだね」


 デメシードという単語を聞いて、空を走る光はウィルにデルベルドがデメシードを埋め込む光景を思い出した。

 埋め込む以外の使い方を知らない空を走る光は、何に使うつもりだと思ったので、ちょっと不安そうにルティナが聞く。


「取りにいってどうするんですか?」

「デメシードって、すごい効果の高い回復薬の原料になるんだよ。だから大量に欲しいんだよね」

「その使い方は素敵ですね」

「でしょー。実はそうやってできた回復薬って、かなり高いんだよ。はっきり言って、町を支配したいならその方法でやった方が早かったと思う。ちょっと作れるだけでもいいんだよ。使えばみんななら、死にかけた状態から全員が全回復できるからね」


 ダグが言う。


「そいつはスゲーな。すぐに町が支配できそうな高そうなやつだな」

「実はみんなの装備のポーション入れに入っている奴がそうだよ」


 空を走る光はポーションを入れる装備に入っている、ポーションを思い出す。

 ナリダが言う。


「見た目もかなり高そうな感じがしたわね」


 ウィルとグローが伝えた。


「金色だもんね、ここじゃあ見たことがないよ」

「こいつじゃ、作れそうもないな」


 デルベルドを見る。

 かなり悔しそうに転がっていた。

 それを見て全員で笑う。

 そしてリリはやりたかったことが、あと3つあることを思い出した。

 一応聞く。


「昨日みんなにこいつにやられたことについて聞いたでしょ。その時に殴ったり、蹴ったり、表情が分からなかったり、石像を砕いたり、店と木を切ったり、燃やすのとデメシードを埋め込むってことをやられたって言ってたよね」


 ウィルが思い出しながら言う。


「それで全部のはずだよ」

「で、今のところ殴る、蹴る、斬る、燃やす、砕くは直前までいったからいいかな。後は表情とデメシードなんだけど、どうしようか」


 そう言ってリリはデメシードを、ポケットから取り出したようにみせる。

 ダイアの形をした赤いガラス状の物体の中に、動かない金色の目が埋まっている。

 埋め込まれた後を知っている全員が思う。

 まだグロさはそこまでないなと。

 それを見たデルベルドはかなり焦ったようだ。

 全力で逃げようとしている。

 空を走る光が捕まえた。

 楽しそうにリリの前に持っていく。

 ナリダが冗談を言うように言う。


「ねえ、こいつにデメシードを埋め込んでみない? きっと表情もなくなるはずよ」

「そうだね、埋めれば表情も無くなりそうだ。是非やってみよう」


 それにのっかって言ったリリの言葉に、ダグとルティナが言った。


「そうだな。是非デメシードが埋め込まれて、表情も無い様子も、見てみたいと思っちまうよな」

「そうですね。それに私が回復魔法をかけ続ければ、デメシードを埋め込んでも死なないってことは、既に証明されていますからね」


 ルティナの言葉にグローが返す。


「それなら安心だ。死なずに衛兵に突き出せるんだから、埋め込まれても全く問題はない」


 ウィルが楽しそうに言う。


「しかも僕に誰も治せる奴はいない、とか方法を知らないだけなのに言ってたんだよ。かなり痛いし、乗っ取られるんじゃないかって恐怖感もちゃんと味あわせた方が、もう二度とやらなくなって良いんじゃないかな」


 ウィルが楽しそうに言ったので、ふりくらいならトラウマって感じじゃなさそうだから良いかなと、リリはデメシードを手に持ってデルベルドの胸に当てた。


「じゃあ、埋めちゃうねー」


 リリがデメシードをデルベルドの胸に押し当てる。

 力がだんだんと強くなっているのが、デルベルドと空を走る光には分かった。


「やめろ! 埋め込むのはやめてくれ! 死ぬ。確実に死ぬ」


 それを見て全員で笑った。

 皆が笑っているのを見て、リリは最後の1つのやりたかったことを実行した。


『思いっきり悔しがれ』


 デルベルドはそれを聞いた瞬間に、かなりの悔しさに襲われたようだ。

 とても悔しそうに、くそ、くそ、と床を拳で叩いている。

 じたばたばたと暴れたりもしていた。

 完全に全員のツボに入る。

 デモク以外の全員が思い出した。

 リリは昨日支配にかけて悔しがれと言ったらどうなるのか、見てみたいと言っていたなと。

 デモクも当然笑っている。

 本当に悔しがっている、これは笑うしかない。

 かなりの悔しがりように、全員が笑いの止め方が分からなくなった。


 しばらく笑い続けてようやく笑いが収まる。

 リリはそこでやっと言う。


『悔しがるのだけはやめていいよ』


 やっとデルベルドは悔しさから解放されたようだ。

 疲れ果てて動く元気もなく、転がっている。

 リリは一応気になったのでもう1個だけ聞いた。


「ここじゃない場所に他にも仲間はいるの?」


 それにデルベルドが疲れた様子で言う。


「操った奴は町中にいるが仲間じゃない、仲間はここにいるだけだ」

「そっか」


 リリはそれだけ言って、聞くのをやめた。

 デルベルドを空を走る光がロープで巻いていく。


 リリが『衛兵に捕まるまで空を走る光についていって』と言って。

 アルバートとサラだけがそのままで、残りの拠点の者達全員が透明になれるローブを着る。

 外に出ると衛兵の人達が近づいてきた。


 そして魔法が使えないように、デルベルドに腕輪をはめる。

 ウィルが衛兵に言う。


「こいつには支配がかかってます。僕たちの質問には正直に答えるようになっているので、治さないようにしてください。何か聞きたいことがあるようなら僕たちを呼んでくれれば、何でも聞けると思います」

「分かった、協力感謝する。他の者はどうなっている?」

「他の人は家の中で寝てます。起きる前に捕まえてください」

「了解した。今すぐに捕まえよう」


 ギルド長ロッダンが近づいてきてウィルに言う。

 

「お手柄だな、お前達。これで町の人達も安心して暮らせる。それから先に言っておく、空を走る光に今回のことで何か罰がくだることはない。様子を見て公表する事はあるかもしれない。だが、町の人たちに勇者パーティが支配にかけられて町のものを壊した話もしない事に、話し合いでなった。支配の魔法について町の人達はほとんど知らないから、ちゃんとした情報が行き渡るまでは、お前ら店に謝りにいったりもしないでくれよ」


 空を走る光は絶対に武器屋やグルーク資料館あたりに、謝りに行きそうだなと、ロッダンは予想したようで先に言った。

 空を走る光は仕方がないと、納得する。


「分かったよ、しばらくは我慢するね。でも、やっと無事にまた町で冒険者をやれると思ったら嬉しくなってきたよ。今からまた商人の人達の所に向かいたいんだけど、もう外に出れるのかな?」

「おう、もういけると思うぜ、犯人も捕まったしな。お前らからも詳しい話を聞く事になると思うが、それは明日以降に時間を調整してからで大丈夫だ」


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