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25話 森の王

 宿屋への帰り道ピーちゃんはアルバートとサラに聞いてみる。


「コフシーの店主は犯人側だと思う? それとも何も知らずに協力してそうかな」


 ピーちゃんは知らずに協力してそうだと思った。

 アルバートとサラはすぐに答える。


「犯人に協力しているわけではないと思われます。言っている内容に嘘は無いように思いました」

「犯人の方に協力しているようには思えません。店の様子と話している内容に違和感は感じませんでした」


 ピーちゃんは2人の意見を聞いて、だよね、ならあの店主さんにあんまり迷惑がかからないようにどうにかしたいよねと言った。

 2人もうなずいている。

 そのあともう1つ気になったことを話す。


「そういえば、今日のお昼に町に戻ってきたら勇者パーティがいないって噂になってたでしょ。あれってつまり朝のうちに誰かが噂を流したってことだから、あしたは朝から町の中を見て回るのはどうだろう」


 アルバートとサラはピーちゃんの話に賛成のようだ。

 アルバートが言う。


「あすは朝から町を見て回るとなると、今から冒険者ギルドに行き、伝えておいた方がよいのではないですか」


 ピーちゃんは確かにと思ったので、じゃあ行こうと言って3人で冒険者ギルドに向かった。

 道中で勇者パーティのような集団を見かける。

 町の人達はそれを見て勇者パーティがいるのに、なんでこんな噂が流れているのだろうと不思議そうにしている。

 3人はあの集団より早く着かないと混みそうだと思って、急いで冒険者ギルドに向かった。


 パッと見ただけで周りの建物よりかなり大きいと分かる建物に入る。

 まだ予想通り混んでいないので、すぐにマッチェと話せた。

 ピーちゃんはギルドの人達って、いつ休みなんだろうと思いながら話す。


「こんばんはー、明日は1日町で過ごそうと思うんだけど平気かな?」


 アルバートとサラもこんばんはと、にこやかに言う。

 マッチェはも笑ってこんばんは、と言ってから答える。


「はい、大丈夫ですよ。事前に言っていただきありがとうございます。町では勇者パーティがいないという噂が、なぜか流れています。ですが、黒の砂の皆さんが勇者パーティのふりをしてくださるおかげで、町の人達が不安に思うこともなく、無事に過ごせているようです」


 3人はそれは良かったと伝えて、ピーちゃんは気になったので聞く。


「マッチェさんは休みの日はあるの?」


 マッチェは少し考えて答える。


「年に一度この町の記念日に町のすべての店が休む日があるのでその日は休みですね。あとは特に決まった休みはありません。ですが、ほとんどの冒険者の皆さんは朝と夕方しか、利用されません。なのでお昼は交代でギルドに残る人を決めて、それ以外の人は町や自宅で自由に休んでますよ」


 ピーちゃんは日中がほぼ休みというマッチェの言葉に、面白い勤務体制だなと思った。

 そのあとマッチェは今日の分の報酬が出ていますよ、と言ってずっしりと重たい袋を渡す。

 3人は午前に終わってから売れるまでが早すぎる、と思いながら受け取る。

 そのあと大量の冒険者がなだれ込んできたので、マッチェにお礼を言ってからギルドを後にした。



――――



 リリは今日もスペードの間に、向かっている。

 ファーストは今日も分かったことを教えてくれた。


「情報誌からの情報を先にお伝えします。黒の森の東にある国で、もうしばらくすると、氾濫が起きそうということが分かりました。リリ様は氾濫が気になっていたようでしたので、お伝えしておきます。それに合わせて、魔物の量も増えているようです」


 リリの頭の中では魔物という言葉がグレイトホーンに変わっている。

 今より増えるのかと想像するだけで、とんでもない量になりそうだと思った。

 次にファーストは町で調査を行っている者たちからの情報を、教えてくれた。


「町中の建物の地下室があるのかなどの調査が終わりました。それから今日の朝、何者かが勇者パーティがこの町にいないと叫んでいるのを、聞いたそうです。急いで向かったそうですが、一瞬で移動できなかったので、残念ながら誰が叫んだのかは分かっていません」


 ファーストが首を振って残念がっている。

 町の中だと本気でダッシュ出来ないから仕方がないねと、リリは言った。

 そのあと、どの辺りで叫び声が聞こえたかを教えてもらう。

 聖なる木がある広場のあたりらしい。

 そして明日は屋根の上で待機して、全力で動けるようにするチームを大量に作るようだ。

 リリはこれなら明日には誰が噂を流しているか分かりそうだと、楽しそうにしている。


 あともう1点お伝えしますとファーストが続けた。


「今日リリ様が向かわれた店の店主についてです。調味料専門店のコフシーの店主だけは、支配の状態異常にかかっていることが分かりました。強制度は分かりませんが、言っている内容として命令を聞くくらいには高そうですね」


 ファーストは思ったことも伝えた。

 それを聞いて、リリはやっぱりコフシーの店主は白なんじゃないかなと思った。

 ファーストに報告ありがとうと伝えて、スペードのマークのついたドアをノックした。

 今日はちょっと食事について聞こう。それから、氾濫と異世界についても聞いてみよう、と思いながらドアを開ける。


 部屋の中を見渡す。

 床には大きくスペードのマークの入った絨毯が敷かれ、上からスペードの形をしたガラスの装飾のついたシャンデリアがつり下げられている。

 リリはボタンがたくさん付いている魔道具を取り出し、ボタンをいくつか押した。

 空を走る光のメンバー全員とリリの前に半透明のウィンドウが現れる。


「こんばんは、空を走る光のみんな。今日は昨日聞いた店を見てきてもらったけど、特に待ち伏せできそうって感じではないみたいだね」


 人通りも多く、あまり近くに隠れられそうな場所は見当たらなかったので、そう伝える。

 そしてリリは直接行ったように言うのも心配させそうかなと思って、誰かに見てきてもらったように言った。空を走る光のほとんどからは、子供だと思われている気がする。


 それを聞いて空を走る光のメンバーは挨拶を返した後、自分達が行く時間帯の店の混み方を思い出したようで、ウィルが伝える。


「僕も昨日言った店で、誰か1人に確実に当てるのは出来ないと思うよ。すごい混んでるから目の前にいる相手に触って使うくらいしか、当てる方法はないんじゃないかな」


 リリはそれを聞いて、店主もかかっていないようだし、範囲、支配で全員にかけることはしていなさそうだと思った。


「教えてくれてありがとう。店主の人も支配にかかってなかったし、確実に待ち伏せじゃないということが分かったよ」


 店主が支配に掛かっていないことに、空を走る光は安心したようだ。

 リリは昨日聞いたことで、もう1つやったことを聞く。


「それで昨日魚屋はないって聞いたから、魚料理中心にしてみたんだけど、今日の食事はどうだったかな?」


 普通の魚はいいとして、たこ焼きとイカリングがいけたかなと思って聞いてみた。


 空を走る光は今日の食事も全部美味しかったと思って、ウィル、ナリダ、が気に入った物を教えてくれる。


「僕はあの中に何か入ってる球みたいな形をしたのが、気に入ったよ。味もいろいろ変えられて良かった」

「私は米に赤い生の魚の切り身がのったやつが、美味しかったわ。何かに漬けられてたみたいだけど、それの味も良かったわ」


 グロー、ルティナが美味しかった料理を思い出して伝えた。


「俺は細長い魚を丸ごと焼いたやつがよかった。塩味が丁度いい濃さでこれだけを何本も食べたいくらいだ」

「私はスープに丸い塊と野菜が一緒に入っている物が、好きでした。やわらかくて味が染みていて食べやすかったです」


 ダグが感触を思い出して言う。


「俺は輪っかの形をしてる揚げたやつが旨かったな。独特の噛み応えがあって、外側の衣もサクッとしてて良かった」


 全員がタコもイカも食べられたようでよかったとリリは安心した。

 今後は肉料理と魚料理を織り交ぜて出そうと思う。

 毎回フルコースみたくなりそうだなと、リリは想像して心の中で笑ってしまった。

 一応伝えておく。


「みんな嫌いなものがないようでよかった。じゃあ今後は魚料理と肉料理両方出すね」


 空を走る光はそれを聞いて嬉しそうに笑った。

 町でも食べられたらいいのにと言いあっている。

 リリはそんな様子をみて、やっぱりフルコースになりそうだと思った。

 リリは今日はあと2つ聞きたいことがあるんだ、と言ってから聞く。


「そろそろ黒の森の東にある国で、氾濫が起きそうって聞いたんだ。実際に見たことないから聞きたいんだけど、氾濫ってどんな感じなの?」


 空を走る光は氾濫の光景を思い出しているようだ。

 冒険者でも衛兵でもないリリに、分かるよう、グローが前兆から教えてくれる。


「氾濫が起きる前に、まず森に入ってから索敵に引っかかるグレイトホーンの数が多くなる。いつもは1頭でいる時もあるし、多くても5頭くらいだ。だが、氾濫の前は1頭でいることはまずない。最低でも3頭、多くなると10頭を超える」


 グローがレンジャーとして見てきた光景を、話した。

 リリはそれを聞いただけで、グレイトホーンとはいったいと悩み始める。

 次にウィルが氾濫の様子を教えてくれる。


「氾濫が起きると、森から大量のグレイトホーンが勢いよく出てくるんだ。出てきたのが分かったら、すぐに冒険者ギルドに伝わるよ。もし伝わらなかったら、町の城壁に大量のグレイトホーンがぶつかって、城壁が壊れることになるからね。冒険者達が来るまでの間、衛兵の人達が城壁までのグレイトホーンの到着を遅らせるように遠距離攻撃をするんだ。だから、衛兵の人達は、魔法とか弓とかを使った遠距離攻撃ができるように訓練してるね」


 リリは炎の攻撃魔法スキルを使って、遠くから一瞬でグレイトホーンをなぎ払うのはどうだろうと考えた。

 でも、それだと素材が取れないから、グレイトホーン経済が成り立たないなと諦めた。

 ナリダが冒険者たちの動きについて教えてくれる。


「最初は私やルティナみたいな魔法を使える冒険者と、グローみたいに弓を使える冒険者が、城壁の上から遠距離でグレイトホーンに攻撃するわ。ここでどれだけ数を減らせるかが勝負よ。私は森の中だと氷の魔法を使うけど、炎の魔法が得意だから思いっきり燃やしてるわ」


 ナリダは自慢げだ。

 リリはもしかして素材いらない? と、どんな様子なのか気になった。

 ダグが、グレイトホーンがだいぶ近づいてきてからの様子を教えてくれる。


「魔法で倒せなかったグレイトホーンが城壁に近づいてきたら、俺達みたいにグレイトホーンの突進を避けたり、盾で防げるやつらが前に立って、城壁に当たらないようにするんだ。それで近接攻撃が得意なウィルみたいのが、グレイトホーンを狩っていく」


 ダグが言った内容に、もちろん城壁からの遠距離攻撃はこの時も続けてるわよとナリダが補足した。

 リリはあの見上げるような高さのグレイトホーンの突進を、防ぐってどうやるんだろうと驚きながら聞いている。

 出来るとしても、普通に怖いから絶対に近づきたくないとリリは思った。

 ルティナが怪我人が出たときの対応について、教えてくれる。


「怪我人が出たときは近くにいる人が、ポーションをかけます。ポーション以外では皆さん目印になる旗を持っているので、それを掲げた人に、城壁の上から回復魔法をかけることになっています。誰かを抱えた状態で掲げているようなら、2人にかけるようにしています」


 リリはその方法なら回復役がいなくなることもなくて、いいねと思った。

 ダグが氾濫から町を守った後について教えてくれる。


「だいたい1回の氾濫で少なくとも3千、多い時には1万を超えるグレイトホーンがいるんだ。だから倒した後、グレイトホーンをもって町に戻るようなことは基本的にしない。専門店の人達が勝手に見ていって、値段がついたらその分冒険者ギルドに金が入るようになってる。それをギルドがその時参加したパーティ全員に、均等に割って振り分ける形だな」


 1万を超えるグレイトホーン……事前にさすがに分かるよねと思って聞いてみる。


「えーと、多い時と少ない時って前兆に差はあるの?」


 グローが答える。


「もちろんある。索敵にかかる数が3頭が多い時は少ない。10頭以上がほとんどの時は、1万を超えてもおかしくない。今、黒の森の東にある国ザーツマールでは、だいぶ数が増えてきているらしい。だから、今回は1万を超えるんじゃないかって情報が、冒険者ギルドに回ってる」


 リリは流石に1万を超えるなら焼き払ってもいいのかな、と思った。

 一応聞く。


「一応聞いておきたいんだけど、1万を超える規模の氾濫の場合、素材がとれなかったら困るとかはある?」


 空を走る光はそれを聞いて、首を横に振る。


「1万を超えたらかなり危険な状況だからね。冒険者や衛兵の人達が大勢死ぬ可能性もあるし、誰も素材の事なんて考えたりしないよ」


 リリはそれを聞いて、問題なさそうだと判断した。

 焼き払うかは別として一度見ておきたかったリリは、とりあえず言っておく。


「じゃあ次回の氾濫はここからも人を出して協力するね」


 空を走る光のメンバーは、心配そうに言う。


「協力は嬉しいけど死なないように気をつけて」

「心配してくれてありがとう」


 そこでリリはふと思った、そういえば森の王はどういうタイミングで現れるんだろうと。


「みんなって森の王を倒したんでしょ。その時はどんな様子だったの?」


 彼らはその時の氾濫を思い出したようだ。ナリダが教えてくれる。


「森の王が現れるのは、その時のグレイトホーンの数とは関係ないわ。あの時は5千を超えるくらいだったけれど、いきなり現れたから急すぎて過ぎてびっくりしたわよ」


 他のメンバーもうなずく。

 リリはグレイトホーンより大きいのがいきなり現れて、対応できるとかすごいな、と思って聞いていた。

 その時の様子を簡単に教えてくれる。


「その時は私とナリダは城壁の上にいたんです。森の王が現れたのを見たので、急いでウィル達の所に行って5人で倒しました。まず、すごい速さの突進だったのを覚えています。私達は必死になって避けたんです。そしたら1撃で城壁が壊されてしまって」


 その時の様子を思い出して、焦ったような顔をしている。


「そのあと、何度かまた、森の王が逆に私達に向かって突進してきたので避けて、私とナリダで3人を支援してから、グローが足を狙って弓で攻撃して、動きが遅くなったところをダグが盾で抑え込んだんです」


 そのあとをダグが続ける。


「俺が動きを止めたところに、ナリダが思いっきり炎の魔法をぶち込んで森の王を横に倒したんだよ。それで」


 ダグがウィルの方をみて続けるように促す。


「僕が剣に雷を纏わせて、森の王の頭に全力で斬り込んだんだ。それで倒せて本当に良かったよ」


 空を走る光のメンバーはあれは危なかったと、どうにかなってよかったと頷いている。

 リリはそれを聞いて、話す。


「すごいねみんな、森の王ってすごい大きいんでしょ。私だったら絶対近づきたくないけど、よく近づけたね」


 空を走る光のメンバーは少し笑って、ウィルが伝える。


「町の皆を守りたいからね。冒険者は皆そう思って戦ってるよ」


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