23話 よく使う店
最初は初代村長の石像を見にいくことにした。
動かしてさらに砕けては困る、とその場で復旧をしている様子がみえた。
周りに雨風が防げるように、大きなテントのようなものが張ってある。
今は人が多く出入りできるように、中がよく見えるようになっていた。
中を覗き込んでみる。
地面には粉々に砕けた石像が転がっており、執拗に何回も砕いたことが分かる状態だった。
作られたのは相当な昔のことのようで、型などは残っておらず、どういう形だったかを思い出して、絵にまとめているようだ。
それと同時に、ぴったりと嵌る欠片同士を合わせる作業も行われている。
しかし、それはあまり上手くいっていないようで、石像の頭の辺りが少しだけ復元されているようだ。
中にいる人に頼んで、絵と石像の欠片をじっくりと見せてもらうと同時に、もともとの大きさを聞いた。
大体3mくらいの高さがあったようだ。
ありがとうございます、と言ってその場を離れた。
次は武器屋だ。
無事だった武器を外に並べて、販売しているらしい。
店には斜めに大きく走った斬撃の跡がみえる。
1撃で店を半壊までもっていったようだ。
こちらは店の図面が残っていたようで、その通りに直そうとやっている。
店主に頼んで、店中を見せてもらう。
店内の武器自体はそこまで壊れている物もなかったようで、店さえ直ればすぐに普通に営業ができそうだ。
直している人に聞く、図面を見せてもらえないかということ、工事を頼みたい場合は料金はどのタイミングで払うことになるのかと。
図面はそこにあるから勝手に見ていいと言われ、料金の方は前払いだと教えてもらった。
図面を詳細に見ておく。
そのあと、店主に盾のレリーフを見せ、捜査に協力しようと思っているのでどんなものが盗まれたのか聞いた。
冒険者ギルドが協力すると知っている店主は教えてくれる。
店で一番高価だった魔法の威力を上げる杖、それより少しだけ安くなる杖が数本。
剣や槍なども魔法を付与されているものが、効果の高い順に盗まれたようだ。
店主にありがとうございます、と言ってその場を離れた。
最後はグルーク資料館があった場所だ。
建物は全焼していて、ほとんど何も残っていない。
黒い木材があることで、そこに建物があったんだろうと、辛うじて分かる程度だ。
しかし、問題なく同じ建物が建てられるように工事が進んでいる。
なぜかというと建てた当時の人がまだ生きているくらい最近の建物で、図面も保管してあったからだ。
建て直しをしている人に頼んで、図面を見せてもらった。
同時に中身についてどうなるか知っているか聞く。
中身については、自分達では分からない、館長さんに聞いてほしいと言われた。
なので中身については、残念ながら分からないままだ。
全部を回ると丁度暗くなってきたので、宿屋、幻獣の止まり木に向かう。
途中で勇者パーティがいるという声が聞こえたので、そちらの方に手を振った。
集団も気がついたらしく、手を振り返してくれたので、すれ違うときにお疲れ様と声をかけて宿屋に向かった。
宿屋についてから店主グラッドに追加で、14日分の宿泊費用を払った。
その時に、グラッドにも町で起きた事件について聞いてみる。
どんな事件かと聞かれたので、考えた。
きっと町の人達が原因や理由を知っているような事件について、調べてほしいわけじゃないだろうと。
誰にも気がつかれないように、支配をかけるような犯人がそんな分かりやすい事件を起こすとは思えない。
なので、ここで聞くべきなのは謎の多い、原因が分かっていないようなそんな事件だ。
よって、グラッドにはこうピーちゃんが伝える。
「何が原因でこうなったのか全く分からない、不思議な事件について何か知っていたら、教えてくださいな」
グラッドは少し考えたが、すぐには思いつかないようだ。
何か思い出したら、教えてくれることを約束してくれた。
その後、部屋に戻って、ピーちゃんは営業終了を宣言した。
リリはウィルのいる部屋に、ファーストを連れて向かっている。
ファーストに、勇者パーティの荷物の中にあった赤い香辛料について聞く。
ファーストは教えてくれた。
「リリ様の予想通り、赤い香辛料には支配の状態異常にする効果が付与されていました」
ファーストはこれでは気がつきようもありませんね。と残念そうに首を横に振りながら言った。
リリは予想が当たったようなので、残念に思った。
そして、空を走る光には食事が原因ということは隠して、どこの店で買ったかを聞こうと思う。
今食事が原因だとばれて、治すための食事をしにくいと思われるのは困るのだ。
治療が終わったら教えて、対策をとるように伝えよう、と考えている。
そしてファーストはギルドで買った情報誌から、今、分かっていることを教えてくれる。
「空を走る光の皆さんは5年前から活動を開始していて、最近になるにつれて情報誌でも活躍が多く載るようになっています。その活躍は町の中の犯罪組織を逮捕するのに協力した、というものが多いようです。なので、そういった組織から狙われている可能性が高そうです。町の中の事件については、全ての事件について原因と理由を予測してまとめている最中です。もうしばらくお待ちください」
それから町に送り込んだ捜査班が調査して分かったことを教えてくれる。
「町の人々にも多くの人に支配がかかっていることが、分かりました。強制度は分かりませんが、何か指示されて動いているようには見えないとのことです」
「報告ありがとう」
スペードの間の前に着く。
リリはスペードの間のドアをノックする。
そして、部屋の中に入った。
部屋の中を見渡す。
ウィルは水中で筋トレをしていたようだ。
水中で体が浮いている。
今は周りに重りも浮いている。
リリとファーストは犯人を捕まえる気が充分にある光景に、つい笑ってしまった。
リリが戦闘モードで軽くデコピンをしても、ひび割れる程度で済むおかしな強度の、強化ガラス製の水槽に近づく。
ウィルはリリに気がついたようで、リリに向かって軽く手を上げる。
リリも空中から細長い何かを取り出しながら、ウィルに向かって手を振った。
リリは細長い何かを使った。
空を走る光のメンバーの前にウィンドウが現れる。
全員の水槽の中に重りが浮いている様子がみえて、やっぱり2人で笑ってしまった。
「こんばんは、みんなやる気充分みたいで何よりだよ」
全員が挨拶を返して、絶対に捕まえてやるという意気込みを感じさせる言葉を発した。
リリはそれを聞いて、これは捕まえられそうだなと思い頷く。
そして話し出す。
「今日はみんなに聞きたいことがあります。みんなが普段使ってるお店を教えてください。犯人がそこで待ち伏せして、支配をかけてたって可能性もあるから、一応見ておきたいんだよね」
全員が犯人逮捕に役立つならと、思って協力してくれる。
グローが武器屋について教えてくれる。
「武器を買う時も手入れする時も、よくベリスの武器屋を使ってる。場所は冒険者ギルドで研修の時に使う本に書いてあるからそれを見てほしい」
次にダグが防具屋について教えてくれる。
「防具はだいたいデガップの防具屋でなんでもやってる。ここも研修の本に書いてるからそれを見てくれ」
ウィルはポーションなどの回復に使う道具屋について教えてくれる。
「ポーションはキュヘーレの物をよく使ってるかな。キュヘーレのはよく効く気がして気に入ってるんだ。ここも本に載ってるよ」
ナリダは装飾品の魔道具を売っている道具屋について教えてくれる。
「アクセサリーはイユートね。あそこは見た目もいいからよく使ってるわ。ここも本に載ってるわね」
ルティナが肉屋と八百屋について教えてくれる。
「グレイトホーン店でお肉は買ってますけど、場所は特に決まってません。野菜や果物もそうです」
普段着などの服も特に場所は決まってないことをナリダが教えてくれた。
あとはと考えるが、なかなか出てこないようだ。
ルティナの言葉を聞いて、リリは空を走る光って、自分達で材料を買ってご飯作ってるみたいだし料理上手なのかなと思いながら、問題の香辛料を買っている場所を聞く。
「調味料とかもグレイトホーン店とか野菜とかと同じ場所で売ってるの? それとも違う場所?」
料理を作るときは余計なアレンジをしない、ウィルが答える。
「グレイトホーン店でも調味料は売ってるけど、僕たちはコフシーを使ってるよ。あそこのやつが美味しいって皆思ったから、コフシーを知ってからはずっと使ってるかな」
場所も教えてほしかったので、捜査班が作った町の詳細な地図を見せて大体の位置を教えてもらった。
リリはお礼を言ってこれで聞きたいことは聞けたと思いつつ、一応気になったので聞いてみる。
「えーと、あの町グレイトホーン以外の肉はどうしてるの? あと魚屋はある?」
パーティで一番上手に料理ができる、ルティナが教えてくれる。
「小型の魔物のお肉はグレイトホーン店に、少しだけ置いてあります。魚の魔物はあの町の近くでは捕れないので、お店はありません。行商人の方がたまに、露店で売っている時があります」
「なるほどなー」
リリはあの町の近くには川とか湖とかなさそうだったもんねと納得した。
と同時に肉屋が存在しないことが分かった。
グレイトホーン専門店じゃないのは、一応他の種類のお肉も置いてあるからなんだね。
リリは悟った。
そして他に何か聞くことがあったかなと考える。
空を走る光は犯罪組織に狙われている可能性が高い、とファーストは言っていた。
それからグローの言っていたベリスの武器屋は、あの半壊していた武器屋の名前だ。
杖を何本かと剣や槍なども盗まれたということは、犯人は1人ではないのだろうか。
とりあえず聞いてみる。
「話は変わるけど、支配を使ってる犯罪組織があの町にはあるの?」
いきなり聞かれたので少し驚きながら、料理はきちんと分量を量って作る派のグローが、思い出しながら話す。
「いきなりだな、まあいいが、そんな組織は聞いたことがないんだが、たぶんあるんじゃないかと思ってる。あいつだけだったらあんな物は必要ないんじゃないか」
リリは聞く。
「組織があるってことは、支配の魔法って使える人も多いの?」
アレンジが得意なナリダが、魔法を使えるので答える。
「いいえ、過去に何回か支配を使った事件があったから魔法自体は知られてるけど、使える人は多くないはずよ」
じゃあもしかしてとリリは聞く。
「使うとどういう風に見えるかとか、使われたときにどんな感じがするのか、どういう対策が必要とかは知られていないの?」
素材を大きめに切って、味付けも大雑把だけど何故か美味しい料理を作る、ダグが伝える。
「そうだな、そういうのはほとんど知られてないだろうな。一応、そういう事件があるのを知ってるから、支配にかかってないかは、教会で定期的に見てもらってたんだけどな」
「教会も支配されてそうだね」
全員が頷く。
リリはファーストの報告にあった、町の人達にかけられた支配が気がつかれない理由もここにあったんだと知った。
そしてリリは気になったので尋ねる。
「ウィルとルティナは解放の魔法は使えるの?」
2人が教えてくれた。
「僕は簡単な回復しか使えないかな。解放は使えないよ」
「私は解放の魔法も使えます。でも効果があるかは分かりません」
ルティナは悲しそうだ。
こんな時のためにウィルも使えるようになりたいと思った。
リリはそんな様子をみて、これは治すなとは言われてないと、気がついた。
なのでリリはこう言った。
「じゃあルティナは町に戻ったら町中の人を治せるね」
「え?」
ルティナは不思議そうだ。
「ルティナは治すなって命令されてないでしょ。皆はたくさんかけられてたから数回じゃあ治らなかったかもしれない。でも絶対に効果があるんだよ」
リリは考えた。
自分だったら町中の人を支配するのに、どれくらいかかるかと。
そして思ったMPポーションがあるし1日で終わるなと。
たぶんMPポーションなしでも、数日で終わるとリリは思っている。
だから犯人はたいした実力を持っていないと思う。
それに、支配のスキルをわざわざ香辛料に付与するということは、その分余計なMPを使っているということだ。
たいした量を作れているとは思えなかった。
なのでルティナに言う。
「町の人に直接かけてたら、どうせ1回とか2回とかしか、かけれてないからルティナの魔法ですぐ治るよ。町中の人に一気にかけるのが大変なら、他の方法でどうやって治すかを伝えるよ。それで、町一番の回復術士っていう町の人の信頼を活かして、治るまでどうしたらいいか教えてあげてね」
リリは流れる水や解放ポーションを大量に作って、売るかただで配るかどちらでもいいがしてやろうと思っている。
材料は全て拠点で生産されているものだ。
いくら作っても全く損はない。
なので犯人の計画が水の泡となってくれればそれで十分だ。
ルティナに聞く。
「どうだろう、できそうかな?」
ルティナは決心したようだ。
「やります。これ以上町の人達に酷いことはさせません」
空を走る光のメンバーも自分達も協力すると口々にいった。
リリはその光景を見て言った。
「これで皆が町に戻ったら、犯人も捕まるし、町の人達も治るしで完璧だね」
リリの言葉を聞いて、空を走る光のメンバーは何かを思い出したようで、そうだとよかったんだけどという雰囲気になる。
なのでリリは聞いた、何が気になるのかを。
ウィルが言った。
「今のままだとあの町は、人が暮らせないようになるんだ。僕たちが――、やったことのせいで」
それを聞いてリリは思い出す。
確か同じようなことを町の人達が話していた。
確かそれは聖なる木が壊されたせいでこのままここで暮らしていて大丈夫か、という話だった。
なのでリリは笑って教える。
「大丈夫だよ。さっき聖なる木を植え替えておいたから」
空を走る光の全員はそれを聞いて、驚いて大声をあげたり、声も出ないようだったり、体が大きく動いていたりとバリエーション豊かな驚き方をしたから、つい爆笑してしまった。
相手にとっていいことをしてその人を驚かせるって最高だね、その様子をみて好きなだけ笑える。
明日町に行って同じような光景がみれて笑えると思うと、最高の気分だった。
どうやったのとか何したんだとか、動揺が大きいほど笑えてしまって説明もろくにできそうもなかった。
だからファーストに頼もうと思った。
でもファーストも笑っていて、ああもうどうしようもない、ともっと笑ってしまった。
きっとこの光景を見ている治療班の皆も爆笑している。
だから空を走る光のメンバーに説明できる人は、今はいないのだ。
説明はする、するけどこの笑いが収まるまで少し待ってほしい。
そう思いながら、リリはお腹を抱えて笑ってしまった。