エスクァイアとオーパの場合
エスクァイアとオーパは馬車で揺られていた。
「エスクァイア様、お加減いかがでしょうか。」
「大丈夫よ、オーパ。少し馬車に酔ってしまったみたい」
「休憩されますか?」
「大丈夫よ。この渓谷を過ぎたら少し休憩しましょう」
「かしこまりました。」
オーパは、今回の護衛の2人に不満を持っていた。
護衛とはいえ、同じ馬車内にいるのに、我が主エスクァイア様を品定めするようなイヤラシイ視線を時折送ってくる。
時々盗賊が出ると言う噂のある道なので、護衛をつけたが、そうそう盗賊に会うものではない。
お守り的な意味合いならば、もう少しいい人選があったのではないかと思っていたのだ。
「お嬢様ぁ、お気分が優れないときは休憩いたしましょうぅ」
「おい!お前!気軽にお嬢様に話しかけるな!」
オーパは勢いよく注意した。
「へいへい、失礼いたしましたぁ」
「それよりも、お前たちは渓谷を過ぎるまで、外で盗賊がいないか警戒しなさい」
「へいへい、人使いが荒いなぁ」
護衛の冒険者は完全に従者を嘗めてかかっているようだった。
「う、うあわー!と、盗賊だー!」外で御者が叫んだ。
「な、なんだと!?」
冒険者が慌てて馬車の外に出た。
オーパは、「いざという時は役に立つものだな」と思ってしまった。
ところが、窓から外を見ると、盗賊は数えきれない数いる。
剣を交えることも、そこそこに護衛の冒険者2人は逃げてしまった。
護衛は抗戦する価値がないのだろう。
盗賊も追いかけない。
盗賊としての狙いは積み荷とお嬢様、そして私。
人質として価値がなければ、お嬢様共々凌辱されて殺されてしまうかもしれない。
価値があると分かれば、お屋敷の旦那様との交渉に侍女である私が出される。
もしかしたら、その時に指の1本くらい切り落とされるかもしれない。
いずれにしても、お嬢様だけは何としても無傷で守らなければ・・・
お嬢様を馬車に残し、オーパは馬車を降りた。
外にはたくさんの盗賊。
「やられた」
護衛の冒険者2人はもう姿が見えない。
積み荷にそれほど価値のあるものなんてない。
お金も身代金になるほどはない。
被害を最小限にして、お嬢様を助ける方法!!
オーパが瞬きをした瞬間、目の前には全身真っ黒な男が立っていた。