王都のギルドで成果報告
俺は王都のギルドの前に立っている。
王都に戻るのは簡単だった。
一度行ったことがある場所には、呪文を唱えるだけで戻れる能力がある。
きっと昔そういう物語を読んだのだろう。
俺の知っている本なら、「ルーラ」と唱えるだけで、王都に戻れるのだ。
敵をどこかに飛ばす「バシルーラ」ってのもある。
いつか使う機会があったら使ってみよう。
ざわざわとにぎやかなギルドに入ると、まっすぐに受付に行った。
「あら、ジョンさんお帰りなさい!」
元気に声をかけてくれたのは、ギルドの受付嬢「シエンタ」だ。
いつも色々と助けてくれている。
だから、俺も誰も手を出さない困りごとは積極的に解決するようにしている。
「今回も早かったですね!もう、討伐終わったんですか?」
「ああ、魔王軍の大将は魔物を100体以上連れていたよ」
「ええ!?そんなに!?その魔物たちが王都に押し寄せてきたとしたらとんでもないことになってましたね!」
「確かに。まあ、冒険者もたくさんいるから何とかなるとは思うけど」
「そうかもしれませんね。いつも冒険者の方々には助けていただいています」
「俺達もこれで金もらってるからね。お互い様だよ」
俺は視線を裏の解体場の方向に向けた。
「じゃあ、魔王軍の大将の首の鑑定をしてもらってくるよ」
「はい!お疲れ様でした。報酬は準備しておきますね」
俺が裏の解体場に向かおうと数歩歩いたところでシエンタに声をかけられた。
「あ!ちょ!ちょ!ちょ!ジョンさん!ごめんなさい!ちょっと待ってください!」
「ん?どうかした?」
「実はジョンさんにお願いしたい依頼があって!」
「あ、分かった。鑑定が終わったっら戻るよ」
「よろしくお願いします」
シエンタはうまく適任者に依頼をさばくことができる。
わざわざ俺に依頼してきたってことは、割と面倒な依頼なのかもしれない。
俺は基本パーティーを組んでいないので、小回りが利く。
行こうと思ったら、一人の判断でどこにでも行けるので、面倒な依頼を頼みやすいのだろう。
しかも、クエスト達成率は100%。
俺はこの本の能力で解決しているのだ。
まさにチートだろう。
チートすぎるので、人にはあまり話さないようにしている。
俺のストレージには、たくさんの本が納められている。
恐らく得た知識を本にする能力があるのだろう。
多分、本は10万3000冊くらいあると思う。
具体的な数は分からないけれど、なんか10万3000冊と言う数に聞き覚えがある。
俺の記憶も本になっている。
現在4巻だ。
ただ、1巻から3巻がない。
だから「記憶喪失」なのだろうと思っている。
俺の目的と言えば、この無くなった本を取り戻すことくらいだろう。
ただ、手掛かりは全くない。
だから、冒険者として生活をして手掛かりを探していると言う感じだ。
シエンタの依頼は、突拍子もない物も多いので、自分では選ばない場所に行くものや選ばないようなものを獲得してくるようなものが多かった。
シエンタは難易度の高いクエストを何とかしたい。
俺は、新しいところで新しいものに出会いたい。
俺とシエンタの利害は一致しているので、多少報酬的に割に合わなくても、可能な限り受けている。
「で?今回の難題はなんだい?」
ぎゃー!しまった!わざとじゃないんだ!
たまたまなんだ!
わざとじゃないんだ!
「もー、ジョンさん、そんなに真っ赤になるなら、ダジャレなんて言わなければいいのに」
シエンタはいつも通りすがすがしい笑顔だ。
ギルドの中でも人気が高いのもよくわかる。
「今回の依頼なんですが・・・」
シエンタが申し訳なさそうに切り出していることから、報酬的にはあまり期待できない物らしい。
しかも、大変そう。
「ある村の様子を見に行ってほしいのです」
「村?」
「はい、今回の依頼は王室からです。ある村との連絡がとれなくなったみたいで、様子を見に行ってほしいとのことなのです」
村・・・
国には広大な土地がある。
王がいる街が王都で、すごく栄えている。
王都から離れれば離れるほど人は減り、町や村など集落の人数は少なくなる。
ただ、税金は集めているだろうから人の管理はしているのだろう。
そんな中ある村と連絡がつかないという事は何かあったのかもしれない。
場合によっては、その周囲も同じようなことが起きているのかもしれない。
確かに大変そうだ。
「何があったのか分かっているのか?」
「いいえ、ただ、近年その村の周辺では災害も多かったので、魔物などではなく、飢饉の様な可能性もあるとことです」
「飢饉か・・・」
「あと・・・すごく遠いです」
「遠い?遠いってどれくらい?」
「300日程度です」
「日」とは、この場合距離の単位のこと。
遠くに行くときに使う単位で、300日はかかる距離と言う意味だ。
この場合、歩いて300日はかかると言う意味だ。
「遠いなぁ・・・」
「そうなんです。しかも、報酬の方があんまり・・・だから、大きなパーティーはほぼダメだし、乗り物を持っている冒険者さんしか頼めなくて・・・」
俺は乗り物を持っていないが、時を止められる。
一瞬で村に行くことも出来る。
止まった時の中では魔物も出ないので、安全に移動できる。
これまでも移動だけで30日かかる距離を2日でクエスト完了させたこともある。
何より1人だし、クエスト達成率は100%。
俺に頼むのが最適なのだろう。
「分かった。報酬は?」
この状態では正直、いくらでも受けるのだが、奉仕だと思われるといけない。
ちゃんと見返りの話もしておかないと。
「1日銀貨5枚で100日分、金貨50枚です」
俺は少し変わった単位でお金をカウントしている。
俺にとってお金の単位は「円」だ。
この周辺のどの国でも使っていない通貨単位だが、俺にとっては分かりやすい。
1日銀貨5枚という事は5000円程度。
それが100日分ってことは・・・って待て、距離が300日なら最低でも往復で600日。
ちょっと待て!100日分かよ・・・随分と買い叩かれている。
1日5000円で、100日分なら、50万円か。
そりゃあ、乗り物を持っていない奴や大規模パーティーでは受けられないよな。
俺にしてみたら、1日で終わるだろうから1日で50万円か。
悪くない。
ただ、行って、見て、帰ってくるのは簡単だが、依頼者やギルドがちゃんと見てきたと思うだけの証拠を持ってこないといけない。
最低でも30日くらいはかからないと信じてくれないだろう。
その間、王都で誰にも目撃されないように・・・家に引きこもるか?
全くでないと言うのも難しい。
食料を買いに出るだろうし・・・
それじゃあ、「あの方法」で行くか・・・
「いいだろう。引き受けた。出発は明日だ。それでも大丈夫か?」
「はい、きっとジョンさんより早く帰ってこれる人はこのギルドにはいません。それが最速だと思います。」
シエンタが周囲をちらりと見てから声を小さくして聞いてきた。
「で、あの、実際は何日くらいで戻れそうですか?」
「本当に急ぐなら1日だが・・・30日くらいかけて行くつもりだ。」
「よかったー。報酬は上げられないので、旅の食糧なんかを出来るだけギルドの方で準備しておきますね。明日出発前にギルドに顔を出してください」
「ああ、ありがと」
こういう心遣いがシエンタの人気を一層高めているのだろう。