93・足りなかったもの
残りのプリンからカップを外し、蜂蜜を垂らして完成させたプリンたちを空間収納に保存する。
ひとまずエルナたんの分のプリンもお願いされたので保存して、ニィナさんにお茶の用意をお願いすることにした。
ちなみに、私がプリンに手を入れている間にテオとギヴソンさんはニコニコ笑顔でパンプティングを平らげた。とても気に入った様で作り方まで聞かれたから、帰ったら多分マーガレットさんに作ってあげるんだろうなー。
お屋敷内は外ほど暑くはないので、テオとギブソンさんを護衛に私とエルナたんは図書室に向かうことにする。
図書室は本が沢山あって人の出入りが殆どないのでひんやりとした空気で真夏の暑さを全く感じない。
前世の私ならこの季節は海やプールに涼みに行っていたところだけど、あいにくこの国には水着を着て水遊びをするという風習がないのだ。貴族は勿論の事、平民でも全身ずぶ濡れになって水遊びをする、という現場を見たことはなかった。
─水遊び…楽しいのにな。ビキニ姿のエルナたんは妄想の中でだけ楽しむとしよう。…うへへ。
図書室に着いてすぐにニィナさんがワゴンを押してやって来た。お茶の用意が済むと図書室には私とエルナたんの二人きりに…いや待て。テオとギヴソンさんも一緒だったわ。二人はそれぞれ部屋の中と外で別れて壁際に控えた。
「はい、エルナたんどーぞ!」
「ありがとう」
二人ならんでソファーに座り、空間収納からプリンを取り出してエルナたんに渡すと笑顔で受け取ってくれた。はう、笑顔が目映い!
「……ラピスは食べないの?」
スプーンを持ったままエルナたんは首をかしげた。エルナたんの反応をガン見してたから。だって気になるもん。私の作った(正しくはマリスさんが作ったんだけど)ものをエルナたんが食べてくれるなんて完璧にご褒美だもんね!瞬き厳禁で網膜に焼き付けたい!んぁぁぁ!どうして記録媒体がないんだぁぁぁ!!
「エルナたんが食べてくれるの見てたいから!」
グーを作って力強く訴えるとエルナたんは少し驚いたようにぱちぱちと瞬きした後、小さくはにかんで「そう」と笑った。
「じゃあいただくわね」
エルナたんがスプーンでプリンをひとさじ掬い上げると、プルンとプリンが震える。それを見たエルナたんが小さく笑った。
「……~~!」
エルナたんの小さなおくちにプリンが消える。エルナたんの綺麗なストロベリーのおめめがキラキラと輝いて見えた。
「すっっごく美味しいわ!何これ!?プルプルで冷たくて甘くて……!こんな美味しい食べ物は初めてよっ」
普段は大人びていておしとやかなエルナたんが、まるでお花がポンポン乱れ咲きするみたいに嬉しそうに声をあげる。笑顔もいつもより年相応の無邪気なもので、見ていた私も嬉しくなってほっぺのお肉が「もうこれ以上上がらない!」ってくらいに持ち上がる。
「それに…─ふふっ、このプルプル…まるでラピスのほっぺみたい」
そう言うとエルナたんは私とプリンを見てクスクスと笑った。
「えー?私のほっぺこんなにプルプルじゃないよ?」
笑いながら自分のほっぺたを両手でもちもちしてみる。うん、そんなにプルプルはしてないと思う。けどエルナたんがそう思うならそれでもいっか!
エルナたんが笑顔でもうひとさじプリンを掬うのを見て私も自分のプリンを空間収納から取り出す。エルナたんの氷で冷やしたプリン!空間収納に入れておけば冷たいままだなんて最高じゃないか…むふふ。
ニヨニヨしながらプリンをひとさじ口に含む。卵とミルクの最強コンビが口いっぱいに広がった。おいしぃぃ~!これなら苦手なミルクもいくらでも摂取出来そうだ。
久しぶりのプリンの味を噛み締めていると視線を感じる。横を見るとエルナたんが食べる手を止めてニコニコと私を見ていた。どうしたんだろう。
「ふふっ、ごめんなさい。あまりにもラピスが幸せそうにプリンを食べているものだから」
「えへへ~。だって美味しいもの食べてると幸せなんだもん」
エルナたんに指摘されるまで自分がどんな表情をしているかなんて気が付かなかった。無意識に笑ってたようだ。
だって隣には大好きなエルナたんが居て、一緒におやつを食べられるなんて最高に幸せじゃないか。そりゃ笑顔になっても仕方がないよ。はふぅ…心が浄化されてゆくぅぅ…。
と、アブナイアブナイ…。成仏しちゃうところだった。
「私ね、ミルクが苦手なんだぁ。だから背が伸びないのかなぁ…て。アー君もエルナたんも背が伸びてるのに私だけ伸びないんだもん。でもプリンにはミルクが沢山入ってるし、毎日食べたら背が伸びるかもしれないよね!」
「あら、小さいラピスも私は大好きよ?もちろん大きくなっても大好きだから、そんなに気にしなくてもいいんじゃないかしら?」
背なんてこれからどんどん伸びるんだから、とエルナたんは私を優しくナデナデしてくれた。
あぅ…嬉しいけど、こうやって隣に座っててももう既に私はエルナたんをちょっぴり上目で見ないと視線が合わないんだよね…。
魔力が成長を疎外してるって聞いてからは毎日魔法を使いまくってるし、お肉も豆もお野菜もちゃんと沢山食べてる。ミ、ミルクはあれだからチーズやヨーグルトでカルシウムもバッチリなはずなのに…なぜ伸びない、私の身長。
一体何が足りないと言うんだ…………───ん?
「─おひゃかな…!」
スプーンを口に含んだままはたと思い至る。
そうだ!転生してからお魚食べてない!てか魚介類食べてない!
いや正確には一回だけあるけど、川魚で全然美味しくなかった。なんか泥臭いって言うか…川魚特有の臭いが駄目であれ以来食べてない。前世でも川魚は独特の味がして駄目だったけど、海のお魚は大好きだった。
そうか…お魚が足りないんだ!カルシウムと言えばお魚だよね!お魚の栄養が足りないんだ、きっと!
けれど私の暮らす街は内陸にあるので新鮮なお魚は殆ど入ってこない。あるにはあるけれど保存に気を使うから海のお魚は高級品に分類されるせいで、庶民が易々と口にはできないんだよね…。
う~~!海のお魚食べたい!
「ラピス?」
むむむ、と唸っているとエルナたんがきょとんとした顔で覗き込んできた。
エルナたんは貴族でしかも公爵家だから海のお魚も食べてるんだろうなぁ。いいなぁ。
「エルナたんはお魚好き?」
「え、え?お魚?」
「うん、お魚。お邸で海のお魚食べたりするの?」
「そう、ね…。一月に二度…位かしら。輸送に手間がかかるから」
「やっぱそうなんだ…」
う~ん…エルナたんでそうなら平民なんて尚の事口にする機会ないよね。
氷で冷やして輸送すれば…て思うけど、平民は魔力を持ってても生活に使うほんの僅かな量なので大量に氷を作ることは出来ない。だから輸送問題で市場に海のお魚は滅多に並ばないし並んでても高くて買えないのが現状だ。
エデルさんに頼んで海まで転移してもらってお魚買ってくるとかどうだろう?いやダメだ。あの人なんか要求してきそう。
「お魚…」
くぅ…食べられないとわかると益々食べたくなる…!
「ラピス、お魚が食べたいの?」
「……ん」
「それなら…少し先の話だけど、来年お父様とハルヒノ国に行く予定なの。もしご家族の許しが貰えたらラピスも一緒に行かない?そうしたら海のお魚食べ放題よ?」
「!?」
エルナたんの突然の提案に口を開けたまま固まってしまった。
なぬ!?ハルヒノ国って確かお醤油とお味噌のある国だよね!?え、一緒に…って一緒に旅行ってこと!?朝も昼も夜も次の日も一緒ってこと!?おはようからおやすみまで一緒に居られるって事ぉ!?
「─行く!!エルナたんと旅行に行くぅぅ!!」
エルナたんは旅行とは一言も言ってないのに私の梅干し脳みそは都合の良いように解釈し、おまけに家族の承諾も得てないのに思いっきり笑顔で頷いてしまったのだった。
ラピス、海を渡る……!!……のはまだ先です。笑
誤字脱字がありましたらお知らせ下さい。助かります!(*^¬^*)
ブクマ&評価、そしてコメントもありがとうございます!(///ω///)♪




