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91・クッキングラピス

 

 ミルクに卵、砂糖にその他諸々。

 作業台の上に乗せられた材料を見下ろしたマリスさんは「今度はなんだ」と胡乱な視線を投げ掛けてきた。

 失敬な。私そんな度々わがまま言わないじゃんかよー。まぁいいか。そんなことよりお菓子作りじゃー!!

 子供用のエプロンをしてムン!と腕捲りをしてボウルに向き合う。私専用の木箱に乗って、さぁ、準備万端だ。


「プリンを作ります!」


 そう、目指すは美味しいプリン!プリンならミルクを沢山使ってても卵で誤魔化されてミルク臭くないから大丈夫だもんね。


「プリン、て何だ?」

「プルプルの冷たいおやつだよ」


 卵を手に取りはい、とマリスさんに手渡した。受け取ったマリスさんは卵と私を交互に見て「あー…はいはい」とボウルに卵を割り入れた。


「何個割るんだ?」

「取り敢えず五個」

「はいよ」


 マリスさんは片手であっという間に卵を割り終えた。

 パカパカと片手で卵を割るのってかっこいいなぁ~。前世でも出来なかったけど、今のちっさい手じゃ一個すら割りにくいんだよね…。


「で、軽く混ぜてね。あ、泡立てないようにね!」


 泡立て器をくるくる混ぜる感じで回してもらってストップしてもらった。空気が入ると鬆が出来やすくなるから気を付けてもらわないと。


「で、次は?」

「お砂糖!」


 スプーンで掬ったお砂糖を卵ひとつにつき2杯づつ入れてゆく。そしてまた泡立てないようにくるくると混ぜてもらった。


「次はミルクね~」


 少し温めたミルクをドバドバ注ぐとマリスさんとそれを見守っていたテオとギヴソンさんがぎょっとした顔をする。


「おい、入れすぎじゃねーか?」

「大丈夫大丈夫!」


 一リットルくらいのミルクを注ぎ、そしてバニラオイルに似た液体を数滴入れてまたくるくる混ぜる。後は裏漉しして容器に移して蒸せば完成だ。


 しかしそこで問題が発生した。

 なんと、蒸し器が無かった!なんでやねん!

 仕方ないので湯煎焼きにしようかと思えばオーブンの温度が高すぎて無理だった。この世界のオーブンは石窯だからプロじゃないと温度調節が難しいから仕方ない。

 なので急遽『なんちゃって蒸し器』魔方陣を大きな紙に描いて作った。その上にバットに並べたプリン容器ならぬティーカップを並べて、そして四方にお湯の入ったコップを置き魔方陣を起動させる。沸騰させないように、プリンが固まる温度80度をキープするよう作ったので温度管理はバッチリだ。魔法、便利すぎる。

 そして後は待つだけになった。


「で、終わりか?」

「うん、後は待つだけだよ」


 やりきったぜ!と汗もかいてないのに額を拭うふりなんかしてみる。お前なにもしてないだろ、とマリスさんの視線が語っている気がするけど気にしない。


「ラピス、けどこのプリン液…だっけ?残ってるよ?」


 テオが傾けたボウルのなかにはまだプリン液が残っていた。中途半端な量なので残ってしまったみたいだ。

 捨てるのは勿体ない。何か使えないかな?


「あ、そうだ、マリスさん。昨日の残りのパンとかある?」

「ん?おぉ、あるけど。何に使うんだ?鳥にやるのか?」


 私の質問にマリスさんは奥からカチカチになったパンを数個持ってきた。

 お金持ちのお屋敷のパンと言えど流石に前日のパンはカチカチになる。焼き立ては軟らかいけれどその柔らかさが持つのは精々半日という所だ。

 カチカチになったパンは更にカチカチに乾かして鳥や家畜の餌にされたりするので無駄になることはないけど、折角作られたパンが家畜の餌に回されるのは作った本人はモヤッとしないのだろうか?

 パンて作るの結構大変なんだよね。もはや力仕事だ。前世みたいに機械で捏ねたりできる訳じゃないから余計に。なのでこの世界のパン職人は殆どが男性だったりする。上腕二頭筋がムキムキのパン屋さんが多いのは気のせいじゃないのだ。

 なのでパン作りが大変なのはすごーく解るのでカチカチになったからポイじゃなくてちゃんと最後まで食べたい。

 家ではカチカチになったパンは捨てずにスープに浸してその上にチーズをのせてオーブンで焼いて食べている。私が言うまでは鳥の餌にされていたけれど、試しに作ってみたら家族には大好評で、今では我が家の定番だ。


「小さめのパイ皿ってあるかな?」

「あるぞ。ちょっと待ってろ」


 再びマリスさんはパイ皿を取りに出ていった。

 その間にカチカチになったパンをスライスしておく。ぐぬぬ…固い。切るのは問題ないけどこれは食べられないなぁ…。

 切ったパンをプリン液の中に放り込み染み込ませているとマリスさんがパイ皿を持って戻ってきた。


「これくらいの大きさで良いか?」

「わーい、ありがとー!」


 受け取ったパイ皿は私の頭くらいの直径だった。そのパイ皿にバターを塗って、さっきのプリン液に浸したパンを並べてゆく。カチカチだったパンもしんなりしている。そして仕上げにブルーベリーを散らした。後は焼くだけで完成。

 フフフ…パンプティングとなるがいい…!


「はい、これ。オーブンで焼き目がつくまでこんがり焼いてね」

「お、おぉ…」


 パイ皿を受け取ったマリスさんはべしょべしょになったパンを見つめて怪訝に首を捻りながら厨房のオーブンへと向かっていった。


 なんちゃって蒸し器の方を見てみるとあと少しでプリンも出来上がりそうだ。

 プリンは手順と温度さえ守れば失敗は少ないから多分上手に出来ていると思う。本当はカラメルも作りたかったけど今日は蜂蜜をカラメル代わりにするつもりだ。

 きっと美味しくできているからエルナたんにも食べてもらおーっと。


「ラピスってちゃんとした食べ物も作れるんだね」


 少し暇になったのでスツールに座って足をプラプラしているとテオが感心したように失礼な事を言ってきた。

 おん?と喧嘩腰に振り向くといつの間にかギヴソンさんは居らず、テオだけが壁に凭れてこちらを見ている。さっきまで居たのにギヴソンさんどこ行ったの。

 それはさておき何て失礼な。


「失敬な!私だってお料理くらいできるもん!」

「ラピスの事だから狩る!捌く!焼く!みたいな料理を想像してたんだけど、予想と違ってびっくりしたよ」

「お肉とおやつは違うもん!」


 どこの野生児のクッキングだ。失礼な。

 ぶー!と頬を膨らませると近付いたテオにほっぺをつつかれ空気を抜かれた。ヤメロ。乙女から出ちゃマズイ音が口から出るじゃないか。


「ラピス」


 テオとじゃれあっていると入り口から予期せぬ声が聞こえて慌てて振り返ると何とエルナたんが笑顔で立っていた。

 貴族女性は厨房には近付かないものだって小説では書かれていたけど、エルナたんはそう言うのに縛られないんだなぁ。


「エルナたん!」


 ぴょんとスツールから飛び降りてエルナたんの元へ駆け寄る。背後にはギヴソンさんが私達を見下ろして笑顔を浮かべていた。ギヴソンさんはエルナたんを迎えに行ってくれていたようだ。グッジョブ!ギヴソンさん!


「エルナたん!あのね、今おやつ作ってたんだよ!」

「まぁ、ラピスが? ラピスはお料理も得意なのね。さすがラピス」


 にこにこと頭を撫でてくれるエルナたんを見上げながら伸びそうな鼻の下に力を入れて堪える。

 危ねぇ。鼻の下溶けるところだったわ。


「えへへ~!あのね、あとちょっとで完成でね、上手に出来たらエルナたん食べてくれる?」

「勿論よ!ラピスの手作りなんてとっても感激だわ」


 きゅっと両手を包まれてはにかんだ笑顔を向けられる。ふいのはにかみエルナたん!たまらぬ…!!くっ…!どうしてこの世界には映像記録媒体が無いんだ!!記録したいこの笑顔っ…!


 エルナたんの笑顔に邪な事を考えているとなんちゃって蒸し器から『チーン』と音が聞こえてきた。懐かしのオーブンの『チーン』の音に皆が小首を傾げる。私には聞きなれた懐かしい音だけどこの世界には馴染みがないみたいだ。まぁキッチンタイマーとかも無い世界だもんね。


「今のはなんの音なの?」

「今のは『できたよー!』の音だよ。時間を決めて魔法を起動させてたから出来たらお知らせベルが鳴るの」


 なんちゃって蒸し器に向かいながらエルナたんに説明すると、エルナたんのかわゆいオメメが驚いた様にぱちくりと瞬く。


「本当にラピスはすごいのね」

「そんなことないよ」


 エルナたんと一緒になんちゃって蒸し器の前まで行くと、熱を逃さないために蒸し器を覆っていた結界が消えてホワンと湯気が拡散した。モワッとした熱気と共に甘くて良いにおいが広がる。


「良い香り…」


 エルナたんがうっとりと呟いて私は嬉しくなった。

 プリンの表面をスプーンの腹でちょんちょんと叩いて生地が付いてこないのを確認する。うん、くっつかない。


「後は氷水に浸して冷やして完成だよ!」

「あら、冷やすの?なら私に任せてちょうだい」


 冷やすのは得意なの、とエルナたんが口角を上げた。

 ん?アレ?エルナたんて小説の中じゃ炎系統の魔法が得意で氷魔法は苦手じゃなかったけ?

 私の疑問をよそに、エルナたんは得意気に目の前に大きな氷塊を魔法で作り出したのだった。


エルナたんは炎系統の魔法が得意だったのですが、ラピスに近付くゴミにひんやりしていたらいつの間にか氷魔法が得意になってました!笑


今日はワクチン2回目…!ヒェ…


誤字、脱字がありましたらお知らせください(*^¬^*)

ブクマ&評価ありがとうございます!(*´ω`*)

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