85・人類の夢なのに!
「へぇ~…じゃあラピスは再来年には護衛として働くんだ?」
「うん」
お茶でも、って話だったけど、私のお腹が咆哮したので先にお昼ごはんを食べることになった。
相変わらず美味しいマリスさんのご飯をたらふく堪能したあと、場所を移して現在本当に食後のお茶タイムだ。
エルナたんから渡された焼き菓子を頬張りながらエデルさんを見ないまま頷く。さっきからずっとあれこれ聞かれてちょっと面倒になってきた。美味しいものに集中したいのに横からツンツンされてるワンコの気分だ。ちょっと暫く放っておいてほしい。
「そう言えばあの魔法は凄かったね~」
「あの魔法…?」
「うん、そう。確か『グレイ…』なんだっけ…?聞きなれない言葉だから忘れちゃった。 僕ラピスに捕縛されちゃってね!割りと本気で抜け出そうとしたんだけど、全く歯が立たなかったよー!アハハ」
想いを馳せるような仕種をするエデルさんに伯爵様が聞き返すと、返ってきた言葉に眼をカッと開いて私を睨んできた。
「ちょっと待て、あの魔法は『概念』を捕縛する魔法じゃなかったのか!?」
「うん。そうだよ。エデルさんも伯爵様もジル達も『人間』っていう『概念』だもん」
要するにこの魔法で捕まえられないものなんて存在しない、と言うことだ。とは言え私の魔力が対象よりも超える場合だけで、見た事がないモノや、私よりも魔力量が多い人や物は多分捕らえられないと思う。例えば『神様』とかは無理っぽい。
私の答えに伯爵様は難しそうな顔でため息を吐きこめかみをモミモミし、逆にエデルさんは嬉しそうに感嘆の溜め息をうっとりと吐いていた。
「凄いね!凄いね!僕にもあの魔法教えてよー!」
「えー?ヤダ!」
ズイッと身を寄せてきたエデルさんに顔を顰めてそう言ったけど、空気は読まないタイプなのか、はたまた神経が図太いのか、全く引く気がないようでグイグイと迫ってくる。狭いから寄らないで欲しい。エルナたんにぴったりくっつくのは嬉しいけどさぁ。
「転移魔法教えてくれたら良いよ」
「それはちょっと。でも他の魔法なら良いよ?」
「えー!転移魔法がいい!」
「う~ん…」
そんなやり取りをしていると伯爵様が「まだ諦めてなかったのか!?」と小言を言ってきた。当たり前やろ。
「因みに、転移魔法を覚えてどうするつもりなの?」
「毎日エルナたんに会いに行く!」
少しだけ眼を細めたエデルさんに私は迷わず答えた。答えはそれ以外にないからだ。
その答えに大人たちはポカンとちょっと間抜けな表情をした。逆にエルナたんが私をぎゅーっと抱き締めて「嬉しいわ!」と頬をスリスリと擦り合わせる。エルナたんのほっぺは高級マシュマロ並みのスベスベもっちりだった…!はふぅ!
「転移魔法使えたらエルナたんと色んな場所にお出掛けできるし、いつでもどこでも会いに行けるもん!」
そしたら二ヶ月に一度じゃなくて好きな時にエルナたんの顔を見に行ける。それって最高じゃね?
「…うん。やっぱお前はそのままでいてくれ…」
得意満面に答えた私の肩に伯爵様がポンと手を掛けて悟りを開いたような生温い笑みを向けてきた。どうしたんだ。
「…ある意味戦略級魔法に分類される転移魔法を…」
「まぁまぁ、ラピスらしいじゃないか」
そして深ぁぁく息を吐き出しブツブツと何か呟く伯爵様の肩に公爵様が手を掛けて苦笑を溢す。
なんだろう。私が転移魔法を悪用するとでも思っていたんだろうか。失敬な。私は欲望に忠実なだけなのに。
「けどまぁ転移魔法は知っての通り規約が厳しいから、どちらにしても教えられないんだよね。ごめんね」
エデルさんが眉尻を下げて申し訳なさそうに苦笑する。内心「役に立たねぇな」と思うものの、全ての規約を飲んで魔法を習得したとしてもエルナたんのために使えない魔法なんて箪笥の肥しと同じだ。それなら別にいいや。自分で作るもんね。
「その代わりといってはなんだけど、知りたい魔法があるなら力になるよ」
「う~ん…それなら空を飛ぶ魔法は?」
実は重力を操る魔法は覚えてるけれど、あの魔法は体を浮かせることは出来ても自由に空中を飛び回ることはできない。せいぜい空中を泳いでゆっくり流れるようにしか移動はできないのだ。折角空中に浮き上がれるのに浮遊出来ないなんてつまらないと常々思っていた。重力魔法があるなら浮遊魔法だってあるはず。どうせなら鳥みたいに自由に飛び回りたい。そんであわよくばエルナたんとお空のデートをしたい。
「空を飛ぶ、魔法…?」
しかし夢とロマンと言う名の欲望まみれの私のお願いにエデルさんは怪訝に首を傾げた。そんな彼の目は困惑の色が濃く「なぜ空なんて?」と物語っている。
え、何その顔。何でそんな表情してんの?
「えっと…」
エデルさんは困った顔で伯爵様と公爵様に振り返る。そしてエデルさんと目が合ったふたりも顔を見合わせて視線だけで会話している感じだ。
こういう雰囲気には何となく覚えがある。
これはアレだ。小さい子が荒唐無稽なことを口にした場合どうするべきか迷っている大人の空気だ。別に赤ちゃんがどこから来るの?とか聞いてないのに、なんだかいたたまれない。
「エルナたん、お空は飛べないの?」
「ん~…そうね…人が空を飛ぶ魔法なんて聞いたことないかも…」
エルナたんも少し困った顔で私を見る。
「ラピス。お前は人間で、鳥じゃない。羽なんてないだろう?」
何を困った事を言い出すんだと言わんばかりに伯爵様の呆れ混じりの視線が飛んでくる。
「魔法使いならお空を飛べるんじゃないの?」
「えぇと…」
エルナたんの目が游ぎ出す。
仕舞いには「うふふ」と笑って誤魔化そうとまでしてきた。
そこでようやく私はショッキングな事に気が付く事になる。
「ま、まさか…」
いやいやいや。まさかまさか。よもやよもや……ええぇ…マジで?
魔法が発達したこのファンタジー世界で定番中の定番。普通のファンタジーゲームですら初期スキルとして備わっている【浮遊魔法】がない……だと……?!そんなバカな……!
いや待て!もしかしたら魔道具があるんじゃないだろうか。魔法使いと言えば定番の箒とか!
「ちなみに空飛ぶ魔道具…とかは…」
「ないね」
ひょわ……っ!そんな!
僅かな期待すらもエデルさんにはバッサリと切り捨てられた。
「ふふ…ラピスでもそんな可愛らしい事を言うんだね。意外だったよ」
公爵様がクツクツと笑う。ちょっと前に「勇者は?」と質問をした時と同じような微妙な温かさの視線が私に集中している。
勇者同様、人が空を飛ぶと言う現象はこの世界では夢物語に該当するものなんだろうか?
だとしたらなんて夢のない!!人類の夢なのに!てかつまらん!
─いやいや待てよ?だったら作れば良いのでは?幸い重力魔法は覚えてるし、あれに推進力の構造を組み込めば出来なくもないはずだ。よし、作ろう。そうと決まればあとはエルナたんがお空のデートを楽しんでくれるか否かだ。
「ところでエルナたんはお空を飛びたくない?鳥みたいに自由に飛べたら楽しいと思うんだけど…高いところは嫌い?」
「─自由に……」
私の問にエルナたんは目を瞬かせ無意識なのかポロリと「自由」と溢した。
「エルナたん?」
「ぇ、あ…ごめんなさい。 そうね…高いところは苦手じゃないし、もしラピスとお空を自由に飛び回れたら気持ちが良いでしょうね」
エルナたんは自分が空を飛ぶのを想像しているかのように瞼を閉じて、そして私にふんわりと微笑みかけてくれた。
うほぉぉぉ!その微笑みだけでマッハでブッ飛べる!マッハの意味知らんけど!
「じゃ、じゃあ私がお空を飛ぶ魔法作ったら一緒にお出掛けしてくれる?!」
勢いのままエルナたんに詰め寄れば、可愛いストロベリーピンクの瞳が大きく見開かれ、そしてそれは笑みの形を作り目映い笑顔で頷いてくれた。
「ええ!もちろんよ」
更新に間が空いてしまって申し訳ないです(。>﹏<。)
私、夏は本当にダメなんで…脳が溶ける…_(┐「﹃゜。)_
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